第3話 南と新事業
大阪編です。梅田ダンジョンといっても、地下街のことじゃないですよ!
大阪駅の程近くにある梅田アストラルビル。そこが梅田ダンジョンがある場所だ。名古屋のハイランドスクエアと同じく、巨大なビルに対してダンジョンが現れるという形で現れたため、商業ビルとしての機能も保持しつつ、大阪ギルドなども入っている。
そこに現れたのが、安全地帯を作ることができる男ジェシー・ラバックとその護衛としてついてきたフレイヤ、メル、マナの4人だった。
そして、今回は南も同行してはいるが、こちらは少し違う毛色の話、ビジネスに関する話の調整に来ている。笹木本人は、ひよりに変身して、クランベースに籠ってアイテムの解析を進めている。
そして、今はジェシーたち探索者組は、梅田ダンジョンの29層に向かおうとしているところだ。大阪でも探索者として有名なエバーヴェイルのメンバーは、サインを求められたりして好意的な反応で大阪の地を踏んだことになる。
ギルドからの依頼ということもあって職員からも挨拶を受けていたジェシーとマナはそちらの対応をしている。フレイヤはその後ろで新しい服を気にしている。メルは、ちょこんとその後ろにくっついて南に微笑みかける。
「じゃあ、行ってくるの。頑張ってなの」
両手をグーにしており、仕草が完全に女子だ。
「ええ、メルちゃん達も気をつけて行ってきてくださいね」
「行ってきますわ」
次にフレイヤが南に挨拶をし、ダンジョンへと入っていった。そして、南はダンジョン組を見送り、探索者ではない人たちとの会議に臨もうとしていた。会議室に向かうと、50代くらいで日焼けした男性がいた。大阪ギルドの支部長だ。
「南さん、すんません。ギルド側としても安全地帯の運営に関する方針はまだ定まってないと言うたんですが、エバーヴェイルさんへの提案はきっと必要とされていると言い張ってまして」
腰が低く、公的機関の支部長というよりは、支店長といった雰囲気だ。
「大丈夫ですよ。私の方も業務提携などの提案は受け付けていますから」
何なら南の方がギルド内では格下に当たるのだが、エバーヴェイルのメンバーとしての立場を支部長として重視しているのだろう。
ちなみにエバーヴェイルには、ひっきりなしに事業提携の話が舞い込む。それに対して南がギルド側のメンバーに依頼して調査をしてもらい、話を聞くべき会社を選定するということを行っているのだ。今回話をもってきたのは、ホテル業界でも老舗の会社だった。全盛期からは多少衰えているものの業界の中でも大手を保っている。そこが、安全地帯にある宿の業務代行を行いたいと言ってきたのだ。
ダンジョンの深層は山小屋みたいな立地のため、宿泊費やサービス代といった料金体系だけでは経費とつり合いが取れないというのが一般の予測だ。しかし、視野を広く持てば、ダンジョン内での安全地帯運営という寡占事業へ参入することで、ダンジョン内での事業基盤になると考えられる。そんな話を南は名古屋ギルドに創設した通称南チームと呼ばれるメンバーと事前に議論している。南チームは、天白が南の支援にむけて採用も含めて新たに集めたチームだ。中途採用もいて中々にバラエティに富んだ人選となっている。ちなみに、南チームのメンバーは、南が貰うことになっているインセンティブの中から何割という報酬を得ることで動いており、スタッフの動きもとても良いらしい。
支部長のスマホに電話がかかる。
「あ、きはったんですね。はい、通してください」
支部長が会議室に通すように部下に伝える。会議室に入ってきたのは、着物の女性とスーツの男性だった。着物の女性が社長で、スーツの男性は秘書だった。南もテレビや雑誌などで見たことのある女性社長で、ホテル業界でも一目置かれている存在だ。
そして、その会議も1時間ほどで終わり、彼らは引き上げていった。その内容に、南としては一考の価値があると判断した。
彼らは主に2つの事業展開を狙っているらしい
1)ハード層向け
レベル上げやドロップ獲得を主体とした合宿所の立ち上げ
2)ライト層向け
比較的浅い階層でのアクティビティや観光向けの宿泊施設
プロ向けは、東京ビックダンジョンで作った温泉宿みたいな位置関係にあるもので、探索者としてしっかりレベルあげしているような人たちしか来ないし、来れない。そういう人たちが狙うのは、高価なドロップとレベル上げの両立だろう。前線に無駄なものを持って行かずに継続的な狩りができる場があるだけで、かなりのダンジョン攻略への貢献となる。また、安全地帯に避難できる場所があるだけで、生存率があがる。
ライト層向けは、探索者人口を補う上でも国やギルド側が苦心しているところの一手となりそうだ。未成年向けの法律ができてから探索者人口が減少傾向にあるらしい。しかし、生存率を上げるための研修をなくすことは難しいというジレンマを抱えている。そこで、週末や長期休暇だけ探索者をやっているという兼業探索者に向けた宿泊施設を作るというのだ。
南はホテル業界も色々考えているなと感心した。身内に探索者がいるのか、探索者を基軸とした事業展開をずっと狙っていたのかは分からないが、いい視点を持っていると思った。そこで、次の動きを考える。安全地帯を作り出せるのは、現状ジェシーのみである。そのため、ギルドは試験名目で安全地帯の普及を推し進めており、実証期間が済んだ後の話は未定となっている。未定ならば決めないといけない。
「さっきの話、どうでしたか?」
大阪ギルド支部長が恐る恐る尋ねてくる。
「まずは笹木代表に相談したいと思いますが、概ね受け入れられるんじゃないかと思います。でも、ギルド側のルール整備が先ですね。ガームド局長が働きかけているのですぐに決まると思いますけど。こちらから要望を出していくのも必要ですね」
ギルド側がダンジョンのある国に向けて、優先的な賃貸契約が結べるようにルール化しようとしている。日本だけじゃなく、海外にも安全地帯を作ってほしいという要望が多く出ている。ジェシーは精力的なタイプなので、どこでもいくぜと笑顔で答えていたのを南は思い出す。
その後、南はギルドを後にしてホテルで仕事を再開する。パソコンを持っていればどこでも仕事ができてしまう良い環境だ。今夜はダンジョン組はダンジョン内で泊まる予定なので、南は1人となる。さっそくだが、今回の会議の顛末を南チームのサブリーダと共有する。そして、新たに来ている案件について相談が来る。
「テレビ出演は、今の所パスですね。笹木さんも今の所興味ないですし。
グッズ展開? 瀬戸さんは、そういうのに詳しかったわよね。え? もうノリノリ? じゃあ、交渉窓口にしちゃっていいです。ん? 大丈夫。あの人、元広告代理店だもの」
南が、その後もいくつかの案件について話をする。つくづく南は、チームができてよかったと思うのだった。
「フィギュア? あぁ、その話ならオーブマシナリさんにつないであげて。あそこが原型を持っているはずだから。
バルハラさんがコラボ企画を持ってきているの? ヴァルキュリアとの配信なら、マナさんが適役ですね。メールを転送しておいて、相談しておきます。
ええ、じゃあ、これで。うん、一人で外食ね。大丈夫よ、ナンパなんて来ないわよ」
そして、電話会議が終わる。そして、外も暗くなってきた。
「せっかく大阪に来たし美味しいもの食べたいな、何がいいかな…」
南はスマホで近くのグルメ情報を探し始める。しかし、多すぎる。
そして、今度はチームで出張もいいなと思いながら梅田の夜を散策するのだった。
南さんのチームができました。出番はいずれ。




