第8話 暗い坑道とゴーレム
坑道探索です。
俺は、俺2号。ここ最近フレイヤをずっとやっているせいで、心の声も丁寧な口調になりそうだわ。こまっちゃうのよね。
まぁ、それは冗談として、この一週間、出来るだけレベル上げに行ったが、小次郎をレベル300にすることはできなかった。惜しくも270までとなった。あと30レベルだったらがんばれそうじゃないかと思うだろうが、レベルが上がるほどに必要経験値が多いらしかった。
ところで、いま鉱山の9番の入り口から入って10分くらい入ったところだ。鉱山の中は特に照明がなく、真っ暗な空間が続いている。しかし、間隔は開いているが小さな光源が見える。これは大和側がルート確認用に置いているキューブ型の光源だ。中の魔石が尽きるまで光り続けるもので、1年くらいは余裕で光り続ける優れものだ。ただ、光量は控えめなので、キューブの周辺3メートルくらいが見える程度だ。そこで、野獣の牙側はランタンを用意している。これも魔石駆動型になっており、1日くらい保てばいいの精神で光量は段違いに大きい。これ1つで坑道が50メートルくらいは余裕で見える。
「これぞダンジョンって感じですね」
マナがそんな感想を述べる。確かにゲームとかでよく言われるダンジョンの印象に合致する。ただ、この世界に現れたダンジョンって草原エリアだったり山エリアだったり開けた場所も多いから印象が異なる。
ちなみにこの坑道だが、乱雑に掘り進んだような広い洞窟といった方がいいかもしれない。整然とした柱もなく粗削りの岩の壁と天井が続いている。広さだが、高さと幅がともに5メートルくらいで曲がりつつ奥へと進んでいく。足元が割と平坦なのが救いだが、暗さはなんとも不安になる。
「スケルトンです」
前方の斥候から掛け声がかかる。前方からスケルトンが出現してきた。フレイヤの耳にスケルトン特有の高く響く骨の打ち付ける音が聞こえてきたのと同時くらいだから、野獣の牙の斥候の人の能力は高いと言える。
「はじめて見たの」
メルがぽつりとつぶやく。俺も初めて見たわ…って、メルも俺だったわ。
ところで現在の攻略隊の隊列だが、野獣の牙が先頭と後方に陣取っており、エバーヴェイルを挟むように形作られている。この配置はフレイヤとメルたち後衛を守る位置でもあるが、援護の魔法と支援を受けられるようにという目的がある。そして、マナは強くなっているが、野獣の牙の猛者に比べるとまだ弱い。そのため、フレイヤとメルの近くでの護衛というポジションになっている。
「スケルトン出現! 隊列は崩さず、前方の5名で抑えるぞ」
スケルトンが錆びた剣を振り翳して迫ってくるのを牟田さんが指揮をとる。危なげなくスケルトンを排除していく。ダンジョンの階層が深くなるほど強い敵は出やすいが、すべてがそうとは限らず、浅い層にいるようなスケルトンも出るようだ。
「前方クリア。スケルトンはもういません」
野獣の牙の方たちだけで戦闘が終わってしまう。
「ベースキャンプから連絡。大和側はスケルトンに続けてゴーレムと接敵している模様。こちらも注意されたしとの事です」
後ろの通信係から連絡がくる。
「フレイヤ、ゴーレムって剣じゃ厳しいよね…」
マナが俺に聞いてくる。
「そうね。きっと固いと思うわ。石をたたくとすれば、ウォーハンマーかしら」
マナはマジックバッグにいくつか武器を入れてきている。今回、野獣の牙にもマジックバッグを渡しているが、エバーヴェイルは全員が1つずつ所持している。
「ウォーハンマーだね」
ごそごそとマナが武器を取り出すと、出てきた柄の長いハンマーを両手に抱える。片方が平べったく、反対側がとがっていて凶悪な見た目をしている。これで殴られれば、陥没か貫通かみたいな装備だ。
「メルのとおそろいなの」
メルがマナの武器をみてそういう。メルの武器は杖という扱いだが、使い方はハンマーだから同類なのだろう。
「スケルトンもこれなら一発ね」
スケルトンは入口付近にしかいないらしいから、試すのは帰りになると思う。
そして、また10分ほど進んだころ、坑道の壁から家鳴りみたいなパキパキといった音がする。
「壁があやしいわ」
俺は一言いうと、壁面がよく見えるように、フレイムビットを周囲に配置する。一気に周辺が明るくなる。壁面には亀裂がはいり、壁がはがれ落ちようとしているのが分かる。まさかの崩落かとも思ったが、それが人型をしていることに気づいた野獣の牙のメンバーが「ゴーレムだ!」と声を出す。
それは、この前、戦ったエルダーウッドゴーレムと似て非なるもので、生物的な感じは全くせず、岩の体躯をもつ機械的な何かに見えた。すぐに野獣の牙の前衛がゴーレムを取り囲む。背後には俺とメル。マナが俺の前でハンマーを構える。
「ゴーレムはどこかに核がある。とにかく動きを止めてから、そいつを破壊だ!体勢が整う前に攻撃開始!」
牟田さんの掛け声でゴーレムの足に攻撃が殺到する。ハンマー使いは大きなダメージを狙ってヒザなどの要所を打ち付ける。その他の武器は、関節部分の破壊を目指しているようだ。牟田さんの掛け声がしっかり説明してくれるのは、きっとこちらに攻撃の意図などが分かるように配慮してのことだろう。
足を破壊されたゴーレムが床に倒れこむと、ゴーレムが粉々に砕かれていく。そして、核が見つかり、それを破壊されたゴーレムが消滅していく。ゴーレム討伐も終わるかと思った矢先、両壁から多数のゴーレムが出現した。ゴーレム罠みたいなものだな。しかし、大和の斥候の人、ここをどうやってくぐっていったのだろう。今度きいてみるか。でも、今はゴーレム狩りが先だ。
「4チーム編成! それぞれゴーレムに対処するんだ!」
牟田さんから声がかかる。
「マナ、メルいきましょう」
俺が声をかけるとマナが応え、ウォーハンマーを握りなおす。
牟田さんの言う4チームとは、野獣の牙を3チーム。エバーヴェイルを1チームとした4チーム編成にして、それぞれが小チームで対応することを言っている。大型ではないが、やっかいな相手を複数相手に戦う場合は、いつものパーティレベルでまとまる方がいいということで出来た作戦だ。
「ええーい」
メルの可愛い掛け声でゴーレムの右足が砕け散る。すでに自己支援はかけているようで、なかなかの腕力だ。今回、支援魔法は参加メンバーにかけていない。MPの温存策というのもあるが、モンスターの力量を見極めるために危険な状況でない限り、メルの強力な支援魔法は使わない予定だ。メルが自分で使う分には問題ないとも言われている。
「たー!!」
マナも最近手に入れた打撃スキルを使っているのだろうか。なかなかいい音がして、別のゴーレムのヒザが割れる。しかし、砕けるまではいかない。
「もう! かったーい!」
文句を言っているが、2回目の攻撃で無事に砕ける。
「フレイヤ! やったわ」
いい笑顔をこちらに見せてくる。うん、かわいい。
「って、フレイヤ…何匹とめてるの?」
俺は今、壁から出ようとしてきたゴーレムを5体ほどサイコキネシスで釘付けにしている。
「5体かしら、炎の魔法は坑道では使うとよくないって話ですもの。こんなことしかできないわ」
牟田さんとの話で、坑道内の酸素の問題もあるので炎系の魔法は大空間のみの使用と言われていた。明りのためのフレイムビットくらいは良いとも言われてる。
「フレイヤさんが抑えてくれている間に核を破壊だ!」
足元でジタバタしているゴーレムを倒し終えた野獣の牙のメンバーも加わって、ゴーレムは殲滅されていくのだった。
しかし、ゴーレムが倒れていく轟音の中、何か異音がするのに気づく。小さな何かが跳ねている音に聞こえるが…。
「危ない!」
マナの方にとびかかる影があって思わず殴ってしまう。それは壁にめり込んで動きを止める。殴ったところが穴になり、そこから亀裂が走って縦に割れているようにも見える。それは、小型のゴーレムのようで、ボーリングの玉よりも一回り大きいくらい。例えるならダルマに手足が生えたような形状か。そして、消滅して壁にめりこんだ跡だけが残る。
「小型のゴーレムもいるぞ! 油断するな!」
再度警戒すると小型のゴーレムが大きなゴーレムの轟音にまぎれて、とびかかってくるのが分かり、皆が迎撃に入る。素早い。
「こっちの方がでかいやつよりつえー!」
野獣の牙の人が叫ぶ。なかなか攻撃が当たらないようで四苦八苦しているようだ。
「は、はやい!」
マナが狼狽えているが、メルに支援魔法をもらって、フルスイングで小ゴーレムを砕いた。そして、10分も経たない間に大小100くらいのゴーレムが倒される。何名か負傷したが、メルによって治療も完了している。
「フレイヤありがとう。手のほう大丈夫? ゴーレム殴ってたけど…」
マナが心配してくれるが手は大丈夫だな。
「ええ、大丈夫よ」
牟田さんもやってくる。
「フレイヤさん、魔法系なのにすごいパンチ持ってますね」
壁についている小ゴーレムの跡を指さす。
「とっさに魔法をつかったのよ。この手で殴ったら手が壊れてしまいますわ」
なんか繊細な印象をつけたいわけじゃないんだが、そんな感じで誤魔化した。レベルとかステータスとか聞かれるのも面倒だしなぁ。あと、なんかフレイヤは繊細なイメージを残したい。岩をも砕くパンチとか、ちょっと違う。
フレイヤさん、フィジカルは前衛に負けていません。