第25話 フレイヤと挨拶
4章の終わりとなります。
※黒歴史注意です。
明日は大晦日。そんな日に、俺はフレイヤと一緒に俺の実家にタクシーで向かっていた。2人とも変装しており、タクシーの中も静かなものだった。
何故こんな状況になっているかというと俺の母親からのメッセージが来たからだ。年末に1回くらい顔を見せなさいというところだった。それならば、1人で向かうところなのだが、できるならフレイヤさんとお会いしたいという話もあった。
「どこで知られたんだろう」
笹木小次郎という名前でありながら、世の中的には高齢の笹木博士として知られている。それ以外で共通点などは無い。
「聞いてみないと分からないわ。もし、何かに気づかれているならば、口裏を合わせてもらわないといけないわ」
まるで不倫とか良くないことでもしているかのような2人の会話に入ることなく、黙々と運転している運転手さんには頭が下がる。
名古屋から30分くらいタクシーを走らせて実家に着いた。
「久々ね」
「そうだなぁ」
俺とフレイヤ、まぁ、どちらも俺なので、親の住居に来るのも懐かしい。実家と表現しないのは、俺が家を出た後に引っ越した住居だからだ。
「ところで口裏は合わせていくけど、困ったら1号が話してよ。わたくしは難しい日本語が分からないふりをさせていただくわ」
どうなるか分からない親との会話。この数か月の内容を話すのも話さないのも、流れ次第といったところかと思う。
ドアベルを鳴らすと、物音がしてドアが開かれる。中からは、50代半ばの女性が現れる。まぎれもなく母だ。
「あら、小次郎。よく帰ってきたわね」
変装を解いておらず分からないかと思ったが、あっさり見抜かれる。
「あらあら、こちらはフレイヤさんよね? よろしくお願いします。笹木小次郎の母です。息子がいつもお世話になっています。変装されていてもオーラがありますね」
「俺も変装してるんだけどなぁ」
俺の言葉に笑いだす母。
「製造元なんだから息子だと分かってあげなきゃ可哀そうでしょ?」
豪快な幸子さんと属性が似ている根明な母だ。寡黙な父と違って家庭の中で常にしゃべり続けている印象がある。
「こんなところですが、中に入ってください」
玄関を入ると物静かだ。父が居れば、テレビの音が聞こえるはずだが。
「あれ? 父さんは?」
「今日は居ないわよ。地域の忘年会で泊まりだから」
何故そんなタイミングで呼んだのか。客間に通されると、フレイヤが改めて自己紹介をする。
「はじめまして。フレイヤ・リネア・ヴィンテルと申します。いつも笹木さんにはお世話になっています。これ、つまらないものですが」
きっと実の親に菓子折りを渡すことに、かなりの違和感を感じているだろうに、上手くフレイヤの振りをしている。
「これはこれはご丁寧に。こちらこそ、不出来な息子がすごいクランの一員にしてもらっているようで、私も鼻が高いです」
目の前にいるフレイヤにもダメージが行きそうな謙遜だが、フレイヤはニコニコと笑っている。しかし、こちらをチラっと見てくる。あ、そうだった。どこまで分かっているのか確認が必要だった。お茶とお茶菓子を載せたお盆を持ってもどってきた母に問いかける。
「母さん。どうして、俺がエバーヴェイルの代表だと分かったんだ?」
「え、だって、笹木博士だっけ? あんたの変装。死んだおじいちゃんにそっくりなんだもの。それで笹木小次郎っていうんだもの。あれでしょ、流行りのFFXとかいうの?」
FFX? SFXの特殊メイクの間違いかな? そして、俺の年老いた姿、確かにじいちゃんに似ていたかもしれない。
「まぁ、お父さんは気づいてなかったけどね。服装が変わると分からないとか、お父さんは昔からそういうところがあるからね。こないだ、久々に髪をショートにしたのに三日も気づかないのよ?」
なんか父の悪口大会になりそうだ。
「いや、まぁ、それで分かったのか。ほっとした。一応、身元を隠すための変装だから、黙っててね」
「分かったよ。あそこまでやってるんだから、察したわよ。あ、でもね。それだけじゃないわよ。ちょっとあんたに聞きたかったんだけど、フレイヤさんとは学生時代から知り合いなの? そして、お付き合いをしている。違う?」
俺はフレイヤと顔を見合わせる。そりゃ、小説には書いてたけど、実物を見たというか、なったのは3か月前だ。こんな美人と学生時代から知り合っていたら性癖が壊れてる。そして、付き合っていることは無い。設定ではアリなんだが…。
「いや、そんなことはないけど…」
否定するけど、怪訝な表情を崩さない母。
「んー、でもね。フレイヤ・リネア・ヴィンテルさんの名前、あんたが高校生の時に書いてた、『虚空に咲く終焉の華 深淵ノ迷宮に刻まれし神罰《俺が歩む終焉への旋律》』に出てきてたよね? そして、メインヒロインがフレイヤさん」
お…、お…お? 汗が滝のように流れる。
隣をみたらフレイヤが笑顔が消え、粒のような汗が額に浮かんでいる。フレイヤも同じ感情が渦巻いているのだろう。まだ、俺が2人でよかった。もう一人第三者が居た日には、俺は死んでいただろう。
そして、なぜ、俺の作品名を一文字も間違えることなく母さんが言えるんだー!? フレイヤのフルネームまで読んでるってことは中身も確実に読まれてるし…。
「まぁ、そういう時期ってあるんだろうし、気にしなかったけど、その同姓同名が出てきたってことは、そのころから知り合いなんでしょ?」
無邪気な顔をして息子を殺す気なんだろうか、この母親は。
「あ、の。全部よんだ?」
「あぁ、ハーレム物って言うんでしょ? でも、途中から参加する子たちが全員あんたに惚れるってのは無理がない? ダンジョン人も追い返して、ハーレムエンドなんて、フフ」
母さん、やめて。ん?でも、ハーレムエンドにならなかった気もするけど。いや、今追求するのはそこじゃない。もうやめてくれ。隣のフレイヤも死にそうな顔をしてる。
「でも、私は陰ながら応援してたわよ。あんた、小説家になるとか言って勉強もあんまりしなかったけど。でも、今その小説と同じようなクランを立ち上げてダンジョン攻略をしてるなら、別の夢がかなったわけね。今でも応援してるから、がんばんなさいよ。もし、お父さんにも話していいなら話しとくけど」
「え!? どれ。いや、俺がタイミングみて話すから、何も話さないでおいて、おねがいします」
めちゃくちゃ頭を下げたテーブルに額がくっつくくらいに。
その時、フレイヤがお茶を一口飲む。さっきとは違い玉のような汗が消え、涼しい顔をしている。もしかして、ペルソナを起動してる? 俺2号、もしかして、ペルソナに任せて逃げた??
「分かったわよ。フレイヤさん、頼りないところはあるけど、頑張り屋なところもあるので小次郎のことお願いします」
母さん…、息子のHPはゼロよ…。多少持ち上げてもゼロよ…。
しかし、その言葉にフレイヤが反論する。
「お母さま。小次郎さんは、素敵な男性で、とても頼りになりますわ。それに…」
フレイヤの頬が赤くなる。白い肌なのでよく目立つ。
何を言い出すんだ。ペルソナを止めてください。俺2号さん。
「それに、わたくしが愛した人なので一緒にがんばりますわ」
それを聞いた母は、ロボットのように首を曲げ、俺の方を向く。そして、サムズアップを決める。
「小次郎…、孫の面倒はガンガン協力するわよ。でも、同居はしなくていいからね!」
おおおおおおおおい!
ペルソナとめろ~~~~~~!
「鯛、お赤飯。大変、足りないわー」
そんなうわ言を言いながら、母が客間からいなくなった。その隙に、フレイヤを揺すって俺2号に呼び掛ける。そして、数秒後、フレイヤ口調を捨てた俺2号が現れる。
「すまん。あまりの黒歴史暴きに堪えられず…ペルソナに逃げたら、なんかこうなった」
ぽりぽりと頬をかくフレイヤ。
「こうなったじゃねーよ! どうするんだよ!?」
俺2号は、腕組みをして考え事を始める。やめろよ、おっぱいの主張がすごすぎるんだよ。
「ごまかせなかったときは、責任はとる…」
それ男のセリフじゃねーか! この美女が!
あぁ、どうしよう。なんか、面倒になってきたな…。もう、そういう関係だと押し通してしまうのもアリなのか? いや、まずい気もする。まだ、先の話だということにして保留にしよう。そう、保留。
そこに再び母が戻ってくる。
「ごめん! 今日お酒飲める? いいお酒開けちゃうけど」
「いや、そんなつもりでは来てないけど…。あの、ところで、その俺が書いてた小説ってどこにあるか知らない?」
「あー、あれ。言ってなかったっけ。死んだおじいちゃんの家を物置にしてたところに入れてたんだけど、ダンジョンに飲み込まれて消えたわよ。その補償で、この家建ったんだから、不幸中の幸いよね」
そんなわけで、俺の黒歴史は消滅したらしい…。よかったような、よくないような。酒のんで忘れるかな…。
そんな状況で、俺の波乱の年は終わろうとしていた。
今回の話はなかなかにハードかと思います。
黒歴史を持つ仲間たち、生きましょう。私は生きています。




