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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第5章 娘になった日

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第4話 メルとジェシー

大阪ダンジョンを潜っていきます。

 俺は俺4号。メルを担当している。今回は梅田ダンジョンでジェシーの美味しいご飯を食べるという目的でやってきている。29層に安全地帯を作って、そこでBBQをする予定なのだ。俺たちが取り方を広めた近江ダンジョンのモウミョウの肉なども仕入れてきたし、準備は万端だ。ただ、距離もあるので、状況次第で途中でのキャンプもあり得る。


「メルちゃん、よだれ出てるよ?」


 そんな指摘をマナに受ける。


「よだれじゃないの。汗なの」


 そう、そんな分かりやすい食いしん坊キャラじゃない。メルは、聖女と呼ばれる、すごい支援と回復職なんだ。


「はいはい。そうしておくね?」


 マナと一緒に笑ってしまう。


「おい、そろそろ10層の面倒な奴らがいる場所だぞ。気を抜くな」


 俺5号のジェシーが言ってくる。後輩の俺なのに、一番渋い。なんか面白い。


「大丈夫なの。常に攻撃態勢なの」


 そう。メルにはカウンタースキルがある。それを使っておけば、大抵の奇襲は防ぐことができる。

 バシュッ!

 体が勝手に動いて、背後から飛んできた何かを弾き飛ばした。


『超甲殻ダンゴムシです。背後から頭や首といった急所を狙ってきます。お気をつけて』


 ひより女史版のダンジョンガイダンスを連れているため、こんな指摘をしてくれるが、俺が攻撃を受けた後に言ってもね…。

 しかし、固い上に軽いこともあって、カウンターで弾き飛ばすが、わずかに倒しきれていない。ジェシーは捕まえて握りつぶしている。

 皆がこちらを見てくる。


「わたくしも」


 そういってサイコキネシスとエナジードレインの合わせ技で悪魔の手とかいう不気味な技を使うフレイヤ。つかまったダンゴムシが萎んで消えた。


「ちょっとっ、剣が欠けちゃう。ハンマー出しておくんだった」


 憤慨しながらマナがダンゴムシを殴りつける。無理に叩くと剣が傷つくわけで、憤慨する理由もわかる。


「えい!」


 俺も参戦して、襲い掛かるダンゴムシを地面に叩きつける。


「しかし、メルは芋虫とかがダメで、どうしてダンゴムシは大丈夫なんだ?」


 そうジェシーが聞いてくる。疑問に思うのは無理は無いが、違う。圧倒的に違う。


「だって、かわいいの」

「分からないな。だが、弱点が少ないのは良いことだ」


 ジェシーは苦笑しながら、ダンゴムシを淡々とつぶしている。

 俺がワーム系でパニックになるのを知っていて、今回虫が出やすいこの場所が難所と指定されたんだが、ダンゴムシは平気だ。むしろ好きかもしれない。メルの設定をこんなに複雑にした覚えはないんだが、好き嫌いの差が激しくて、自分でも混乱する。


「メルちゃんが平気で良かったー。じゃあ、あたしはハンマーに持ちかえてっと」


 気合の入った一撃でダンゴムシが地面でつぶれる。

 そして、厄介なダンゴムシエリアを難なく潜り抜けた。


 次の難所ではなく、次の見どころは20層の天保山エリアといわれているエリアだ。大阪の名所の1つである4.5メートルしかない天保山のサイズと同じ亀型のモンスターがいるから愛称としてついたエリアとなる。


「じゃあ、このエリアは配信するね。いつものエバーヴェイルの知恵袋コーナーで、岩塊亀の倒し方を教えてあげるってことで。ジェシーさんも一緒にオープニングでてくださいね」

「え? 俺もか? まぁ、いいか」


 いいのかよ。


「フレイヤ、メルちゃん、いい?」 


 俺とフレイヤが頷く。そして、いつものオープニングが始まる。マナに合わせて、「ようこそー」と手を広げるのが、最近うまくなってきた俺。


「今日は、ジェシーさんと梅田ダンジョンの29層を目指しています」


 29層は中型のドラゴンが住みつくエリアだ。低層で階層ボスをやってそうなモンスターが、そこでは雑魚モンスターとして闊歩している。決して倒しやすいわけではないが、経験値とドロップにスキル書が出ることが多く、狩場としては有名だった。

 そんな話も多くの人がしっているのか、コメントで触れられていく。


「スパチャありがとうございます! はい。今は天保山エリアです。後ろに見えますね。大きな亀!」


 マナがスパチャの応対をするとコメントが更に流れていく。いつもながら、マナはすごい。フレイヤもメルも、口数が多い設定じゃないのもあって、あまり喋らない。それをマナは補ってくれる。マナおねーちゃんはすごい!というメルとしての感情と、年下でがんばっている女の子をみた男性としての感情が入り混じる。まぁ、がんばれってことだな。


「メルちゃん! 亀の倒し方わかりますか?」

「メルは、わからないの」


 直前の打ち合わせ通り、質問が飛んでくる。


「ジェシーさんは?」

「捌き方は分かるが、ただの包丁じゃきびしいな」


 ジェシーはニヒルな笑いが似合う。


「フレイヤ、お願いします」

「ええ、みなさん、覚えているかしら? ウッドゴーレムと同じ弱点を突くのよ。サイレゾネイトという魔法で振動を与えて破壊するの。共振という現象のようね」


 ダンジョンガイダンスが解説するフレイヤを見下ろすように撮ってくる。今日は、チューブトップだから、際どい絵になるんだろう。コメント欄が流れていく。

 本当に男って…。わかるんだが、俺の中のメルがあきれているのを感じる。


「では、いくわ。音大丈夫かしら?」

「ダンジョンガイダンスは、ちょっと下がってね」


 そう言うと、ひよりの姿をしたダンジョンガイダンスが距離をとる。

 フレイヤが亀に向かって手を向ける。何やら重低音が聞こえたと思ったら、次の瞬間に亀がすごい勢いで振動をはじめ、中からはじけ飛んだ。厚い殻が砕けた形になる。


「では、とどめをお願いするわ」

「任された」


 ジェシーとマナが固い殻を砕かれて右往左往している亀に取りつくとあっさり首や足などを切り飛ばしていた。ジェシーなんて、さっき切れないと言っていた包丁で首を切り離している。俺? 俺は、ほら。回復役だしね。

 そして、亀が消滅していく。


「あ、ドロップあった! これが、甲殻の断片なんですね」


 今回のエバーヴェイルの知恵袋の二つ目がこれだ。


「はーい、みなさん、岩塊亀って、固くてしんどくてドロップも渋いと思いませんでした? 実は、殻を壊してから倒すことで、甲殻の断片というアイテムをドロップします。これは防御力の高い盾や鎧の材料になりますから、ぜひ倒してみてくださいね!」


 たおせるかー!という突っ込みが多数書き込まれる中、配信は終了した。

 今回は、年末に買いだめしておいた石板に書いてあった岩塊亀の倒し方とドロップ内容について配信で実演したというわけだ。

 エバーヴェイルのHPには、石板情報をいくつか載せているが、配信用にいくつか残しておいて利用しているのだ。

 

 大阪ダンジョンは東京ビックダンジョンと違い、広いエリアが多い。単純に時間がかかる。そのため、途中でキャンプすることとなった。ちょうど岩塊亀のいるこの20層が一回目のキャンプ地の候補だった。


「じゃあ、ここがいいな。亀の沸くポイントからも遠いしな」


 ジェシーが小さな小屋を立てる。小屋といっても古民家風カフェと言われたら納得しそうなデザインだ。ああ、これ俺好きだわ。


「かわいいの。ジェシー、とってもいいの」

「ほんと、素敵。中はどうなってるのかな。いこ、メルちゃん」


 俺はマナに手をひかれて中へと入っていった。


「わわわー」


 2人で言葉が出ない。どこからこんな素敵空間を作り出しているんだろうか。本当に分からん。


「よし、配信の残りは、今日の飯だ。お泊りの方は3名だな」


 そして、急にジェシーの料理配信が始まるが、皆が期待している。


「待ってたの。ペコペコなの」


 朝から潜って夕方になろうとしているくらいには活動したわけで、早めの晩御飯の時間だ。


「よし、まってろ」


 ジェシーがちらりとこちらを見る。包丁を持つ腕が男らしい。胸がドキドキする。あ、いや、これきっと低血糖とかでのドキドキだな。今日は何が食べられるんだろう。あぁ、楽しみだ。


お腹すいてきました。

グランピングとか興味あります。

おにく! おにく! おにく食べたい!

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― 新着の感想 ―
おにく!おにく!馬刺し!分厚いお肉食べたい!
でかいダンゴムシのガチャガチャ回しましたわ 欲しかった青いのが出なくて泣きましたが
亀の甲羅が硬すぎて壊せないって言ってんだろ!って、リスナーは思ってますね。 共振で壊せるとしても、それが出来る魔法職がどれだけいるか……参考にはなるけど、実践出来る人が限られてる知識やね。 おにく!…
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