第24話 笹木とこれから
最終回です。
俺は俺1号、笹木本人だ。今は影子となって、この世界の不穏分子がいないか監視を継続している。しかし、それもほぼ終わりそうだ。
ダンジョン人の世界では、今、フレイヤとメル、そしてアリスによる番組が人気を博している。ジェームが代表となった放送局が組織され、俄かに大勢力へと急伸してきているのだ。深淵派が捜査されており急激に縮小する中、実は次のトップ学派になるのではないかとも言われている。
魔力供給が戻りつつある中のため、街角の映像装置などに人が集まって視聴するという形が多くみられる。常にライブビューイングをやっているような光景が、各学派の街で見られるようだ。
しかし、ジェーム本人は、新たな体制づくりやほかの学派との付き合いなど、死ぬ思いをしているだろう。メルが度々、回復してあげているようだが、体に良くないよなーと思ってしまう。
こちらには、地球にいるマナが色々と企画を送ってきてくれるので助かっている。その企画書と台本の完成度も高い。本職の人も引き込んでチームを組んでいるようで、なかなか楽しいことになっている。そして、今、一番人気なのは、ダンジョン探索だ。地球から持ち込んだダンジョンガイダンスを少し改造するだけで、リアルタイム配信ができるまでジェームたちは作りこんでくれている。
この世界、ダンジョン探索については、完全な工業化というか作業員が行う仕事みたいな位置づけになっている。彼らの地位はそんなに高くはない。そして、その探索者たちも意識というか意欲みたいなものが高くない。ムー教授の見解だが、ダンジョンは古代の生物たちの生命力を吸収するだけじゃなく、生き物の精力みたいなものも糧にできるというのが予想だ。そのため、盛り上がりに欠ける感情でダンジョンに潜ると淡々と狩りをする作業になるんではないかという説明になった。
そんなところに、美しく無双し、踊るようにモンスターを倒す女性3人組はとても印象的だ。
今回、俺も探索者の1人として同行している。くノ一なので顔は変えて、短剣を使ってスカウトをやっている。楓という名前の新米スカウトと一緒にダンジョンの3階層を目指すという企画だ。4メートルくらいあるクモとトカゲの合の子みたいなモンスターに向かっていくが、少しドジっ子を演じてみる。転んだところに長い脚が振るわれてしまう。絶体絶命のぴーんち。
「楓ちゃん、あぶないよ!」
アリスが無謀に突っ込みかけた俺を転移を使ってさっと助け出してくれ、安全圏に離脱する。
「ありがとう。アリスさん」
さらにモンスターが追加でてきたところをメルが杖を使ってはじき返す。
「楓ちゃん。脚の付け根が弱点なの」
メルに促され、俺は態勢を整えるとナイフを構える。
「ちょっとサポートするわね」
フレイヤがサイコキネシスでクモ脚を何本か押さえつけてくれる。
「いきます!」
そして、俺はクモ脚の間を走り抜け、脚の付け根を切りつけた。しかし、その勢いで地面に転げ落ちてしまう。しかし、モンスターは動けなくなる。
「続けていきます!」
俺は、フレイヤたちお姉さま方のサポートを受けて、経験を積ませてもらう。そんな探索を配信するのだった。やらせじゃないよ? 演出っていうんだよ?
「お姉さま方、やりました!」
俺は消滅するモンスターを背後にして、フレイヤたちに対して可愛くガッツポーズを作る。ダンジョンガイダンスが良い位置にいる。さすがだ。
その映像の反応を、色んな街角に派遣している分身からの収集してみる。すると、こんな地球ではありがちな特訓風景であざとい感じなんだが、こちらの世界では新鮮だったようで評判が良かった。なんと声援を送っている集団もいたとか。この結果、探索する様子を映して、それを見るという行為自体に楽しさがあることについて、ダンジョン世界においても十分芽が出そうということが分かる。
そして、探索での撮影を終えて、ジェームの部屋にやってきた。アバターたちも集合している。
「フレイヤさん、メルさん、アリスさん。楓さん…いや、影子さん。お疲れさまでした」
この場には、笹木の姿で出向いている。さらに、ムー教授とジェシーもいる。
「すごくよかったですよ! 探索している風景を見るだけでこんなに興奮するなんてどんな魔法を使ったのかと問い合わせが絶えません」
「変なの。魔法はつかってないの」
メルが笑う。フレイヤは頬に手を当てる。
「この世界は本当に娯楽に免疫が無いようね…」
フレイヤの言葉にジェシーが頷く。
「そうだな、ゆっくりとコンテンツを増やす方がいいだろう。急激な文化の流入は、悪影響を与えそうだ」
その言葉をうけてジェームがなぜか焦りだす。
「いや、いやいや、そんなことないですよ。みなさんにはもっと活躍してもらいたいです。えーと、エムオーイ現象で魔力を増加させる必要があるんですよね? ね? ムーさん」
「そうじゃ、エムオーイ現象のために放送は重要じゃな。しかし、魔力の供給も始まっておるし、魔力消費を減らすための機械の試験導入も始まるんじゃろ? いろいろやることはあるぞい。放送も色々とチームを組んでやってみるのがいいじゃろう」
ムー教授に言われてジェームが肩を落とす。
「そうですね…いつまでもフレイヤさんと一緒にはいられないですよね」
フレイヤだけ名指しというのが分かりやすい。本当にフレイヤ好きだな、ジェームは。結局、実例としてあと何回かの番組を撮影しておこうという話で決着がつく。
そして、ジェームは別会議で中座し、俺たちはジェームの部屋に残った。ジェームの部屋は中央塔の一番高い部屋で夕焼けがよく見える。
ジェームが去った後、地球にいる俺3号のひよりから連絡が入る。
『南極に未発見のダンジョンがあって、スタンピードを起こしたそうだよ。思った以上に広範囲にモンスターが散らばっているみたいで、フレイヤへの討伐要請が来たよ』
『分かったわ。でも、どうしましょうか。わたくしと誰がいけばいいかしら』
フレイヤの問いにひよりが一拍置いて答える。
『えーとね、拠点と転移が必要だから、ジェシーとアリス。それと、南極にある各国の基地も襲われているそうだから、メルも必要かな。あれ、ムーちゃんと影子以外全員か』
『ムーちゃんというなと言うておるのに…』
ムー教授が交信でぶつくさと割り込んでくる。
「あ。でも、ジェシーとアリスにはこっちで仕事があったよね」
俺がそう言うとジェシーとアリスが苦い顔をする。この世界では未だに物資や魔力に困窮している街がいくつもあるのだ。それらを段階的に援助していくプランを支援していくのだ。
「わしもイグノアスが変な置き土産をしていないか探る作業をするわい。しかし、スキルを作る希少材料をすべて使い切りおって…。まぁ、仕方あるまい。これからは、直接的なアプローチで2つの世界がつながっていくからのう」
ムー教授に聞いた話では、任意のスキル設計にはこの世界のダンジョンから産出される材料が必要だそうだ。ムー教授もそれをふんだんに使って俺のスキルをいじったり、スキル発現時に勝手にフレイヤを選択していたりと無茶をしたらしい。そのため、自分のことは棚に上げる能力の高さがうかがえる。イグノアスも同じくアビスヴォーカの代表へのスキル付与と同時に洗脳みたいなこともやっていたようだ。若いが技術はあると思って可愛がってやっていたのにもったいないことをしたとムー教授は言っていた。きっとこんな性格だから、敵も多かったんじゃないだろうか。
『じゃあ、フレイヤとメルはそのままで、俺1号がジェシーとアリスの2役すればいいんじゃないか』
ジェシーがそんなことを言う。まぁ、それが妥当だろう。俺は、姿を影子から笹木に戻す。
『分かったよ。ひより、交換するから人気のないところに行ってくれ。いつものやり方でそっちにフレイヤとメルを連れてく』
『いま、大丈夫だよ』
そう言われたので、フレイヤとメルはドッペルゲンガーを解除し、地球にいるひよりと俺は位置を入れ替えた。場所はひよりの自室だった。その後、ひよりもドッペルゲンガーを解除し、再度俺が地球でドッペルゲンガーの俺2、3、4号を呼び出す。
これで、地球側に、笹木の俺とフレイヤ、メル、ひよりが居ることになる。作戦内容の共有と題して、その場でお茶を飲みながら話が始まった。しかし、それもすぐ終わり、いざ出発かなというところでひよりが改まって訊ねてきた。
「ねぇ。笹木。1つ聞きたいんだけど。これからどうするのさ。地球でがんばる? あっちでがんばる? もう、がんばらない?」
またまた他人行儀なと思ってしまう。
「考えなら、ドッペルゲンガーでも読めるんじゃないか?」
「んー、ほとんど同じなんだけど、意識の根幹みたいなところは、完全一致するわけじゃないからね。俺1号じゃなくて、笹木小次郎本人から聞きたいのさ」
フレイヤとメルの顔を見る。
「わたくしも聞きたいわ」
「メルも。マナとも関係するの」
改まって聞かれると困るな。しかし、ドッペルゲンガーがどこまで記憶を共有しているのか、意識がどこまで同じかまでは検証しきれていない。そこで、言語化するのが良いだろうと思う。
「俺、思い出したんだけどね。俺の書いた小説に出てきた主人公の俺。女の子とイチャイチャするのが好きで地球のダンジョンは軽々と攻略していったんだよ。きっと母さんはこの辺まで読んだんだろね。息子が節操なくハーレム築くのを読んだってのはちょっとどんな心境だったかは分からないけど。まぁ、そこは途中だったんだよ。最終章でさ、フレイヤのダンジョン世界を助ける方法がイメージ付かなくってさ。自分で作った困難を助ける方法が思いつかなくってさ。色々受験で悩んでた時期でもあったから、なんか自分の能力とか悲観して、結末は暗い感じで終わらせたんだよ」
フレイヤとメル、ひよりがもじもじしている。黒歴史のダメージが入っているのだろう。
「それで、どうするの? がんばるの?」
いち早く立ち直ったのか、メルが聞いてくる。
「あぁ、ごめん。でも、いろんな人に頼ればいいし、俺は文字通り1人じゃないし、どちらの世界も救えるんじゃないかって、今は少し自信がついてきた。だから、もう少しがんばるよ」
フレイヤは腕を組んで聞いてくる。
「それじゃあ、地球とダンジョン世界、どっちにするのかしら? 地球は色々と身元を隠したり大変よね」
いろいろ地球では、やらかしてるなぁ。女風呂とかにも堂々と入ったりしているなぁ。
「でも、そうだね。やっぱり地球かな」
「どうしてかしら?」
「大した理由じゃないよ? ほんとに」
俺は笑って誤魔化す。
「メルも知りたいの」
メルがまっすぐ目を見てくる。その視線に、もう誤魔化す余地はなかった。俺はゆっくりと口を開く。
「世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らないからね」
ーおわりー
月森 朔です。
皆さま、『世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない』が完結しました!
五か月間にわたる連載が終了となります。ご愛読ありがとうございました。作品を追い続けて読んでくださった方々には感謝しかありません。初投稿の2025年9月7日より毎日投稿で完結までこれたのも皆さまのおかげです。改めて、読者のみなさま、執筆相談に乗ってくださった皆様、そして、支えてくれた家族に感謝です。
特に感想や活動報告で応援いただけたことで書き続けられたと思います。残った感想にもお返事を書いていきますので、少々お待ちください。
今回の作品、プロットにかいていた内容はすべて吐き出せたかと思います。自分と違う誰かに変身して活躍するスーパーヒーロー的な内容を大好きな現代ダンジョン物で表現することができました。スーパーヒーローは人助けや世界を救うといった軸で話が進みます。私もそういうのが大好きで、俺ツエーで個人の利益ももちろんですが、その先に世界を救えないかと考えたお話がこちらとなります。
そこにきて、綺麗な女性に変身したりイケオジに変身したり、それが全員笹木だったりと癖の強い作品が書けたかなと思います。修学旅行生や女子高、全部笹木とか他ではあまりないシチュエーションになったんじゃないかと自負しています。「何を読まされているのか分からない」という誉め言葉をいただいのはいい思い出です。え、誉め言葉じゃない?(汗)
続編など今後のことは今は考えていませんが、書籍化されたらいいなぁとかアニメ…とか、妄想は絶えません。あぁ、妄想なので許してください。
一旦はお休みをいただいて、執筆マラソン的なゴールを祝いたいと思います。動きがあればXでお伝えしますね!
えー、よければ、ゴールしたので、感想や評価などいただけると嬉しいです! では、また!




