高校3年生
この物語は、平凡な高校生の主人公が、学校のアイドルと少しずつ距離を縮めていく日常を描いたものです。
誰もが経験する初恋のドキドキや、心がふわりと温かくなる瞬間を、読んでくださる皆さんにも感じてもらえたら嬉しいです。
僕の初めて書く作品ですが、主人公と学校のアイドルの物語の世界へどうぞお付き合いください。
(1)高校3年生
春休みが終わり、今日から高校3年生だ。
教室の扉を開けると、少しひんやりした空気の中、窓際から差し込む柔らかな春の光が机に反射して白く光っていた。
机の上には、真っ白な紙――「進路希望調査票」が置かれている。
その紙を前にして、僕の手は自然と止まったままだった。
「将来の夢」なんて、まだぼんやりしていて、はっきり決められるものではない。
そんな焦りのような気持ちと、漠然とした不安が心の奥で絡み合っている。
教室の静けさを破るように、先生が教室の前から入ってきた。
足音がフローリングに軽く反響し、僕の心臓の鼓動まで少し早くなった。
先生は教壇に立ち、柔らかくも張りのある声で話す。
「みんな、おはよう。机の上にある進路希望調査は、来週の月曜日までに提出してくれ。」
来週の月曜日……
その日までに、僕は自分の未来を文字にしなければならないのかと思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚があった。
僕の視線は自然と隣に座る莉羅に向かった。
彼女はどこを目指しているのだろうか。
放課後、僕は莉羅と並んで帰路を歩いている。
街路樹の隙間から、冬の名残の冷たい風が柔らかく吹き込む。空は淡いオレンジ色に染まり、夕暮れの光が街全体を優しく包んでいる。
「今日、進路希望調査配られたけど、莉羅はどこ目指してるの?」
僕は少し不安を隠すように声をかけた。
「桜染大学目指してる。俊は?」
莉羅の声には、さりげない明るさがあった。
「僕は……まだ決められてないんだ。正直、将来のことはまだぼんやりしてる。」
——桜染大学。
日本屈指の大学。
名前だけで、胸の奥に緊張感が広がる。
「そっか……桜染大学、やっぱり莉羅すごいな」
僕は少し照れくさそうに笑った。
言葉にしなくても、心の奥では彼女に追いつきたい気持ちが渦巻いていた。
家に帰り、自分の机に向かうと、静かな部屋の空気が余計に重く感じられる。
外の風がカーテンをわずかに揺らし、ペンを持つ手が少し震えた。
「将来の夢……まだ全然イメージできない。でも、何か書かないと提出できない」
紙の白さがまぶしくて、文字を書く勇気が出ない。
しばらく考えているうちに、ふと気づく。
「大学は、自分が生きたい未来に少しでも近づける場所にすればいいんじゃないか」
これまで自分が少しでも興味を持ったことを思い返してみる。
数学は嫌いじゃないけれど、将来数学だけで生きていく自信はない。
文学や歴史も面白いけれど、それだけで生計を立てるのは現実的ではない。
「じゃあ、実用的で、でも自分が楽しめそうなところ……」
机の上に並べられた大学一覧を眺め、ペンを何度も止める。
この大学は少し難しすぎる気がする。
この大学は、学びたい分野があるけど、自分の性格には合うだろうか。
心の中で何度も考えながら、ふと、ある言葉が浮かぶ。
「そうだ。自分が無理せず通えそうな大学で、でも学べることがちゃんとあるところ……」
ノートに小さく、でも迷わず文字を書いた。
——第1志望:桜染大学
——第2志望:喜楽大学
この大学は、就職に強いと評判の大学だ。
書き終えた瞬間、肩の力がするりと抜けたように感じる。
「これで、少し未来が形になった気がする」
第1志望は、ただ一つ。莉羅と一緒に大学生活を送りたい――その理由だけで決めた。
第2志望は、直感。無理せず通えそうで、学びたいことがちゃんと学べるから。
第3志望は、書かなくてもいいと指示されている。だから、とりあえず空欄のままにした。
翌日、紙を丁寧に折り、封筒に入れる。小さな一歩だけれど、確かに未来に向かって歩き出した気がした。
「俊はどこにしたの?」
提出したのを見たのか、僕に聞いてきた。
莉羅は少し興味ありげに覗き込む。
「第1志望は桜染大学」
僕が言うと、莉羅は目を少し見開き、驚いたような表情を浮かべた。
「第2志望は喜楽大学。第3志望は書いてない。」
「桜染大学、どうして選んだの?正直、今のままじゃ難しいと思う。かなり頑張らないと……」
少し心配そうに言ったあと、莉羅はふっと笑みを浮かべた。
「でも俊なら大丈夫だと思うよ。」
応援したい気持ちが滲む声で言う。
「うん、難しいことは分かってる。でも、僕は莉羅と同じ大学に。一緒に大学にいきたい。」
「本当?じゃあ、一緒にがんばろ!」
莉羅の笑顔が、夕暮れに差す光のようにぱっと明るく広がった。
僕はその笑顔を見て、心の中がふわりと温かくなるのを感じた。
不安もあるけれど、少しずつ未来が、自分の足で歩ける道になっていく気がした。
放課後になった。
夕暮れの空が、柔らかくオレンジ色に染まりながら、僕の影を長く伸ばしていく。
小さな希望と、ほんの少しの誇らしさを抱えたまま、僕はゆっくりと家路についた。
未来はまだ白紙だ。
でも、その白さを恐れるより、これから自分の色で塗り重ねていけるのが楽しみに思えた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
初めての作品なので、感想やご指摘などを書いてもらえると、とても嬉しいです。
確認はしましたが、誤字脱字がある可能性もあるので、どうぞよろしくお願いします。
読んでくださった皆さんにも、俊や莉羅のように、少しドキドキして、少し温かい気持ちになってもらえたなら幸いです。
これからも、二人のちょっとした日常や恋の進展を描いていけたらと思っています。応援してもらえると嬉しいです!