第23話 ひよりとダンジョンガイダンス
ダンジョンガイダンスの発表会です。
俺は俺3号で、いつもひよりの担当をしている。
ここは魔装開発局の名古屋支部であり、エバーヴェイルの一階下のフロアだ。今は、オーブマシナリの研究員も加わって、ダンジョンガイダンスの最終調整を行なっている真っ最中だ。もちろん、多数の目があるから、ひより女史の姿で開発に加わっている。この結果が、明後日の名古屋ギルドのクリスマスイベントでネット公開される。
目の前には、多くのダンジョンガイダンス試作機が部屋に浮かんでいる。だが、それは通常のダンジョンガイダンスとは違う。
「ハヤト先生。口の動きと音声の同期は完璧に取れるようになりました」
試作機なのだが、フレイヤ、メル、マナ、ひより女史をモデルとした2頭身のキャラクターがダンジョンガイダンスを覆っている。踊っている物、何かを喋っているもの、表情がころころ変わっているものなど多数いる。
「魔法行使の試験はどうですか?」
そう質問をすると2台のダンジョンガイダンスが目の前に現れる。研究員が端末を操作して、こちらに飛ばしてくれたようだ。
「はい、トーチを出せるようになりました。また、微弱ですがヒールも出せます。正確にはヒールのような回復魔法ですが」
これが実は今回の発表の目玉となる。元々、魔道具はダンジョンから発見される道具を基に開発が進められていた。あくまで、動いている見本に基づく開発だった。それを、このひよりは根底から変えていった。
ひよりは、魔道具による魔法の発動原理が分かるらしく、魔道具に今までよりも多くの魔法を込めることができるようになったのだ。この部分は、魔装開発局側は1つ1つを特許出願しており、ひよりが権利者となっている。
その応用として、2頭身キャラの映像を付与する機構を開発したオーブマシナリの研究員は、贔屓目なしに優秀だ。
「魔力効率がまだ悪いですが。緊急時にヒールが打てるだけで生存率があがりますね」
研究員はかなり頑張ってくれた。実験で作ったダンジョンガイダンスで回復魔法を自分に使い、ずっと開発を続けている。でも、目の下のクマは酷い。
「ありがとう。でも、あなたはもう寝なさい。酷いクマよ。魔装開発局のスタッフと最終調整はするから」
「わかりました。あと少しだけ…あー、はい。わかりました」
まだ働きたいという彼を口を尖らせて黙らせると、彼はようやく仮眠室に向かっていった。
その2日後、名古屋ギルドの大会議室には特設ステージが用意されていた。会議室というよりは、小さめのコンサートホールといった方があっているかもしれない。
今日は関係者のみが集められている。一部はギルド専属の報道関係者が居る。クリスマスイベントといっても、もみの木が飾られるわけではない。クリスマスの日に行うイベントというだけだ。
関係者席には、ちょうど東京から帰ってきたジェシーがいる。その隣に笹木博士も立っていて、フレイヤにメル、そしてマナも居る。つまり、アバターを含め、全員が揃ったのだ。
アバターが勢揃いしているのは、この会の直前にドッペルゲンガーのレベルが上がったからだ。そして、ジェシー枠を新たに出た俺5号が受け持っている。
ギルドイベントで司会をしていた男性が今日も司会をしてくれる。
「本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。本日は、ギルド本部 魔装開発局およびエバーヴェイル、そして、エバーヴェイル傘下のオーブマシナリ株式会社による新型のダンジョンガイダンスの発表となります。
本日のスピーカーは、みなさんご存じガームド局長とエバーヴェイルの技術部門ヴェイルテックの副所長である隼人ひよりさんです」
その声で、ガームド局長と俺は舞台の上に出ていく。俺は、もちろん、ひより女史の姿で、パンツスーツにパンプスといった普通の姿だ。
ガームド局長が話し始める。
「こんばんは、みなさん。今日は、とても面白い上に実用的なダンジョンガイダンスの改良型をご紹介します。そして、この機能は、なんと来年早々にリリースできる予定です。さぁ、盛り上がってきましたかね?」
ガームド局長がカメラに向かって煽る。配信コメントが流れる仕様ではないが、きっとコメントは色々ついているだろう。
「ハヤト先生、では、ご説明をお願いします」
そこで俺は前にでる。そこに、ダンジョンガイダンスが1人歩み寄ってくる。それは、ミニひよりといった感じの姿をしていて、空中をとてとてと歩いてくる。
報道陣からどよめきが起こる。
「これはダンジョンガイダンスの改良型となります。ダンジョンガイダンスH2、自己紹介をしてみてください」
『わかりました。わたしはダンジョンガイダンスH2型。ダンジョン内の案内、モンスターの攻略方法の説明だけでなく、よりアクティブに支援が可能となりました。
トーチによる進路の照明、ユーザ様の緊急時には回復が可能となりました。今後、挑発スキルの導入により、危険な状況における回避行動のバリエーションも追加される予定です』
そんな説明をしてくれる。そして、トーチやヒールなどの実演を始める。すると、フラッシュの嵐が巻き起こる。
「他にもキャラクターのバリエーションはあります」
そこでフレイヤ、メル、マナをモデルにしたダンジョンガイダンスが現れる。さらにカメラのシャッター音が激しくなる。
フレイヤとメル、マナの姿をしたダンジョンガイダンスが並ぶと、エバーヴェイルちゃんねるのオープニングの再現をしたり、モンスターと戦っている寸劇をしてくれる。
オーブマシナリの開発者のこだわりの逸品だ。
その後、質問コーナーとなった。
「ヒールの対応回数は何回ですか?」
「現状、3回となっています。ヒールとは違い回復力は低いので、あくまで補助的な使い方となります。魔石の交換によって再度回復ができるようになります」
「服の着せ替えはできますか? 素体の…中のレンダリングはできますか?」
「中のレンダリングはできていますが、服の着せ替えは既定のものになります」
「会話はどんな内容が話せますか?」
「現在搭載しているAIでは、簡単な日常会話まではできます。今後、アップデートで個性などを持たせることも考えています」
「発売日時と価格をおしえてください」
「1月末を予定しています。価格は、1500万円を予定しています。そうですよね?」
ガームドさんが、それにサムズアップで答える。
そのほかにも質問があったが、終始穏やかな雰囲気で終了した。イベントの終了では、4体のダンジョンガイダンスが踊った後、会場に向かって手を振って終わるというエンディングの演出があった。オーブマシナリの研究員、凝りすぎだろう…。目の下のクマは消えていないが、イベントの終了後、晴れやかな顔を見せてくれる。
そういえば、会場の後ろの方では、オーブマシナリの社長さんが小躍りしている。オーブマシナリは、今回の発表で新たな製品が生まれたことになる。ライセンス費だけで経営が上向くことになるんじゃないだろうか。
一仕事を終えた後、エバーヴェイルでは内輪のクリスマスパーティが開かれた。
俺が5人にマナと南さんを加えたパーティだ。ジェシーの料理が並び、今度はメルが小躍りしたのだった。
一家に一台!




