強炭酸水のプハ蔵は、朝からげっぷが止まらない。
このお話は、小さな炭酸水のプハ蔵が巻き起こす、ちょっぴりどたばたで、心がふわっとあたたかくなる物語です。炭酸のしゅわしゅわのように、読む人の気持ちも軽やかになりますように。
〈主要登場人物〉
■ プハ蔵
身長20センチの強炭酸水のペットボトル。炭酸が詰め込まれすぎて、すぐに「ぷはぁ」とげっぷが出てしまう。正直で明るい性格。最終的にすてきな花瓶に生まれ変わる。
■ ゆうすけさん
村の炭酸水工場で働く75歳の長老。炭酸の詰め込み係。普段はとてもていねいで腕がよいが、この日だけは梅酒の飲みすぎで、つい作業をまちがえてしまう。
■ トラックの運転手のおじさん
スーパーマーケットまで炭酸水を運ぶ係。気づけば荷台が大騒ぎで驚くが、やさしい心の持ち主。プハ蔵たちの“しゅわしゅわ事件”を目撃。
■ すみさん
工場の経理係。明るくてきちんとした人。空っぽのプハ蔵を見つけ、花瓶として第二の人生(?)を与えてくれる。
〈ものがたり〉
強炭酸水のプハ蔵は、朝から「ぷはぁ〜っ」と大きなげっぷが止まりませんでした。
身長は二十センチ。つやつやと光る透明な体に、千ミリリットルもの炭酸がぎゅうぎゅうに詰まったペットボトルです。
「うう…お腹がむずむずするよ…」
どうやら、工場で炭酸を入れすぎてしまったようなのです。
この工場は、村のみんなが力を合わせて建てた、小さくて、どこかぬくもりのある工場。
炭酸を詰めるのも、昔ながらの“手作業”。村でいちばんの年長者、七十五歳のゆうすけさんが、いつも笑顔で「はいよ、次、いくよ」と手際よく炭酸を詰めています。
けれどその朝はちょっと違いました。
ゆうすけさんは昨夜、村の宴会でふるまわれた梅酒をつい飲みすぎてしまい、頭がぽわんと重く、手元が少しふらふら。
「おっとっと…あれ、少し入れすぎたかな?」
そうつぶやく声を聞きながら、プハ蔵は中でぷしゅぷしゅと騒ぐ泡を必死におさえていました。
やがて、町のスーパーマーケットへ向かうトラックがやってきて、炭酸水のケースを次々と積み込みます。
プハ蔵も仲間たちと一緒に、どしん!と荷台に乗せられました。
トラックががたがた道を走り出すと、荷台はゆらんゆらんと揺れはじめます。
「うっ…これはちょっと、きついかも…」
プハ蔵は気分がどんどん悪くなってきました。
すると、一緒に揺られていた仲間たちも口々に言いはじめます。
「おれもだめだ〜!」「うわ〜、泡があふれる〜!」
ケースの中がごとんごとん揺れ、荷台全体がどしんどしんと大さわぎ。
運転手のおじさんが、不思議に思って車を道の端に止めました。
「なんだなんだ? 荷物が暴れてるみたいだぞ…?」
そっと荷台をのぞいたその瞬間——
ぷしゃあああああーーーっ!!
プハ蔵を先頭に、強炭酸水たちが一斉に泡をふきだしました。
白いしゅわしゅわが空へ舞い上がり、太陽の光にきらきら輝きます。
「うおおっ!?こりゃまいった!」
運転手のおじさんは目を丸くしましたが、強炭酸たちはすっきりした顔に戻っていました。
「ふう〜、生き返った〜」
「やっぱ吐き出すのがいちばん!」
プハ蔵も、からっぽになった体を軽く振って、にこにこ。
結局、運転手のおじさんは工場に引き返すことにしました。
工場に戻ると、ゆうすけさんが荷台をのぞきこみます。
「あれまあ…こりゃ派手にやったね」
炭酸水のボトルたちは、もう空っぽで静かに転がっていました。
運転手のおじさんがぼそりと「30分遅れちゃったなぁ」とつぶやきながら、別のケースと入れ替えて町へ帰っていきました。
空っぽのボトルたちを見て、ゆうすけさんは気づきます。
「お前だな、一番ぷしゅーっといったのは」
手に取られたのは、もちろんプハ蔵。
ほかのボトルには少しだけ水が残っていましたが、プハ蔵は見事に一滴も残っていません。
そこへ経理のすみさんがやってきました。
「まあまあ、きれいに空っぽになって。…よし、この子、もらっていこう」
すみさんはプハ蔵をひょいとつまみ上げ、工場横の小さな事務所へ運びました。
そして入り口のカウンターに置き、色とりどりの野花を挿して、ちょろちょろと水を注いだのです。
「はい、今日からあなたは花瓶さんよ」
プハ蔵はしばらくきょとんとしていましたが、やがてにっこり。
「ま、いっか。なんか、気持ちいいし」
こうしてプハ蔵は、工場の入口で今日も元気に花を咲かせ、みんなを迎える“しゅわしゅわ花瓶”になったのでした。
プハ蔵は、失敗やハプニングさえも自分らしさに変えてしまう不思議な力を持っています。どんな出来事でも、その先に新しい“役わり”が待っている――そんな小さな勇気を感じていただけたら幸いです。




