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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第3章 魔道具師になった日
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第21話 フレイヤと望遠レンズ

いよいよイベントが始まりました。

東京ギルド主催のイベントなので、横浜ですが、東京となっています。

 横浜のベイエリアにある国際イベント会場は人でごった返していた。3日間開催される国際イベントで、チケットは10万円という高価格なのに参加者は30万人を超えると言われている。そのイベントは、展示エリアとステージに分かれており、展示エリアは更に探索者向けのアイテム展示の他、エネルギー産業界の企業展示などいくつかカテゴライズされている。その中で一際人垣があるのが、装備エリアだった。装備エリアは、1件の展示が3mほどの間口があるスペースに会社が製品などを展示して、キャンペーンガールなどを配置するところもあれば、社員で静かに展示をするところなど様々だ。

 装備エリアは探索者も多く来るため人気のエリアとなっていたが、今日は異常なほどの人出があり、スタッフが対応に追われていた。

 それは、10mほどの間口のブースで展示をしているE&Sだった。E&Sは、新ブランド『Freya & Flame』の紹介がメインコンテンツだった。今話題の名古屋ダンジョンの炎の魔女フレイヤをモデルとした新しい装備の数々が展示されている。フレイヤはダンジョン配信によってその美貌、強さ、そして、その気品みたいな物で一躍人気の配信者となっていた。そして、そのファンが詰めかける理由はもう1つあった。


「フレイヤそろそろ出番です!」


 マナがバックヤードで衣装の最終確認をしていたフレイヤを呼びに来た。少し胸元の防御力が低い感じもする装備だが、フレイヤの薄着好きということで、チューブトップにフレアスカートタイプが選ばれている。


「わかったわ。準備はできてるわよ」


 そう、時の人であるフレイヤが展示ブースに立つのだ。その横ではデザイナーたちのボスである風間さんが原稿を確認していた。今回、風間さんも挨拶をするのだ。司会はプロを雇っており、打ち合わせの時間通りに外から展示ブース内での小イベントの開催が宣言される。ただ、小イベントという言葉は既に消え去っている。すでに100人ほどが展示ブースを取り囲んでいる。展示ブース間に設けてあるスペースが埋め尽くされてしまっている。


「本日は、E&S、エッジ&スピアーズの新ブランド『Freya & Flame』のご紹介を行います。『Freya & Flame』は名前の通り、フレイヤと炎。みなさん、よくご存じと思いますが、炎の魔女フレイヤさんにちなんだブランドとなっていまして、フレイヤさん協力の下、今回公開となりました」


 司会の女性の立て板に水のようなアナウンスが入る。そして、フレイヤと風間が紹介される。


「それでは、フレイヤさんとチーフデザイナー風間の登場です!」


 その呼びかけで、バックヤードから2人が出ていく。すると、観客の男女ともに声をあげ、その登場が一層盛り上がった。本格的なカメラもあり、スマホありと何枚もの写真や動画が撮られている中、イベントは進む。


「風間さん、新ブランドのお話をしていただいてもよろしいでしょうか」


「は、はい。チーフデザイナーの風間です。こちらの『Freya & Flame』は、わが社の社訓でもある『ダンジョンを日常に』を体現したブランドラインとなっていまして、炎の赤をイメージカラーとしながらも日常使いがしやすい上、ダンジョンでももちろん十分な性能を持つ洋服となっています」


 ディスプレイに映し出されたモデルたちの姿によって、具体的なデザインなどが紹介されていく。そして、フレイヤの番がくる。


「フレイヤさん、先ほどご挨拶させていただきまして、とってもお美しくて、女ながらにドキドキしてしまいました」


 フレイヤは微笑んでそれに応える。


「フフ、それは魔法がまだ解けていないということですわね」


 そんな返しに会場が沸く。本人は、本当のことを言っている意識だろう。


「ところで、『Freya & Flame』ですが、どういった経緯で作ることになったんですか?」


 その質問にフレイヤが答える。


「それは、エバーヴェイルの剣士であり、ファッションが好きなマナが是非やろうと進めてくれたからなんですのよ」

「マナさんが発起人なんですね。えーと、マナさん、いらっしゃいますね。ぜひ、マイクを」


 マナは出るつもりがなかったのだろうか、慌ててマイクをもらう。いつも配信で見せている笑顔と勝手が違うのは、目の前に100人くらいの観客がいるからだろう。


「あ、はい。こんにちはー」

「こんにちは。マナさんはどうしてクランからブランドを起こそうと思われたんですか?」


 司会が時間を稼ぐように改めて質問を繰り返す。


「はい。ちょっと長くなるんですけど、フレイヤとはあたしが下着屋さんでバイトしている時にお客さんとして来てくれて出会ったんです」


 下着という単語にざわめきが起こる。


「その時からきれいな人だなーって思ってましたけど、次の日に偶然名古屋ダンジョンに向かうときに同じ電車に乗っていて、ギルド登録まで一緒についていったんです。そこからは一緒に配信を始めたんですけど、あたしがフレイヤの衣装を探したりしてお店をめぐってたんですが、とっても楽しかったんですよね」


 マナがフレイヤを見て、屈託なく笑う。


「そんな偶然から今では同じクランで活躍されているんですね。マナさんがフレイヤさんの衣装も見られていたというのも初めて知りました。配信を拝見したんですが、とってもかわいらしくて、かっこいい、そんな衣装ですね」

「いえ、そうですね。フレイヤだから何でも似合っちゃうんですけどね」


 そのコメントに会場から笑いが漏れる。


「でも、そのフレイヤに着てもらった服とかも、ダンジョン装備のラインに加わったらいいなーって思ったんです。それで、E&Sさんと話す機会があって、今回の話になったんです」


 すると、司会がフレイヤに質問を振る。


「フレイヤさん、そんな思いのこもった服はいかがですか? いろいろご覧になったかと思いますが、感想とか想いみたいなものがあれば教えてください」


 フレイヤは少し周りを見渡す。


「探索者は危険と隣り合わせの仕事よ。だからこそ、機能性を重視するのだけど、美しさを兼ね備えた装備があれば更に良いと思うわ。わたくしも、そんな美しさをもった装備で戦うことで、力をもらえてるわね。マナありがとう。E &Sさんも感謝しているわ」


 風間さんが思わず泣いている。フレイヤにフラッシュが浴びせかけられる。


「ありがとうございます。今着られている服もブランドの1つとお聞きしています。ぜひ、その場でくるりと回っていただいてもいいでしょうか」


 司会の言葉に合わせて、ゆっくりと回転する。そして、フレイヤのサービスだろう。少しポーズも決めている。先ほどからフラッシュの音が鳴りやまない。


「ありがとうございます。では、E&S展示イベントを終了としたいと思います。フレイヤさん、マナさんに拍手をお願いします!」


 拍手と共に、そわそわとしている観客が増える。サインの要求か、フレイヤに近づきたいという思いが見て取れる。


「では、フレイヤさんのご退場です」

 その時、みんなはバックヤードに戻るのだろうと考えていた。しかし、この後、別のイベントに出ることになっていたフレイヤは歩いて退場しなければならなかった。


「すみません。少し道をあけてもらえますか!?」

 スタッフが声をかけるが、その声かけで人垣が逆に決壊しそうになった。しかし、その時、フレイヤが宙に浮かび上がったのだ。


「皆様、失礼しますわ。マナ、先にステージに行くわね」

 フレイヤはゆっくりと上昇すると15mほど上空を歩いて去っていったのだった。

 みんなざわめいているが、カメラの音が同じく鳴りやまない。


 マナは気づいてしまった。望遠カメラが上を向いている。


「フレイヤ、パンツみえてるってば…」


フレイヤさん。移動ができればいいんですよの精神です。

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― 新着の感想 ―
さすがに衣装屋がついてて見せパン履かせないとか、ないないw 戦闘で動く想定で作ってるんだよね確か。 それなら一分丈スパッツくらい履かせるはず
空を飛べるってのはファッションデザインに革命が起きると思う。 当たり前だが普通の人間は空を飛べないので長すぎる裾は地面を引きずって見苦しいんだよね。 でもその制約から解放されるのならそれこそ下方向に孔…
また掲示板が大騒ぎに! そういえばマナはメルに飛び方を教えてもらったんでしょうか マッドワームの穴の時の
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