第15話 エバーヴェイルとE&S
16話をさきにアップしていましました(汗)
ただ、平行して進んでいる話ですので、単話で読める内容です(汗)
E&S(エッジ&スピアーズ)は服飾メーカーだが、成り立ちは特殊だ。もともとは、刀剣を扱うメーカーで防具なんかも扱っていた老舗だ。ダンジョンが現れてからは、ダンジョン装備を扱うメーカーとして大きくなり、さらにダンジョン内の装備が一般人受けをしたことで、服飾メーカーとしての色が濃くなってきた。アウトドア用品が日常使いになるようなそんな変遷をたどったメーカーである。マナは、ダンジョン装備にも可愛さを求めたりしており、E&Sはデザイン性も重視しているところで、好みはマッチしていた。
そして、今、E&Sのデザイナー軍団と、メルの姿の俺、そして、俺2号のフレイヤ、俺3号のひより、そしてマナという女性陣が、E&Sの工房の中で対峙していた。脇には南さんが立っており、抜群の安心感を醸し出している。
「今日はお時間いただきまして、ありがとうございます」
E&S側のデザイナーのボスである風間 さんが深々と礼をしている。背後のデザイナー軍団は、目がぎらぎらとしているが、かなり消耗しているような様子もある。
「エバーヴェイルの皆さまに対して、新ブランド『Freya & Flame』のご提案ができること、誠に嬉しく思います」
「風間さん、こちらこそありがとうございます」
南さんがそれに応える。
「とっても楽しみにしてました。フレイヤのブランド、ワクワクします!」
マナはとても楽しそうだ。
「では、こちらをご覧ください」
そういうと、工房の壁際のカーテンが開いていく。壁際にはいくつもマネキンがおいてあり、そこには試作品だろう服が着せてある。
これを2週間かそこらで作ったんだから、消耗するのも分かる。
「来月開催する会社の発表展示会にて出そうと考えています。買収の件と新ブランド立ち上げ、今後のロードマップなどもお話できればと考えています」
その服を一点一点、担当のデザイナーさんが紹介してくれる。なんか楽しい。メルの体のせいなのか、可愛い服を見るだけで心が躍る。
「かわいいの」
「ね、メルちゃんもそう思うよね。フレイヤってカッコイイのもいいけど、可愛いのもきっと似合うわ」
「はい、マナおねーちゃん」
フレイヤも楽しそうだ。深い赤に黒といった大人な色合いだが、レースが多く使ってあり、可愛らしさも十分だ。このレースは防刃仕様らしい。ちなみにひよりは工房においてあるミシンとか道具関係が気になるようで、そっちばかり見ている。
「フレイヤさん、一度着てみますか? こちらのものは試着できるようにしておりますので」
期待の目がフレイヤに向く。
「あの、よければ、他のエバーヴェイルの方々もご試着いかがですか? 『日常にダンジョンを』をコンセプトにしていますので、動きやすく見た目も華やかに作っております」
「あたし、着てみたいです!」
マナは即答。
「じゃあ、メルも着るの」
俺も挑戦してみよう。可愛いは正義を自分で実現してみせよう。
「わたくしも是非おねがいするわ」
フレイヤも可愛いは正義だろう。
「動き易いなら、僕も着てみようかな」
ひよりが照れながら言う。ちなみにひよりの姿はいつもの作業着みたいなダボっとした服だ。
「南さんもどうですか?」
そういわれて南さんは断固断った。
「そうですか…。残念です」
本当に残念そうな風間さん。南さんも似合うと思うけどなぁ。
そして、俺はデザイナーさん、アシスタントさん達に連れられて試着室に移動した。俺が着せられるのはワンピースだ。回復職っぽいデザインで十字柄があしらわれている。
ちゃっちゃと服を脱がされて下着姿にさせられる。周りに3人くらい女性がいるが、みんな真剣なせいもあって恥ずかしさはあまり感じない。服を着る過程で色々と確認しているようだ。そして、着用すると、おもむろに胸元に手が入ってきた。
「すみません。少し調整しますね」
ワンピースかと思ったが、何枚かの布に分かれているのか、アシスタントさんの手によって形が整えられる。ぐいっと胸が引っ張られる。ひぅっ。びっくりするだろう。
「はい。こんな感じです」
姿見を見ると、可愛い子が立っていた。メルは可愛いなぁ。
「どうですか?」
「とてもかわいいの」
そう言うと、みんながほっとした様子だ。
他のみんなが着終わったようで、先ほどの工房まで移動する。
「いかがですか? みなさん。とても美しく着こなしていただいていますが」
その場に現れた5人の女性に声をかける風間さん。
フレイヤは薄着が好きというのをマナから聞いていたのだろう。レースのショートパンツにタンクトップの組み合わせで、配色やディテールが魔女っぽい。ダンジョン柄を入れているからだろうか。胸の迫力は魔女級だしな。
マナはタック入りのショートパンツにハイネックのノースリーブだ。
そして、ひよりだが、フレアスカートにニットのトップスなんだが…。でかい。
「え、ひよりちゃん!? 胸…」
マナも反応する。普段男の子みたいな恰好をしているのに、胸が大きい。フレイヤ並みにあるんじゃないだろうか。
「いや、普段邪魔だから、さらし巻いてる…」
ひよりは着やせというよりは、そういうキャラだった。しかし、いつまで設定に引きずられてるんだ? もしかして、ペルソナつけっぱなしとかじゃないだろうな?
あ、製作のために、ほぼ起動しつづけているかもしれない。あり得る。
「さらしなんて良くないよ。ブラしよ? ね。おねーさんが選んであげるから」
がくがくとマナに肩をがっしりと掴まれて揺さぶられるひより。頷くしかない。
「分かったよ、わかった」
そんな一幕もありながら、試着は好評だった。主に俺に。だって、みんな可愛いからな。風間さんも満足なようで、よければ写真を撮らせてくださいと言って、アシスタントさんたちがガチのカメラを持ち出してパシャパシャととり始めた。
「あの、フレイヤさん、もしかして、フレイムビットでしたっけ、それを浮かべることはできますか? 服が燃えないようにしていただけるといいんですが」
フレイヤは二コリとして、2,3個のフレイムビットを浮かべる。その火に照らされて、雰囲気が出る。
「いいですね! こっちのアングルから、そうそう、これ!」
風間さんも一緒になって撮影を始めている。フレイヤは調子が出てきたのか、ポーズが大胆になってくる。グラビア撮影みたいになってるんですが、いいぞ、もっとやれ。
それを傍観していたひよりにマナが近づく。
「ひよりちゃん、ちょっとお化粧しよっか」
マナがそんなことを言い出すと、アシスタントのおねーさんたちが群がる。
「ちょ、ちょっと」
有無を言わさずに何かが出来上がっていく。
「え、これ、宣伝に使うとかじゃないよね?」
ひよりが抗議するが、周りの本気度に流されるしかない。
よし、この流れに俺も乗るか。
「メルもマナおねーちゃんと写りたいの」
そう言って即席の撮影会に飛び込んでいった。レフ板まで登場しているし、なんでもやれるんだな、ここの工房の人たち。そんなわけで、俺はE&Sとはいい仕事ができそうだなーと感じた。
そして、その翌週にはE&Sの買収が完了した。
フレイヤさんのブランド回でした。




