第9話 メルと美容界
美容界の期待の新星ですね。
俺はホテル「竜の巣」で目を覚ました。メルの姿で寝たためにキングサイズのベッドはめちゃくちゃ広く感じた。
装備を引き取りに来ると言っていたギルドの職員との待ち合わせは昼になっているので、それまではゆっくりとすることができる。
「さて、朝ごはん食べるの」
メルは結構食べる。昨日のBBQの時にも気づいたが、普段の俺よりも食べているんじゃないだろうか。俺は普段着に着替えて展望レストランに行ってみる。さすがにダンジョン探索用だと目立つ。展望レストランからは富士山が見える。見晴らしのいい席が空いていたので、確保してビュッフェをとりに行く。3巡目くらいになったところで、見知った顔を見かける。
えーと、パパ活女子かと思うような2人だ。熊っぽいおじさんと、スタイルのいい若い美女の幸子さん。でれでれした辰巳さんの顔は緩み切っている。
その背後からなんだか疲れた様子の金子さんが歩いてくる。金子さんがこちらに気づいて横に座る。何故か、辰巳さんたちとは別の席となる。
「おはよう」
「おはようなの。具合悪いの?」
金子さんはふぅと一息つく。
「いやぁ、辰巳のやつがな、いや。まぁ、ちょっと熱いカップルにあてられただけで問題ない。ちょっと寝不足というか。まぁ、嬢ちゃんには早い話だ」
そういうとビュッフェに食事をとりに行く金子さん。その日、ヘリ移動ではなくギルドの用意したバスでの移動となったが、少しやりたいことがあるので俺は竜の巣にもう2泊することに決めた。
「メルちゃん、名古屋に戻ったら連絡おくれよ」
帰り際に熱々のカップルというよりもパパ活美女感のある幸子さんが声をかけてくれた。
ギルド職員にも装備を返却する。ギルドのおじさんは何度もお辞儀をしながら丁重にケースに収めていた。
その後、ホテルの部屋で一度、小次郎に戻った。そういえば忘れていたことがある。メルのクランへの加入申請の承認だ。スマホは身につけているので、変身している間、スマホには電波が通じていないらしい。まぁ、時間も経たないようだし、仕方ないだろう。小次郎にもどった途端にスマホの通知などが一斉に鳴り始める。この分だと、フレイヤも色々メッセージがたまってそうだな。だが、まずは俺のスマホだ。
「えーと、うわー。クランの申請数202? まじか。まずは、メルの申請を承認してっと…。マナからのメッセージもあるな。みんなで一緒に飲み会がしたいのか…無理。WEB飲み会…いやぁ、無理だな。酔っ払うと切り替えでミスしそうだ」
とりあえず、クラン参加申請は一斉に却下して…。申請者には悪いが、今は入れている余裕はないんだよな。マナとの飲み会はちょっと保留にしよう。よし、他は特に目立ったものはないかな。DMが多くて困るんだよな。
次はフレイヤだ。
「アバター、フレイヤ」
フレイヤの姿になると胸の重さを感じる。もちろん、メルも小さくはないが、フレイヤは重くのしかかる感じがある。だが、サイコキネシスを使えばそれも軽くなる。まぁ、そんなことにわざわざ使わないが。
「あら」
ギルドポータルからクランへの招待がいっぱい届いている。メッセージも添えられるが、中には小次郎の悪行が書いてあるものさえある。詐欺とか暴行とかなんだよ一体。俺の人畜無害さを嘗めんなよ。それに、フレイヤの身を心配するような話と守ってやるという話もある。フレイヤはレベル500ですが?
「もう、小次郎はわたくしと同一人物なのに、ふふ」
あまりに幼稚すぎて笑ってしまうが、世の中こういう風評に振り回されることも多いだろう。んー、どうするかな。やはり金を稼いで、権力者にすり寄るか? でも、権力者に手籠めにされるのは嫌だしなぁ。俺も権力者については、そんな勝手な想像をするのでメッセージの相手と大差ないのかもしれない。
「あ、マナからのメッセージもあるわね」
大須の商店街で見つけた装備の写真を送ってくれている。中には、昨日、メルが着たようなビキニアーマーがあった。こちらの方が装飾が少な目だが、露出は多めとなっている。露出はいいんだけど、布の方がいいなぁ。戦士系の防具なので、マナに着てみてはどうかと勧めておく。他に送られてきた画像を見ると、ドレスや仮面はいい感じだ。
そこまで見て、メルに再び変身する。
メルのスマホにはクラン加入完了通知が来ていた。これで、エバーヴェイルに4人目が加わったこととなる。そのうち3人が俺なんだけどね。
スマホでニュースサイトを開いてみると、富士山ダンジョンのニュースがいくつも見られた。ニュースのポイントは、ダンジョン内から出られない遭難事故は死者が多く出ることで知られているが今回は全員生還したこと、配信でその模様が見られたこと、金城メルという回復職がハイヒールレベルの回復魔法を使ったこと、そして、その支援魔法を受けた女性(幸子さん)が若返ったこと。バフの能力の方が大事なんだが、若返った方にフォーカスされているのが、ニュースっぽい。そこで、俺はテレビをつけてみる。
テレビでは特番がやっていた。俺はテレビを見ない派だが、自身というかメルがニュースにでも出てるかと思っていたのだが、でかでかと写真が載っていた。ただし、未成年扱いだからか申し訳程度に目線はつけられている。こうするとなんか、犯罪者か被害者みたいじゃないか。おまけにニュースじゃなく、昼のワイドショーだった。
「中梅院長、この魔法での若返りというのは本当なんでしょうか」
そして、大手の美容クリニックの院長さんがコメンテーターをしており、司会から話を振られた。テロップには、魔法による若返りが実現か?といった題名がある。
「私のクリニックでも魔法を取り入れた施術は実はやってまして、アンチエイジングに役に立つヒーリングは既に普及しているとも言えます。しかし、ここまで、年齢や体型、そして、肌艶も含めて改善するような強力な魔法は聞いたことがありません」
「では、AIなどの加工も疑われるということでしょうか」
司会が穿った見方をすると中梅院長は首を横に振る。
「いいえ、私のクリニックにもAIエンジニアがいましてね。色々と調査したんですが、まったく加工がなされていませんでした。つまり、この魔法は本物ということです」
そこで大御所の女優が口をはさむ。
「この魔法って、一般人の医療行為に使うことができるのかしら」
「いえ、まずもって初めて確認された魔法ですので、なんとも判断がつきません。ちなみに魔法での施術は医療行為に該当しません。自費診療どころか民間療法的な位置付けになっています。
もし、この魔法を使って欲しいならば、まずは金城さんに教えを乞うのが一番かもしれませんね」
そこで司会が慌てる。
「先生、名前は出しちゃいけないって言ったじゃないですか」
「あ、ごめんなさい」
平謝りする院長。その後、少女Aさんに対する謝罪がある。もう名前だしちゃってるじゃんと思いながらも、司会は頑なに少女Aという。ギルドとの約定とかで未成年の探索者名などの公開については慎重なのだろう。許可が出れば良いはずだが、許可を出すのは俺なわけだ。
「しかし、この施術をですね。たとえ数十分の効果だとしてもですよ。もし、うちのクリニックで行うとしましたら、きっと世界中から顧客が来るでしょうね。医療行為かどうかは問わず、高い施術料でも顧客はなくならないと思います」
大御所女優が質問してくる。
「おいくらになる?」
「値段は分かりませんね。希少価値の高い魔法ですからね。ただし、高くしないと、顧客でパンクしますよ」
そういうと大御所女優は黙る。払えそうか考えだしているのだろうか。司会がそれを見てまとめようとする。
「通常、魔法の効果というものは数分から数十分ですからね。ひとときの夢ですわ。私なら美味しいものでも食べますね。あはは」
3ヶ月くらい保つんだけど、効果が短く伝えられてるなー。どうしてだ? まぁ、大挙して老人たちが押し寄せてくるよりは良いかな。
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