第24話 地球と交易
地球の回です。
俺は俺3号。ダンジョン人の世界は深淵派の代表イグノアスの逮捕、そして、本拠地への捜査が入って未だに混沌としている中、俺はムー教授とひよりの掛け持ちなので多忙な生活を送っている。
南さんとマナには新たに増えたムー教授を笹木の新たな召喚で、ダンジョン世界の技術者の娘だと伝えている。所謂、神童でダンジョン世界の技術について詳しいとかなんとか。そして、ムー教授がレギュラーとして増えた分を、影子の分身でうまく誤魔化しつつ開発を進めている。そして今はひよりの姿をとっている。
ムー教授の力が役に立ったのもあるが、ガームドさんや魔装開発局の協力があったおかげで、1週間でアンテナの試験までこぎつけている。その試験は、名古屋ダンジョンに場所を移している。ガームドさんが試作機を見上げる。
「鉱石の入手が早くて助かりましたね」
もちろん、エバーヴェイルぷらすのメンバーが、スタンピードを起こした千葉の市原ダンジョンで運良く鉱石を入手したのは影響している。しかし、鉱石の精製と金属錬成のスペシャリストが魔装開発局にいたことが最も大きな幸運と言えるだろう。名古屋ダンジョンに世界でも有数な鉱山エリアがあったからだと南さんは言っていた。
「魔力送信テスト開始」
巨大なアンテナが動き出す。月のダンジョンがある方向に向かって向きが調整される。
それから5分後、ガームドさんが手元の端末を見て歓声を上げる。
「月ダンジョンのアンテナに到達しましたね。魔力が5パーセント上昇しました!」
「やったね。僕も一安心さ」
「はい! 直ちに量産に入ります!」
ガームドさんが軽いフットワークでダンジョンを駆けていく。
予定では、同型のアンテナを順次作り、大型のダンジョンへと設置していく予定だ。ダンジョン周辺への魔力増加を抑えながらも、月へと魔力を送るパイプラインのようなものができる予定となる。
これでムー教授はダンジョン世界に帰ったことにして、ひよりライフに戻れるかな。
「お主が何を考えとるかわかるぞ。ムー教授をペルソナ無しで演じるのは難しいから安心したとか思ったじゃろ?」
影子の分身が演じているムー教授が言ってくる。その通りなんだよな。なんか、テンションが高くて困る。
そして、そのダンジョン世界側にある俺8号のムー教授だが、ちょっと拗ねている。何があったかと言うと、オリジン絡みだ。
なんとダンジョン世界側でイグノアスの逮捕に沸いている間に、旧オーファンネスト組と同行してダンジョン攻略を進めていた千種によって、オリジンの入手を実現したのだ。このオリジンだが、俺の分身からアバターなどを切り離せるというスキルだ。切り離された分身は、別の人間として生きることができるのだ。
しかし、そこでオリジンのテストという題目で俺1号が選んだのは、千種だったのだ。
分身の分身な訳だが、その試行は上手くいった。
その時の映像を見返すと、面白いことを言っている。検証映像ということだが、内容は千種のインタビューとなっている。
「なんだか、転生したみたいな感じです。もちろん、転生はしたことないんですけど、小説なんかによくあるでしょう? 死んで異世界に転生して新しい体で生まれ変わるみたいな。あれです。なんだか、笹木なんですけど、実は千種だったのを思い出したような。設定のはずだったんですけど、なんだか本当の自分なような。変ですよね」
そして、千種は笑う。
「元から女だったように思う? そうですね。なんだか、嘘が真になったというか。え? ホロウ君ですか? 恋愛感情? ふふ、内緒です。でも、この意識が何なのか検証はしますよ」
なんだか、急に色気が出てくるので困る。インタビューしたのは、同じく影子の分身なのだが、変な状況だ。これ以降、千種との接続は切れているが、本人曰く、スキルなんかは引き継がれていて、オリジンを解除することはできるらしい。そして、オリジンを設定した側なのだが、オリジンスロットができている。そして、レベルが上がればスロットが増えるんだとか。
そして話を戻すと、オリジンを使って当然と思っていたムー教授は拗ねた。そして出たのが次の言葉だ。
「わしが設計したんじゃから、わしが優先じゃもん!」
じゃもんって何?とか思ってしまう。見た目が可愛いから不問だが、もんは無いだろう。その後、両方の世界を導いてもらうにはムー教授がアバターでなくては困りますと笹木が懇願すると、
「仕方がないのう。わししか出来んことが多すぎるわい。困った困った」
とまんざらじゃない表情をして言っていたので大丈夫だろう。
そして、地球側の状況について触れておく。フレイヤたちがダンジョン世界に乗り込む前のようなスタンピード発生は収束した。しかし、増えたダンジョンは減ることはなく、それらを放置すると危険な状況には変わりはない。それについては、ギルドやエバーヴェイルで準備したものが役に立った。
特に役に立ったのが、エバーヴェイルぷらすの尽力により、いくつかの有用なスキルが探索者に出回ることになったことだ。例をあげるとレビテートが、その代表となる。空中に浮かぶことができるスキルだが、レベルの高い探索者にとっては高く飛び上がった後の姿勢制御や落下位置の調整など使いどころが色々ある。狙撃などを得意とする者は高いところへ陣取ることにも使っている。そのほかにも、一般に出回っていなかったスキルが増加しており、ギルドのダンジョン攻略に協力を申し出たクランに優先的に回されるという状況になっている。
今後もダンジョン攻略に尽力してくれるクランは成長するし、スキル欲しさにダンジョン攻略に乗り出すクランも増加すると見られている。
その中でオーファンネストは名前を変えて新たなクランとなり、千種が加入したそうだ。強いスキルを持つメンバーが主軸となるため、今後の活躍が期待できそうだ。
そして、幸子さんの赤ちゃんだが、すくすくと育っている。金子さんがエバーヴェイルぷらすのリーダーとして活躍し、辰巳さんがサブリーダーとして動いてくれている。育児から復活したらエバーヴェイルぷらすに入ると言っている幸子さんだ。エバーヴェイルぷらすは、スキル収入を受け取っており、実はクランとしても日本で10位以内の売り上げを記録している。今でも加入希望者が多いが、身辺調査や素行調査が厳しいらしく、そこまで人は増えていない。しかし、それでも100人は越えてきており、金子さんが頭を抱えていた。
エバーヴェイルの会社については、アビスヴォーカの件から活動が表立っては休止となっていたが、ゴールデンウィークを前に新しい動きがあった。エバーヴェイルによって、ダンジョン世界との交易事業の運営会社を立ち上げたのだ。
いまのところ、ダンジョン世界との往来を可能にするのが、アリス+フレイヤのラビリンス・ドリフトか、アバタースキルにある交換のスキルになる。今となっては、どちらかの世界にアバターを置いておきさえすれば、往来が可能な笹木だけが2つの世界を自由に飛び回れるのだ。これに関しては、転移装置なども考えているが魔力的なコスパが悪く、小規模ながらアバターがマジックバッグをもって飛ぶのが早いと考えている。
「まぁ、このマジックバッグは、小さめの物流倉庫1つ分くらいなら入るから色々できるさ」
俺の手元には、空いた時間で作っていたアイテムがある。南さんとしては、ダンジョン世界側の魔道具を入手し、ダンジョン世界側に魔法に頼らなくても基本的なインフラが整備できるような電気や水道、ガスといったものが売れないかと模索しているようだ。
そして、マナもこの件に関しては1つ大きな計画を立てている。それは、文化の輸出だ。
あ、話をすれば…。
「ひよりちゃん、ダンジョン世界にはダンジョン配信ないそうですよ! 探索者さんもいるそうですから、きっとコンテンツになりますよね!」
朝から晩までいろいろと企画書を書いている。その横で秘書みたいにE&Sやオーブマシナリの人が動き回っている。
げんなりしてるかと思いきや、その人たちもめちゃくちゃ楽しそうだ。
「あぁ、メルちゃん、早く帰ってきて、寝なくても働けるようにしてほしい」
そんな危ないことを言っているマナだが、楽しそうなのでそっとしておこう。俺、ひよりも似たようなもんだしな。そういうわけで、地球は忙しくなってきたところだ。
エバーヴェイルは2世界間をつなぎます。




