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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第2章 聖女になった日

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第3話 メルと富士山ダンジョン

聖女無双していきましょうか。

 5時間耐久配信から4日後、フレイヤはまだ休養中で帰省中ということになっている。マナからは、時々、衣装の写真が送られてくる。中でも赤と黒のドレスは、ここぞという戦闘で着るのも目立っていいなとかは思う。仮面はギルドにこっそり出入りするときに役立つような気もする。3日後に会うのでそこで話をしようと思う。


 そんなフレイヤの休みの間ということもあり、今日はメルとして名古屋ダンジョンにやってきている。要件はエバーヴェイルへの加入手続きだ。クランへの加入はギルド受付を通すことになっており、そこで直接人物確認をギルドが行う。その後、クラン側で加入承認などを行うが、これはギルドのポータルサイトで承認が可能だ。


 俺がメルの姿でロビーに入ると、視線を浴びる。まぁ、ダンジョンに高校生くらいの少女は少ないから無理もない。


「聖女ちゃんだ! 聖女ちゃんが来た!」

「聖女ちゃん、なぁ、話をきいてくれっ!」


 誰かがそんなことを言ったと思ったら、あっという間に俺の周りに人垣ができた。メルは150㎝半ばだから、ガタイのいい探索者たちに囲まれるとまるで壁だ。鼻息が荒いから、正直怖い。


「え? なんなの?」


 一斉にパーティに勧誘が始まるものだから聞き分けられる訳はない。熱気がひどい。ガタイのいいおっさんが女の子取り囲んで勧誘とか、ちょっとした犯罪じゃないのか?

 俺がそう思っていると、壁となっている一部の人を押しのけて幸子さんが現れた。


「あんたら、いい年して恥ずかしくないのかい!? 女の子がおびえてるだろ!」


 幸子さんの声でロビーが震える。取り囲んでいた探索者たちがたじろぐ。フレイヤの時は、なんだか遠慮がある感じだったが、メルだと勢いが違う。やはり、ランクSにも届くんじゃないかと言われる強者の炎の魔女よりも、か弱そうな支援職(強力な回復スキル持ち)には圧があがるというものだろう。

 そんな、第三者的な思考に陥っていると、幸子さんが何かを勘違いしたのか。


「メルちゃん、大丈夫。私がついてるからね。強引な勧誘なんてさせないさね」


 幸子さんが俺を抱き寄せて、周りをにらみつけている。苦しい。


「幸子さん、あの、そんな強引だなんて、俺たちは挨拶をしてちょっとパーティについて知ってもらおうと思っただけで。そうだよな? な?」

「お、おう。そうそう」


 幸子さんが低い声でいう。


「じゃあ、パーティのカードでも置いていきな。もってるんだろ?」


 パーティのカードとは、パーティ募集用に作っている募集要項などを記載した資料のようだ。そういえば、フレイヤのときにも渡そうとしてきた人がいたが、断っていたな。


「じゃあ、貰っていくから、解散だよ」


 幸子さんがそういうと男たちは去っていった。幸子さん、ランクCだけどギルドでは顔が効くらしい。


「いやぁ、久々に見たな、幸子の説教。さすが鬼教官と言われた女」


 金子さんが幸子さんに苦笑いしながら話しかけてくる。


「本気の説教なら2時間正座だわ」


 こわ。もしかしたら、さっきの探索者たちも幸子さんから何かしらを学んだ人たちなのかもしれない。


「ネットニュースで聖女出現の騒ぎがあってね。万年回復職不足のパーティが勧誘にきたってわけだ」

「見ました。メルは聖女だから嘘じゃないけど、モテるのも問題なの」

「それくらい言えるくらいなら、大丈夫そうだな!ふははは」


 辰巳さんもやってきて話に加わる。話をきくと、混沌の災禍はネットニュース関連で名古屋支部長と話をするために来ていたそうだ。話は終わったので帰ろうとしたところでメルが囲まれるという状況に出くわしたらしい。

 こうして周囲が静かになり、俺はメルとして、エバーヴェイルへの加入申請を行った。南さんという受付嬢が対応してくれる。


「エバーヴェイルへの加入申請は、今日だけで30件を超えてるんですよね」


 そういえばなんかのシステムメールがいっぱい来ていた気がする。しかし、加入申請がオープンになっていたからか。あとで勧誘制に切り替えよう。勧誘性はクラン側から加入のオファーを出す方式だ。大手のクランはこれを採用しているらしいが、ぽっと出のエバーヴェイルにも必要とは、フレイヤ効果すごい。


「金城さんもエバーヴェイルに加入できるかは、かなり狭き門になるかもしれませんよ」


 南さんが心配してくれるが、それは問題ない。だって、代表本人だし。


「大丈夫ですよ。代表と副代表とは事前に話をしているので」


 そう言うと南さんは手元の端末を操作する。


「本当ですね。代表の笹木さんがギルド登録の同意者なんですね。もしかして、ご親戚とか?」


 そこの設定は作ってなかったが、見た目も日本人の金城メルだし、親戚がちょうどいいだろう。


「遠い親戚なの。探索者になったらクランに入らないかって誘われたの」

「そうなのね」


 すこし考えている南さん。


「あ、ごめんなさい。申請が通ったら、特にすることはなくて、クラン加入が完了します。あら? ちょっと待ってくださいね。え、そんなはず…まさか関係者だから?」


 何かあったのだろうか。南さんがぶつぶつと言いながら端末を操作していく。そして、ひとしきり操作を終えたのか、こちらに顔を向ける。 


「新人が招集されることはまず無いはずなんですが、金城さんに緊急の指名依頼が入りました」


 南さんがその指名依頼の内容について説明してくれる。それは、静岡の裾野市にある富士山ダンジョンで起こった遭難事故への救助だった。どうやら13層にて、10パーティを超える探索者が不可視のモンスターに襲われたらしく、14層との間で立往生しているらしい。今は何とか安全な場所に避難しているものの移動すれば被害も大きくなると言われ、救助隊が組まれたそうだ。

 遭難者には配信者もいたそうで、ダンジョンガイダンスを通じて連絡をとることは可能らしい。ただし、けが人も多く、回復薬の残量が少なく、回復職がいないという状況らしい。そこで、野獣の牙というクランが救助に対応することとなったそうだ。野獣の牙は、俺も知っているくらい有名なクランで、Sランクの探索者も所属している。そのため、不可視のモンスターに対して対抗できるだけの実力はあるんだろう。ただし、要救助者を回復できるだけの回復専門の探索者がいないというところが問題として上がった。そのため、臨時パーティとして空いている回復職に声がかかったということだ。


「他にも回復職の方は居たらしいんだけど、金城さんの評判を見込んでのギルドからの指名依頼となりました」

「おいおいおい。そりゃ、聞き捨てならねーぜ」


 同じようなことが最近あった辰巳さんだ。


「嬢ちゃんの回復と支援がすごいって言ってもまだ新人だぜ」


 かばってくれるのは分かるけど、多分大丈夫なんだよなー。富士山ダンジョンに興味がある。フレイヤが読み取ったモンスターの中でレアなスキル書を落とすものもいたはずだ。そして、辰巳さんの言葉に南さんが反論する。がんばって!


「話を立ち聞きするのはご遠慮ください。それに、そこは、ギルド側も考慮して、適切な護衛を組み入れてですね…」


 辰巳さんがニヤリとし、自分に親指を向ける。


「立ち聞きはすまん。だが、その護衛は俺たちが担当するぜ。嬢ちゃんとは高山ダンジョンで組んだ仲だ、連携も問題ねーぜ」


 金子さんと幸子さんも後ろでうなずいている。


「確かに。少々お待ちください」


 南さんは端末を操作して、何かやり取りをしているようだ。1分もかからないうちに南さんがこちらを向き直る。


「ギルド側もそれであれば問題ないと判断します。遭難者の救助、治療、そして回復職の護衛を含めギルド依頼を発行します。依頼料はこちらになります。失敗した場合のペナルティなどはございません」


 はじめてのギルド依頼、通称クエストだった。フレイヤよりも先にクエストをこなすとは、面白いことになってきた。


「メルは問題ないの。いつからなの?」

 南さんは少し焦っている様子。

「すみません。今から移動は可能ですか? 食料や野営の準備などは野獣の牙のほうですすめています」

 どうやら本当に緊迫した状況らしい。辰巳さんたちも問題ないと言っていたので、俺としても問題はない。実は小次郎に緊急用の食料や装備などを詰め込んだリュックを背負わせてたりするのだ。

「ありがとうございます。では、ヘリが用意できますので、現場まで移動をお願いします」

 そういうことで俺は、ハイランドスクエアの屋上にあるヘリポートから人生初めてのヘリコプター搭乗を果たした。


「おおおー、こりゃすげー。ヘリで出勤たー、いい身分だなー」


 名古屋上空からあっという間に浜名湖が見えてきたわけで、その速さに驚く。


「嬢ちゃん、俺たちが肉壁になって守るからよ。遭難者たちのことよろしくな。リスト見たんだが、俺たちが教えたことある奴らもいてな。心配なんだわ」


 幸子さんもうなずき、腕のテーピングを丹念に行っている。メルの事も心配だが、いてもたってもいられなかったというのが理由なんだろう。ちなみに金子さんは瞑想している。


「がんばるの」


 そう答えると、1時間もしないうちに現場の富士山ダンジョン近くの空地にヘリコプターが着陸態勢に入った。


読んでいただき感謝です!

ストックが少なくなってきましたが、書く量は減っていないので継続投稿中です!

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