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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第2章 聖女になった日

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第5話 メルとマンイーター

正念場ってやつですね。

 マンイーターの生態について少し触れる。

 マンイーターは体長2メートルくらいで手足の長い黒豹のような見た目をしたモンスターで、隠密行動が得意だ。二足歩行も可能で、鋭い爪や牙で襲い掛かってくる。ただし、今回のような完全に不可視になるようなモンスターは確認されておらず、あくまで物陰に潜み、そこからの襲撃が巧いというのが特徴だった。主に単独で襲い掛かってくるのも特徴で、多くても2匹での行動が多いものとされている。攻撃力はマーダーベアよりも低いくらいで、不意打ちからの一撃にかけるという攻撃スタイルだった。

 今回は、そのマンイーターの上位種ではないかと言われている。一体でも厄介なマンイーターが不可視な上、集団で襲い掛かってくるという災厄ともいう状況となっていた。


「索敵しっかりしろよ!」


 狭間さんが声を上げる。いよいよ13層に突入だ。

 入ってみると13層に広がる森林が見える。植生としては日本の雑木林に近く、広葉樹など葉が多い木が茂っている。下草も多く、隠れる場所はどこにでもある。



 遭難者たちとの連絡は、野獣の牙のダンジョンガイダンスと遭難者が持っているダンジョンガイダンスを介して行っている。ギルド側で両方のダンジョンガイダンスからの配信映像を見て救助活動に指示を出すという形で行っている。商業利用ではないので、一般配信ではなく限定配信となっているはずだ。

 そして、13層も半ばまで進んだところで、救助隊に緊張が走る。金子さんが何かを発見したようで、立ち止まる合図を送ってきた。野獣の牙の面子も同じく身構える。周囲は静かだ。

 その時、隊列の反対側にいた永見レイナから悲鳴があがる。


「きゃーっ」

「襲撃だ!」


 永見レイナは傷ついてはいない。彼女をかばった野獣の牙の探索者がざっくりと背中を切り裂かれて倒れこんでいる。彼女をかばった探索者は息はあるようだが、傷は深いのが見て取れる。しかし、敵の姿が見えない。


「はぁぁぁぁぁぁ、とぉおおおおおおい」


 幸子さんが近くにある倒木を何もない空間に投げつける。それは、何かに弾き飛ばされてあらぬ方向に飛んでいく。


「いるぞ、迎撃だ!」


 辰巳さんが負傷した探索者をかばう位置に動く。金子さんはすでに何発か矢を放っている。永見レイナはショック状態で、役に立ちそうにない。蒼白な顔でおろおろしている。


「ミレイズ::グレイス」


 見えない敵は思った以上に厄介だ。さっそく倒れた探索者を回復する。痛みに必死に耐えていた感じの探索者だったが痛みがなくなったのが分かったのだろう、すぐに立ち上がり周囲の警戒に入った。さすがAランク。永見レイナがこちらを見て驚いているようにも見えるが、いまは時間がない。


「グラディア・コア…、オーラ::ウルフ!」


 そして、2段階目の支援魔法を救助隊全員に飛ばす。物理攻撃や防御が劇的にあがるはずだ。全員の体から魔法の名前のとおりオーラが立ち上るように見える。攻撃隊に目を向けさせるため今まで支援を飛ばさなかったが、襲撃後は各自動くようにと言われているため、遠慮は無用だ。


「きたきたきたー。みなぎってきたー!!


 「幸子! 嬢ちゃんを守れ、金子、索敵つづけろ! ペイント弾つかえ!」

 辰巳さんは身体強化を感じ取ってテンションが爆上がりのようだ。そして、金子さんは矢につけたペイント弾、カラフルな塗料と甘い臭気を伴うボールが矢頭に着けてある矢を構えている。

 そして、目立ってきただろうから、俺自身にも備えをする。


「ブレアド」


 これは、カウンターに近いスキルだ。能動的に使うこともできるが、本領発揮はカウンターとなる。杖を持つ手に力がこもる。


「メルは大丈夫なの」


 そうは言うが、敵が見えないことにはどうにもならない。先ほど永見レイナを守った探索者が、ペイント弾を投げた。すると、空中にべったりと塗料が付着する。かなり索敵能力の高い探索者のようだ。オーラ::ウルフによって感覚も強化されるため、近くにきたら敵を感じ取れるのかもしれない。


「あそこだ、攻撃しろ!」


 辰巳さんが声を発する前に、金子さんは矢を放っていた。何発か攻撃が入った後、敵は逃げていったようだ。


「大丈夫か」


 攻撃隊が救助隊側に駆け付けてくる。ここまでで2,3分しか経っていないという状況だった。攻撃隊と合流し、作戦の見直しに入ることとなった。牟田さんが腕を組んでいる。


「敵は、永見さんが回復職と見破っていたかもしれない」


 筋骨隆々の攻撃隊の偽装回復職には手を出してこなかった。


「ここは作戦を変更し、全員で救助に向かいましょう。救助隊を真ん中にして、周辺を固めます」


 牟田さんの号令で森林エリアを抜けていく。ちなみに林道のようなものがあるため、そこを抜けていくわけで、かなり密集隊形になってしまう。

 そのタイミングで俺にさっき負傷した探索者が話しかけてくる。


「さっきはありがとう。おかげで命拾いしました」


 スカウト的なポジションなんだろう。細身の男性だがしっかりと筋肉はついており、腰には短剣を何本か差している。


「問題ないの。メルは誰も死なせないの」

「しかし、すごい回復だよ。跡形もないし、それにさっきの支援。感覚が研ぎ澄まされて、視界のゆがみが良くわかったよ。もし掛けられるなら、索敵がうまい連中にも魔法をつかってもらえば、不可視のマンイーターも見つけられると思う」


 それについては了解だ。20人、30人は問題なくオーラ::ウルフをかけることができる。そして、彼は警戒に戻っていった。そして、永見レイナが話しかけてくる。


「襲われたのが私じゃなかったら、対処できたんだから。勘違いしないでよ。でも、助かったわ…」


 強がりなのか、対抗心なのかわからないが、元気になってよかった。俗にいうツンデレなんだろうか。



 そうして、次の襲撃がないまま、救助隊は遭難者たちが避難している場所までやってきた。13層と14層の間の階段。そこは安全地帯で、モンスターが入り込めないところとなっている。何名かが寝かされている。永見レイナと手分けして手当てを開始する。

 傷がひどいものは、ミレイズ::グレイスで、それ以外はリジェネで徐々に回復させていく。


「これはすごい」


 メルの回復によって一命をとりとめた者たちが次々にお礼を言ってくる。その間に、集まった野獣の牙のメンバーが話し合っている。持ってきた食料なんかを遭難者が食べ終えるころには、作戦が決まったのか、牟田さんが俺のほうに向かってくる。


「金城さん、一時的に攻撃隊に加わってもらえませんか。あなたは回復しているところを見られてますし、支援能力も高い。マンイーターの討伐には不可欠と判断しました」

「嬢ちゃんならいけそうな気もするが、大丈夫か?」


 辰巳さんが間に入ってくれるが問題ないだろう。こくりと頷くと、作戦の詳細を共有していた。

 ちなみに遭難者側の回復職はMPが枯渇しているらしく、永見レイナが遭難者側の回復職を担当することになった。不本意そうだが、混沌の災禍の方々は永見レイナの護衛をするようだ。

 作戦開始まで待機となったタイミングで、遭難者側のダンジョンガイダンスを持った男性が話しかけてくる。


「聖女さんですよね。高山ダンジョンで活躍したっていう」


 こくりと頷くと唐突に自己紹介を始めてくる。


「俺、ダンジョン配信やってるダンジョンアースのサメジマンって言います。よかったら、今度一緒にダンジョン潜りませんか!?」


 このタイミングで出演交渉? たくましい。ダンジョンガイダンスも浮いてるし、まさか配信してないだろうな。

 しかし、そんな話をしていると幸子さんが飛んできて説教に入る。時間がないから正座させるとかはやめておきましょう。幸子さん…。


その後、遭難者達を幸子さんがまとめ始める。


「あんたたち、気合い入れな!」


 これを鬼教官モードとか、金子さんがいつか言っていた。


サメジマンの本名は鮫島さんではなく、鵜飼さんだったりします。

特に出てきませんが(汗)

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