第17話 ひよりと新たな研究
ひよりの無双(開発)が始まります。
俺は、俺3号。俺の中でも新参なわけだが、俺として誰が先輩だとかオリジナルだとかはピンとくるものではない。ただ、俺の目的として、ひよりが持っている技術を活用してチート級の魔道具を作り出すことを期待されている。俺は前職が研究者だったわけでもないため勘所がないわけだが、ペルソナを起動すると、ひよりが勝手に何かを考え出した。
「南さんからもらったこの動画、すごいね」
魔装開発局というギルド傘下の研究部門の紹介資料だった。それには、魔装開発局の来歴から研究部門、そしてその成果となっているものが整理されていた。どれが最も優れた研究なんだろうか。
「やっぱりダンジョンガイダンスのダンジョン内外をつなぐ通信が最近だと一番の発明さ。そして、配信ができるほどにタイムラグがない。これは電波じゃ解決できないよね。ダンジョンなんて広大だったり、洞窟みたいな閉鎖空間もあったりするんだからね」
ひよりが饒舌だ。フレイヤはけっこうポツポツと情報を漏らす感じだが、ひよりはオタク感がすごい。とにかく早口だ。
「そして、すべての基礎になっている魔石からの動力抽出なんかは、ギルドが無償公開したからこそ、今の世界があるといっても良いね。僕さ、魔装開発局と一緒に仕事したいな」
そんな事を言ってくるが、実際どうなんだろう。ひよりの技術は、マジックバッグ1つとってもかなりの物だと思うが、いまいち知らない世界のため判断がつかない。
資料を眺めていると、ダンジョン内での困りごとというページがある。どうやら、魔装開発局はニーズ先行で開発を進めるスタンスらしい。
「えーと、ダンジョン内のトイレ問題、安全地帯の確保、ドロップ品の選定が大変、下層にいくためのポーター問題、移動に時間がかかる…」
色々あるな。マジックバッグをトイレにつかうか? いやぁ、もったいないだろう。それに、ダンジョンってなんでか自浄作用もあって排泄物なんかも2、3日経てば消えてしまう。見られないようにするには、トイレ用のテントとかになるのか?
安全地帯の確保というのも課題だな。今は階層間の階段くらいが安全地帯としては明確だが、それでも完全に安全とは言えない。スタンピード時にはモンスターが通り抜けてしまうわけだしな。ドロップ品の選定が大変? まぁ、儲かる魔石とか、かさばるけど高く売れる武具なんかは持って帰るとして、それ以外は荷物になりそうならばもって帰らないことも多い。この辺は、ポーターの問題と一緒で、大量輸送、そして長い行程の問題だな。荷物を多量に持っていけるマジックバッグを量産することで、いろいろ解消しそうだが…。
「その解決方法だと一部は解決するけど、根本解決には程遠いさ。マジックバッグで食料を持ち込んで、帰りにマジックバッグで持てるだけのアイテムを回収して帰るという流れは、荷馬車で隣町に行商に行って帰りに持てるだけ商品を持って帰る形に近いね」
そりゃ、そうじゃないのか? 基本歩きのダンジョンだから、手軽に持ち運びできることは嬉しいじゃないか。
「嬉しいけど、ブレイクスルーというのはほど遠いかな。もっと、そうだね、空路での輸送くらいの画期的な方法があると良いと思うけど」
そんな事を言っても飛行機は中に入れないしなぁ。ドローンか?
「ドローン。そう、ダンジョンガイダンスを利用するのは正解さ。でも、例えに出した空路での輸送でも物足りない」
そこで思い出す、転送機?
「そう、転送機さ。でも、転送機を作るには、色々技術が足りない。人を安全に移動させるための技術がね」
なんだか回りくどい言い方だなー。
「しかたないさ。小次郎くらいにしか自慢ができないんだからね。もったいぶらせてよ。でも、これ以上焦らすのも可哀そうだね。答えを言うとね、ダンジョンガイダンスの通信に紛れ込ませて物を送ることができると考えてるのさ」
ひよりがホワイトボードにダンジョンガイダンスとギルドのサーバーをつなぐ経路をドロップ品が飛び交うところを描いてくれる。
まさか、そんなことができるのか?
「できると考えてる。もちろん試作は必要だし、色々と超えなきゃいけない技術課題もあると思うよ?」
これはギルドのビジネスを大きく塗り替える技術になりそうだ。スキル書の合成が探索者のスペックを上げるためのノウハウだとすれば、ダンジョンガイダンスでの物品の輸送は、ダンジョンからの算出量を倍増させるような技術かもしれない。
「ちなみに、これは双方向が可能だと思う。つまり、ギルド側からはポーション売ったり、食料品を売ったりする通販サイト的な使い方も可能になるんじゃないかな」
うわー。もう、これチートじゃん。
「おもしろいでしょ。魔法ってチートなのさ」
ひよりは得意げだ。
あぁ、途方もない。南さんに相談する前に資料化する必要がありそうだ。この考え方だけでは、多分技術は真似できない。ギルド側とライセンス契約すれば技術だけを盗まれるということもなさそうだ。そして、何より探索者が助かる技術だ。
そして、資料を作り上げていく中で、アイデア名が出てきた。
「ダンジョンガイダンス、行商人モード」
ダンジョンの最前線までついてきてくれる屈強な行商人。そんなイメージだ。いま、ダンジョンガイダンスの普及率は10%ほどらしい。そこまで奥地まで攻略する探索者がいないということもあるが、それほど利点がないというのが理由らしい。つまり、慣れた階層で常に狩るのならば、あまり問題にならない。しかし、アイテムの輸送や補給が簡単になるとすれば、話は変わる。いままでポーターにかかっていた費用なんかも回すことができる。
そうしてできた資料は翌朝には俺1号に見せた。スキル強化月間だとか言って、朦朧としていたが、この話をしたら飛び出していった。今日はギルド側にいる南さんに相談に行ったんだろう。そして、南さんが慌ててやってきた。後ろからは、のんきそうな俺1号。
「話は笹木さんからお聞きしました。当面、この話は外に漏らさずに極秘の開発としてください。4日後、魔装開発局の局長が来日しますので、その時に今後の方針について議論しましょう」
それにペルソナを起動し応える。
「極秘開発だね? わかったよ。それにしても魔装開発局の局長さんかー。僕会いたかったんだー。楽しみだね」
南さんがその返事に「しかし」と続ける。
「こんな発想どこから出てくるんですか? ダンジョンガイダンスは魔装開発局が15年かけて開発したものですよ。それを利用して、アイテムの転送をする装置を作るなんて普通考えないですよ。そもそも通信って物は運べませんし」
南さんは呆れているのか感心しているのか分からない様子だ。
「それは通信自体のイメージが物理的な電波を想定しているからさ。僕だって普通の物理ベースに考えていたら、その常識が研究の邪魔になってたと思うよ?」
ひよりのペルソナがそう応える。
「さてと、じゃあ、局長さんが来るまでに作れるところは作ろうかな?」
そこで俺1号、小次郎が口を開く。
「少し寝ろよ? 俺も人のことは言えないが、寝ないと良い仕事ができないからな。ひと眠りしたら俺の方の話も共有したいんだ。ちょっと俺とひよりの個人情報保護みたいなところで案があってな」
個人情報保護には興味がわかないが、ペルソナを切ってひと眠りすることにした。
これからどれくらい寝られるかわからない。寝てる暇もないくらい、作りたい衝動がこみあげてくるのだから仕方ないのだ。
読んでいただき感謝です。
そろそろ3章も終盤です!




