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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第4章 宿の主人になった日
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第14話 小次郎と謎のコック

最強のコックが参加しました。

 今、天白支部長と大和の代表の増田さんが目の前にいる。後ろには、笹木博士姿の俺4号が佇む。


「あなたがジェシー・ラバックさんですね」

「そうだ」


 そして、俺は、俺1号。今は、新しいアバターであるジェシー・ラバックに変身しており、名古屋ギルドの支部長室にいる。ハイランドスクエアにある名古屋ギルドは天井が高めの作りなのだが、190センチメートルを越えるジェシーにとっては若干低く感じる。



 何故こんな状況になったかを説明すると…。

 昨日、22層攻略の合同作戦が完了した。

 作戦終了後は、大和クランの一部がドロップ品の回収などを行うために現地に残り、その他はダンジョンから帰還していた。大和からの報酬の話は後日となり、まずは休養だな…と思っていたが、自分の撒いた種を回収しなくてはならなくなった。そう、ジェシー・ラバックのことだ。

 帰還早々に、大和クランから名古屋ギルドに向けて要請があった。それはもちろん、後衛部隊を救出した謎のコックに連絡を取りたいという内容だ。通常ならば、すぐにダンジョンへの立ち入り情報なども含めて連絡が取れるはずが、そんな男性はギルドにも登録もされていないし、ダンジョンへの立ち入り情報も無い。まぁ、そりゃそうだ。

 そこから間髪入れず南さん経由で俺に連絡があった。何か知っていますよね?というニュアンスの質問だった。色々と人間離れした事をやらかしてきたからか、真っ先に疑われるのは仕方がない。これは、中途半端に胡麻化さずに、開き直るべきだなと思った。そこで、知っていると答えたわけだ。そこからは適当な話をでっち上げた。ジェシーを新メンバーに加入しようとして呼び寄せた矢先にダンジョンで緊急事態が起こった。そのため、せっかちな彼はギルド登録もせずに助けに向かってしまったという…。嘘はついていない。そう、嘘だけはついていない。

 しかし、そんないい加減な内容に関わらず南さんからは特に追求は無かった。ジェシーが来たならば、ギルド登録もクラン加入も行いますという話だけだった。


 ちなみに俺4号が変身した笹木博士が立ち会ってくれており、口裏を合わせる算段になっている。情報共有は、ドッペルゲンガーを解除するだけで終わるのでとても楽だ。


「大和の代表の増田です。今回は仲間の救出ありがとうございました」


 増田さんが握手を求めてくる。


「いや。当然のことをしたまでだ。大したことはしていない」


 自分ながらカッコいい。渋い声に、整っていながら凄みのある顔。引き締まった肉体。


「そんなことはありませんよ。聞いた話ですが、オークやゴーレムを一瞬で片づけた手並みはSランクに及ぶ力量ですし、モンスターの不可侵領域を作り出すスキルは唯一無二です。エバーヴェイルさんに入ってなければ、大和にお誘いしたんですが」


 俺の背後に立つ笹木博士をちらっと見る。


「ほっほっほ」


 俺4号、笑ってやりすごす技を使いこなしてやがる。


「エバーヴェイルの方々は一騎当千か、高い専門性を持っていますね。本当に尊敬します」


 そう言う増田さんも、黒ドラに最後とどめを刺したらしいし、日本を代表する使い手に間違いない。フレイヤに聞いた話だと、黒ドラと赤ドラは小物のモンスターを呼び寄せ続けて抵抗を続けていたが、後衛部隊救出の報告の後、一気に攻勢に出たらしい。フレイヤにも強めの攻撃が許されて、ブレスを吐こうとする口にメルトを山ほど放り込んだらしい。そして、暴れる黒ドラと赤ドラに増田さんと牟田さんのコンビが何やら必殺技を食らわせていたそうだ。俺が宿で感じた振動は、その時の衝撃波だったらしい。


 その時、部屋がノックされる。ドアが開くと懐かしい人がいた。


「失礼しますね。魔装開発局のガームドです! おお、あなたがジェシー・ラバックさんですね。日本語でよかったですか?」

「ああ、大丈夫だ。問題ない」


 軽く握手を交わす。しかし、声量がでかい。何か思いついたのかもしれないな、興奮ぎみだ。


「ガームド局長、いつお帰りに? 来週のはずじゃなかったですか?」


 天白さんが驚いている。


「さっきですよ。鉱山が見つかって、ハヤト先生が気になるアイテムが見つかりそうって聞いたら、その日のうちに飛行機に飛び乗ってましたよ!」


 いつの間に、ひよりはガームドさんとやり取りしてたんだ?


「そして、攻略の状況なども聞かせていただいて、ひらめいたんですよ。ちょうど大和とエバーヴェイルの責任者がいる中ですので、その提案があってきました」


 皆、キョトンとしている。もちろん、俺も。


「ほっほっほ。なんですかな?」


 俺4号が聞き返す。



「ジェシーさんへのお願いは、作られた安全地帯の使用の許可をいただきたいということです。あなたの作ったという安全地帯は、試作型ダンジョンガイダンスの設置場所に最適だと考えています。どうしても、電話ボックスよりも小さくできていない現在のダンジョンガイダンスの行商人モードですが、あの場所なら安全に試験ができます。

 そして、大和の方々には、鉱石の輸送なんかに試作型ダンジョンガイダンスを使ってもらいたいんです」


 なるほどね。ダンジョン内で設置型の試作機を置くには最適だな。俺がOKを出すと、増田さんも渡りに船とばかりに承諾した。


「ところで、ダンジョンに出現した宿はいつまで残っていますか?」


 そう聞かれたのでペルソナを起動する。


「俺がスキルを解除するまでだ。それまでは独立して存在し続ける。中も自由につかってくれ。必要なら場所も変えられるし、いくつも出せる」


 ガームドさんが驚きの表情で感謝を述べるが、そこに増田さんが割って入ってくる。

「あの、もしかして、別のダンジョンにも作ることはできますか?」

「ああ、どこでも可能だ」


 俺が答えると考え込む増田さん。


「すみません。今回の依頼といい図々しい話になりますが、東京ビックダンジョンの30階層に宿を建ててもらえませんか?」


 そこは大和クランが攻略を続けている東京都の江東区にある展示場に出現したダンジョンだ。日本のトップクランがずっと攻略を続けているおかげで、世界でも有数の深層攻略中のダンジョンとなっている。ちなみに、50階層くらいまで攻めているんじゃなかったかな?


「30階層というと、29層の巨大な沼地エリアを抜けた後にある岩石地帯ですね」


 牟田さんは行ったことがあるんだろう。


「そうです。29層は何度も出入りするには、行き来が困難なんです。30階層にキャンプを張ることも可能なんですが、モンスターの数も多く、不寝番をつけなくてはならなくて遠征時の難所なんです」


 ガームドさんがポンと手をうつ。すごい日本的な仕草だな。


「そこにも試作ダンジョンガイダンスを置いておけば、いちいち戻らなくても物資の補給ができますよ! 東京ビックダンジョンは東京ギルドの管轄なので、源次郎にお願いすれば準備もできますよ」


 源次郎って誰だっけ。あー、確か、小笠原 源次郎、東京ギルドのトップ。つまり、日本のギルドのトップじゃないか。さすがガームドさん、日本のトップに軽くお願いだ。


「いかがですか?」


 増田さんが再度聞いてくる。


「ほっほっほ、いいんじゃないかのう。ダンジョン攻略に役立つものじゃし、ほら、ジェシーも東京観光がしたいと言っておっただろう」


 俺4号の押しが強い。ダンジョン攻略には確かに役に立つし、そこは問題ない。あまり仕事していない俺への反発心とかじゃないよな?4号よ…。


「岩石地帯には珍しく温泉もありますよね」


 そんな牟田さんの補足に気持ちが決まる。


「あぁ、いいだろう」



 俺が最高の宿を建ててやろうじゃないか!


大塚さんの声が頭から離れません。

とても心地がいいです。

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― 新着の感想 ―
ふと思ったけど、分身と本体、全員でケイシー・ラ◯バック……いやジェシー・ラバックに変身…………うーん、敵にとって悪夢だわこれ。
1号は悪くないんや……交代制にしようって案を蹴られたから仕方なく後方待機してただけなんや……
1号「じゃあ4号ジェシーな私エステ行くから」 4号「ふざけんな!ジェシー化!」 ジェシー同士の殴り合いになりました。 となりそうなw
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