第7話 アリスと救助
アリスはどんなスキルを持っているんでしょうね。。。
3時間前、俺はクランベースの中で昼飯を食べていた。自分の部屋にこもって、ひよりに変身をしてアイテムを解析するのが仕事だった。俺3号が魔装開発局のオフィスに入り浸っているので紛らわしいことにならないように、クランベースの自室で作業をしていたのだ。
そして、ステータスを確認しているとレベルが400に到達した。どうやら、梅田ダンジョンで経験値を取得したみたいだ。
『こちらの中から選択してください』
『鍵師 ロロ・ジーニ レベル400』
『ウェイトレス アリス・ラバック レベル400』
おっと、こいつらかぁ…。でも、選択肢が2つだけ? 今まで3つだったのにな。鍵師は、ダンジョンの扉とかバックドアみたいなところを開くことができたりするお助けキャラだったはず。アリスは、ジェシーの娘だ。そして、ダンジョン奥で宿をやっていて、ウェイトレスをしてくれる。彼女のすごいところは、ダンジョン外に一瞬で移動できるスキルをもっていることだ。おまけに強い。
フレイヤは遠距離攻撃、メルは回復、ひよりは魔道具作り、ジェシーは安全地帯と近接攻撃だ。ここに来て欲しいのは、移動のスキルだろう。ひよりの魔道具でも転移が出来るが、まだ完成までは遠い。
じゃあ、アリスに決定。アリスになってみると、胸の谷間が見える白いブラウス。編み上げたコルセットの下にはフレアスカートが見える。民族衣装的なワンピース?
◇アリス・ラバック(アバタースロット5)
レベル400
HP:6310 /6310
MP:8310 /8310
称号:神出鬼没のウェイトレス
スキル:ラビリンス・ドリフト
配膳
掃除
ストーンスキン
レビテート
エイジファントム
回復強化
防御強化
体術
変装
隠密
危険察知
このラビリンス・ドリフトは強い。ダンジョン内の移動、さらに、予想ではダンジョン間も移動できるんだと思う。さて、ちょっと使って見るか? いや、そのまえに、ギルドに登録するか。ジェシーの時みたいに騒ぎになるかもしれない。こんな時のために書類を用意していたので、俺はすぐに登録に向かった。
ギルド申請が完了した後、少しラビリンス・ドリフトを試しに使っているとダンジョンガイダンスに通信が入ったのだ。
ラビリンス・ドリフトを使うと周辺のダンジョンが認識できる。ジェシーのテリトリーが数キロメートル範囲だとすると、ラビリンス・ドリフトは、数千キロにおよぶ範囲が見えているようだ。いや、範囲は明確には分からない。遠くのダンジョンが点に見える。方角はわかるな、距離的にはこちらが浜名湖ダンジョンで、こっちが近江ダンジョン、そうするとあれが梅田ダンジョンだな。
俺は梅田ダンジョンに飛び、湖のほとりに豪邸が立っているものだから、目を疑いたくもなる。そして、今に至る。
「パパ、元気だった?」
アリスのペルソナに対応を任せてみると、ジェシーにフランクに話しかける。ジェシーも嬉しそうにしている。周囲には、救助を求めてきたであろう男性が座っており、その前に水着姿のフレイヤ、メル、マナが立っている。男性は状況が読めないらしく黙っている。
「あ、ごめんね。わたし、アリス。アリス・ラバック。ジェシーの娘よ」
「あたしは須藤愛美です。マナってよばれています。よろしくお願いします」
マナがお辞儀をしながら挨拶をしてくれる。久々にフルネームを聞いた気がする。
「よろしく、マナ。私のこともアリスって呼んでね。こちらは、フレイヤにメルよね。会えてうれしい」
そう言って、3人にハグをしていく。
「おいおい、挨拶はその辺にしておいてくれ。緊急事態だ」
ジェシーが呆れたように割り込んでくる。そういえば、人命救助に来たんだった。
「いっけない。そうだったわね」
そこからはジェシーを中心に話が進む。アリスのラビリンス・ドリフトを使ってメルを43層に送り届けるということだ。しかし、なぜメルだけなのかというと、一緒に飛べるのは1人だけだったのだ。フレイヤとメルで試したが同時には飛べなかった。そうなると、飛ぶ相手は必然的にメル1人に決まった。
そんなわけで、メルが服を着替えるのを待って、出発となった。
「43層か…。ん~。あーあそこかな?」
俺の目には階層と大まかな構造が見える。近くにあるように見えるが、建物の階層構造とは少し違う。違う次元が近隣に浮かんでいるような、そんな形状だ。
「じゃあ、いこっか。メル」
そういうとメルの手を握る。
「じゃあ、いってくるわ。そのBBQ。私もあとで食べるね」
メルが支援魔法とリジェネを施し、飛んだ後の事故に備える。
俺たちは手をつないだ状態で、43層内に現れる。
「ほんとに、いかにもダンジョンって感じ」
意外にいかにもダンジョンというエリアは少ない。草原だったり山岳だったり、洞窟みたいな所が多いのだ。幅も高さも4メートルくらいある通路は、レンガのようなブロックで囲われている。ところどころに蝋燭の火が灯っており、ダンジョンの雰囲気がある。
「どっちなの?」
手をつないだままのメルが聞いてくる。
「こっち」
この階層で感じ取った人の気配はここしかなかったはずだ。何個か角を曲がると、情報通りの小部屋があった。入口には扉がある。
中に4人ほどの人を感じるので、そのまま扉をノックする。
「救助にきましたー」
その声に中から足音がして、扉が開かれる。中から頭に包帯を巻いた男性が顔を出す。
「よかった! メンバー2人が危ないんだ。って、え? 女の子2人?」
扉から身を乗り出して周りを見るが、俺とメルしかいないと分かり、あからさまにがっかりしているのが分かる。筋骨隆々な探索者の方が安心できるというものだろう。
「大丈夫よ。ご注文の聖女様を連れてきたから。ね。さっそく全回復コースをどうぞー」
「全回復なの」
メルは時間が惜しいとばかり、男性の脇を通り過ぎると、中で倒れこんでいる2人の探索者に回復魔法を使う。
「ミレイズ・ヴェール」
メルから光の帯が降り注ぎ、探索者たちが回復していく。わずかな光源の中でも分かるほどに土気色をしていた肌が赤みを取り戻していく。
「この子、メルちゃんやん。聖女の!」
看病していた女性探索者がメルを見て大きな声を上げる。そこからは、復活が早かった。さすがのメルの解毒と回復の混合魔法により、2人は体を起こすまでに快復する。
「ほんまおおきに。兄ちゃん、死んでまうかとおもった」
どうやら女性探索者は毒にやられていた探索者の妹のようだ。
そこからは実は手間がかかった。アリスの力では、メルは連れて飛べても、他の探索者は運べなかったのだ。ということは、マナも運べないということだろうか。
少し考えるに、制約みたいなものが掛かっているということなんだろうか。もしくは、俺のドッペルゲンガーは、特別スキルの制約に入っていないとか?
検証は必要だが、その後は、アリスとメル、そして、援軍にと連れてきたパパのジェシーを加えて、7人で地道に上層階に移動することになった。
ちなみに、43階層のさっきの小部屋にもジェシーの安全地帯と簡易宿泊所を作った。そこで体制を整えた後、俺たちは29階層まで移動することにしたのだった。
ラビリンス・ドリフト。強いスキルです。
今後、活躍してくれるでしょう。
※消したはずの行が残っていました。
フレイヤは29層にのこります。




