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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
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第3話 フレイヤとギャル

これよりフレイヤの姿でダンジョンに挑戦していきます。

そして、何気なく出した下着店の店員さんが書いているうちにレギュラー化しそうな感じです。

 家にもどった俺は、フレイヤの姿のままコンビニ弁当を食べ、ネットで調べ物をはじめる。何を調べているかというと、1つ目はフレイヤの魔法を試せる場所を探すことと、2つ目はフレイヤでギルド登録をどうするかだった。

 1つ目の問題は早く解決した。ダンジョンに潜る探索者たちは、政府、地方自治体、企業、研究機関、大学、個人事業主など様々な業態で存在している。そのため、探索者人口も多く、鍛錬する場所としてアドベンチャーフィットネスという耐久性の高いジムが存在していた。剣や弓なんかの練習もできる大規模な施設も多い。


「フレイヤの姿から一向に戻らないわね」


 俺は、昼間戻ってきた姿、衣装のままパソコンに向かっていた。その時、チャイムが鳴る。「はいはーい」と出てみると、宅配便だった。俺のほうを見て、宅配便の兄ちゃんの目が泳ぐ。いつもの癖で靴を履かずにドアを開けたものだから、Tシャツの隙間からおっぱいが覗いているのだろう。わかる、わかるよ、見ちゃうよね。


「あ、あ、えと笹木さんのお宅ですか?」

「ええ、そうよ。笹木は今出かけているのでわたくしが受け取りますわ」


 そこからは、笹木とサインをして受け取って終わり。兄ちゃんが「あー、今日はついてるわー」とか言いながらトラックに乗り込む声なんかも聞こえてしまう。やはり耳がいい。


「あまりフレイヤの姿は見られないほうが賢明ね。さもないと小次郎の本体が狙われてしまうわ」


 フレイヤが見られないように工夫が必要か、セキュリティの高いマンションに住むというのもお金がかかる。いっそのことダンジョンが多い都会に引っ越してみるか…。いろいろ悩ましい。それはそうと、一日なりきりをしていると、独り言もフレイヤでいえるようになってきた。


 パソコン前にもどった俺は2つ目の調べ物をする。フレイヤがダンジョンに潜るためには、ダンジョン管理監査機構(通称ギルド)に申請して承認されないといけない。

 俺が高校生の時は学生証を持っていくだけで登録できた。顔写真が確認できるものでもいいらしく、例えば先ほどの学生証や社員証なんかだ。もちろん、パスポートやマイナンバーカードもオッケーだ。

 助かるのは、外国人であってもパスポートを要求されないことだ。なぜかと言うとギルドが国際組織だかららしく、戸籍も気にしない。30年前にダンジョンが現れた当時、調査に時間をかけすぎて多くのスタンピードが発生したらしい。それに対応するために、国連の主要国が負担して設立したのがギルドだそうだ。そのため、各国の政府とは異なる組織かつ、そこに所属する探索者の身元はギルドが一元管理している。

 ギルドは、そんなダンジョンによる被害を食い止めた組織として支持が厚く、政府とも友好関係を築いていた。今では、魔石の産出で一大産業の担い手になっており利権が絡む感じではあるが、それは別の話だろう。


「写真付きの証明書がない場合は、保証人の同意書でも可能なのね」


 ダンジョンによる被害は町を丸ごと火の海にするような事もあり、身分証の類を紛失した人も多かったらしい。今でこそあまりないが、その時の仕組みが使える。

 俺がフレイヤの身元を保証して、ギルドカードを発行すればいい。立ち会いは不要のようだし都合がいい。同意書には俺の身分証のコピーをくっつけて提出という事で、手早く用意する。

 手近なギルドは名古屋にある。ちなみにダンジョンは都市部に多い。ギルドはダンジョンの入場やドロップ品の買取なども行うため、ダンジョンのある位置に建物を構えている。名古屋のギルドは、元々名古屋駅前にあったハイランドスクエアにダンジョンが現れた。併設された映画館などはそのままに一角がギルドとなる不思議な構造となっている。

 そんなわけで、俺はギルドの名古屋支部に向かうことにした。ちなみに車は持ってないので、電車移動となる。基本的にギルドは24時間営業だが、登録業務なんかは9時から17時となっていて、ホワイトだ。ちなみに受付嬢は高給取りで人気の職業らしい。


「それにしても、アバターが解ける様子は無いようね」


 手を体に這わせるが、何かが失われるような感覚も、不安定な様子も感じられない。気になっていたのでステータスなんかもちょくちょく確認しているがMPが減ると言ったこともない。もしかして、アバターの時間制限とか無し? そうであれば、かなりのチート性能だ。明日のダンジョンに備えて準備も整えて、風呂に入る頃には12時を回っていた。

ふぅ。




 翌朝、やはりフレイヤの姿で目が覚めた。夜ちゃんと乾き切れていなかったのか、髪が爆発していた。くせ毛の設定があったかなと思いつつ、髪を整えるのに四苦八苦した後、着替えも済ませた。昨日買った、クロップドTシャツにデニムのショートパンツだ。白い肌が強調されて非常にエロい。東山線なんかには乗らない方がいいな。痴漢の餌食だ。

 鞄はフィールドワークに使っている小さめのリュックを使うつもりで、撮影動画なんかも用意している。まだ、外に出すつもりはないが、動画を撮っておいて損はないだろう。

 アカウント設定はしているので、クラウドに撮り溜めておいて後々配信というのも可能だ。今回俺はギルドに登録後、ダンジョンに入ってしまおうと考えている。アドベンチャーフィットネスに通うためのお金が心許ないのと実益を兼ねてというわけだ。

 電車に乗って行くが、通勤時間帯を外したおかげか、混み合っていない。チラチラと視線を感じるが、仕方ないだろう。俺でも見てしまう。


「あっ、昨日のお客様!」


 ヘソだしでハイウエストのパンツを履いたギャルが話しかけてきた。昨日の下着屋のギャル店員だ。髪はアップにしている。


「あー、昨日のお店の方ね。ごきげんよう」


 俺は店を紹介してくれたお礼なんかを言う。そんな俺の服を上から下にみて、


「あー、こちら選ばれたんですね。これも捨てがたいけど、もっといろいろ着てほしいものもあったんですよ?」


 悔しそうにしている彼女。


「あ、あたし、須藤 愛美っていいます。よろしくお願いします」


 ギャル風なのにすごく丁寧。その他に気になることは、キャリーと長いバッグの大荷物。


「あー、これですか? 実は、あたし探索者もやってるんです。あまり稼げてないから、ショップでバイトしてますけど。

 でも、アパレルも興味あるんですよ。探索者で稼いだらブランド立ち上げちゃったりなんかして…えへへ」


 荷物は装備らしく現地で着替えるようだ。ちなみに武器なんかも免許があれば持ち出しが可能で、長いバッグは長物が入っているんだろう。

そして、そこまで聞いておいて自分が名乗っていない事に気づく。


「わたくしは、フレイヤ。フレイヤ・リネア・ヴィンテル。これから名古屋のギルドで探索者登録しようと思っております。フレイヤとお呼びになって」


 そこまで言うと愛美ちゃんは目を丸くしてからの満面の笑み。


「フレイヤさんですね。すごい偶然ですね! 私もこれからギルドに向かうので、ぜひ、案内させてください! あと、よかったら友達になってください」


 頭を下げて、手を差し出される。まるで告白のようだ。俺は笑いながら、差し出された手を握った。


「ええ、よろしくてよ」


 そんなわけでアバターを取得したらギャルの友達が増えた。


「フレイヤさんて、日本語すごくお上手ですね。日本は長いんですか?」


 そのあたりは、実は小説の設定がある。フレイヤはダンジョン人という裏設定に対して、地球人としての設定を作りこんでいる。そこ、設定厨とか言わない。普通だ、普通。


「小さい頃、ダンジョン災害でヨーロッパから亡命してから、ずっと日本よ」


 事実、北欧の国々はダンジョンの処理が間に合わず、多くの領域がモンスターに支配されている。天候もおかしくなり、夏でも雪に閉ざされており、モンスターの駆除が困難を極めている。


「す、すみません。デリカシーがなかったですよね」


 愛美ちゃんは、目に見えてしょげる。こちらが申し訳なくなる。裏設定とか設定とかをややこしい話を持ち出しているが、本当は28歳の独身日本男性なわけだし、フォローを入れておこう。


「いえいえ、問題ないわ。日本は好きですよ」


 フレイヤの設定を振り返っていると、フレイヤの小説内での口調なんかも思い出してくる。キャラ付けか、少しやってみるのもありだな。そろそろ名古屋に着く。


「では、案内しますね!」


 愛美ちゃんは大きな荷物を軽々と運び出し、名鉄の駅を歩き出した。階段も多いものの、キャリーバッグを苦にもせず歩いて行く。周辺には探索者なんだろう装備の人も居て、やはり名古屋だなーという感じがする。


「フレイヤさんは、どうして探索者になろうとしたんですか? 美人だからモデルさんとか芸能人なんかも出来そうなのに」


 信号待ちで愛美ちゃんが聞いてくる。


「お金稼ぎかしら。家を復興するのにもお金が掛かるもの」

「家? お金は強いモンスターを倒せれば稼ぐこともできるらしいですし、フレイヤさんなら配信すれば人気がでますよ! あ、信号変わりましたね」


 信号が変わったので、スタスタと歩き出した愛美ちゃんについて行く。フレイヤは愛美ちゃんに相当気に入られたようだ。



 ギルドの名古屋支部についた。さすがに探索者と思われる人たちが多い。


「さぁ、どうぞどうぞ、汚いところですが」


 愛美ちゃんの家ってわけじゃないだろうに。そして、汚くない。管理が行き届いており、血なまぐさいことをやっている探索者が多い割には、きれいなホールだった。受付には可愛い制服をきた若い女性たちが並んでおり、銀行とかデパートのような雰囲気も感じられる。


「まずは、ギルド登録ね。行ってみるわ」


 鞄から書類をごそごそと出していると愛美ちゃんがついてくる。


「あ、あたしも付いていきます。これでも先輩探索者なんで」


 親切な子だなーと、にこっと笑うと愛美ちゃんが顔を赤くする。二人で連れ立って受付に向かう。時間帯が良かったのか、あまり混んでおらず、すぐに受付の番がくる。


「ギルド登録をしたいのだけど、こちらでのいいかしら」


 そう聞くと、受付嬢は、笑みを絶やさず、書類を出してきた。


「はい。こちらに記入をお願いします。証明書など添付するものをチェックをお願いします。あ、英語の方がよろしかったですか?」


 日本語でいいと断りを入れてから、名前を書いていく。名前はアルファベットで記入するが、住所は俺が住んでいるマンションの住所を書く。

 そして、俺の自作自演の同意書を提出する。


「同意書を拝見します。同意者は笹木小次郎様ですね。同じ住所ですがお間違いないですか?」

「はい、あってるわ」


 受付嬢は淡々と処理をこなしているが、横にいる愛美ちゃんは好奇心のおかげで表情が面白いことになっている。笹木小次郎のことが気になるんだろう。


「兄みたいなものよ。いま、お世話になってるの」


 そう付け加えると、愛美ちゃんは焦ったかのように、「いえいえ、そんな」とか言い訳をはじめる。おもしろい。何を想像したのか。


「書類については確認できました。では、身体データの登録を行いますので、こちらのボックスに手を入れてください」


 受付においてある箱。これは、DNAと指紋を採取するものだと言われている。ダンジョン発生後の混乱でダンジョン内で身元不明の死体が増えたこともあり、身体データの提供が義務化されている。このおかげで、ギルドカードの作成における認証のハードルが低いとかなんとか、なんかで読んだ覚えがある。こうして、俺は探索者で稼ぐ第一歩を踏み出した。 Mu-tubeで食いつなごうとしてダンジョンを無視していた俺だが、アバターのスキルのおかげで一攫千金を狙っていこうということだ。


お読みいただき感謝です。

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