第20話 エバーヴェイルとギルド連携
ガームドさん無双がはじまります。
俺は俺3号、30代ひよりの姿(ひより女史と呼ぶかな)でいきなりだがガームド局長にハグされている。ガームド局長の力強い。ガームドさんって50代だったよな? きつい。
「フレイヤ、たすけて」
ステータス的に負けてるわけはないんだけど、がっちりとホールドされている。
「ガームドさん、ひよりが困ってるわよ? 離れなさいな」
フレイヤがサイコキネシスを使ったのだろうか、ガームド局長がクルクル回ってソファーに降ろされる。それさえも楽しんでいるようで、終始笑顔だ。
「すみません。こんなに興奮したのは久しぶりですよ! ハヤトさん!」
どうしてこうなったかを振り返る。午前中に挨拶をした後、名古屋ギルドで長い会議を終えてから、ガームドさんはエバーヴェイルのクランベースにやってきた。そこで、俺は、ダンジョンガイダンスの行商人モードの構想を説明したわけだ。その結果、目がランランとしたガームドさんにおもむろに抱きつかれたのだ。フレイヤのサイコキネシスによってソファに強制的に送られたガームドさんが、今度はホワイトボードの前に立つ。
「ダンジョンガイダンスの通信プロトコル開発時にもこんな発想は出ませんでした。マジックバッグの原理理解が低かったと今更ながら思いますが、亜空間に物質を入れることで既に容積や質量などの問題を解決してしまっているわけです。この機能を組み合わせれば、物を通信で送ることは確かに可能になります。でも、いや、だからこそ、その発想にたどり着かない。その二つは似て非なる技術です。マジックバッグは静的なもの、通信は動的なものと固定観念があり、魔道具に長年従事しているからこそ、たどり着けない。
その2つをどうつなぐのか是非教えてください。先生!そして、是非私を弟子にして下さい!」
そこまで言うとなんとガームドさん、土下座を始めた。
「やめてください」
俺がとめたが、土下座をやめない。30代くらいの女性に土下座する50代のドイツ人男性。どんな修羅場なの、これ。もし、エイジファントムを切って元のひよりの姿を出せばティーンエイジャーに土下座する50代男性。まるでお父さんが娘に謝る図みたいになってしまう。しかし、土下座をどこで覚えたんだろう思ったが、答えはすぐに出た。
「妻に聞いたんです、これが日本の最上級のお願いのスタイルだと!
お願いを聞いてくれるまでやめません! 是非弟子にして下さい!」
額を床につけて、ギルドの最上級の幹部が日本の最上級のお願いと考えている土下座をしている。俺は困り果てて南さんを見るが、南さんはその隣にいる天白さんを、そして天白さんは額を押さえて首を振っている。もしかして、ガームドさんってこういう人なんだろうか。しかし、天白さんがため息1つ吐いたあと、間に入ってくれる。
「ガームド局長やめましょう。彼女が困っていますよ。その開発協力については、エバーヴェイルさん側からも話がでています」
「そうよ。ひよりも魔装開発局と開発したいっていってるわ。だから、そんなに慌てなくても前向きな話をするべきよ」
ガームドさんが涙目で立ち上がる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ガームドさん、熱い人だった。天白さんが再びため息をついている。
「ホッホッホ」
俺1号が笑う。傍観しているおじいさんポジションに収まりやがったな。俺1号め、楽しやがって。
そこからは変なことになった。ひよりのペルソナに任せてガームドさんに講義をしている。それをガームドさんは真剣に聞いている。そして、技術の根幹に至ろうかというときに、ガームドさんが遮った。
「ここからは技術の根幹、その知財が絡んでくると思います。先生の権利について保護する必要があります。多分、まだ特許の段階ではないと思いますが、先に取るべきだ。私のスタッフは優秀です。特許申請を迅速に行い、そして、ギルドとのライセンス契約に移ってもらいたいです。
そして、可能ならばダンジョンガイダンス利用料の半分を受け取っていただきたい」
その時、静かにしていた秘書の方が何かを言い出そうとすると、ガームドさんが制止する。
「この件は記録に残してくれ。先生への礼儀として、エバーヴェイルとギルドの間にこれから築かれる協力体制のためにもな」
いろいろ決め事などをすっ飛ばしているような気もするが、この人が技術関係、とくにシステム関係のトップだったと思い出す。
「私はわかりましたけど…」
俺はちらりと笹木を見る。一応こちらのトップは笹木ということになっている。それを理解したガームドさんが笹木の方を向く。
「笹木さん、私は早急にこの件を実現したい。それをすることが人類の発展に欠かせないと考えている。是非了承をお願いします」
笹木は別に生えていないアゴヒゲを触るような仕草をしながら、
「ホッホッホ。了承しました。お金のことはまたぼちぼち決めるとして技術開発を進めるのが先決ですな」
いいとこだけ取った感じの俺1号だった。ガームドさん、なんか感極まって涙うるうるだよ。
そこからは早かった。ガームドさんはクランベースに泊まり込むと言い出し、俺はひよりとして研究開発をガームドさんと進めることになった。エイジファントムの効果が切れないか心配だったが、ひよりのMPならば自然回復があるため結構長時間保つことができる。ところどころ休みをとれば大丈夫だろう。
そして、なぜか先生と弟子という図式が成り立ってしまい、おじさんが俺を先生と呼んでくる。さすがに対応しきれず、俺はペルソナを立ち上げている。喋り方については、ひより女史の喋り方ができている。俺の意識が効いているのか、ペルソナがうまくやってくれているのかは、いまいち分からない。しかし、この難解な話に俺自身はついていけないから、お任せ状態だ。
「先生、亜空間通信との接続なんですが、このプロトコルではうまく行きません。魔道具間の同期がうまく取れないのが原因かと思いますが」
「そこは私のスキルで調整します。魔道具間は通常同期をとる仕組みがありませんので」
ひよりのスキル、リンク・アーキテクトを使ってみる。それは2つの魔道具間の機能を統合する生産スキルだ。
ダンジョンガイダンスの通信部と試しに作ったマジックバッグの投入部が直結されて稼働が始まっている。
「おお、確かに先生のスキルで繋ぐ事はできましたね。ただし、これでは先生しか作れませんね」
ガームドさんのいうことは分かる。スキルで俺が全部作るのは勘弁してほしいな。
「このスキルはできない事はしません。むしろ、どうやって実現するかのヒントになります。いまの魔道具の状態を確認してみて下さい」
ガームドさんが手元の計測器を使ってダンジョンガイダンスを見ている。
「これは!? この魔素の変位が再現できれば、同期が取れるという事ですね」
ひよりは頷く。中の俺はさっぱりだ。まぁ、できるということがわかってきたが。
そして、3日後、原理確認実験が成功した。実験用の単純なシステムを作って、マジックバッグからダンジョンガイダンスの通信、そして、別のマジックバッグへとつなげることが可能となった。
「これは素晴らしい! こんな短期間で世紀の発明ができるなんて、さすが先生です!」
ガームドさんは、ひよりを褒め称える。その後の動きは早かった。ガームドさんは特許申請の準備を始めてしまった。それも、ひよりの単独特許としてだ。
「先生の権利を何人たりとも侵害させません」
そんなに急いでいる理由をガームドさんに聞いてみると、
「ダンジョンガイダンスの行商人モードのコンセプトをギルドイベントで発表しましょう!」
えええ。あと一週間ほどしかないんだけど!?
ガームドさんはギルドイベントの責任者を呼び出し、その中身を調整を始めてしまった。
「大丈夫です。先生はどーんと構えておいて下さい。弟子の私が準備を進めますから!
それと、エバーヴェイルにくっつく悪い虫は私が退治しておきますから!」
悪い虫って何。しかし、俺はもう断れないと覚悟した。
悪い虫ってなんでしょうね。