第6話 ジェシーとアリス
新キャラ登場です!
俺はジェシー担当になった俺5号だ。梅田ダンジョンにやってきて29層まで来ている。今回の目的地であり、安全地帯の構築も完了した。せっかくなので、BBQでもしようと思ってペルソナを起動してみた。すると、思い描いていたBBQは、ただの焼肉だとペルソナから突っ込みをうけ、本格BBQを行うことになった。日本的に言うBBQは、グリル、焼肉の部類らしい。俺は、それを焼き始めたころに、フレイヤが散策という名の乱獲から帰ってくる。スキルで感知していたが、新しい技を試していたようだ。そのおかげか、小次郎のレベルが400に上がった。そして、すぐにレベル1にさがる。ここから分かるのは新たなアバターを取得したということだ。
そして、ステータスを確認する。なんと、このキャラか。ジェシーとしては楽しみだな。ひとしきりステータスを眺めた後、俺は気になるBBQを続ける。正直、調理が楽しい。レベル5の調理のおかげで、目の前にある食材がどんどん形を変えていくのが、心地良い。
そして、戻ってきたフレイヤは、マナ達と泳ぐことにしたらしく、水着に着替えて湖に向かって行った。フェザーステップを使って水面を走ったりするので、まるで水の精みたいに見える。そして、ひとしきり湖で泳いだ女性達が体を冷やして帰ってきたころには、料理があらかた出揃う。
今回出来た建物は、なかなかセレブな作りになっており、外にジャグジーなんかも備えている。本当に、どこからこんな設計された建物ができてくるのか不思議だ。
フレイヤとメル、マナが3人で庭のジャグジーで暖を取っている。さっきまでPicPacに投稿するショートムービーを撮っていたようだ。フレイヤの水着姿は視聴回数が桁違いのようで念入りに撮っている。PicPacのフォロワーもうなぎ上りに増えているそうだ。そのあたりはマナ任せのため具体的なところは分からない。そんな、さながらリゾートにきた若いインフルエンサーみたいな状況だが、実体は探索者がダンジョン奥地でキャンプしている状況だ。そのため、警戒は怠らない。
その時、俺のテリトリーに引っかかったものがある。テリトリーは、周辺の構造物や人、モンスターなんかも感知することができる。
一人、小柄の若い男性が安全地帯に入ってきた。
「だれか助けてくれ。え、な、なんだ、これ? ギルドに連絡手段は無いか!? 救助要請を出したい、仲間がやばいんだ」
男性は身軽な皮鎧を着けており、頭と腕にケガを負っている。疲労のせいか、流血のせいか、体が震えており顔色も悪い。
「大丈夫か? まずは治療だ。おい、メル。出番だ」
そこで水着の女の子が出てきたものだから、その男性は目を白黒させる。
「え、水着…一体」
俺を怪訝な表情で見るのをやめるんだ。冷静に考えると、ダンジョンに水着の女性3人連れた外人に見える。見えるというか、そうにしか見えない。
「俺たちはギルドの仕事で安全地帯を確保しに29層に来ている探索者だ。ほら、治療をうけるんだな」
「じっとしてるの、すぐに治るの」
メルが魔法を使うと、頭の傷も腕の裂傷も綺麗に治っていく。体力も回復したのか、顔色も良くなってくる。
「おお、ありがとう。すごい、さっきまで貧血で倒れそうだったのに」
彼はメルに頭を下げる。でも、メルから少し目をそらす。水着の女子高生だからな。
「ギルドに連絡もつきますし、安心してくださいね」
マナは元気づけようと彼の手を握る。
「何があったのかしら?」
フレイヤが男に訊ねる。ビキニの女性2人に囲まれて、目をそらしながらも状況を語り始める。紳士だな、彼は。
彼は43階層だと思われる場所から助けを求めてやってきた探索者だった。思うというのは、彼は43階層を攻略していたわけではなく、滅多にない状況で転移の罠にかかり、15層から飛んでしまったらしい。43層は遺跡エリアで、これぞダンジョンといった長い通路と部屋で構成された場所だ。そこに飛んだ後、運良く強いモンスターに絡まれることなく小部屋に逃げ込んだのだが、途中で倒した小型モンスターの毒に侵されたメンバーが動けない状況となったのだった。そこで決死の覚悟を持って隠密スキルが使える彼が上層階にむけてなんとか上がってきたというわけだ。
『43階層は遺跡エリアです。攻略済みですが、常時攻略されているエリアではありません。偶然では救助は来なかったと思われます。そして、40階層の毒は、ダダルサソリの物と思われます。すぐに手足が麻痺し、4~5時間で意識を失います。10時間ほどでの生存率は10%と言われています。解毒の上級ポーションか、メル様の回復が必要です』
ひより女史タイプのダンジョンガイダンスが指し棒を振りつつ教えてくれる。黒板まで出す芸の細かさだ。
「そんな…」
彼の顔が蒼白になり、2人の名前をつぶやく。どうやら、2人も毒に侵されたようだ。
「メルの魔法なら助けられるのか。今で何時間経ってるんだ?」
「ええと、既に9時間ほどです…」
彼は震える手で腕時計を見ているが、目の焦点が合っていない。14層を戻るだけとはいえソロで8時間で戻ってきたのは、早いと言えるだろう。しかし、その行程を1時間以内。それも出来るだけ早く移動するというのは、かなり厳しいかもしれない。
「わたくしが空を駆ければ…」
そこで、ダンジョンガイダンスが試算してくれる。このダンジョンガイダンスは、ひよりの謹製なので、いろいろ機能が盛り込まれている。フレイヤの移動速度なんかも教え込んでいたりする。
『フレイヤ様の移動速度とダンジョンの地形から算出できる予想時間は2時間です。途中にある洞窟エリアで時間を消費してしまいます』
空が開けているエリアならば、1時間を切ったかもしれないのに、口惜しい。
「わたくしの新しい技でも無理ね…」
新しい…そうだ。その手がある。
「小次郎に連絡を取ろう。新メンバーが加わっているかもしれない」
その発言にマナが訊ねてくる。フレイヤとメルは、今気づいたようだ。
「新メンバーですか?」
「あぁ、俺の娘なんだ」
そう、名前はアリス・ラバック。ジェシーの娘という設定だ。
「え、娘さん!? 娘さんがいたんですね。え、そこもですけど、探索者なんですか?」
マナはさらに驚く。まぁ、驚くよな。
「ああ、今頃はクラン加入しているかもな」
フレイヤとメルの視線が少し横に動いている。ステータス画面を見ているようだ。俺たちは、小次郎のステータスが見えるわけで、その状況が分かる。
『小次郎様に連絡がつきました。アリス様がすぐに駆け付けるそうです』
ダンジョンガイダンスが気を利かせてくれていたようだ。
「え、でも、応援といっても、ここも29層ですよ? 近くにいるんですか?」
救助を求めている彼は、さらに混乱しているだろう。
「すぐというからには、すぐなんだろう」
俺の言葉が早いか、湖のほとりから若い女性が近づいてくるのを感知する。彼女は、胸元に白いレースのブラウスを覗かせ、編み上げコルセットとふわりと広がるスカートを揺らしながら歩いてくる。いつか見たドイツのお祭りのオクトーバーフェストに出てきそうな服装だな。
「ハーイ、パパ」
手をひらひらと軽く挨拶をしてくる。ここは、ペルソナに任せるか。
「よう、アリス。久しぶりだな。元気か」
そうして、俺は初対面の娘とハグをした。この表現、なんか誤解を生みそうだな。
今回は女性です! ジェシーの娘です!




