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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第4章 宿の主人になった日
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第5話 メルと恵みの大地

近江牛たべたい。

 俺は俺1号、俺本人だ。いま、俺2フレイヤと俺4メルとマナ、辰巳さん、そして、軽く変装した俺というパーティを組んで、滋賀県の近江ダンジョンにやってきた。

 今日は金子さんが休みで、辰巳さんが配信の警備員というわけだ。子供のためにも頑張ると張り切っている。ちなみに近江ダンジョンは水源である琵琶湖のほとりにあるため、堅実に管理はされているが決して探索者が多いわけではない。そのため、今いるエリアは自分たちしか居ない。


「こんにちは。エバーヴェイルちゃんねる始まるのー」


 今日はメルが主役とあって、オープニングもメルからだ。


「メルちゃん、今日はここ近江ダンジョンに来てみました。近江ダンジョンというとウシ型のモンスターが有名ですよね」

「そうなの。今日はウシ型のモンスターであるモウミョウを狩りに来たの」


 モウミョウは巨大な牛で、体が黒く黒い霞が立ち上っている。この黒霞は、敵が現れると黒い牛を形作り眷属のごとく敵に向かっていく。眷属を倒せば経験値も入るため、経験値獲得には良いと言われているモンスターだが、ドロップが渋いために人は少ない。本体のモウミョウは魔石をドロップするが、眷属からはドロップはしない。そして、今まで魔石以外のドロップが確認されていない。しかし…。


「笹木博士の研究では、このモウミョウ。実は食材を落とすらしいのです!」


 マナが遠目に見えるモウミョウを指さす。


「そうなのね。うしさんだから、やっぱり牛肉かしら?」


 フレイヤがここでようやく口を開く。あの容姿で「うしさん」とか言うからコメント欄が悶えている。俺2号め、腕をあげたな。ギャップを理解してやがる。


「それはドロップしてからのお楽しみですよ!」


¥40,000 ◆近江牛乃介貞治:何匹も狩ってきたが、そんなドロップは一回もなかったよ。特殊な条件があるのかな。あと、「うしさん」ってもう一回いってもらってもいいですか?


そんなチャットが入る。


「うしさん?」


 フレイヤが首をかしげる。あざとい。俺じゃなければ、惚れていたな。スパチャが乱立する。


「スパチャありがとうございます~。じゃあ、やり方を説明しますね」


 マナが手にパネルを持っている。ここに来るときにマナが描いたものだが、分かりやすく書けている。


「まずは、モウミョウですが、周辺の眷属を倒して経験値をおいしくいただきます。その後、あたしとメルちゃんでモウミョウの背中のコブを割って、頭の角も壊します。あ、そのために、今日はあたしはハンマーで戦いますよ! メルちゃんも危なくないように戦ってもらいます」


 メルなら危なくなく普通に倒せそうだな。


「そして、ちゃんとコブが割れた後に、フレイヤの火であぶります。そうするとあら不思議、食材がドロップするんですよ!」


 モウミョウは草原エリアに点在するが、結構な数がいる。途中、休憩などを挟みつつ、戦っていく予定だが。その休憩の準備が俺の仕事だったりする。



「では、いくの。お腹すいたの」


 メルの腹ペコキャラが定着しそうだ。いくら食べても魔力消費で消化されるらしく、メルの体型は変わることが無い。おかげで食べることへの罪悪感が皆無らしい。


「じゃあ、メルちゃんお願い」

「わかったの。マナおねーちゃん」


 メルが支援魔法を使うと、マナとメルが2人でモウミョウに突っ込んでいく。モウミョウが眷属を生成するが、フレイヤのフレイムビットとマナ、メルの2人の殴りで消滅していく。決して一撃で消えるような弱い眷属でもないのだが、マナはレベルを150くらいまであげ、メルに関しては、そもそも物理優勢のキャラ設定に加えて、自己支援による強化が効いている。本体も攻撃を仕掛けてくるが、マナもメルも上手く回避している。モウミョウの突進を危なげなく捌いていく。メルも俺が取得した体術のおかげか、聖域(物理)がアグレッシブな聖域(物理)に変化している。おかげで眷属がはじかれて消えていく。



 そして、とうとうモウミョウの眷属が尽きた。時間にして数分だが、これから本体の攻略が始まる。

 モウミョウは眷属が消えたことで、動きの鈍いように見えるメルに突進していく。時速80kmに到達する突進の後、角でひっかけて跳ね上げるという攻撃なのだが、メルがあっさりと躱す。


「ええーい!」


 すれ違いざまに可愛い掛け声でメルが背中のコブを破壊する。コブだけを壊すために多分手加減をしている。


「あたしも!」


 コブを壊されて怯んでいるモウミョウを見逃さず、マナが駆け寄りその角を砕いた。位置が悪かったが、マナも体術系が身に着いたのか体をひねりこんでの一撃だった。

 この間、フレイヤがサイコキネシスを使おうか迷っているようだったが、順調にモウミョウの角とコブが破壊された。


¥50,000 ◆武田魔人ZZZ:えー、メルちゃんって後衛じゃないの? え、俺より強いんだけど!?

¥50,000 ◆銭湯魔人:メルは俺が育てた(ぇ しかし、角が引っかかって服が脱げるとかそんな場面も期待したい! 期待したい!!!



 今はスパチャの相手をする時間はない。


「フレイヤー、魔法をおねがいしまーす」


 マナの掛け声でメルとマナがモウミョウから離れる。そこにフレイヤが一撃を加える。


「フレイムストーム」


 フレイヤによって、モウミョウの足元から炎の竜巻が発生する。もがいているモウミョウだが、数秒後には消滅してしまう。フレイヤがフレイムストームを止めると、草原にゴロンと肉の塊が落ちる。


「でたの! モウミョウのお肉!」


 メルがドロップしたサシ入りのお肉を拾って持ち上げる。ドロップしたお肉が汚れないようにフレイヤがサイコキネシスで少し浮かしているという芸の細かさだ。


「すっごい、美味しそう」


 

¥80,000 ◆近江牛乃介貞治:これは立派な霜降り! モウミョウからドロップするんですか!? 味は、味は? この後、食レポあるんですよね!? 



 そう今回の配信は2部構成だ。おれがBBQの準備をしている。草原エリアの端っこに陣取り、炭に火をいれている。これらは、ひよりが作ったマジックバッグに入れて持ち込んでいる。ちなみに辰巳さんは、このBBQコーナーの警備員だったりする。


「どれくらい狩るんだ?」


 それから点在するモウミョウを順に狩っていく。たまに数匹同時に相手をしているが、危なげは全くない。そして、目の前に積まれていくお肉。1時間くらい狩っていたが、経験値とドロップの両立ができた。戻ったらお肉を売るのもいいし、クランベースで焼肉をするのもありだな。



 俺はブロック肉をひたすら切り分けて準備を進めている。レベルが順調にあがっていることで、でかい肉を切り分けるのも難なく可能となっている。

 野菜や飲み物、皿にタレも用意して、テーブルをおいて、BBQコーナーが完成だ。


「じゃあ、BBQの開始でーす」


 ダンジョン内だというのに女子会が開始される。目の前にはモウミョウのお肉。牛肉に似た香りがする。


「では、あたしが毒見してみますね!」


 ダンジョンガイダンスが位置取りを変えて、毒見というには躊躇いなく口に入れるマナを映す。何かあってもメルがいれば状態異常も治せるわけで、マナが先に食べるのは合理的なのだが。


「メルも食べたいの。どう? マナおねーちゃん?」


 よだれをすするメル。お行儀が悪いよ!

 そして、マナがうっとりした表情で「おいしい」と一言。


「メルも食べるの。もういいの」


 メルはパクパクと焼けた肉を食べ始めた。ダンジョンガイダンスがその口元を移す。


「わたくしもいただきますわ。脂があまくて上品ね。あんなに暴れてたうしさんなのに」


 フレイヤも食べ始める。ダンジョンガイダンスがくるくると回り込むようなアングルで撮っていく。フレイヤはいつもの薄着なので、いい絵が撮れているだろう。



 ちなみに、俺と辰巳さんの手元にも切れ端を焼いたものがあり、つまみながら周囲を警戒している。しかし、周辺からはすっかりモウミョウも居なくなっているため、一時的に安全地帯となっている。まぁ、油断はしないが。


「なぁ、これ、幸子に土産にもらってもいいか?」


 辰巳さんが配信に入り込まないように小さな声で俺に聞いてくる。


「いいですよ。これだけあるので」

「ありがてー。幸子がつわりがひどくてよ。食べれるか分からんが…試しにな」


 配信を横目に辰巳さんの話をきくと、幸子さんのつわりがひどく、どうやらみそ汁と御飯がダメらしい。意外に揚げ物が大丈夫らしく、レモンをかけたカラアゲとフライドポテトが主食になっているらしい。辰巳さんは、この仕事が終わったら名古屋じゃなくて、幸子さんのところに戻るらしく別行動だ。


 そんなわけで、エバーヴェイル配信が新たな近江ダンジョンの名物を発掘した。後で聞いた話だが、モウミョウの肉を観光資源にと持ち上がっているようだ。これから定常的に狩りをする人たちが増えるだろう。

 そして、狙いであった俺のレベルもあがった。こうした狩りを何度かしていけば、レベル300になるのも遠くないな。


 

  ◇笹木小次郎

 レベル141

 HP:2218/2218

 MP:3032/3032

 称号:ダンジョンスレイヤー

 ユニークスキル: アバター▼

          アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)

          アバタースロット2(金城メル) 

          アバタースロット3(ハヤト)

 スキル:ストーンスキン

     レビテート

     ドッペルゲンガー Lv.3

     エイジファントム

     回復強化

     防御強化

     体術

     変装

     隠密

     危険察知




 近江ダンジョンから肉をたくさん持ち帰った翌日、俺は南さんと会議をしていた。

 名古屋ダンジョンの話題になる。名古屋ダンジョンの22層が開放されてから1か月ほど。いま、22層に挑戦しているのは魔道機構ではなかった。大和という日本No.1のクランだった。彼らは、前衛と後衛のバランスが良いとされているクランだ。

 彼らの本拠地は東京ビックダンジョンだったはずだが、今回名古屋ダンジョンにトライしている理由があった。


「謎の鉱山ですか」


 今は南さんと週1回の情報共有の場だ。最近、魔道機構とフレイヤの活躍により22層が開放された。しかし、22層にいるモンスターが魔法が効きづらい鉱物系のモンスターと分かり、魔道機構が一時撤退したらしい。撤退したと言っても引く手あまたなクランのため、今頃別のダンジョンの深層を攻略していると思われる。そして、その代わりに鉱物系のモンスターの攻略に名乗りを上げたのが大和やまとだった。


「はい。鉱山に鉱山モンスター、山岳エリアにあたりますね。気候は温暖です」


 大和が公表しているのは、新武器開発や武器のアップグレードに向けてダンジョン鉱物の買取を強化していることだ。ちなみに、鉱物系のモンスターを倒すと、魔素を多量に含んだ鉱物を入手することができる。組成は地球の金属元素と同じものなのに、魔素の蓄積や伝導率が高いといった傾向があり、武器製作には欠かせないとされていた。しかし、これらが採れるダンジョンは少なく、日本では仙台ダンジョンと北九州ダンジョンの2か所だけとなっていた。それも小規模のため、日本は海外のダンジョンからの仕入れを必要としていた。


「その鉱山でも、鉱石なんかが採れるんですか?」

「はい、鉱石もドロップするようです。坑道内にポップするようですが、かなり入り組んでいるようで、大和も入り口付近までで引き返している状況らしいです」

「大和でも苦労するなんて、よほど複雑なんですね。まさか、うちにヘルプ要請がきたりして」


 あはははと笑っていたら、翌日そのまさかが来た。


たべたい。

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― 新着の感想 ―
ダンジョンガイダンスによる転送技術が発展したら 「いま採れたてのモウミョウのお肉を視聴者の皆さんにもプレゼント!」とか 即販売とか出来そうでいいですね フレイヤが焼いた焼き肉を皿ごと転送とか 幸子さん…
食べたい(ビーガン?知らない子ですね)
食べたい(垂涎)
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