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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第4章 宿の主人になった日
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第13話 小次郎と新アバター

いよいよアバターが判明します。

 俺が穴の下に着くと、さっそく血痕らしきものが多数見つかった。大和の後衛部隊のものだろうか。魔石も散らばっていて戦闘の跡だとも分かる。

耳をすませると、奥で戦闘の音が聞こえる。女性の声が聞こえる。まだ遠いようだが、おおよその方向は掴んだと思う。そこからは、新アバターの出番だ。


「アバター、ジェシー・ラバック」


 フレイヤに比べると背が伸びるのを感じる。確か190cmはあるんじゃないだろうか。触ってみると、がっしりとした手足、胸板、小次郎よりもごつい体格の男性だ。


「あー、あー、渋い声だ」


 そう、俺は今、ジェシー・ラバック。そう、コックだ。

 彼は、俺の小説で主人公を救ってくれるお助けキャラで、到達困難なダンジョンの奥深くで宿をやっていて、主人公を何度も匿っている。小説を書いていた時は、魔王城近くに住んでいる村人とかって滅茶苦茶強いんじゃないか?とか、そんなことを考えて登場させたのを覚えている。

 そして、そんな最強といえば彼だろうとモデルにしたのが俺が好きな洋画の主人公だ。彼は寡黙なコックだ。しかし、人と少し違うのが、ちょっと強くて1人で豪華客船に乗り込んできたテロリストなんかも殲滅する、そんなコックだ。

 ステータスを確認すると、調理Lv.5、マーシャルアーツ、テリトリーがある。他は小次郎で取得したスキルだな。


◇ジェシー・ラバック(アバタースロット4)

 レベル300

 HP:8920 /8920

 MP:2320 /2320

 称号:最強の料理人

 スキル:調理Lv.5

     マーシャルアーツ

     テリトリー

     ストーンスキン

     レビテート

     エイジファントム

     回復強化

     防御強化

     体術

     変装

     隠密

     危険察知


 

 俺は闇の中にたたずむ。スキルの使い方は、俺の場合は慣れるより習えだ。ペルソナを起動すると、さっそくテリトリーのスキルを使う。暗闇ではっきりと見えないのに、周辺の状況が手に取るようにわかる。


「まってろ。今行く」


 そう一言いうと、足音をたてずに暗闇の中を滑るように駆けていく。あれ、隠密使ってないよね?

 目の前に黒いオークの姿が確認できる。オークが気づく前に背後に忍び寄ると、首をくいっと捻る。オークは崩れ落ちるように倒れながら消滅していく。魔石がこぼれ落ちるが、気にしている暇はない。

 同じく近くにオークが多数いることが分かる。オークが気づく前に、何匹も屠っていく。そして、ようやく後衛部隊のところまで辿り着いたようだ。坑道の奥に灯りが見え、小型のゴーレムが何匹も蠢いている。何度も何かに迫る様子はボーリングの玉のようだ。


「障壁が破られるわ! 今のうちに逃げて!」


 その声を聞いて俺はグッと脚に力を込める。バリンというガラスの割れるような音と悲鳴の中に飛び込んだ。誰かが灯していた魔法の灯りが明滅して視界が悪い。

 その中にいるゴーレムを拳で叩き割る。武器を振おうとしていたオークの関節を逆向きにし、持っている武器で頭を跳ね飛ばす。そしてまた、襲い掛かろうとしていたゴーレムを足で砕く。すべて倒し終えると、そこには無闇矢鱈に武器を振り回している者がいる。落ち着かせようと持っていたライターに火をつけるが、その杖が俺に振り下ろされる。

 しかし、俺はその杖を素早く掴む。


「おいおい。おれは味方だ。お嬢さん」


 杖を振るっていたのは魔法使いの女性だったようだ。周囲にモンスターがいなくなっていることに気づいたのだろう。


「ごめんなさい。オークとゴーレムは?」

「あぁ、あいつらは料理してやったよ。あいつらに味わわせたのは土の味だがな」


 コックジョークでたー!


「あなたはどなた? あ、今はそんなことより、助けてください。みんなを奥に逃がしたんです」


 女性は坑道の奥を指す。


「勇敢なお嬢さん。おれはただのコックだが、手助けするぜ」

「コック?」


 わからないよなー。同じ状況なら俺もきっとわからないだろう。


「いくぞ。他の者達も助けよう」

「はい!」


 そこから坑道を進むと、脇道からもオークが現れる。魔法使いの女性は魔力をかなり消耗したのか、小さな光を出すのが精一杯のようだ。だが、足取りはしっかりとしており、俺に付いてくる。そして、俺がオークの首を逆に向けるのを見るたびに、小さく悲鳴をあげる。



 何匹からオークを倒していくとかなり広い空間に出た。そこには息も絶え絶えという後衛部隊の者達が倒れ込んでいた。追従してきたオークを倒したのか、地面に何個かの魔石が散らばっている。


「おい、大丈夫か」


 倒れこんでいる男性に聞く。


「なんとか追いかけてきたオークは倒したんですが、魔力切れで動けなくなってしまいました」


 魔力切れはきついよなぁ。フレイヤで体験済だ。


「…6、7、8。全員います。よかったー」


 さっきの女性が安堵の声をあげる。しかし、さらにモンスターたちの気配を感じる。これは、危険察知のスキルが働いているようだ。


「まだお客さんは来るようだな。よし、ここに店を広げるか」


 テリトリーのスキルを使い始める。周辺の状況を把握、そこに置ける建物をシミュレート。そして、一瞬のうちに建物が現れる。建つという感じではない。現れるだ。

 その建物は、レンガ造りの西洋風の建物で近代的ではない。どちらかというと古いヨーロッパの街並みに似合いそうな建物だ。


「この中に居れば安全だ。オークも入れない」


 

 目の前に現れた建物に混乱する後衛部隊の人たち。わかる。俺も混乱してる。


「え? いきなり建物が出たんですけど」

「一体、なんのスキルなんだ。もしかして、マジックバッグ?」

「混乱するのは分かるが、入ってくれないか。団体さんがやってくるから相手が必要なんだ」


 そう、ぞろぞろとオークとゴーレムが入り込んでくる。しかし、宿の敷地からは入れないようで、金網も何もないところで立ち往生している。まるで、バリアでも張っているかのようだ。



「さぁ、入った入った。中でくつろいでてくれ。5分ほど相手をしてくる」


 中に入ったのを確認すると、俺は建物に立てかけてあったスコップを握る。


「さぁ、良い肥料になってくれるか?」


 ニヒルな笑いを浮かべたジェシーは、そこから嵐のようにオークを翻弄し、スコップの餌食にしていった。ゴーレムはヒザや肘で軽く砕け散る。

 


 そして、本当に5分後には、綺麗にモンスターが消えていた。保護した人達のところに戻ると、治療を進めていた。回復魔法ではなく、手当といったところだ。


「大丈夫か?」


 頷くもの手をあげるもの感謝を述べるものなど様々だが、皆一様に疲れ切っている。


「命の危険があるような人はいません。ありがとうございました。助かりました。あの、お名前を教えてください」

「ジェシー・ラバック。コックで、この宿の主人だな。ようこそダンジョンの宿へ。君たちが最初の客だ」


 そういう設定なんだ。あまり、考え込まないでほしい。


「分かりました。秘密なんですね」


 わかってないし、秘密でもないんだけど。


「ジェシーさん、ありがとうございます。あの、連絡先を教えてください。ぜひ、お礼がしたくって…クランも個人的にも…」


 いや、連絡先か…このキャラ、まだスマホも作ってないし、連絡先って無い。なんにも無い。


「そんなこと気にするな。ここで、ゆっくりしていくんだな」


 そういえば、この建物って崩落でつぶれたりしないよな…。


「この宿はスキルで守られているからな。安心して休め。助けを呼んでおく」


 そんなことを補足してくれるし、本当にペルソナは優秀だ。ペルソナが自信満々だから、大丈夫なんだろう。俺は宿の外にでると、同行させていたダンジョンガイダンスに話しかける。



『こちら、1号…ジェシー・ラバック。後衛部隊は保護した。崩落の危険もない。どうぞ』


 相手はフレイヤについているダンジョンガイダンスだ。その途端、鈍い音が10回ほど続き、一転して静寂に包まれる。そして、ダンジョンガイダンスからフレイヤの声が聞こえる。


『こちら、フレイヤ。階層ボスを倒せたわ。準備が整い次第、そちらに向かうわ。どうぞ』

「亀裂から歩いて1キロメートルくらいだ。魔石が目印だ。おれは先に脱出する。どうぞ」


 俺は宿の中に戻り、皆に声をかける。


「すこし用事ができた。迎えを呼んだから、迎えが来るまで寛いでてくれ。この宿は安全だから決して出るな」


 そう言うと俺は闇の中をひた走り鉱山の外へと向かったのだった。


好きなんです。どうしても出したかったんです。

沈黙シリーズ結構みてました。コックがめちゃめちゃ強い。すき。

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― 新着の感想 ―
 あかん……キッチンで負けた事が無い、セ◯ールアクション使いのお方だ……。 これは両手が三角位置でフラフラしますわ。
セ、セ○ール!? 日本語喋ると大塚○夫さんみたいな声してるんだろうなぁw
もう男性キャラは出ないと思っていたので歓喜しました!! そのうちジェイソン・ステイサム風のポーターとかが出てくるのを期待してしまう…!
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