第14話 名古屋ギルドとエバーヴェイル
ギルドの監視の目が強まってきましたね。
支部長室に南がいて電話を掛けている。
「どっきりではないです」
南は相手が理解ができるのをゆっくり待った。そして、また追って連絡するといって電話を切る。
その電話を傍で聞いていた天白が笑っている。笹木が驚いただろうことを面白がっている。
「24階のプラチナフロアを気前よく貸したのはこういうことだったんですね」
「ああ、130億円の20%で26億円。今回の取引だけで、名古屋ギルドにそれだけ入る。こんなに稼ぐクランは名古屋ギルド始まって以来だよ?
まさに金の卵を産むガチョウだね。あー、今のは印象が悪いね、取り消しで」
南も計算したので分かる。
「ちなみに君にはインセンティブが2600万円入ることになるよ? おめでとう。家でも買ってみたら?」
こちらも計算済みだが理解し難い金額になっている。あっさりと年収を追い越してしまった。受付嬢が人気の職なのはこのためだったのだろうと改めて理解した。
そして、天白は椅子に腰かける。
「じゃあ、少し真面目な話をしようか」
天白は人懐っこい笑みをひっこめて、南にも椅子に掛けるように促す。手元にあった端末の画面を南に見せながら話を始める。そこには、エバーヴェイルの調査資料が映っていた。
「すでにエバーヴェイルは、ギルド上位から監視レベルが10段階の8に移行している。
笹木の能力などは不明。あ、ストーンスキンを使うことは分かっているが、特に強いか弱いかはわからない。その素性自体は、須藤愛美と同様に明確だ。平凡な家庭に生まれ、会社が最近倒産。須藤愛美とは幼いころに剣道の道場で接触があったようだが、その後は特になし。最近になって合流したとしか思えない」
しかし、天白は、この2人だけならば何の問題にもならないと笑う。
「特別なのは、フレイヤにメルという既存のスキルよりも強力で未知のスキルも使うメンバーだ。ただの大型新人じゃなく、その身元や戸籍が不明な点だ。フレイヤに関しては幼いころに亡命という話だったが、ギルド側の記録をみても何もなかった。可能性はいくつかあるが、ダンジョン側の人間か、誰かが偽装して身元を隠しているのか。そのあたりは想像の範囲だね。
ちなみに金城メルは笹木の同意書でギルド登録したタイミングから追跡している。そして、すぐに高山ダンジョンで頭角を表した」
その話は聞いている。受付嬢の仲間内でも、登録直後の新人に指名依頼がいくのはおかしいと話題になっていた。天白が手を回していたのかと納得する。
「すこし強引だったが、素晴らしい宣伝になったよ。鵜飼には悪いことをしたが、ちょっと映像を使わせてもらってね」
サメジマンこと鵜飼さんは富士山ダンジョンでの映像を公開配信していないと弁明していた。厳重注意だけで済んだのは緊急時での混乱のためだったのかと理解していたが、それも天白の仕込みだったわけで腹黒いなと南は思う。ギルドは公益のために運営される団体だが、その構成員までは公明正大な人物とは言えない。ギルド間を競わせるようなノルマがあり、実際は利益を求めることが原因だろう。
「いい宣伝になったが、強烈すぎたね。不老不死に関わる能力は、ギルドの監視レベルを4つも上げたからね。ギルドの上層部でも聖女と呼んでいるよ」
強烈な若返り映像のせいで若返りの熱が過熱し、その後、その熱が暴発しないように、時間制限などの偽情報を流したのだ。メルの身を危険に晒しながら、それを守るために動く。マッチポンプだと南には思えるが、メルが規格外のスキルを持っていたことは間違いない。涼しい顔で話している天白も右往左往した場面もあっただろう。
「監視の目が届きやすいプラチナフロアに入ってくれたし、落ち着いて彼らの実力を測れるよ。あ、部屋に監視カメラとかは仕込んでいないよ。見つかってこのギルドを見限られると大損だからね。
さて、彼はきっとまだ色んなネタを持ってるよ。仲間もどこから呼んでいるか分からないけど、笹木の同意書で追加されたら要注意だね」
そんなポコポコ、生まれ出るようなものではないだろうと思うが、底が知れないのは確かだ。ただし、こんな腹黒にいいようにされるのは可哀想だと思う。
「私はどう動きましょう。より近くでエバーヴェイルさん達と関わるのがいいと思いますが」
天白がニヤリとする。
「あぁ、君は心得ているね。その指示をしようと思ってたんだ。エバーヴェイルに出向して事務方を担ってみないかい? きっと笹木は手が足りなくて困るはずだしね。あぁ、インセンティブは維持してあげるよ。どうだい?」
質問という名の命令じゃないのかと反発したい所だが、ちょうどいいポジションかも知れない。エバーヴェイルは配信もやっていたり、お金の出入りが激しいわけで、それらの整理をするだけでも助かるだろう。
「わかりました。笹木さんとのお話はどうしましょうか。こちらで進めておいていいですか」
「あぁ、任せるよ。前例はいくつかあるから、似たケースを当てはめてみてよ」
天白は端末を自分の方に戻す。
こうして数日後にはクラン専属窓口という形式でありながら、エバーヴェイルの事務方にもなった。エバーヴェイルからはギルドに報酬を支払う形になっており、南は今まで通りギルドから給料を貰うことになる。その書類自体も南が用意した。ちなみに、ギルドの業務は多くがAIで自動化されており、南が一生懸命書いた訳ではない。
南が事務方に入ったことで笹木は人材が確保できたと素直に喜んでいた。スパイのような位置づけの自分を素直に喜んでいる笹木が可哀そうにも微笑ましく思った。腹黒な天白よりも笹木の方が男性としては好きだなーと思ってしまう。
「まずはどうしましょうか。クランの運営についてまとめたものはありますが」
「ありがとうございます。えーと、まずは口座とか税金対策とかその辺ですかね。メルやフレイヤの稼ぎをクランの収入にしてしまって、経費を使う形にしたいんですけど」
「あー、その辺は、ギルド口座とクラン口座の設定ですぐにできますよ。クレジットカードとの紐づけも簡単です。その辺、テンプレ化してるので。でも、本人が必要なので皆さんが来られた時にやる必要がありますね」
笹木は驚いている。
「あー、じゃあ、家具、そう、フレイヤとメルの家具をお願いしたくて」
そんな会話の結果、南がエバーヴェイルの事務長になって最初の業務はフレイヤとメルの家具購入となった。一人しかいないから事務長も何もないんだが…。
次に、笹木が買ったというガラクタが次々とオフィスに送られてくるので、それを並べる棚を整備したりしていた。
「こんなもの、どうするの?」
その手にはいつかフレイヤがスキル書の合成について書いてあると言った板が握られていたのだった。
南さんという有能な人がクランに加わりました。よろしくお願いします!




