第13話 メルと辰巳夫妻
奥飛騨に温泉入りに行きたい願望が小説に出ました。
奥飛騨のペンション、その中で辰巳夫妻は小さくなっていた。前には、南さん、フレイヤ姿の俺2号、マナ、そして、メルに変身した俺だ。辰巳夫妻の後ろには金子さんが苦い顔でいる。
「すまねぇ。俺が悪いんだ。ちょっと調子に乗ってゴムを」
「ストップ!」
マナが止めに入る。
「メルちゃんはまだ未成年ですよ?」
中身は28だけどね。
「す、すまねぇ」
辰巳さんはさらに小さくなる。幸子さんはお腹を愛おしそうに抱えている。姿は幸子ちゃんだ。南さんが話を切り出す。
「ギルドお抱えの病院ならば、幸子さんの出産も秘密裏に可能かと思います」
そこで金子さんが口を開く。
「メルの嬢ちゃん、辰巳はもちろん、俺もエバーヴェイルの仕事を身を粉にしてこなすから、幸子の支援魔法を維持してくれないか」
俺としては何の問題もない。ギルドとのエージェントが絡まないことは南さんからも聞いている。天白支部長も話がわかる男だ。
「メルは問題ないの」
そう言う。南さんはニコリと微笑む。
「よかったですね。幸子さん」
幸子さんは目に涙を溜めていた。いつもの気合い爆発おばさんの様相は消え失せている。
「ありがとう。この礼は体で払うから。恩にきる」
辰巳さんがテーブルに額を擦り付ける。
「んー、でも、100億円なんて現実的じゃないですよね」
「クランに入ってもらってお手伝いしてもらうのは、いかがかしら?」
フレイヤがそう切り出す。何かと手が足りていないし、いいアイデァだと思う。
南さんがそこで提案してくる。
「準クランメンバーにすれば名前も公表されませんし、クランの実績稼ぎなんかはできますよ」
その後は細かな返済を決めたが、大した金額ではなかった。
「メルと同じくらいの子もクランに入ったから、仲良くしてほしいの」
と言うわけで、支援魔法を重ねがけして幸子さんを幸子ちゃんに保った。これから、時々支援魔法の重ねがけにくることになるだろう。
「これからよろしく頼む」
準クランメンバーの申請と承認は、南さんとフレイヤで実施できた。権限委譲とかあったのを最近知ったのだ。
「じゃあ、今夜は打ち上げですね!」
マナがはしゃぐ。フレイヤもそのつもりだったのか、ペンションの管理人にパーティの準備をお願いしていたようだ。
「このペンションは、露天風呂もあるんですよね?」
そう。温泉も引いてあり、ギルド関係者しか泊まれない施設とあり、特別感がすごい。
そしてその日は、そのペンションに泊まっていくことになった。
ペンションの厨房からいい匂いが漂ってくる。これは牛肉だな、飛騨牛に違いない。俺の、メルの腹が鳴る。そして、その時、ステータス画面がおもむろに開いた。
「わっ」
「どうしたの?」
驚いた声に気づいたマナが話しかけてくる。
「なんでもないの。少し部屋に戻るの」
そう言って俺はメルの部屋に向かう。俺が見たものは何か? それは…
◇笹木小次郎
レベル5
HP:203/203
MP:392/392
称号:ダンジョンスレイヤー
ユニークスキル: アバター▼
アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)
アバタースロット2(金城メル)
アバタースロット3(ハヤト)
スキル:ストーンスキン
レビテート
ドッペルゲンガー Lv.2
なんと、ドッペルゲンガーのレベルが上がったのだ。スキルのレベルというのは、使い続けたりすれば上がることがあると言われている。俺の場合、フレイヤがずっとフレイヤでいることでドッペルゲンガーのレベルが上がったのだろう。少し指折り数えてみると、ドッペルゲンガーにフレイヤ役をやってもらっている間に300時間くらいは経ったんだろうか。正確な時間はわからないが、目安として覚えておこう。そして、俺はドキドキしながら、ドッペルゲンガーを使ってみる。
「ドッペルゲンガー」
すると、予想通り目の前に俺が現れる。メルの姿ではなく、小次郎の姿だ。
「俺なの?」
「俺だなって、この下り、前もやったぞ」
つっこみも俺だ。これは、俺3号としよう。
俺は、俺3号を部屋に残して、俺2号が変身しているフレイヤを確認しに行く。すると、楽しそうに歓談していた。そっと俺は部屋に戻る。
「よし、一旦消すの」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺も楽しみたい」
そんなことを俺3号が言い出す。俺3号の言い分としては、おいしいものが食べたい、温泉に入りたいということだった。
「よーし、ここはひよりに変身だー」
俺3号が勝手にひよりに変身してしまう。俺はわかってしまう。こいつ、女湯に入りたいだけだ。うん、俺だから分かる。
あれ、そういえば、マジックバッグの製作にかまけて、ひよりのステータスを確認してなかった。俺は、ひよりのステータスを開く。
◇ハヤト
レベル200
HP:4120/4120
MP:5080/5080
スキル:リンク・アーキテクト
ストーンスキン
レビテート
リンク・アーキテクト…何だっけ? 複数の機能をまとめる奴だっけな。また、使ってみるか。しかし、ここでいきなり、ひより? いや、ひよりって、安曇野に帰省している設定じゃなかったっけ。
「ひよりがいるのはまずいの。ひよりは帰省中なの」
「ぐっ、僕だってみんなと楽しみたいよ!」
さすが俺だ。なりきりをもう始めてやがる。
「小次郎がいいの。小次郎は用事があるとしか言っていないの。用事が終わって駆けつけてきたことにすればいいの」
その後、自分会議が続いた。そして、
「じゃあ、じゃんけんしよ!」
ひより姿の俺がそんなことを言い出す。
「どっちが、女湯に入るか? なの?」
「そうだよ!」
そうして、メル対ひよりのじゃんけん対決が始まり、あっさりと俺が勝ってしまった。
「なんで僕はグーを出してしまったんだろう…」
打ちひしがれているひより姿の俺3号。
「じゃあ、一度解除するの。そして、外から来たように見せかけるの」
俺3号は仕方ないといった感じで頷くと、一度消える。俺はメルの姿のまま、そっと外に抜け出す。物陰に隠れてドッペルゲンガーを使うと、俺3号が現れる。
「では、小次郎の訪問といくの」
俺3号が現れるとフレイヤは少し驚くが、ドッペルゲンガーが増えたことに気づいたのだろう、すぐに表情が戻る。
「このワインおいしいわよ。笹木も飲んでみたらいかがかしら」
「こじにー、来れたんですね! わー、こんなにそろったの初めてじゃないですか?」
マナが喜んでくれる。そして、破滅の災禍のメンバーとは初対面のはずだよね?
「はじめまして。エバーヴェイルの代表、笹木小次郎です」
俺が少し悩んでいる間に俺3号が挨拶を済ませた。
「破滅の災禍の辰巳だ。こっちは妻の幸子。そして、金子だ。今回メルの嬢ちゃんには色々迷惑をかけた。あと、準クランメンバーに加えてもらったからには、ちゃんと働いて返そうと思う」
結構お酒を飲んでいたはずだが、辰巳さんはしっかりと小次郎に挨拶をする。
「いえいえ、問題ないですよ。それよりも、元気なあかちゃん生まれるといいですね」
そう小次郎が言うと、辰巳は後ろ頭をかきながら笑った。
宴会は徐々に人が抜け、だらだらと飲む男性陣以外は、みんなで露天風呂に入ろうという話になった。俺は今メルだから、もちろん誘いに乗っているし、もう脱いでいる。
「フレイヤって、本当にすごいスタイル」
脱衣所で一斉に脱ぎだしているが、フレイヤはボンキュッボン。幸子さんとマナは、出るところは出ていながら引き締まった感じ。南さんとメルは、彼女たちに比べると細身と言える。まだメルは成長過程だからな。成長ってあるのかは分からないが…。そういえば、ひよりはどうだったか。そういえばひよりで脱いでいないな、今度確認しておこう。それにしても、俺3号にじゃんけんで勝ってよかった。目が幸せだ。
「さぁ、ここの温泉は美肌で有名だからゆっくりつかりなよー」
すっかりと元気になった幸子さんだ。どうやら、お腹の赤ちゃんが自分のせいで死んでしまうかもと思っていたらナーバスになって、最近、ご飯がのどを通らなかったらしい。でも、メルの支援魔法ですっかり元気になっている。よかったよかった。
「どうしたんだい?」
俺の視線に気づいたのか幸子さんが俺を見る。
「ううん、赤ちゃん楽しみなの」
俺の答えに優しい笑顔。
「本当にありがとね。この歳でまた産めるなんてね。メルちゃんのおかげだよ」
未成年のママみたいな風貌なので違和感しか働かない。そこで、洗い場で髪を洗い始めた南さんが訊ねてくる。
「そういえば、幸子さんのお子さんたちって全員探索者なんですよね?」
それに幸子さんが「そうだよ」と答える。
「みんな、主に関東方面で活動しているから、なかなか会ってないわね。ここに居ることを伝えていないし」
若返ってからは奥飛騨に軟禁されているから会うこともできないということか?
「誓約書を書いてもらうことになりますが、ご家族と会うことはできますよ?」
南さんが助言をすると幸子さんが、ぱっと笑顔になった。
「本当かい? じゃあ、お願いしようかね…」
そんなわけで、幸子ちゃんの姿をお子さんたちが見たらどうなるだろうな。ちょっと見てみたい気もした。そんな考えは後日送られてきた家族写真で達成された。辰巳さんが撮ったんだろう写真には幸子ちゃんによく似た3姉妹が写っていた。さらに言うと幸子ちゃんが一番若くて、4姉妹に見えるという状況だった。
辰巳さん、娘より若い奥さんに何してるんだよ、ほんと。
小次郎の姿でいることが罰ゲームみたいになりがち。




