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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第4章 宿の主人になった日

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第19話 東京ビックダンジョン温泉と打ち上げ

ジェシーの料理回です。

 東京ビックダンジョンの30層に新たな宿ができた。そう、ジェシーのスキルで作った安全地帯だ。30層は温泉が湧くエリアで、大型の猿のようなモンスターが主に出現するBランクかCランク向けのエリアとなっている。

 そして、今回、そのモンスターがいる一角を安全地帯としており、温泉を1つ建物に取り込み、温泉宿と化してしまった。


「本当に、ありえないっす。時代が変わった瞬間に立ち会ってるんですよ。先輩!」


 大和の男性メンバーが真っ赤な顔をしてビールを飲む。ただ酒と聞いてから飲み続けている。


「ちょっと、酔っぱらいすぎだぞ」


 片方の男性メンバーがたしなめる。


 

 現状、ダンジョン内での私有地というものは存在しない。ギルドとの交渉によって土地を使わせてもらう事は可能になっているが、あくまで借地だ。通常は建物を建てたところでモンスターによって簡単に壊されるが関の山ということもあり、誰も継続的に使用するような建物は建てない。その注意喚起もあり、原則ギルド側が認めていないという話だ。もちろん、世界には防衛網を敷いて拠点を構築するというところもあるのだが、リポップ問題というのが存在する。リポップとは、モンスターを倒すと一定時間経った後に再びそのエリアのどこかに現れるという現象のことを指す。つまり、塀を立てて安全地帯を作ったと思っても、リポップが発生すれば塀の中にモンスターが現れることがあるのだ。そうすれば元の黙阿弥、最初からモンスターの駆除のやり直しだ。

 それでも世界には機械的にリポップしたモンスターを処理するような施設もあるというので世界は広い。


「上で休んできたらどうだ。部屋には布団もあるぞ」


 ジェシーに言われると、男性メンバーは素直に頷く。


「ジェシーの兄貴、ほんとーに、俺感動してるっす。じゃあ、ひと眠りさせてもらいます」


 いつも間にか兄貴になっていたのかは不明だが、えらく懐かれているジェシーだった。


「じゃあ、俺も先に休みます」

 そういって男性メンバー2人は先に部屋に上がっていった。

「あぁ、おやすみ。ところで、そろそろみどりも食べるといい。今朝仕入れたタコで作ったカルパッチョだ。バーニャカウダもあるぞ」

 いつの間にか給仕側としてエプロンをつけてキッチン内で手伝いをしていたみどりに座るように言うジェシー。


「いえ、でも、ジェシーさんも…」

「いや、おれも食べているさ。ほら、乾杯」


 ジェシーも料理を摘まんで、グラスを飲み干す。でも酔っぱらう様子はなく、次々と料理が皆の前に出される。ジェシーの腕前は確かなようで、フレイヤはワインに合う肉料理を味わいながら食べているし、メルは煮込み系の料理とバゲットを1本平らげ、今はバーニャカウダの生野菜をかじりながら、次に食べるものを考えているところだ。


「はい、では、いただきますね」


 そして、みどりも手を合わせて、食事をとり始めた。ジェシーの作った食事を口にする。


「美味しい、ジェシーさん、ほんとに美味しいです」


 みどりの反応にジェシーは得意げだ。



 メルがリンゴジュースをコクコクと飲むと、ジェシーに聞く。


「食材の残りは大丈夫なの?」


 ジェシーはキッチンの奥を指し示す。


「あぁ。魔石式の冷蔵庫ごと持ってきているからな。それに、食料品は、ダンジョンガイダンスの試作機を通じて手に入れる予定だ。ダンジョンガイダンスの試作機は明日設置する」


 宿の受付のとなりに置くことになるだろう。ちょうどいいスペースが空いている。


「それなら安心なの。おかわりなの」


 先ほどの質問はメルがいっぱい食べてしまうから気を遣っての発言だったらしい。


「メルちゃん、良かったね。あ、あたしもおかわり下さい」


 マナもメルの隣で食が進んでいるようだ。メルに合わせて食べると体重が気になるとボヤいていたのにも関わらず、ジェシーの料理がおいしくて食べ過ぎているのだろう。


「ああ、いっぱい食べなさい。おっと、みどりのグラスも空いているな」


 そういうと、みどりが好きだと言っていたリンゴ酒をグラスに注ぐ。


「ありがとうございます! いただきます!」


 みどりがぐいっと飲み干してしまうと、ジェシーが苦笑している。


「あわてないで。今日は開店祝いだ。ゆっくり楽しもうじゃないか」


 ジェシーがゆっくり楽しもうとは言ったが、この階層に着いたのが23時近く。すでに夜中の2時を回っており、早々に解散していった。




 翌日、遅めの朝食を皆でとり、今後の話をした。


「まずはダンジョンガイダンスを設置するから、男性陣、協力してくれ」


 ジェシーの依頼に「もちろんです」と答える大和の男性メンバーたち。


「私もやります!」


 みどりが答えるので、ジェシーが実験に付き合って欲しいと言うと、二つ返事で担当が決まる。


「あたしたちはどうしたらいいですか? 周辺の探索?」


 マナがジェシーに聞く。


「あぁ、フレイヤ、メル、マナで周辺の探索をしてくれ。風呂も1個だけじゃなくて2個ある方が便利だからな。良い場所が無いか見つけてくれ」

「良いですね! あ、せっかくだから配信しちゃいましょー。ガームドさんからも問題ないと言われてますし」

「メルもいくの。温泉は好きなの」


 そういうわけで、二手に分かれての行動となった。

 久々のエバーヴェイルちゃねるの配信ということで、配信内容の計画を立てるとかで、マナがフレイヤとメルを引き連れて部屋に戻っていった。


 その間にジェシーはマジックバッグから取り出した電話ボックスサイズのダンジョンガイダンスを配置する。


「おっきい」


 そう、ダンジョンガイダンスは通常30センチメートルくらいのドローンだが、これは据え置き型になっている。


「通信部分と入力部をつなぐ装置がでかいらしい。詳しくは知らないが」


 そして、電源を入れてみると、鈍い音がして装置が稼働し始める。魔石が動力源となっているが、電力変換による動作のため、装置の大半は電子機器となっている。


「そろそろ時間だな」

『聞こえますか? こちら南です』


 東京ビックダンジョンの事務局に備え付けてあるダンジョンガイダンス試作機の方に南さんが待機しているのだ。


「ああ、聞こえる」


 そこからはこちらでの安全地帯の構築などの共有を行って、実験を開始することとなった。


『では、購入画面から選んでみてください。品数はすくないですけど、缶ビールとリンゴを選んでもらってもいいですか?』

「じゃあ、私が」


 みどりが操作画面からその品を選ぶ。すると、ダンジョンガイダンス前にポンと缶ビール1本とリンゴ1個が現れる。


「これはすごいですね」


 みどりの言葉に皆が同意する中、音割れが激しい通信が入る。名古屋ギルド側からの通信だ。


『歴史的な瞬間だよ!!』


 ガームド局長の声だ。


『30層まで物質を送ることに成功したわけだ。すばらしい。ハヤト先生! うまくいきましたよ!』


 その後13種類の食品や物品を送ってもらうことに成功し、30層からは道中で入手した魔石を送るということが確認できた。


「ここを拠点にすれば、前線までの距離が縮まりますね。物資も手に入るし、ドロップ品も送れるし、増田さんが頭を下げるわけだ」

 男性メンバーの感想はもっともで、往復することを考えると、この拠点の有用性は跳ね上がったと言える。


『課題は結構魔石が必要なところですが、前線ならば魔石の入手も可能ですし、大きな問題はないですね』


 南はこの後、実験に数日付き合うことになっているが、魔装開発局のメンバーと東京ギルド側のメンバーが合同で実証実験を行っていくことになっている。ジェシーのこの宿も東京ギルドから派遣されるメンバーによっての運用が決まっている。

 その交代までの1週間は、ジェシーとみどり、男性メンバーは残ることになる。


「いやぁ。なんか温泉もあって、長期連休もらっている感覚ですよ」


 男性メンバーたちは、楽しそうだ。昨日のビールがよほど美味かったらしい。


「ジェシーさん。私も頑張ります!」


 というわけで、試行期間ではあるが、東京ビックダンジョン温泉宿が始まったのだった。

料理ができる男性はモテるらしいです。

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― 新着の感想 ―
料理ができる男性がモテるわけではない、モテるから女性に料理を作る機会が出来るんです。 順番が違うんですよね。
(他者が作った料理に小煩くなく、こだわりを押し付けず、聞いてもいないうんちくを語り聞かせない)料理が出来る人はモテる。
>料理ができる男性はモテるらしいです。  それはデマだ。  料理ができる“イケメンは”もっとモテる。だ(恨みがたっぷり込められた瞳)
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