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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
8/22

第8話 フレイヤと初配信

いよいよ、ダンジョン配信を開始しました。

どんどん視聴者が増えていく様を楽しんでいただければと思います。

 二日後、配信登録や機材のリースなどもネットで済ませ、フレイヤ姿の俺は愛美ちゃんと一緒にダンジョンの中にいた。


「これが配信用のダンジョンガイダンスなんですね」


ラグビーボールくらいのドローンのような装置が最新式のダンジョンガイダンスだ。


「そうよ。一日10万円だから、それ以上稼がないといけないわ」


 前回みたいにマーダービーを一網打尽にできれば元が取れるわけだから、あまり心配はしていない。


「それよりも、この服、魔女っぽくて素敵ね」


 俺は自分のつけている短めの黒マント、赤のクロップドTシャツに赤のプリーツスカートに黒いタイツ、そして短めの黒ブーツを履いている。スカートが短いのかタイツが短いのか、太ももの一部が露出している。これらは愛美ちゃんがコーディネートしてくれたものだ。俺の戦い方ならば、多少見栄えに振っても対応できるだろうということで用意してくれた。


「魔女コーデです。フレイヤさんって炎の魔法を使うから、印象づけるのに赤がやっぱりいいかなって。髪色にも合いますし」


 俺の装備選びに全力投球したためか、愛美ちゃん自身の装備は変わっていない。


「あたしも剣を磨いてきました」


 え、そこ?


「じゃあ、配信を始めましょうか。台本通りにね」


 台本には、フレイヤ、マナと書いてある。フレイヤはもちろん俺で、マナは愛美ちゃんだ。愛美ちゃんはほぼ本名。警戒心がないな。まぁ、そういうわけで、これからは愛美ちゃんをマナと呼ぶことにした。

 え、俺? 存在そのものが偽物だからいいんだよ。





「配信を開始」


 ダンジョンガイダンスに声をかける。カメラが俺を画角におさめる。


「初めまして! フレイヤとマナでお送りするダンジョン探検にようこそー」


 俺が笑顔全開でパチパチと手を叩く。


「フレイヤさ、、フレイヤ、今日は名古屋ダンジョンにやってきたけど、何を討伐する予定なの?」


 お互いに呼び捨てを強要したが、慣れるまではかかるかもしれない。マナの顔が真っ赤だ。


「今日は、名古屋ダンジョン3層のマーダービーを一掃してから、4層のマーダースピアを討伐するわ」

「え! 大丈夫かな。マーダービーは群れだし、マーダースピアは素早くて攻撃力が高いよ」


 若干棒読みなマナだが、可愛いからいいだろう。ちなみに接続数やコメントがダンジョンガイダンスの前に浮かんでいる。接続数10件でコメントはまだ無い。


「大丈夫よ。私の魔法で一網打尽よ」


 そして、初のコメントが来る。



 ◆時計台の先生: はじめまして。突然ですが、結婚してもらっていいですか?

 ◆ろくろ: フレイヤさん、超美人、どこの国のひと? ハーフ? マナちゃんもかわいいね


 

 初のコメントがプロポーズだったわけだが、すぐにコメントが流れ出し、コメントが消えていく。 ここは出会い厨しかいないのかと思いきや。最初からマーダービーは無謀だとかいろいろとアドバイスをくれる人たちもいる。


「マーダービーは大丈夫よ。先日、たくさん倒したわ」


 それにコメントが帰ってくる。マーダービーは単独では弱い方だから勘違いしてはいけないとか、いろいろと…。


──視聴者数:51 /スパチャ総額:¥0



「フレイヤ、マーダービーの池に付いたわ」


 数日前に一掃したはずだが、かなりの数が飛び交っている。もう、飛ぶ魔石にしか見えない。よだれが出る。


 ◆牛の足:あれはいけない。高ランクパーティでも無理をすると崩壊するんだ。

 ◆AAk2:初心者殺しっていわれてるからなぁ。死ぬよ?



 ペルソナを起動してみる。すると、フレイムマジックをかけ始め、体の周囲に陽炎がたち始める。フレイムストームを使うと思いきや、フレイムビットの活用を思いつく。

 思った通りだった。ペルソナは、最適なスキル運用もサポートしてくれるのだ。


「では、私の魔法を紹介するわ。フレイムビット」


 それは手からこぼれ出るように角砂糖のような光の粒がこぼれ落ちていく。そして、フレイヤの周りをゆっくりを漂う。フレイムビットがマーダービーの1体につき1体をぶつけるようなイメージが成り立つ。1つ1つの軌道を制御しようというのだから、フレイヤの実力は相当高いのが分かる。


 ◆牛の足:なんだ、火系の魔法にこんなのは見たことがない

 ◆AAk2:!?


 コメント欄が感嘆と魔法の考察で埋まる。


「さぁ、逝きなさい」


  フレイムビットが解き放たれると、羽音を立ててマーダービーが一斉に激しく逃げ惑う。ファイアストームが巨大な火の渦とすると、こちらははじける花火のような様相だ。その音と光がおさまると、まさに火に飛び込んだ羽虫のごとくマーダービーが魔石となって池へと落ちていく。



¥3,000 ◆ショータロ王 :すげえええええ(゜∀゜)! あの数なんだ、いったいランク何よ? しらんのだけど(;・∀・)

◆鈴木(仮) :ひええええ(((;゜Д゜)))

◆非表示 :まじかーーΣ( ̄□ ̄;)

◆AAk2:これ初心者じゃないな。


──視聴者数:403/スパチャ総額:¥3,000




「ね? 大丈夫でしょう? フレイヤはすごいんだから。ショータロ王さん、スパチャありがとうございまーす」

「感謝するわ」


 もっと嬉しそうに媚びを売るかと思いきや、フレイヤのペルソナはクールなようだ。しかし、笑顔は忘れない。



◆ショータロ王 :フレイヤちゃん、応援するぜ!(゜∀゜)!

◆非表示 :俺も(^^



 これは、初スパチャももらい、なかなか幸先がいい。俺はサイコキネシスを使い、足元にすべての魔石を集めてしまう。


◆ショータロ王 :おいおい、いまどうやって集めた?(゜Д゜;)

◆牛の足 :念動力系のスキルか?? でも、魔法主体のようだし、魔法系のスキル?

◆ろくろ :魔法使いって言ってたから、魔法使いじゃね?(・∀・)


──視聴者数:831/スパチャ総額:¥3,000


 Mu-tubeの小次郎チャンネルは鳴かず飛ばずだったのに、すでに800人が同時接続をしている。フレイヤの魅力、おそるべし。


「ご想像にお任せするわ。私は炎の魔女、フレイヤ・リネア・ヴィンテル。フレイヤって呼ぶといいわ」



¥10,000 ◆時計台の先生: フレイヤさん、日本の苗字に興味はないですかね? なんなら、私がヴィンテルを名乗ってもいいのですよ。


 またこいつだ。


「時計台の先生? スパチャ感謝するわ。でも、私は探索者になったばかりだから、恋路は眼中にないわ。悪しからず」


──視聴者数:1,498/スパチャ総額:¥13,000


 視聴者数がかなり増えてきている。マナが周辺を警戒しながら、魔石をバッグに詰めてくれた。ずっしりとしているが、何個になったんだろう。なかなかの収穫のようだ。


「フレイヤ。じゃあ、次はお待ちかねの、マーダースピアにいきましょっか。がんばってほしいなーと思った方は、いいねとチャンネル登録おねがいしまーす」


 マナは、よくダンジョン配信を見ているらしく、口上がこなれている。俺も負けていられない。



¥ 1,000 ◆ろくろ :フレイヤちゃん、何歳? 何人? けっこう若いよね。


「あら、スパチャありがとう。歳は二十歳よ。国籍は無くなっちゃったわ。ふふ」


¥ 3,000 ◆ろくろ :まじかー、亡命系なんか。ごめん。これでおいしいもの食ってよ。


「紳士ね。嫌いじゃないわ」


 そんな会話をしつつ、第三層から第四層に向かって歩くと、遠くから視線を感じる。かすかに、「生フレイヤちゃんじゃん」とか聞こえるから、映像を見た探索者が遠巻きに眺めているようだ。邪魔をしないならば、放置でいいだろう。



 第四層の階段も間近というところで、木の上からクモ型のモンスターが落ちてくる。


「ベノムスパイダーです。毒をもってます!」


 前を歩いてくれていたマナが剣でベノムスパイダーを牽制してくれる。レベルアップが影響しているのか、動きが良い。ベノムスパイダーが何かを飛ばそうと身構えたのをサイコキネシスで邪魔すると、マナが何本か足を切り落として、ベノムスパイダーを倒してしまった。


「やった! やりましたよ、フレイヤさん!」


 ぴょんぴょんと文字通り跳ねている愛美ちゃんは、素に戻って喜んでいる。



 ¥ 1,000 ◆近所の帝王 :剣士の子もやるじゃん。

  ◆ろくろ :いつもはフレイヤさん呼びかー。なんかフレイヤちゃん落ち着いてるもんな(・∀・) おねーさまキャラだ。



 第四層は、第三層と同じ森林型のフロアだ。ただ、高い木が多く、そこにマーダースピアが生息している。マーダースピアは、スズメバチの親玉みたいな姿をしていて高いところからの急襲が得意。そのため、索敵が得意でない探索者が多くの命を落としたらしい。

 今では、ダンジョンガイダンスが索敵を補助してくれているため、事故が減ったらしい。ただ、それでもマーダースピアが倒しづらいのは、ヒットアンドアウェイ型の行動と飛行速度だ。

 そのうち、羽音が上空に旋回し始めたのを聞き取った。俺は、周囲にフレイムビットを漂わせる。遅れて、ダンジョンガイダンスが、警告としてランプを点滅させ、危険を知らせてくる。


「マナ、戦闘よ」


 マナが剣を抜き戦闘態勢をとる。マーダースピアが1匹、俺のほうに向かってくる。


「フレイヤさんのほうです!」


 マーダースピアは確かに素早い。ここで実戦で試したいことがあった。フェザーステップによる回避からの攻撃だ。俺はフェザーステップによって軽くなった足取りで、今まさに刺そうとしてきたマーダースピアの攻撃をかわす。バックステップのようになった後、4つのフレイムビットでマーダースピアの羽と胴体を爆ぜさせる。


◆牛の足 :何? 今の? 呼び動作なしに、4メートルくらい飛んだんだけど!!!

◆非表示 :まさか魔法?

¥ 1,000 ◆ろくろ :フレイヤさんだからな!

◆残酷な天津飯 :縮地だな。おれも極めようとしてなんど足首を捻挫したことか

◆時計台の先生:それより、スカートがめくれないという鉄壁防御を嘆くべきじゃないのか。


 マーダースピアを軽くあしらったことが衝撃的だったようだ。いくつかコメントを見逃していたが、戦闘中にもスパチャなどあったようだ。


──視聴者数:3,898/スパチャ総額:¥28,000


「マーダースピアを無事に狩ったわ。みんなのおかげよ。感謝ね」


 にこりとして手を振るとコメント欄が一瞬で流れて過ぎ去っていく。そろそろスパチャしか見えないようになるんだろうか。視聴者数がうなぎ上りになっている。


 マナの方を見ると大き目の魔石を回収して、ガッツポーズをしてくる。今日の配信はここまでかな。結構、疲れが出ている感じがする。


「では、お目当てのマーダースピア討伐の成功というところで、お暇するわ。チャンネル登録がまだの方は絶対に登録しなさいよ?」


 俺は不敵に笑うと、コメント欄がまた流れていく。


「フレイヤさん、魔性の女…」


 マナの呟きが聞こえるが、このまま終了としてしまおう。マナに視線を送ると、それに気づいたのか、


「あ、みなさん、またねー。配信終了」


 こうしてフレイヤとマナの初配信は終了した。



──視聴者数:3,923/スパチャ総額:¥32,200




 意気揚々とダンジョンを出てドロップ品の買取などをしてもらうと、38万円となった。前回よりもマーダービーが少なかったことが影響しているようだ。でも、ちゃんと元が取れたので良しとする。そして、うれしい知らせもあった。


「お二方のランクアップの連絡が来ております」


 フレイヤはGからFへ、マナは、FからEへ昇格となったようだ。

 このなりあがっていく感じ悪くない。もっと遠慮なしにのし上がっていくとしよう。


「フレイヤさん、これはお祝いしないと、いいお店しってるんです!」


 なんだか、この流れが多い気がするが、悪い気がしない。お酒もおいしいだろう。


お読みくださりありがとうございます。

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仕事がいそがしいので、予約投稿ばかりになるかと思いますが、よろしくお願いします。

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 無粋な質問をすみませんがさせて頂きますね。  リアルの動画配信サイトで投げ銭が可能になるには、条件が幾つかあって全てを達成した上で解放される、投げ銭を受け付ける設定にしないといけないのですが、この…
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