第15話 ひよりとオーブマシナリ
小次郎たちが戦っている間の話になります。
俺は、俺3号。主に隼人ひよりを担当している俺だ。最近、フレイヤ、メルだけじゃなく、俺1号がコージというスタッフとしてダンジョンに潜り始めた。今も大和からの応援要請でダンジョンに潜っているところだ。
そんな中、俺はオーブマシナリを南さんと一緒に訪問している。ひより自身が未成年だと知っている南さんがついてきてくれたわけだが、未成年女子の扱いは、くすぐったい感じだ。ところで、オーブマシナリの社長さんは笹木の姿がじいさんになっていることについて一切聞いてこない。きっとこちらの事情を察してのことだろう。さすが社長になる人は懐が深い。
そして、俺は表向きの姿としてひより女史の姿で来ている。南さんと並ぶと、こちらの方が上司感がある。
「つきましたね。この時間はタクシーだと混みますね」
南さんが予想をつけて早めに出発してくれたおかげで、オーブマシナリには時間通りに着いた。
ちなみにオーブマシナリがある大府市は名古屋からも電車の乗り換え無しに行ける利便性の高い町でベッドタウンとして知られており、ダンジョン向けの製造業なんかも盛んだ。中でもオーブマシナリは、元々は車などの部品を作る工場だったが、名古屋ダンジョン出現後に探索者向けの装備の製造・販売を手がけるようになった。
しかし、魔道具関連はギルド本部のもつ魔装開発局や海外勢に押されて、近年オーブマシナリは赤字続きだった。
しかし、今年は違った。エバーヴェイルの資金が入ったおかげで開発資金が潤沢だし、いくつか開発に使えそうな技術を渡したのだ。
「これはこれは、ハヤト先生に南さん、ようこそお越しくださいました」
社長と専務が門で待機していた。ガームド局長のせいで、ひよりはハヤト先生扱いだ。南さんによるとガームド局長が自ら挨拶に来たらしい。まめな人だなと思う。
そして、今回通されたのは社長室ではなく、開発部のフロアだった。そこからは社長の前振りもなく、早々に試作機の紹介がはじまった。
研究員が紹介してくれる。小次郎と同い年くらいだろうか、知らない顔だ。
「こ、このたびは、し、しん開発の」
なんか緊張しているようなので、ニコリと笑いかけると更に赤い顔になる。いかん、今は、ひよりだった。余計に噛み始める男性。
「あちゃらしい、ユーザーインターフェーシュの提案になりまふ」
「大丈夫なのかね、彼は?」
社長さんが慌てており、近くにいる上司みたいな人が指示を出す。
「君、パソコンに向かって話しなさい」
そこからは安定して説明が進む。
「今回試作したのが、ダンジョンガイダンスに映像を重ね合わせ、さらに音声でのやりとりも強化しました」
今も映像出力はあるし、音声でのやりとりも可能だけど何が違うんだろう。画面が大きくなったとかだろうか。
「では、実際に見てください」
そこから出てきたのは異次元のダンジョンガイダンスだった。パタパタと羽を使い空を飛ぶ妖精だった。二頭身なのが日本製な感じだ。姿は、どこかで見たような?
技術的なことはペルソナに任せることにしているため、さっさとペルソナを起動する。
カタコト感が多少残っているが、流暢に話し出す妖精。
「ワタシはダンジョンガイダンスH2モデルです。ダンジョン内の案内など皆様のサポートを行います」
この声は聞いたことがある。
「これは私ですか?」
そう、ひよりの声だ。
「あの、はい。ハヤト先生をサンプルに使わせていただきました」
研究員がさくっと答えるが、その答えに社長が慌てる。
「え、そんな勝手なことを!?君は知っていたのかね?」
問われた専務が首を横に振る。
「申し訳ございません。この姿と声は試作機ということで封印しますので、何卒ご容赦ください」
社長のお辞儀の角度が体に悪いレベルまで達している。これは、面白い。
「もしかして、H2は、ハヤトひよりの頭文字ですか?」
やらかしたとようやく気付いたのか、青い顔をした研究員が肯定する。
「これは面白いですね。味気ないダンジョンガイダンスを親しみやすくする。軽い相談もできたりするのも良さそうです」
社長が恐る恐るという様子でこちらを見る。
「怒ってませんか?」
「怒るなんてとんでもない。先進的で素晴らしいと思いました。
ところでこの映像は魔法ですよね。幻影系と見受けられますが、こちらの渡した機械による魔法行使を可能とするノウハウを活用してますよね」
そんな質問を投げると、さっきまでパソコンに向かってプレゼンしていた研究員がこちらに向かうと饒舌に話し始める。もらったノウハウからどうシステムを構築したかなど、早口で捲し立ててくる。
よくわからないと困惑する中の人(俺)を他所目に、ひよりのペルソナが次の質問を始める。
「魔法の入力は外部に持たせることで、任意の表示したい映像情報を読み込ませることができますよね。そうすれば、切り替えも簡単にできますよね? もしかして、もう既に試していますか?」
研究員が「実は」と言いながらパソコンを操作する。すると、なんと妖精がフレイヤの姿に変わる。チューブトップにフレアスカートに小さなマントを着けている。周囲にフレイムビットを浮かべているのが細かくて面白い。なんか、二頭身なんだけど、スタイルが良いのも描き分けができている。
「まだありますか?」
そして、研究員が映像を切り替える。次はメルだった。杖を持っていて、ひらひらとしたワンピースを着て、回復魔法を使っている姿を映し出している。
「いくつか、表情も変えられます」
支援魔法をぶわーっと使っている姿、モンスターを涙目で叩く姿、ご飯をおいしそうに食べている姿、どれだけ作ったの…。
「メルは色々あるんですね」
ふとそんな言葉を漏らしてしまったが、即座に否定された。
「そんなことはありません! H2モデルが最上級で、もっとエフェクトもモーションも豊富です! 服のバリエーションも4つに増やしました」
そこからは、ひよりの日常みたいなモーションが披露された。こいつ、ひよりの事、好きすぎないか?
「これを君がすべて作ったわけじゃないんだろう?」
社長がそんなことを訊ねる。確かに彼がすべて作ったというにはボリュームがありすぎる。チームで悪乗りした結果だろう。
「いえ、すべて僕が作りました。ハヤト先生のファンなんで…」
またPCに顔を向けてしまうので、どんな顔で言ったのかは分からないが、ガームド局長に引き続き、ひよりのファンはかなりのオタクだなぁと思う。そのガームド局長にこの話をしてみたら、それこそ、すぐに売り出そうとか言いかねない。いや、ないか。あまりにも実用性という点ではお金をかけるところではない気がする。日本では受けそうな気もするが、国際組織としてはどう思うだろう。
しかし、翌週、突然帰ってきたガームド局長がそれを見た途端、魔装開発局の人員も動員してリリースまで1か月でやることになってしまった。オーブマシナリの研究員は、急遽出向することになったらしい。
死人が出ないようにメルに待機してもらうか…。
オーブマシナリが世界に進出する一歩手前となります。