第1話 アバターとドッペルゲンガー
第3章が始まりました。
俺がドッペルゲンガーのスキル書を使ったことで、独立した俺が2人同時に活動できるという状況になった。ドッペルゲンガーを使うとき、MPは最初だけで、継続的な減少などは存在しない。どれくらいの継続時間があるかまでは検証が必要だ。
こういうわけで、今まであった俺が1人3役をこなすのが大変だという問題だが、2人3役にまで緩和され、効率はすごく上がっただろう。
その時、俺2号が俺の部屋にやってきた。朝7時に来るように連絡していたのだ。もちろん、フレイヤの姿でパジャマだったりする。可愛いな、おい。
「けど…、着替えてこいよ」
「いいじゃないの。気にする仲じゃないわよね。わたくしたち」
マナに聞かれでもすれば、誤解は必至だ。
「おいおい。悪ふざけはよしてくれ」
なんか、おかしな気分だ。結局、深夜まで寝付けなかったのだが、新しいスキルの検証のためか目が冴えている。
「わかったわ。それで、アバターとドッペルゲンガーの相性とか調べるんでしょう?」
「ああ、そういうことだ」
まずは、ドッペルゲンガーが解除されず、今朝までフレイヤのアバターが解除されていないことを見ると効果時間の長い魔法だと分かる。どれくらい効果時間が継続するか気になるが、その他のことも色々と検証する必要がある。
今検証できることは5つかな。
1)オリジナルの俺とドッペルゲンガーの俺2号が、同時にアバターが使えるかどうか
2)ドッペルゲンガーでコピーした装備は使える? 体から話すと消える?
3)ドッペルゲンガーが持った物は、ドッペルゲンガーを消した時に一緒に消えるのか?
4)ドッペルゲンガーは自分の意志で解除できるのか?
5)ドッペルゲンガーのステータスは?
ドッペルゲンガーの効果時間などは、時間を掛けて調べるしかない。
「えーと、まずは、俺がフレイヤになれるかどうかだな」
すると、オリジナルの俺はフレイヤに変身することができた。俺2号のフレイヤも健在だ。
「これで、フレイヤが2人だな。装備も同じ。ドッペルゲンガーって服もコピーされるんだな。じゃあ、メルになれるか?」
そういうと2人ともメルになった。服装も同じだ。
「じゃあ、一旦俺にもどろうか」
俺自身が2人で向かい合う。その時、俺たちの服装が違うことに気づく。俺がパジャマなのだが、俺2号は昨夜着ていたTシャツにジーンズだった。
「装備はドッペルゲンガーを使ったタイミングのようだな」
俺2号が自分の装備を見て確認する。
「確かに。フレイヤに変身したタイミングの状態が保存されてるんだな。これは検証項目としてあげてなかったようだが、1つ分かったな」
「じゃあ、そうだな。何か手から離してもらってもいいか?」
俺が俺2号に言うと、スマホを机に置く。しかし、スマホは消えない。
「ちなみにそのスマホは使えるのか?」
「んー、おっ、普通にギルドのポータルサイトが見れる」
ドッペルゲンガーすごいな。こんな複雑なものもコピーするのか。
「じゃあ、スマホをまた机に置いてもらってから、一度消えてもらうぞ」
「ああ」
俺はドッペルゲンガーを消した。すると、昨日の夜、俺2号が俺とキスしたことを反芻して、ゴロゴロとベッドで悶えていた記憶が蘇る。蘇るというよりは、記憶を共有した感じか?
「そして…、スマホも消えたな」
やはり、魔法的なコピーだったようだ。再び俺はドッペルゲンガーを出してみる。俺2号は、現れたとたん、手近にあるタオルを手に取った。説明もなく動けるのは、さっきまで考え続けてきた俺からコピーされたからだろう。
「タオルは…首にでも巻くか。よし、巻いた。また、解除してみてくれ」
俺は、俺2号に言われてドッペルゲンガーを解除する。
「ん? ない」
タオルがどこにもない。ふわっと落ちて消えるとか、そういうことを想定してんだが、ドッペルゲンガーと共に消えてしまった。
「再度、ドッペルゲンガーを出すか」
そして、改めて出した俺2号は、タオルを巻いていなかった。
「タオルが消えたな」
「そうだな。ないな」
タオルだから良いものの、これが貴重品なら危険だな。
「仕方ないな。タオルのことは後で調べるとして、自分で解除はできるか?」
「んー、ドッペルゲンガー解除!」
ふっと俺2号が消えた。できるな。俺は再度、俺2号を呼び出す。
「タオルは消えたな」
ドッペルゲンガーも消えたことを認識している。じゃあ次の項目。
「ステータス画面はどうなってる?」
俺2号が中空を眺めている。
「俺の名前の横にドッペルゲンガーと書いてあるな。俺がどちらなのか、これで分かるか。んー、そういえば、こちらにはスキルのドッペルゲンガーが表示されていないな。ドッペルゲンガーが無限増殖はできないわけか」
目線が動き、ステータスを確認しているようだ。
「あれ? なんだこれ、おっ」
何かを見つけたようだが見えないのでもどかしい。
「何があったんだ?」
「これだよ」
俺2号の手にはタオルが握られていた。それは、さっき無くなったタオルだった。
「インベントリというのができているんだけど、そこに入ってた」
俺も自分のステータス画面を見る。確かにインベントリなる物がある。これは、まさか、マジックバッグ的な何かか?
俺2号も同じ姿勢で首を捻る。
「スキルの進化的な何かなのかもな。使い方も調べていこうぜ」
調べたことをまとめてみるか…。
1)オリジナルの俺とドッペルゲンガーの俺2号が、同時にアバターが使えるかどうか
結果:使えた
2)ドッペルゲンガーでコピーした装備は使える? 体から離すと消える?
結果:使えるし、消えない
3)ドッペルゲンガーが持った物は、ドッペルゲンガーを消した時に一緒に消えるのか?
結果:一緒に消えるが、インベントリに加わる
4)ドッペルゲンガーは自分の意志で解除できるのか?
結果:解除できる
5)ドッペルゲンガーのステータスは?
結果:個別に出る
インベントリは、ドッペルゲンガーのアバターでも同じく使える。消えた時に、インベントリに格納されてしまう。そして、本体の俺から取り出すことが可能だ。
これ、離れた場所からでもできるのか? もし、できたら簡易的な転送じゃないのか?
なんかチートが1つ増えた感じがする。入る物の大きさに関してだが、ベッドが入った。ただ、入れ方がよくわからない。ドッペルゲンガーを解除したとき以外も使えるならいいんだが。
そんな内容をメモにまとめていると、俺2号がおもむろにフレイヤに変身する。腕を組みながら悩ましげに話し出す。あー、ほんと美人だな。
「そういえば、昨日のキスをマナに見られたわよね。あれ、なんて言っておけばいいかしらね」
忘れるところだった。さすがフレイヤというか俺。
「それなら、目にゴミが入って見てもらってたとか、そういうことにして誤魔化すのはどうだ?」
「それで、いけるかしら。でも、やるしかないわね」
そんなわけで、第一回自分会議は終了した。
「腹減ったな、飯でもいくか。マナがいるなら、誘ってみるか」
ドッペルゲンガーの効果時間を測るためにも、俺2号にはこのままフレイヤで居てもらおう。
「服を着替えてくるわね」
そう言って部屋の外にフレイヤが出ていくと間が悪いことに、マナがいた。
「あ、え、えと、ごめんなさい」
マナが走り去っていった。それを見ていたフレイヤが肩をすくめる。
「手遅れかしら?」
「いやいや、誤解を解こうよ」
でも、朝に部屋からパジャマでフレイヤが出てきたのは、どう説明するかなぁ。
ドッペルゲンガーの検証回でした。これで、活動の幅が広がりますね!
※9/24にドッペルゲンガーがドッペルゲンガーを使えないことを追記しました。
すぐ後で出そうと思ったんですが、書けるイベントがなく、先延ばしになるのでここに書き加えました。




