第5話 フレイヤと新技
気分は、アメリカの西海岸でしょうか。
俺は俺2号。いつも、フレイヤを担当している。ダンジョンの中で朝を迎えたが、爽快な目覚めだ。昨夜はジェシーの建てたカフェ風の建物の中で雑魚寝となった。ジェシーの美味しい料理を食べて、さらに追加で建ててくれたシャワー室で汗を流す。その後は、この今使っている柔らかなラグに薄手のタオルケットで十分眠れた。一応、寝袋は持ち歩いているが、使うことはなかった。ありえないくらい優雅なダンジョン生活だ。
「おはよー」
横に寝ていたマナが目覚めの挨拶をしてくる。挨拶をしてくるマナの顔が、俺の真横にあり、優しく微笑んでいる。俺が今女じゃなかったら危険な魅力だ。
「ダンジョンの中なのに、旅行に来たみたいですね」
「そうね。ダンジョンなのを忘れるわ」
そして、マナの反対を向くとメルがまだ眠っている。こちらも顔が近くにある。あぁ、まつげは長いし、いい匂いがするなぁ。しかし、メルは寝相が悪いのか、寝ている間に何度か俺に抱きついてきた。不可抗力なのはわかるんだが、おっぱいは掴まないでほしい。びっくりするし変な声を出してしまう。
そして、ジェシーはと言うと、外に張ったテントで夜を明かしていた。あえてテントで寝る選択をしたかったらしい。女性たちに気を使っての行動かと思ったが、建物を追加したわけではないから、やっぱりテントで寝たかったのかもしれない。
その後は優雅にジェシーが作る朝食を食べ29階に向けて出発した。
29層には4時間ほどで到着した。外では昼頃だろうか。29層は、巨大な岩石と周囲に生い茂る木々がある森林エリアだ。その木々の間に中型のドラゴンが闊歩しているのが見える。それはサンドドラゴンと呼ばれる種類で、気性は激しく俊敏に飛び回りながら砂を吐きかけてくる。魔法的な砂なので、尽きることなく吐き出されし、汚れるし痛いという二重苦なのだが、ドラゴンだけあって経験値は良い。そして、スキル書として土魔法が出ることがある。
「よし、まずは拠点だな」
ジェシーの一言で、ある場所を目指す。サンドドラゴンは水が苦手らしく、29層の真ん中にある湖の周辺には、あまり来ないそうだ。そこに安全地帯を作ると、ジェシーの掛け声の中、近代的でガラスを多用した建物が現れる。ガラス張りの部屋から湖を臨むことができ、おしゃれな雰囲気を醸し出している。
「この湖畔は安全地帯だから、泳げるぞ」
ジェシーはさらに湖岸に、おしゃれなデッキと、屋外のバーカウンターまで作ってしまう。あ、こういうの映画で見たことがあるな。海外の金持ちの家っぽい。
「さぁ、BBQの準備をするから、適当に過ごしてくれ」
ジェシーの言葉に、マナとメルは泳ぐと言い出した。確かに池と言っても、汚す生物がほとんどいないためか透明度が高く、気持ちよさそうだ。
「わたくしは、少し散歩しますわね」
メルとマナの水着にも興味があるが、少しドラゴンにも興味がある。
「大丈夫?」
マナが心配してくれるが、ここのドラゴンくらいなら大丈夫だ。
「ええ、大丈夫よ。遠くには行かないわ」
俺はそう言うと、拠点から少し離れてからレビテートを使い空に舞い上がり、近くにいるドラゴンを観察した。
ダンジョンのモンスターは弱肉強食といった概念がないと言われている。つまり、生態系が存在せず、近くに弱いモンスターが居ても食べようとはしない。人間が近寄れば攻撃をしてくるのだから、ある意味プログラムされたキャラクターのようだ。そして、倒せば魔石やドロップ品を残して消滅することから、魔力で出来た疑似的な生物だという説が有力だ。
サンドドラゴンもうろうろしているだけで何かを為そうという様子はない。しかし、近寄ってみると襲い掛かってくるだろう。種族的な特徴なのか、どんなドラゴンも炎に対して一定の抵抗力を持っている。つまり、フレイヤにとっては倒しにくいモンスターなのだ。しかし、倒しにくいだけであって、倒せないわけではない。
今回、俺はフレイヤのスキルを研究したいと考えていた。特に小回りの利かない洞窟などでの戦い方だ。爆発系も延焼系も崩落や酸欠といったリスクを抱えている。名古屋ダンジョンでは、そのためにパフォーマンスを発揮できなかった。
そこで考えたのだ。炎じゃなく、単純な熱ならば?と。
俺が持っているスキルのメルト。これは、千度以上の高温を発する球を作り出す魔法だ。これを、応用してみよう。例えば、この球をサイコキネシスで高速で打ち出す。赤熱した球がサンドドラゴンの横の岩にあたって砕ける。これ、メルトショットと名づけよう。
しかし、砕けた音でサンドドラゴンに気づかれてしまった。こっちに来る前に片付けようと、続けざまにメルトを撃ちだす。流石に下手な鉄砲数撃ちゃ当たる的な戦法で、サンドドラゴンの分厚い皮膚にメルトが当たり焦がす。メルトは皮膚と癒着し、そのまま溶かしていく。結構、ひどい技だな。
しかし、サンドドラゴンも意地があったんだろう。最期の力を振り絞って砂を吹きかけてきた。遠いためか威力はないが、砂まみれになってしまう。サンドドラゴンが消滅していくなか、髪が砂利を含んで少し落ち込んだ。
「メルトの熱量が少し足りないわ。もう少し、工夫がいるかしら」
ペルソナさんに助けを求めてみるか? 年末に、あまりの黒歴史の掘り返しに耐え切れず俺がフレイヤのペルソナを起動したところ、フレイヤが小次郎を愛しているとか言ったせいで、母さんが小次郎とフレイヤが恋人だと思いこんだのだ。そこから、俺はフレイヤのペルソナ起動を少し控えている。まぁ、今なら小次郎もいないし、大丈夫だろう。まぁ、小次郎は俺でもあるんだけどな。
「メルトショットにエナジードレインを組み合わせますわ」
エナジードレインをか。どんな感じになるんだろう。少し離れたところにいるサンドドラゴンに向けてそれを使ってみようと考えると、さっそくフレイヤがメルトを一発撃ち出した。それは、サンドドラゴンの眉間に食い込むと、徐々に熱量をあげていくように見える。
「エナジードレインでメルトの持続時間を伸ばせるわ。相手の魔力を吸ってね」
組み合わせることでそんな効果があるのか。うわ、メルトが逆に大きくなってる?
そのうち、サンドドラゴンの頭頂部が浸食され、サンドドラゴンは力なく倒れ伏し、消滅した。
これ、やばい魔法じゃない? なんか、送り出した魔力よりも強力になっていったんだけど。
その後、俺はメルトショットの精度向上とエナジードレインの調整を施した。サンドドラゴンを10頭ほど倒してから、ジェシーのところへと戻っていった。
「フレイヤー。きもちいいよー」
水着のマナが湖を泳いでいる。
「気持ちいいの。フレイヤも泳ぐの」
確かに気持ちよさそう。
「分かったわ。わたくしも泳ぐ」
そこでジェシーが声をかけてくる。
「2階の部屋を使うといい。1人1部屋ある。肉はあと3時間まってくれ。軽く摘まむものは、カウンターに出しておいたから食べてくれ」
想像しているBBQとは違う何かすごく手間のかかる感じに肉を焼いている。見慣れないオーブンみたいなものを使っているし、きっと美味しいに違いない。
「ありがとう。いただくわ」
遠くにはサンドドラゴンが徘徊するダンジョンで、まるで海外の邸宅パーティをして過ごすコックと3人娘。きっと映画なら、パニックホラーなんだろうなとかそんな考えがよぎる。そうなると、今の俺って真っ先に襲われそうなグラマラスの水着美女なんだろうな。いや、主人公だったら、1人生き残る? でも、ジェシーがいれば、ホラーじゃないな。ホラー映画が一瞬でアクション映画になってしまう。
おもしろい。
「フレイヤ〜。まだー?」
そんな緩いダンジョン攻略をしていたせいか、俺はさっき稼いだ経験値が小次郎をレベル400に引き上げたことに、この時は気づいていなかった。
これを書いているのは夜です。
お肉を焼くのを想像しながら夜に書いています。
セルフ飯テロです。
すごく、はらが、へった・・・。




