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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
7/21

第7話 フレイヤと配信準備

ダンジョン配信にむけた準備回です

 ダンジョン配信。それは、ダンジョン攻略が始まった時期と同じタイミングにてすでに行われていた。当時はカメラ機材を持ち込んでのもので、ライブ中継ではなく録画編集のものが主流だった。それが変革したのは10年前、ギルドがダンジョン内からリアルタイムに通信するための設備を開発した。民間との協力の末だったはずで、今では通信会社が立ち上がっている。

 ともかく、ライブ配信が始まり、Mu-tubeのダンジョン配信は、時には感動、時には悲劇を映し出す巨大コンテンツへと成長した。探索者のランクとは異なり、インフルエンサーとしてフォロワーの数も探索者のヒエラルキーに影響を及ぼすようになった。そして、インフルエンサーの探索者は、最新のダンジョンガイダンスを採用しているらしい。ダンジョン攻略のアドバイスや、撮影と配信機能を持ち合わせていながらダンジョン内で自律飛行ができる優れものだ。


「ほしいけど、リースで1日10万円か。買取で1000万円は、まだ厳しいな」


 ちなみに今は小次郎の姿で調べ物をしている。

 アバターは先ほど解除して小次郎の姿に戻った。アバターを切り替える時は服などはそのままだったので、アバターを解除するためにフレイヤの姿で全裸になった。フレイヤにぴったりの服なんて小次郎からしたら小さすぎる。

そして、アバターを解除したわけだが、化粧を落としていなかったことを思い出す。

ばっちりメイクの小次郎を見ることになるかと思いきや、化粧が消えていた。そんなわけで、予想ではメイクは体の一部扱いということになる。なんの違いだ? 密着度なのか? 認識の違い?

 そこから検証を行ってみた。なんと服ごとフレイヤと小次郎の変身ができたのだ。レベルが上がったからなのかは不明だが、とても便利だ。試すと手に持った箒くらいは一緒にアバターの変身に巻き込まれるようだ。流石にテーブルはダメだったが、リュックはいけた。

 これは簡易的なアイテムボックス的な使い方ができるんじゃないか。すげー助かる。

 アバタースキルの奥深さに感動しながら配信の調査に戻る。


 探索者は儲かるといわれているが、確かに探索者の平均年収は2000万円ほどらしい。ただし、中央値は500万円らしく、すごく稼いでいる探索者がいる一方、稼げていない探索者も多いと言える。スキル書への投資なんかも積極的にできればステップアップにつながるが、そんなことが出来るのも一握りとなってくるようだ。怪我でもすれば一気に収入がなくなるため、リスクを考えると低層で地道に稼ぐと言ったやり方になるんだろう。ダンジョンに夢を見るけど、稼げるようになるには無謀さと実力がいるわけだ。


「そういえば、ポーションていくらくらいなんだ」


 ダンジョンはドロップ品にポーションというものがある。初級ポーションと呼ばれるものは、切り傷くらいなら瞬く間に治るという性能で、時価で20万円前後らしい。フレイヤには癒し系の魔法がないので、一本持ち歩いた方がいいのかもしれない。

 

 もう既に夕方か。いろいろやることが多くて短く感じる。そうだ、愛美ちゃんに連絡を取ろう。配信の相談をして、手分けしたいな。

 そこでフレイヤの姿に変身し、愛美ちゃんに電話をかける。ちなみにペルソナは使っていない。電話がとられたので、一方的に話し始める。


「もしもし、フレイヤです」

「!フレイヤさん、ありがとうございます。きゃっ、あ、痛っ」


 電話の向こうで固いものが落ちる音がする。


「大丈夫?」

「大丈夫です、ちょっと躓いちゃって。


 本当に連絡くださったんですね。嬉しいです」

 その後話してみると、愛美ちゃんはレベルが上がったのもあって体を動かしていたらしい。レベルが高くなると音の感じだと体育館みたいな所にいるようだ。


「相談があるんだけど、夜会えないかしら?」

「ぜひ!」


 愛美ちゃんが二つ返事で快諾すると、2時間後に駅で待ち合わせをすることにした。ついでに食事をしようということになった。



 フレイヤの姿は目立つ。駅前では、誰もが一度は見てくる。少し落ち着いた服も用意すべきなんだろうか? でも、ペルソナを起動してから顕著になったんだが、フレイヤは薄着が好きだ。肌が露出しているのに対し、気持ちよく感じる。

 デニムのショートパンツ以外なら、ミニスカートもなんなら履ける。なりきることへの抵抗感のなさに驚きが隠せないが、心地いいんだから問題ない。ほら、周りの男たちは幸せそうじゃないか。俺が外国人に見えるからか、あからさまに寄ってくるものは居ないが、視線は遠慮がない。でも、そんな中、派手目のスーツをきたチャラい男が向かってきた。


「おねーさん、日本語わかる? よかったら、うちの店で働いてみない? おねーさんなら、天下とれるよ。日本語ダメでも、うちの系列も多いから働き方もいろいろ選べるよ」


 ガールズバーのお誘いだった。俺、会社の忘年会の二次会でそこ行ったことあるわ。


「もう探索者をやってるの。急いでるので失礼」


 身に着けたドッグタグを見せると男性は少し身を引いた。探索者は見た目よりも腕っぷしが強いものが多い。そんな経験があるんだろう。だが、めげずに営業をかけてくる。


「週1とか、暇な時でもいいので、興味あったら連絡してくださいね。名刺もわたすんで、なんでも相談にのりますよ」


 そう言って、手元に名刺を渡してくる。仕方なく受け取ってやるが、足早にそこを去る。



 駅につくと愛美ちゃんが金髪の色黒男性にナンパを受けていた。彼女もかなり可愛い子だし、仕方ない。


「ごめんね、待たせちゃったわね」


 俺が声をかけると、ぶすっとしてナンパを断っていた愛美ちゃんが太陽のような笑顔を見せる。


「え、友達と一緒? いいじゃんいいじゃん、俺も友達よぶからさー。2対2で飲みに…」


 ナンパ男はこちらを振り返って俺も誘おうとしたんだろうが、俺の顔を見て言葉を詰まらせる。視線が顔と体を何往復かして、言葉が出てこない。小首をかしげてやると、びくっと震える。


「今から二人で大事な会議をするの。遠慮してくださる?」


 愛美ちゃんの手を握るとニコリと微笑んで、


「ごきげんよう」


 結局、ナンパ男は一言も発さずに俺たちを見送った。なんだったんだ、あれ。


「フレイヤさん、助かりました」


 愛美ちゃんがペコリと頭をさげてくるが、待ち合わせは直接お店の方が良かったかもしれない。そもそも、家などで集まるのがいいのか。でも、小次郎の部屋は、ちょっとまずいな。フレイヤの生活感がない。


「あ、フレイヤさん、お化粧してる、すごい、うつくしすぎて、死ぬ」


 そう言ってフラフラと倒れこむ真似をする愛美ちゃん。そんなわけで、化粧は好感触だった。




 予約しておいたバルに落ち着いた後、さっそく配信について相談してみた。


「配信やるんですか!? やったー!」


 なぜ、やったー?


「ええ、私、割と戦えることが分かったものだから、少し挑戦してみようかなーて思ったのよ」


 ぶっちゃけるとお金がないのが最大の理由だ。


「割とじゃなくて、ちょー強いですよ! 配信も絶対にバズりますよ。フレイヤさんの配信、本当に楽しみです!」


 興奮した愛美ちゃんの声が大きい。でも、嬉しいものだ。


「ありがとう。そこでね、もしよかったらだけど、一緒に配信しない? 私だけだと不安で」


 不安というか人手が足りない。映るのは抵抗があるかもしれないが、裏方でも本当にいいんだけど。


「いっしょに映れるんですか!? え、え。あたしじゃ釣り合わないんじゃ、えへへ。でも、前衛と後衛で、ぴったりかも」


 まんざらじゃないような様子。

 そこからは食事をしながら、配信の日取りなんかも決めた。まだ収益化できていないが、お金の話もちゃんとしておいた。パーティ戦の戦利品は半分に分けること。配信の収入は、協力してくれた分の3割が愛美ちゃんの収入になる。愛美ちゃんは要らないと言い張ったのだが、3割まで引き上げることに成功した。こういう縁は大切にしなさいと死んだばーちゃんも言ってたからな。

 そしてスキルの話になる。


「剣のスキルは、何度も振ることで悟りを開くように芽生えるというのは本当なんです。私も家の道場で素振りさせられてたんですけど。おかげでスライムの核を割るのが早くなったんですよ」


 道場? 実家が道場? 剣道の道場っていえば俺が通っていた増田道場があるが、まさかな。


「こんな格好してるんですけど、家がすっごく厳しくて…、家ではもっとおとなしい恰好なんです」


 どうやら社会人デビューのギャルらしい。なるほど言葉遣いが丁寧なわけだ。


「探索者になってレベルをあげなくちゃいけないといわれたんですけど、アパレル系にもあこがれてるし…。とはいってもちゃんと勉強したわけじゃないんですけど」


 いろいろ事情があるんだろう。

 


「そうだ。あの…、フレイヤさんは彼氏さんと住んでるんですか? あの住所の一緒って方って」


 ギルドでフレイアの住所が同意書を書いた俺と同じだったことを覚えていて気になったんだろう。男性関係で失敗した愛美ちゃんとしては、そういうのは気になるんだろう。さて、俺自身とフレイヤの話をどうしたものか。すこし思案した後、何気ない様子で答える。


「彼氏じゃないわよ。兄みたいなものね。親同士が仲が良かったんだけど、今はちょっとお世話になってるけど、お金ができたら引っ越す予定」


 こんなところだろう。


「そうなんですね。おにーさん。私もお兄ちゃんが欲しかったなーって今でも思いますよ。昔、道場に通ってきてた年上のお兄さんがとてもやさしくってあこがれてたなぁ」


 きっとイケメンだったんだろうなぁ。爆発しろ。しかし、愛美ちゃんと小次郎としても会うことになりそうな場面もあるんだろうな。その時に向けて、もう少し設定の詳細を詰めておかないとボロが出そうな気がする。考えておこう。



 食事もあらかた食べ終えたところで、デザートが運ばれてくる。しかし、頼んだ覚えがない。


「こちら、お店からのサービスです」


 男性の店員さんがキッチンのほうを指さす。キッチンの中ではシェフらしき人がちらちらとこちらを見てくる。オーナーなのかもしれない。


「ありがとうございまーす」


 愛美ちゃんが笑顔を振りまく。おいおい、今までの人生、店のおごりとか無いぞ。いや、行きつけのラーメン屋が大盛サービスしてたか…いや、あれ全員にしていたわ。


「ありがとう」


 俺が笑顔で答えるとシェフは急に何かを片付けだす。顔が真っ赤だ。

 


 お会計でもなんかサービス券をたくさんもらいながらバルを後にした俺たちは店の前で解散した。気分がいいから、またこの店使うことにしよう。愛美ちゃんの家はそう遠くないとのことで送ることはないと言われた。逆に送ろうかといわれたが、今住所バレは避けよう。


「じゃあ、二日後、名古屋ダンジョンでデビュー戦といくわね。がんばりましょーね」

「はい、がんばります!」

 

 こうして、後々、ダンジョン配信に旋風をもたらす炎の魔女の配信プロジェクトが始動した。


お読みくださってありがとうございます。

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