第3話 小次郎と自分会議
小次郎しかいない回です。
俺は今、クランベースの工房エリアで女性3人に囲まれている。ただし、全員自分だ。今日は、南さんはお休み。マナは親戚の結婚式だとかで不在にしている。
「わたくしは、わたくしでもいいのだけど」
フレイヤが頬に手を当てて物憂げに答える。なんの質問かというと、俺が誰の役をするか?だったりする。先日、ドッペルゲンガーのレベルがあがり、ドッペルゲンガーが3人に増えたわけだ。俺2号がフレイヤ、俺3号がひより、新たに加わった俺4号がメルになったわけだ。
「僕は僕でも良いかな。なんか、最近慣れてきたしさ。それに、若いっていいよね。多少寝なくても元気なんだもん」
そういうのが俺3号のひより。
「メルは、メルでもいいの。マナおねーちゃんと一緒に居られるのは楽しいの」
そんな訳で俺は少し寂しい気がする。
「俺も誰かになりたい。分かったんだ。俺って演じるのが好きだわ。フレイヤの丁寧だけど凛とした感じとか、メルの甘えん坊だけど人を気遣う感じとか、ひよりの僕っ子とか。正直、俺は刺激に飢えてる」
「僕だけ、なんで一人称だけなのさ」
ひよりが文句を言う。
そう、俺はドッペルゲンガーに任せてしまえる状況になってからなんだか寂しくなったわけだ。2日に1回はメルとして生活していたわけで、なんかそれも無くなってただの小次郎になったわけだ。刺激的な風呂とか、美少女として扱われる優越感みたいな何かとか、そんな非日常的な生活に俺は慣れ切っていたのだ。
「当番制…」
みんなが首を横に振る。
「おい、俺だけ仲間外れみたいじゃないか」
俺の苦情にフレイヤがため息をつく。
「わたくし達、お互いに何をしているかが感じ取れるわけではないのよ?
もし、同じ人間が同時に現れたらドッペルゲンガーの事が明るみに出ますわ」
「メルもそう思うの。当番で切り替えるのが毎回うまくいくとは思えないの」
ごもっともです。ひよりなんかは、研究にいそしんでいるわけで、ダンジョン組とは違うライフサイクルで動く必要がある。
「そうだなー、あー、どうしようかな」
女性3人に見つめられる俺。みんな俺なんだが、見た目が良すぎて俺という気がしない中、なんか良い案はないかと考える。
その間に、フレイヤが最近はまっているというハーブティーを静かに飲む。
「アバターを増やせばいいのさ」
そう言ってきたのは、ひより。
「確かにな。アバターが増えればまた刺激的な二面生活ができる」
その発言にフレイヤが笑う。
「ずいぶん禁断症状が出ているようね」
そこまでひどくはないと思うが。
「じゃあ、レベル上げにいく? 100レベルでメル、200レベルで僕が出たんだよね。そしたら、次は300レベルで出るさ」
ひよりが言う通りだ。しかし、まだレベル100ちょいの状況だ。
「また、乱獲するかい? エルダーウッドゴーレム」
以前、フレイヤで乱獲したのだ。5時間も狩って森をほとんど焼いて100レベルになったわけだ。
「そうねぇ。でも、他の狩りにも行きたいわね」
確かに5時間も単調に狩るのは疲れる。
「何かいい狩場あったっけ? 配信もできて、ドロップもよくて、今後はやりそうな狩場の開拓みたいなのができればいいんだけど」
それならと、フレイヤが1つ石板を持ってきてくれる。
「こちらの石板に書いてあったところはどうかしら? おすすめよ」
ほう。これかー。確かに良いかもしれない。
「じゃあ、それでレベル上げしてもらって、アバターをゲットするか」
俺の言葉に皆頷く。
「決まったね。じゃあ、僕は開発に戻るよ? あー、そうだ。1号、もし空いてるならさ、僕2人になって作業しない? 工房なら鍵もかかるし外から見えないから、2人いても問題ないよ」
「今日は…予定なかったな。フレイヤの狩りもマナたちと計画建てたほうが良さそうだし、よし、この後はひよりになって開発手伝うかな」
「メルは部屋の模様替えがしたいの。だから、家具屋さんに行ってくるの」
「わたくしは、あと一時間くらいしたら予約していたエステにいってきますわね」
メルもフレイヤも変装スキルのおかげで、本人とばれないくらいの誤魔化しができるようになり、頻繁に外に出ていた。変装スキルは顔を変えるといった程のものではないが、髪型や衣装、小物なんかを上手く使うことができる。なかなか便利だ。
「いいなぁ。俺もエステに行きたい」
そういうと、フレイヤが苦笑する。
「いくらでも行ってもいいのよ?」
フレイヤの姿で行きたいのだ。あの高級エステの会員権は高いんだ。
「ねぇ、小次郎も買えるんじゃない? ダンジョン口座見てみた?」
ひよりに言われて気が付く。見ていない。
「いやぁ、カード払いですべてやってるから見てない」
ちょっと前ならこんなことは無く、残った財産を数えながら生活をしていたのだ。この1か月で今までの年収をかるく超える額を稼いでいるはずだ。
「そうだな。今度行ってみるか」
「メルはエステよりも美味しいお店めぐりがいいの。もう大須のお店は全部制覇しちゃったの」
そういえばメルになっている間はお腹がすく。本当に空腹で死にそうになる。彼女は、ダンジョンにどれくらい食べ物を持ち込めば遠征できるんだろうと心配になるくらいだ。食べ物大事。燃費の悪い少女だ。まぁ、俺も大須に通ったんだが…。
「ダンジョンに行くにしても、マジックバッグに食事詰め込んでいくしかないね。メルの食欲は膨大だからね」
「ごめんなの」
メルに謝られると、こちらが悪い気になってしまう。責めてはいない。
「いや、そういう設定にしたどこかの笹木が悪いんだからな」
そう、俺たち連帯責任ってわけだ。
「ごめんなの」
そして、結局責めている感じになる。
「そうだ。ひより、ダンジョンガイダンスの機能に食べ物の通販みたいなこともできないのか? なんなら出前みたいな」
ひよりが考え込む。
「できなくはないさ。でも、出前ってことは、作りたてとかを送るのかな? ダンジョンガイダンスの取引窓口をダンジョンの受付側に置くことになるから、受け付け内が食べ物でいっぱいになるかも。なんだか、面白そうな絵だよね? ハハハ」
ひよりが笑うが、確かに滑稽だな。
「なんだか、大変そうなの」
きっと受付嬢が大量の食事をマジックバッグに放り込んでいる図を想像したんだろう。
「ダンジョンガイダンスの出口をいくつか作って、窓口を変更するとかは可能なのか?」
その言葉を聞いてひよりがホワイトボードに歩み寄る。
「ダンジョンガイダンスの通信は結構柔軟だから、ハブを介して幾つかの出口にくっつけることはできるさ。そうだね。買取窓口と物資販売、その中でも食事の販売なんかも分けられるといいかも。でも、すぐにはちょっと難しいかな」
「どうしてなの?」
メルが聞く。気になるよな。
「この分岐をつくるために、相当コストがかさむのさ。おける商品の数とかも制限があるかな。ちなみにマジックバッグに先に置いておくことで自動的にそれが販売されて送られるっていうのを考えてるよ?」
ほー、すごい。なんか、伝票用紙をうけとって、それを見た受付嬢が倉庫から物を運んでくるところを想像していた。
「ひよりはすごいわね」
「そうなのさ。僕はすごい!」
ガッツポーズをするひよりを、メルが拍手する。
「がんばるの。メルのご飯のために」
ダンジョンの食事と安全地帯、その2つが解決できれば、ダンジョン攻略が進みそうだなぁ。そんなことを考えつつ、俺はひよりの姿になった。
「さぁ、僕が2人なら、開発がすすむさ。きっと」
さっそく俺は、俺3号と一緒に、2人のひより体制で開発を進めた。来週からはガームドさんの部下の人が階下に来るらしいから、開発がスピードアップするだろう。それまでに、準備できるところはしておこう。もう少し先になるが、オーブマシナリの買収も完了すれば、そちらにも開発を依頼することができるはずだ。ダンジョン内の便利グッズとか作れたらいいなと思う。
そんな事を考えていると、俺3号のひよりに話しかけられる。
「1号は、こっちのマジックバッグに収めた物のID設定を確認して、まあ上手く情報がとれないからさ」
さっそく3号から言われるが、素直にわからない。しかたなく、俺はペルソナを立ち上げる。
「おっけー。こっちで見る」
その日は夜中まで2人で研究を行い、なかなか進捗が良かった。お互いに健闘をたたえて風呂に2人で入ったのだった。これはこれで刺激的で良い。そんな1日だった。
いろいろ開発が進んでます。




