運動会
この物語は、平凡な高校生の主人公が、学校のアイドルと少しずつ距離を縮めていく日常を描いたものです。
誰もが経験する初恋のドキドキや、心がふわりと温かくなる瞬間を、読んでくださる皆さんにも感じてもらえたら嬉しいです。
僕の初めて書く作品ですが、主人公と学校のアイドルの物語の世界へどうぞお付き合いください。
(1)練習
夏休みが終わり、運動会の季節がやって来た。
明後日はいよいよ本番。
学校の授業や放課後は、その準備で慌ただしい。
高校2年生は、ダンスを披露する。
放課後、クラス全員で体育館に集まり、練習が始まった。
飛ぶ、移動、一周。
最後は全員で真ん中に集まって座る。
よし、もう全部覚えられてきた。
「みんなー! 最後の一回いくよー!」
クラスのリーダー的な子が声を上げた。
そのとき、僕の視界に淡いピンク色がちらりと入った。
思わず振り向く。
そこには、莉羅がいた。
——可愛い。いや、美しい。
普段の莉羅は、思わず頭を撫でたくなるほど可愛らしい。
でも今は違った。
額から汗を滴らせながら、一歩も止まらず全力で踊る。
真剣な眼差し、揺れる髪、力強い動き。
——いつもは可愛いのに。今日は、美しい。
そんなことを考えているうちに、練習が終わった。
帰路をたどっていると、背後から大きな声が飛んできた。
「俊!」
振り返ると、莉羅が息を弾ませながら駆けてきた。
「ね、ねえ。明日の放課後に、ダンス練習しない?」
と少し気恥ずかしそうに莉羅が言った。
「いいよ、しよう。」
その瞬間、莉羅が石につまずいた。
慌てて支える僕。
柔らかな感触が手のひらに伝わり、心臓が跳ねた。
——いや、気のせいだ。……気のせいに違いない。
莉羅は目を泳がせ、顔をいちごのように真っ赤にして言った。
「あ、ありがと……」
「だ、大丈夫?」
「う、うん……」
少し、気まずくなった気がした。
しばらく歩くと、家に着いた。
「莉羅、また明日。」
「うん! また、明日!」
(2)放課後の練習
次の日の放課後。
今日は、莉羅との練習のことで頭がいっぱいだったな……
「俊! 練習しよ!」
莉羅が笑顔で話しかけてきた。
「う、うん。」と僕は返す。
莉羅がスマホで曲を流す。
音楽に合わせて二人で踊り始めた。
莉羅の動きは流れるように美しく、同時に可愛らしい。
汗に濡れた頬も、真剣に結んだ唇も、すべてが輝いて見える。
——完璧。
そう呼ぶしかないだろう。
けれど、その「完璧」は天性ではなく努力だ。
きっとこのダンスも、何度も練習を重ねてきたに違いない。
僕は、彼女に見とれてばかりで、練習に集中できなかった。
「莉羅、そろそろ終わろうか。」
「あっ、もうそんな時間? 分かった!」
莉羅は笑顔で手を振りながら言った。
「俊! 明日の運動会、頑張ろうね!」
「うん!」
そのあと、彼女には用事があるらしく、学校で別れることになった。
——明日、頑張ろう。
(3)運動会当日
そして、運動会の朝が来た。
——今日は、全力で頑張ろう。
莉羅と一緒に。
朝の校庭は、テントとカラフルな旗でいっぱいだった。
保護者の声援、友達の笑い声。
胸が高鳴る。
最初の種目はダンス。
僕たちだ。
音楽が流れ出すと、クラス全員が一斉に動き始めた。
「……!」
莉羅の姿が、目に飛び込んでくる。
リズムに合わせて、全力で踊る。
淡いピンクの髪が光を受けて揺れるたび、観客席から歓声が上がった。
その笑顔はいつものように可愛いし美しい。
僕はしばらく呼吸を忘れていた。
——みんなの目が、彼女に釘付けになっている。
「すごい……!」
最後のポーズ。
音楽が終わった瞬間、拍手と歓声があふれた。
莉羅がこちらを見て、少し恥ずかしそうに笑った。
次の僕たちの番はリレー。
緊張感のあるアナウンスに、胸がドクドクと鳴る。
僕の番は三走。スタート地点で前の走者を待つ。
観客のざわめきが一気に遠ざかった気がした。
前の走者が全力でこちらへ走ってきた。
——今だ!
バトンを受け取った瞬間、足が勝手に動き出した。
ゴールの先で、必死に声を張り上げて応援する莉羅が見える。
でも、汗と風を切る音しか聞こえない。
全力で駆け抜けて、次の走者にバトンを渡したとき、肺が焼けるように熱かった。
「俊!すごかったよ!」
莉羅が笑顔で手を振る。
その笑顔に、僕の苦しさは一瞬で消えた。
最後は玉入れ。
さっきまでの緊張とは違って、会場は和やかな雰囲気に包まれている。
「よーし、絶対勝つ!」
莉羅は小さな体で必死に玉を放り投げている。
その真剣な顔が、またたまらなく可愛い。
結果は惜しくも二位だったけど、莉羅は大笑いして肩をすくめた。
「悔しいけど、楽しかったね!」
「うん。最高だった。」
——運動会が終わり、夕暮れの校庭に拍手の余韻が残っていた。
莉羅は少し汗で乱れた髪を押さえながら、こちらを見て言った。
「俊。今日、一緒に頑張れてよかった。」
その笑顔は、やっぱり可愛くて。
そして、どこまでも美しかった。
(4)運動会の後
「ねえ、俊?」
「ん?」
「運動会終わったでしょ?」
「うん。」
「みんな、帰ったしさ、二人で打ち上げしない?」
莉羅の期待を込めた声。
だけど、少し恥ずかしそうに僕に言った。
莉羅と二人で打ち上げ……
「いいね。打ち上げ、行こう!」
二人で歩く帰り道、まだ少し汗ばむけれど、爽やかな風が心地いい。
近くのカジュアルカフェに入る。
高校生でも入りやすい、明るい照明と小さなテーブル席が並ぶ店だ。
「窓際の席、空いてるよ。」
莉羅がその席に行く。
その際、莉羅の髪の香りがふわりと漂う。
それは、とても甘い香り。
花のように、蜜のように。
莉羅がその席に座る。
夕暮れの光で僕たちの影をゆらりと揺らす。
僕たちは飲み物を注文した。
「運動会、とっても楽しかったね!」
「そうだね!」
飲み物が届いた。
「乾杯しよっか!」と莉羅が言った。
「そうだね!」
軽くグラスを合わせながら
「乾杯!」
大きすぎず、小さすぎない声で、僕たちは同時に言った。
「俊が一番楽しかった競技はなんだった?」
「リレーかな。言葉にするのは難しいんだけど、あの走る時の迫力は凄かった。
莉羅、応援してくれてたよね? ありがとう!」
「あ、気づいてたの!? なんか、恥ずかしいなぁ……」
莉羅は顔を少し赤くした。
「俊? アイス頼まない?」
莉羅の目が輝き、唇をペロリと舐めながら、食べたそうにこちらを見上げる。
「アイス、いいね。頼もうか。」
僕たちはお互いバニラアイスを注文した。
アイスが来て、莉羅が写真を撮る。
「お揃いだね!」
莉羅は口角をそっと上げ、目元まで柔らかくほころんだ。
見るだけで心がふんわり温かくなるような笑顔だった。
「そうだね。お揃いだ。」
無意識のうちに、自分の声が優しい感じの声になっていた。
莉羅がスマホをカバンに戻すとき、ちらっとホーム画面が見えた。
誰かの写真だろうか。
「ねえ、ホーム画面、誰の写真?」
「!? な、なんのこと? ん。え? ほ、ホーム画面がどうしたの?」
僕の言葉を聞いた瞬間、莉羅の体がビクッとなった。
そうして、驚いていた。
「えっと、スマホのホーム画面誰かなーって……」
「あ、もうこんな時間! ごめん! 用事があるから!」
莉羅は急ぎながら、お金を置き、カフェを出ていった。
僕は「ちょっ。待っ——」と言ったが、声は届かなかった。
帰り際に少しつまずいていた気がするが、僕のせいかな。
興味本位で聞いただけなのだが……
—— “好きな人”、とかだったのだろうか。
僕は、そう思うと少し心が重くなった気がした。
——なぜだろう。
でも、良い一日だった。
——私は藤野莉羅。
私は今、スマホのホーム画面を“好きな人”に見られてしまった……
最悪だ……
でも、質問してきたってことは確信はしてないはず。
ホーム画面が、”赤間 俊”だということが。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
初めての作品なので、感想やご指摘などを書いてもらえると、とても嬉しいです。
確認はしましたが、誤字脱字がある可能性もあるので、どうぞよろしくお願いします。
読んでくださった皆さんにも、俊や莉羅のように、少しドキドキして、少し温かい気持ちになってもらえたなら幸いです。
これからも、二人のちょっとした日常や恋の進展を描いていけたらと思っています。応援してもらえると嬉しいです。




