誕生日 2
この物語は、平凡な高校生の主人公が、学校のアイドルと少しずつ距離を縮めていく日常を描いたものです。
誰もが経験する初恋のドキドキや、心がふわりと温かくなる瞬間を、読んでくださる皆さんにも感じてもらえたら嬉しいです。
僕の初めて書く作品ですが、主人公と学校のアイドルの物語の世界へどうぞお付き合いください。
(1)アクシデント
明後日は僕の誕生日。
本当なら楽しみにしてもいいはずなのに、僕はあまり喜べなかった。
莉羅に、伝えていないからだ。
――ずっと僕のために時間を使わせるのも悪いな……そう考えてしまう。
そんなことを思っていたら、スマホに通知が来た。
莉羅からだった。
「おはよー!こないだ、私の誕生日祝ってくれたでしょ?それで、俊の誕生日祝ってなかったーって思って!俊の誕生日っていつなの?」
うっ……。
正直、一番来てほしくなかった質問だ。
僕は数秒迷ってから、指を動かした。
「えーと、明後日だよ。」
送信すると、既読はすぐについた。
だけど、そこから返事は来ない。
胸の奥に、嫌なざわめきが広がっていく。
すると突然――
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
宅配便だろうか。
でも、何かを頼んだ覚えはない。
ドアを開けると、そこにはパジャマ姿の莉羅が立っていた。
寝起きで少し乱れた髪も、なんだか可愛らしかった。
淡いピンクに小さな桜柄の、ふんわりしたパジャマ。
だけど、その瞳は真っすぐ僕を見ていた。
「なんで、誕生日言ってくれなかったの?」
悲しそうな顔で、莉羅が言った。
胸がチクリと痛む。
「いや……僕のために時間使わせるのもなって思って……」
僕がそう答えると、莉羅の眉がピクリと動いた。
「そんなの、私が決めることでしょ。俊に勝手に決められたくない」
言葉に詰まる。
確かに、そうだ。けれど……。
「でも、莉羅が無理してたら嫌だし……」
「無理なんかしてない!」
声が震えている。
「私だって……ちゃんと準備して俊のこと、お祝いしたかったのに」
潤んだ瞳が僕を責める。
「……もう嫌い!!!!!!」
涙をこらえるような顔をして、莉羅は駆け足で自分の家に戻っていった。
「え……」
僕は呆然と立ち尽くした。
でも、よく考えたら莉羅だって、自分の誕生日を僕に伝えてなかったはずだ。
それなのに……どうして。
胸の奥がざわざわして、嫌な不安が消えない。
嫌われたのかもしれない。
――その日から、僕の気分は最悪だった。
ご飯を食べても味がしない。
夜も眠れなくて、時計の音ばかりが耳に残る。
鏡に映る自分はやつれていて、ため息ばかりこぼれた。
そして、あっという間に誕生日当日。
普通なら少しは浮き立つはずなのに、今はただ「最悪の誕生日だ」と思うだけだった。
そのとき、チャイムが鳴った。
――ピンポーン
誰だろう。
重たい気分のままドアを開けると、そこには誰もいなかった。
でも、ドアノブにきれいな袋が掛けられていた。
僕はそっと袋を取り、中をのぞいた。
花柄の紙で包まれた、小さな箱。
緊張しながら包装を開け、蓋を開ける。
そこにはブラウンの革財布と、一枚の小さな紙が入っていた。
財布は深みのある焦げ茶色の長財布で、シンプルで大人っぽい。
余計な装飾は一切なく、角の丸みや革の厚みが程よい存在感を与えている。
安価な既製品とは違う、職人が細部まで気を配ったことが分かる一品。
本物の革財布――持ち主の年齢を少しだけ上げて見せるような、洗練された逸品だった。
そして、添えられていた手紙にはこう書かれていた。
「こないだはごめん。
本当は直接謝りたいけど、あんなこと言っちゃったから顔を合わせる勇気が出なくて……
言ってくれてなかったことに怒っちゃった。私も言ってなかったのに。
また仲良くしてくれない?
その財布は私からの誕生日プレゼント。
ぜひ使ってね!
俊、誕生日おめでとう!!
――莉羅より」
莉羅からのプレゼントだった。
その瞬間、胸の奥が一気にあたたかくなった。
嫌われてなかった……!
本当に安心した。
涙がこぼれそうになる。
僕はすぐにスマホを取り、メッセージを送った。
「財布、ありがとう。僕もごめん。財布、大事に使うね!これからも仲良くよろしく。」
数秒後、すぐに返事が返ってきた。
「うん!ありがとう!
私が悪かったのにごめんね。」
「大丈夫!次からちゃんと伝えるね!」
「うん!ありがとう!!」
画面に並んだ言葉を見て、自然と笑みがこぼれた。
良かった。
本当に良かった。
――悲しいこともあったけど、そのおかげで僕は少し成長できた気がする。
次からは同じことがないように、きちんと莉羅に伝えよう。
嬉しいことも、不安なことも、全部。
そしていつか、もっと大切なことも。
僕は新しい財布をぎゅっと握りしめながら、強くそう思った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
初めての作品なので、感想やご指摘などを書いてもらえると、とても嬉しいです。
確認はしましたが、誤字脱字がある可能性もあるので、どうぞよろしくお願いします。
読んでくださった皆さんにも、俊や莉羅のように、少しドキドキして、少し温かい気持ちになってもらえたなら幸いです。
これからも、二人のちょっとした日常や恋の進展を描いていけたらと思っています。応援してもらえると嬉しいです。