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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
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第4話 フレイヤと講習会

ギルド登録といえば、からんでくるMOBキャラですね。

 受付嬢がギルドカードと小冊子を差し出してくる。小冊子には、探索者の方へと印字されている。ハンドブックは、高校生の時に読んだため知っている。


「こちらがギルドカードとなります。紛失した際は、再発行可能ですが、料金がかかります。では、講習に参加いただいた後、ダンジョン入場の正式許可となりますので、早いうちに受講をお願いします。受講料は無料となっています。本日の講習ですと13時に開始しますので、ご参加をお願いします。予約は不要ですが、人数が超過した場合は参加できない場合がありますので、ご了承ください。

 では、どうぞ」


 ギルドカードは、金属製でドッグタグのようだ。チェーンまでついている。まさに、そういった使い方をするわけで、中にはチップが入っている。そんな中、愛美ちゃんが、時計を見比べて何か考え事をしている。


「フレイヤさん。講習会で説明もあるんですけど、ここのお店で防具とか見ませんか? かわいいお店知ってるんです。絶対似合うと思うんです。講習会まで時間もあるし、よかったらごはんなんかもどうですか?」


 圧がすごい。声が小さいほうなんだが、声が高いせいか、周りからも注目されてしまう。男性が多い中、私服の女性二人は目立つのだろう。俺は美貌もそうだが、惜しげもなくへそと生足を晒しているし、愛美ちゃんもへそ出しだ。


「わかったわ、行きましょう」


 あまり注目されるのもなんなので移動するか。その時、目の前に大きな影ができる。


「おいおい、ねーちゃんたち。そんな恰好でナンパ待ちか? おれ、結構稼いだからよ、うまいもん食わせてやるよ。夜までつきあってくれよ」


 皮と金属でできた鎧を身に着けた大柄の男が現れた。2メートル近い体格で、腹もでかい。レスラー体型で手にはこん棒を持っている。肩パットをつけていれば、デストピア系の漫画にでてくるモブに近い。赤ら顔と漂う臭気で、かなり酒を飲んでいることがわかる。

 周りは少しピリッとした雰囲気になる。それなりの実力者なんだろうか。そんな危なげな奴に絡まれているが、フレイヤとしての心は思った以上に冷静を保っている。いつもの俺ならちびってもおかしくないのに、すらすらと言葉がでる。


「遠慮するわ。今から女子会なの」


 俺がそう答えると、いらっとしたのか。


「けっ、なんだよ。おれがせっかく誘ってやってんのによ。なー、いいじゃん」


 そういって鼻の下をのばしながら、こちらに手を伸ばしてくる。その手は胸のほうに向かってくる。こうなったら、胸でも触らせて痴漢の現行犯としてつかまってもらおうか。そんなことを考えたが、ここに警察が出てくるとやっかいだ。俺、身分証はギルドカードしかない…。そんなことを考えていたせいか、かわすのが遅れてしまい、むんずと胸を掴まれてしまう。

「きゃっ」と俺じゃなく、愛美ちゃんが悲鳴をあげる。

 そこには快感などはなく、寒気が全身を駆け巡る。脊髄反射なんだろうか、おもわず俺のジャブが男の腹に刺さり、男の大きな体をびくりとゆらした。速度と重さが半端ない。こぶしが見えたものはいないんじゃないだろうか。このアバター、魔法系じゃないんかい…。

 そして、一瞬にして意識を失った男がひざから崩れ、床にうつ伏せで倒れ伏す。尻を突き出してなんとも滑稽な様子だ。

 掴まれた胸を手で何度も払いながら、愛美ちゃんの手を引っ張ってギルドを去った。ちらりと見えた男の口からは、汚いものが溢れている。


「酔っ払って粗相をするなんて汚らわしい。もう話しかけないでくださる?」


 これで、泥酔した酔っ払いがナンパ中に気絶するように眠ってしまったというシナリオが成り立つだろう。たぶん。

 ただまぁ、呼吸音も聞こえるし、死んではいなさそうで、探索者が丈夫なのが分かった。ただ、今後手加減もしっかり覚えていかないと死人が出かねない。

 プイっ横を向くと愛美ちゃんがどうしたものかと固まっている。この男の掃除が終わるまでは、愛美ちゃんと買い物にでも向かおう。ギルドの人、ごめん。逃げます。



 ギルドを抜け、ショッピング街に差し掛かったあたりで愛美ちゃんが言ってきた。


「あの、もう大丈夫ですよ。フレイヤさん」


 愛美ちゃんが心配してくれたのか声をかけてくれた。足早に去ったのを怖かったからと感じたのかもしれない。そのシナリオに乗ってみるか。


「ひどい酔っ払いもいたものね…。ギルドっていつもああなのかしら」


 目を伏せがちにいうと、愛美ちゃんが、いつもはあんな輩は居ないとか、今度いい人を紹介しますとか、いろいろとギルドをかばっていた。しかし、高価なドロップ品を引き当てた探索者の中には、ギルドの近くで酒盛りをして泥酔するものも多少なりともいるそうだ。いつ死んでも仕方ないような探索をしている者の中には、宵越しの報奨金はいらないとか、そんな風潮があるらしい。

 

 そこからは愛美ちゃんが元気づけてくれる感じで、あちこちの装備を見に連れて行ってくれた。


「ところで、フレイヤさんって、どんな探索者を目指しているんですか? あたしはこれでも剣士なんですよ。ただ、剣って手入れが大変で、あまり儲からないんですよね」


 長物は剣だったようだ。


「私は魔法よ。炎の魔法」

「え、魔法のスキル? スキル書がとても高いアレですよね。もしかして、ネイティブで魔法が発現したんですか? どっちにしても、うらやましい…」


 ダンジョンが生まれ、ステータスが全人類に見えるようになった時、最初からスキルや魔法を所持している人が稀に出てきた。彼らは、その力を使ってダンジョン攻略を進めてきた。その過程で、モンスターのドロップ品や宝箱からはスキル書と呼ばれるものが獲得できた。スキル書を使うことで、新たなスキルを獲得することができる。ただ、こちらも希少なもので、よく出る身体強化のスキル書でも100万円はくだらないものとなっている。

 企業所属の探索者はスキル書の支給などを目当てに就職することがある。


「でも、ちゃんと使ったことがないわ。だから、今日ダンジョンで試したいのよね」

「いいと思いますよ。私もついていきます。さっきみたいな人もいるかもしれないし」


 愛美ちゃんと居るほうがナンパ男は寄ってきそうな気がするが、それは言わない。そこからは、探索者装備の話になる。


「魔法系なら、がちがちに固めるよりも、素早く逃げられる方がいいですね。遠距離から倒しきれないと、どうしても逃げないといけないですし」


 それからは愛美ちゃんの見立てでダンジョン用の装備を揃えていった。講習会でもその手の話を聞くそうだが、すでに用意して参加する方が多いらしい。ギルド近くは、探索者向けの店も多く、その中でも女性ものが多い店に行って愛美ちゃんチョイスの難燃性の服を手に入れた。ぱっと見、探索者とはわからないが、作りがしっかりしている。靴もちゃんとしたものを購入した。さすがにサンダルはよくないだろうという話だった。


「このラインは見た目が、無骨じゃないのがいいんですよね。多少お値段かさみますけど」

 10万円は超えてきているが、アウトドアの趣味を始めたと考えると、安いほうかもしれない。まぁ、これで、いよいよ残金が10万円を切ってきたが…。ここで魔石をがっぽりと稼がないと、露出度高めでMu-tubeに出ることになってしまう。



 そのあと、愛美ちゃんのおすすめのレストランで昼食をとり、講習会に参加した。愛美ちゃんは、着替えてダンジョン1層で狩りをするとのことで、このタイミングで別れた。とはいっても、講習会後に再び会う予定なんだが。

 

 講習会はギルドの会議室で行われた。映像と実物を交えて説明する場のようだ。高校生のときも講習会には参加した。そこで出たモンスターに食い殺された探索者の映像とかを見て、俺は絶対に探索者にならないと決めたんだが、こうして舞い戻ってきた。

 講習会は、職員のおじさんが行っている。


「であるからして、探索者は危険を察知する能力が必要となります。その知識を補うのが、ダンジョンガイダンスです。ダンジョン内のモンスターなどを判別し、危険度などを教えてくれます。AIのレベルによっては攻略法などを適宜教えてくれる優れものもあります。とても有用なものですが、費用が高いため、初心者の方は所持していないことが多いです。ちなみにリースで1日から貸出というのも可能です」


 ダンジョンガイダンスは最初こそヘルメットにつけるカメラみたいな構造だったものが、今では自律的に飛行しついてくるドローン型の補助ロボットという位置づけになっている。トップランカーと呼ばれる探索者は、配信機能も持ったダンジョンガイダンスを引き連れてダンジョン深部に潜るそうだ。ダンジョン深部になってもなぜか通信が途絶えることはない。このダンジョンガイダンスは、純粋な科学技術ではなく、ダンジョン産の技術を使っているためらしい。詳しいことはわからない。


「ちなみに、ギルドでは旧型のものや、スマホ内臓型のアプリなども提供していますので、お試しで使いたい方は、そちらを利用してみてください」

 

 俺が持ってきているカメラはダンジョン内の配信はできない。動画撮影は可能なので、とりだめて編集するか。いつかは、高級なダンジョンガイダンスをゲットしたいところだ。講習は武器や装備の説明、ダンジョン内の構造や非常時の対応など生きる術が密度高く詰め込まれていた。数人が講習を聞いているわけだが、俺のことをやたら見てくる男ども。気持ちはわかるが、もっと集中しろ。ほんとうに。

 女性が俺しかいないというのもあって名指しで講師からの注意喚起が入る。


「フレイヤさん、ダンジョン内で女性が襲われるという事件も少なからずありますので、パーティを組むなど自己防衛に努めてください。

 ダンジョンガイダンスによる配信は、防犯になるとも言われていますので、是非導入を検討してくださいね」


 今日みたいなことがあると説得力があるなー。今日みたいなことがあったから名指しなのかもしれないが。


「次に、ギルドでは探索者の方をレベルではなく、貢献度によってランクを設定しています。GランクからSランク、貢献度が高い方がSランクとなります。Gは一般人レベルという意味です。みなさんは、Gランクからの開始となります。魔石の販売数やギルドからの依頼によって徐々に上がってきますが、強さの指標でもあります。より強いモンスターを倒し、その魔石を入手された方は自ずとランクが上がっていくといった仕組みです。ダンジョンへの入場階数などの制限に影響しますので、ランクをあげていくことをお勧めします」


 ちなみに、この話も愛美ちゃんとはしていて、彼女はGから1つ上がったFだそうだ。こつこつとスライムから得た魔石で、週1くらいの探索では上がり方が遅いらしい。


 講習会が終わり、ギルドカードをカードリーダーに通すと、受講完了でダンジョンに入れる状態になった。


「あの、よ、よかったら、この後、初ダンジョンに、い、いきませんか」


 大学生だろうか。会議室から出ようとした俺に声をかけてくる。大学生の仲間らしい子たちが遠巻きに眺めている。そこにタイミング良く愛美ちゃんが現れる。


「はいはーい、ごめんなさい。フレイヤさんは、先約済みでーす」


 にこやかに俺の手を引っ張ってくる。俺は勇気を出した大学生にエールを込めて、手をひらひらと振った。


「ごきげんよう」


 大学生は複雑な表情で手を振替してきたが、友達らしき男子達に、『勇気あるなお前!』たか『ジュースおごってやるよ』とからかい半分、ねぎらい半分のようだ。


お読みいただき感謝です。

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