第7話 鉱山とベースキャンプ
いよいよ攻略開始です!
一週間後、俺は辰巳さんと金子さんを入れたスタッフ組として前線に来ていた。
今の階層は22層。ここまでの移動にも結構時間がかかった。道中は日本のトップクランが同行しているわけで、目についたモンスターが蒸発することしかなかった。22層の階層に入ると、火山地帯のようなごつごつしたような砂利が広がる。大きな岩が鉱山の周りにも点在しており、視界はよくない。そして、その真ん中にはそんな岩でも邪魔できないくらいそびえたつ鉱山があるわけだ。
そして、俺はコージとしてテントの設営を行っていた。
「こんなでっかいテントが入ってるなんて、そのバッグはすごいな」
辰巳さんが次々と長い金属フレームが出てくるマジックバッグを見て感嘆の声をあげる。今回、マジックバッグをひよりに作ってもらい、他のクランにも貸し出している。俺と金子さんと辰巳さんで張ったテントはこの1週間で用意したエバーヴェイルの遠征用のテントだ。テントのクロスも特別製でフレームも頑丈ときている。これ1つで軽自動車が1台買えるらしい。
そんなテントを辰巳さんたちと力を合わせて張った。設置も楽、思ったよりも重くないといった優れものだった。普通に余暇にキャンプするときもよさそうだな。
ものの数分で組みあがったテントの中に、必要なものなどを配置していく。
フレイヤたちは今、野獣の牙と合流して打ち合わせしていると思う。
「フレイヤたちは最後の打ち合わせが終わりますね。あぁ、緊張してきた」
俺の独白を金子さんが笑う。
「エバーヴェイルの女性陣はたくましいよ。心配することはない」
金子さんはメルの動きも見ているし、実力を信頼しているようだ。
「俺たちはなんかあった時の後詰としてしっかり仕事しよう」
そう言って通信用のダンジョンガイダンスをチェックしてくれている。今回、ダンジョンガイダンス同士が通信できるようにカスタマイズが為されている。これは、ガームド局長配下のエンジニアが調整してくれたらしい。すでに階下に入ったらしいが、まだ挨拶などはしていない。
『コージ、きこえますか?、どうぞ』
その時、ダンジョンガイダンスから声が聞こえてくる。マナだ。
「はいはい。聞こえるよー、どうぞ」
『もうすぐ、攻略開始になります。ベースキャンプ側は問題ないですか?』
背後はガヤガヤしている。
「ないかな。作戦開始したら、野獣の牙のベースキャンプに合流して状況を見守るよ。どうぞ」
『わかりました。では、発信おわります』
ダンジョンガイダンスからの発信が終わると急に静かになる。そして、辰巳さんが荷物の確認が終わったのか話しかけてくる。そして、電子タバコを取り出して吸い始める。
「しかし、マナの嬢ちゃんの叔父さんが大和の代表の増田だったとはなー」
「あー、幸子さんとタバコやめるって約束したんじゃないですか?」
苦い顔をする辰巳さん。
「やめるよ。このダンジョンでたら。それより、なんでマナの嬢ちゃんは、大和に入らなかったんだ? そんな身内がいたんなら名古屋ダンジョンでスライム狩ってる必要なかったんじゃ」
俺も同じ疑問が浮かんだんで先日同じ質問をマナにした。すると、増田先生の奥さんが、当時子供だった増田 醍醐代表を連れて別居していたらしい。理由はマナも知らないらしい。しかし、母親に連れられていった増田代表は、母親の影響か父親の増田先生との間にも確執が生まれたそうで、仲が相当悪くなったらしい。
この別居騒動の時、マナの母親はすでに成人で結婚しており、増田先生との仲もさほど悪くなかったらしく、マナは増田先生と同居という形になったそうだ。
そんな事情により、増田代表とマナの間は疎遠になった結果、大和とのパイプも特になかったらしい。増田代表も最近マナが探索者をやっていることをしって誘うか迷っているうちに、エバーヴェイルに先に加入したそうだ。
「へー、そうなんだな。しかし、世の中せめーな」
「おい、そろそろ一服終われよ。もう、いくぞ?」
金子さんが痺れをきらす。ベースキャンプも整ったし、もう行かねば。
ベースキャンプはそれぞれが攻略する入口に近い位置に配置してある。鉱山の入口には番号が振ってある。大和が入る穴は大き目の穴で番号が1。そこから2kmくらい離れた位置にあるのが9番の穴で、野獣の牙とエバーヴェイル合同チームにて攻略することになっている。穴は10個あって、それらを短期間で調べた大和はさすがNo.1クランだなと思う。
外に出ると、100mほどの位置に野獣の牙のベースキャンプが見える。その野獣の牙のベースキャンプに移動すると、野獣の牙の狭間さんと2名の探索者、そして、サポート要員の人が待機していた。
このテントは、富士山ダンジョンの救助の時に用意してあったテントと同じだ。入口を開いているので中からこちらの姿が確認できる。
「辰巳さん、金子さん、コージさん、みなさん出発しましたよ」
狭間さんと2名の探索者は何かあった時のための要員で、救助などがあった場合の初動を担う。こちらは、その役を辰巳さんと金子さんがやることになっている。俺は、スタッフ側の人たちの立場だ。牟田さんは中で指揮をとるために同行しているようだ。
「いま、この辺りです。大和側は先に攻略を始めてます。今のところ問題はなさそうです」
鉱山の中にある入り組んだ坑道が大きな紙に印刷してあり、大きなテーブルに置いてある。俯瞰的な図になっているためか、位置関係が分かりやすい。
「上下関係が分かりづらいのが難点ですけど、縮尺はあってますよ。どうやらダンジョンガイダンスに試作で入っているマッピング機能をうまく使っているようですね」
そういうことか。最近、実装されたというマッピング機能によってダンジョンガイダンスの位置情報に基づいてマップを作っているらしい。短期間でマップを作れる謎が判明した。
その時、大和側からの通信が入る。
『こちら大和ベースキャンプ。大和隊、予想通り接敵しています。多数のスケルトンがやってきています。脅威度は低めですが、広めの坑道では弓に気を付けてください、どうぞ』
『こちら野獣ベースキャンプ、了解しました。野獣エバ隊に連絡します。どうぞ』
補助に付いていた野獣の牙のスタッフの女性がそれに応える。野獣の牙とつながっているダンジョンガイダンスに連絡を始めた。ヘッドホンを使っているため、声は聞こえないが、やり取りを聞いていると、同じくスケルトンを感知したらしく警戒中とのことだ。
そんな感じで、ダンジョン内で円滑に作戦行動が取れるのは、素晴らしいなと感じる。同じように思ったのが辰巳さんだったようで、
「なんか、俺たちが開拓してきた探索者は、まるで戦国時代だったな。通信もないから、走り回って、剣と魔法でなんとかして、足が速いとモテたなぁ…。それに比べて今は現代って感じじゃねーか、はぁ」
しみじみと語る辰巳さんに苦笑する。
「おい、辰巳。老け込むのは早いぞ…。俺まで古いみたいに思われるだろ。まだこれからだってところを見せてやろう。ほら、体がなまるから、ちょっと外で準備運動しておこうぜ」
嫌そうな顔を見せる辰巳さんを引き連れて、外に行ってしまった。
「マッピングとかはこちらやっておきますので、どうぞそちらで待機しておいてください」
俺はそんなことを言われるが、俺もスタッフとしてきたからなぁ。
「良ければ後学のために、一緒に作業させてください」
それなら、一緒にやりましょうかと言ってくれるので、横の椅子に座って作業を眺める。決して女性スタッフだからというわけでない。断じてない。きりっとした美人でおっぱいが大きいとか30歳くらいのストライクゾーンとかそういうのは関係ない。
「いてっ、本気で打つ奴があるか!?」
「いやいや、ちょっと鈍ってるんじゃないか?」
そんな声が外から聞こえてくる。なんか俺が殴られたかと思った。不純なことは考えないようにしよう。外では訓練中の辰巳さんが金子さんに良いのを入れられたんだろう。
今のところ平和なベースキャンプだ。
しかし、そこから少し緊張感が出てくる。
『こちら野獣エバ隊、スケルトンと交戦開始しました。どうぞ』
「こちら野獣ベースキャンプ。承知しました。お気をつけて。どうぞ』
とうとう攻略部隊に戦闘が開始されたようだ。
同行しているエバーヴェイルの3人も活躍するだろう。がんばれ、俺と俺、そして、マナ!
がんばれ俺!