第22話 笹木とイグノアス
深淵派の首謀者を追いかけます
俺は俺1号。今は影子になり、深淵派の代表を追いかけている。実は事あるごとにガームドさんにアドバイスを求めていたのだ。ガームドさんにする質問は単純で、深淵派のことはダンジョン世界側に任せてた方がいいかどうかだ。結果は、エバーヴェイルのメンバーで追いかけて行動を止めるべきという話だった。何をするかまでは不明だが、止めないと地球にとって悪いことが起こるらしい。
そこで調べてみた結果、色々と分かってきた。深淵派は治安維持部隊との幹部数人から代表は軟禁されておらずさっさと逃げたことを知った。自白によると、ダンジョンの崩壊エネルギーを使って地球へ逃げるらしい。
その話を聞いて、その崩壊させる対象とされているダンジョンまでやってきた。
「ここかダンジョン。ダンジョンというより神殿みたいになってるな」
ところで、この世界にあるダンジョンは、地球のダンジョンとは訳が違うそうだ。ムー教授によると、ダンジョン自体はダンジョン世界の創生から存在して、人類と共生関係にあるのだ。そんなダンジョンを崩壊させるというのはこの世界では禁忌にあたる。そして、それを行おうとしている深淵派の代表がどれだけ切羽詰まっているのかわかるというものだ。
ちなみに、そんなダンジョンの種を地球にばら撒くのはいいのかよと聞いたのだが、養殖ならいいらしい。なんだか天然記念物の話かと思ったよ。
「流石に影子の感知だと狭いか」
そこで俺はアリスに変身するとダンジョンの中を探ると、最深部ではなく中程の階層にいる集団を見つける。何か大きなものを設置しているようだ。そこから禍々しいほどの魔力を感じる。そこで再び影子に戻りアリスに連絡を取る。
『アリス。深淵派の代表を見つけたよ。影子の分身を送り込むけど、応援に来て欲しい』
『わかったわ。メルとフレイヤの撮影も終わったし、パパにも声をかけるわね』
そして、ほどなくして現れたのは、定番の攻撃隊とムー教授だ。
「さぁ、行くのじゃ」
「ムー教授は何しに?」
「ダンジョンを暴走させる機械を止められるのは、わしくらいじゃろうて。だから来てやったのよ」
得意気な女子小学生に思わず、頭を撫でてしまう。
「頭を撫でるでない」
ちょっと嫌だったらしい。さすがに実年齢を考えると頭をなでるのは恥ずかしいか。
「髪が乱れるじゃろ。可愛くセットしたんじゃぞ」
ええ、そっちが理由!? すでに少女に馴染みつつあるムー教授は只者じゃない。
みんなが来たので、透明化して一気にダンジョンに乗り込むことにする。移動時には、一時的にアリスを増やして転移することになる。アリスはフレイヤと手をつなぐ。ジェシーはアリスに変身しメルと手をつないだ。
俺もアリスに再び変身し、ムー教授と手をつなぐ。
「あれ、ムー教授って戦えましたか?」
「そういうのは専門外じゃ。レベルも1しかない」
それを聞いて安全のために分身保険を作らせる。
「じゃあ、いきますね」
「みんな。支援をかけるの」
メルから支援魔法が行き渡ると俺たちは、深淵派の代表がいる場へと転移した。今回の騒動の原因にご対面と行くか。そして、同じ階層に転移した後、俺は影子になり、俺5号も元のというのはおかしいが、ジェシーへと変身する。こうして、いつもの攻撃隊にムー教授の一向ができあがる。もちろん、俺はこの間にも多数の分身を周辺に放っている。
そして、何かの装置をダンジョンに据え付けてアクセクと働く男たちを観察する。中の1人がこちらを指さしてくる。隠密も発動しながら近づいたのだが、探知系のスキルを持っている人物がいたようだ。
「追っ手か!? お前たちは誰だ!?」
痩せぎすの男がこちらに向かって叫ぶ。これが深淵派の代表なんだろうか。なんだか、拍子抜けだ。もっと大物感のある悪役といった人物が向かえてくれるかと思ったら、50代くらいの小悪党感のある人物だったからだ。
そこにムー教授が言い返す。
「深淵派、副代表だったイグノアス・ドルじゃな。今は代表となり、責任逃れから地球に逃げ込もうとする逃亡者というところか。調和派を人でなしなど散々コケにしおって、責任をとらんか、馬鹿者めが」
「ムーの孫か。ムーが生きた伝説などと持ち上げられているなかで困窮を極めた世界を立て直そうとした俺の何が悪い! 頑固爺たちを押しのけるためにちょっと強引な手を使っただけだろう! 感謝こそあれ、非難される謂れはないわい!」
それがダメなんだろうなぁ。なんか、不正とかにすごく煩い世界のようだし。しかし、ムー教授は本人だと思われていないな。仕方ないな。くるっくる巻いた髪で可愛らしい姿だからな。
俺は影子のアバターを解く。その変化に気づいたイグノアスはこちらを見た。ジェシーが俺を庇えるように間に入ってくれている。
「ちょっといいかな。地球人の立場として言わせてもらえると、地球に強引にスタンピードを起こさせる作戦は迷惑なんだ。人類はダンジョンとの生活については30年で慣れてきているけどね」
俺は手を挙げる。
「お前は誰だ? 変身を解いたところを見ると地球人の探索者。まさか、ムーが取り込んだ勢力の…確か、ススキ!」
「笹木だよ、ササキ!」
「ススキでもササキでも構わん。植民星のダンジョン労働者風情が何を生意気な口をきいている。地球など運よく見つけた資源採掘場所でしかないわ!」
「そういう意識じゃから気に食わんのじゃ…」
ムー教授がぽつりと零す。
その時、ジェシーが交信で呼びかけてくる。口に出す必要がないため、交信は内緒話に最適だ。
『こいつ、時間を引き延ばそうとしているぞ』
『装置を壊すでないぞ。あれが壊れると少々厄介じゃ』
『そういうことか。装置を止めよう。先に周りにいるのを無力化する』
俺はそう交信で返すと、分身達を使って装置を操作している人物たちを拘束する。透明化した分身たちが襲い掛かったが、何が起こったのかイグノアスも察知したようだ。
「くそっ、やめろ」
あせったイグノアスの言葉であっけなく終わりかと思ったら、なんと分身たちが全員消滅してしまった。強力な反撃を受けてしまったようだ。
「おおっ、よし、こいつらを殺せ。お前にはそれだけのスキルを持たせてやったんだぞ。おい、アビスヴォーカ!」
久々に出てきた名前だが、それって組織の名前じゃないかと思っていると、声をかけられた人物たちの姿が空間ににじむ。なんだ、これ。影?
「ムーだけじゃないぞ。地球の原住民どもに力を与えて手駒にしていたのは。強引にこっちに引っ張ってきたからな、意識が飛んでいるが力は本物だ。おい、降参するなら、楽に殺してやるぞ!」
イグノアスはそう言いつつ、後退して機械に取りつく。
「いけ、アビスヴォーカたち!」
5人の影は別の人物のようだが顔が見えない。どうやら魔法的な存在のようだ。
「ほほう。存在情報だけから再構築したゴーレムか。精度は悪くなさそうじゃが、こやつらも強いぞ。なんせ、わしが設計したんじゃからな」
その言葉を聞いて、イグノアスは叫ぶ。
「ムー!!きさま、本人だったのか! そんなふざけた姿になりやがって! その娘だ。その娘を先に殺せ!」
イグノアスの目の焦点が合っていない。精神状態はまともじゃない様子だ。
「それは、させませんし。ムー教授もほとんど俺なので困ります。アビスヴォーカのみなさんも悪く思わないでくださいね。あ、オーファンネストの皆さんは改心して表舞台に戻ってきてますからね」
俺は危険を察知し、影子に変身するとその場から飛びのく。
「ああああああああああああ」
言葉にならない雄たけびをあげて、その影たちがこちらに襲い掛かってきた。俺たちはムー教授を後方に下げ、戦闘へと入っていったのだった。
次回につづく!




