第20話 真実と放送
フレイヤさん出番です!
俺は俺2号。フレイヤとして、先日会ったジェームと一緒に機器の準備をしている。他にも現地のスタッフが10人ほど忙しく動いている。場所は何処かというと、ジェームの町にある中央塔だ。そして、そこで何をしているかというと、ドキュメンタリーの放送の準備だ。そのドキュメンタリーは題して、『調和派を陥れた深淵派の闇を暴く』だ。
この世界は議会制で成り立っていることや歴史の成り立ちから、不正に対する忌避感が強い。今回、調和派はその点を付け込まれた形で没落寸前となっていたのだ。それを深淵派の私利私欲な部分を暴き、世論を味方につけようという話となっている。いま、調和派の町で、おとなしくさせている治安維持部隊についても、指揮官には出演者となってもらう予定だ。
現状の扱いに不満を持っていたジェームたちは、この話を持ちかけるとすぐに賛同したのだ。生活も追い詰められているし、日頃のうっ憤を晴らそうといった意味合いもあったようだ。
そして、生き生きとしたジェームが放送の機器を調整している。
「魔力も安定してますから、大丈夫です。でも、受信側は大丈夫でしょうか?」
ジェームが訊いてくるのも仕方ない。ジェームの住む町は、テレビ局のような役割や映像を研究していた学派だ。ただ、この世界。娯楽というものがほとんどなく、このテレビ局もニュースの共有や議会の中継など堅い内容しか放送していない。そのため、映像コンテンツの充実という点では、地球に大きく劣っていることがすぐに分かった。
アリスがジェームの質問に答えてくれる。
「ムー…じゃなかった、エーミが選出した大きな学派に映像の放映を条件に魔石をたくさん配ってきましたから大丈夫」
その孫娘にエーミという偽名を使って名乗りを上げていないムー教授は、調和派の中央塔で魔力の供給について調べている。地球にいる俺3号が、ムー教授の姿となり、地球側での開発も急ピッチで進めているのだ。ムー教授は、地球側にいる自分と連携をとって魔力の受け渡しについて準備を進めている。本人曰く、自分が2人いるのは気持ちが悪いらしい。一般人っぽい感覚を持ち合わせているなと思って、ちょっと安心したのは内緒だ。
「フレイヤさん。映像を出すにしても、司会者なんかはどうしますか。うちの町、そういう人材がすっかりといなくなってしまっていて…」
ジェームが申し訳なさそうにしているが、その辺は決まっている。
「ええ、わたくしが司会者を担当するわ。映像をつなぐのは大丈夫かしら」
「それは大丈夫です。調和派にも映像担当が残っていてくれたので、急ごしらえですけど、放送の準備も進めています。でも、治安維持部隊の指揮官が、深淵派の不正について告発するなんて前代未聞ですよ」
ジェームの感心の裏に、影子の忍術があるのだが、クリーンなイメージを損なわないようにしないといけない。
「ええ、わたくしたちの仲間が誠心誠意もって説得したかいがあったということよ」
ジェームは、「さすがフレイヤさん」とか感心しっぱなしだ。
そして、その1時間後には緊急放送が始まった。台本は簡単な物をキュルのママさんが書いてくれていた。実は、キュルのママさんは、こちらの世界でも珍しい報道関係の仕事についていたのだ。そのため、知人のツテで治安維持部隊の動向なども気づけたという背景がある。そして、そのママさんが、深淵派憎しの思いを糧に鬼のような勢いで原稿を書き上げてくれた。それを、俺が読むのだ。いや、フレイヤのペルソナに任せるかな。
俺はシックなスーツに身を包みペルソナを起動する。
「みなさん。ごきげんよう。本日は、『調和派を陥れた深淵派の闇を暴く』と題しまして緊急の放送をいたします。1時間ほどのお付き合いとなりますが、よろしくお願いします。わたくしはフレイヤと申します。本日の司会をつとめますので、よろしくお願いいたします。」
キュルのママさんは、こちらの世界の難しい言い回しなどは省き、フレイヤが話しやすいようにシナリオを作っておいてくれた。もちろん、こちらの言葉なのだが、こちらにも敬語などいろいろあって難しい。まぁ、フレイヤのペルソナなので問題なく読めている。
「調和派が行ってきた別次元からの魔力入手計画に対し、大規模な不正が行われていたという訴えが深淵派から出てきた件は、みなさんの記憶に新しいかと思います。そして、昨日、深淵派の要請した治安維持部隊が調和派の街に大規模捜査と称し入り込みました。しかし、調和派は、そのような不正はしていないと否定しながらも、治安維持部隊からの一方的な暴力になすすべなく一般市民を含めた多くの人々が取り押さえられたのです」
そして、そこに映像が流れる。それは、反撃するまえの、会社員、老人、少年、青年たち、色々だ。皆が、治安維持部隊に理不尽な暴力を受けているところが良いアングルで撮られていた。
この映像は透明化したダンジョンガイダンスによって撮られた。ガームド局長が特許をとっているという撮影スキル満載のダンジョンガイダンスだ。ちょっとエッチなアングルが入っているのは、そういう事なのかもしれない。
「このような理不尽な暴力はあり得ません。無抵抗の人間に行ってはいけないものです。しかし、この暴力に対してある指揮官が告白をしてくれました。彼らは、深淵派の命を受けて、調和派が徹底抗戦に走り、市民も含めてテロ行為を行ってきたということにして、調和派の街を占拠することが目的だったのです。そこで使われるはずであった映像も入手しています。これは、まったくの偽物となります」
それは、治安維持部隊が所持していた映像機器をジェシーたちが奪取したものだ。そして、映像に映っていたのは、調和派の街の中で魔道具による遠距離攻撃を受ける治安維持部隊だ。しかし、そんな場所は存在していない。それっぽい街並みではあるが、別の場所で撮られたものだ。
「これが捏造された映像である証拠を押さえております」
そう言うとジェームの映像に切り替わる。ジェームは、幻影特有のゆらぎや鮮鋭すぎる背景などを指摘し、それが捏造されたものだという証拠を次々に上げていった。映像技術者としての力の見せどころだった。
そのジェームの映像が終わる間際に、感謝の意味を込めて、不安そうに見ていたジェームに手を振ってやる。ジェームはぎこちなく手を振ると、周りのスタッフから小突かれている。
「そして、決定的な証拠、指揮官からの証言をいただきました。顔は見えないように処理をしておりますが、彼の名誉と保護のためですからご了承ください」
そして、キュルに扮したムー教授を拘束して、痛めつけようとしていた指揮官が映る。顔は見えないようにモザイク状のものが掛かっている。そういう魔法らしい。彼の目の焦点が若干怪しいところなんかもちゃんと隠せる優れものだ。
そこからは、深淵派が狙っている調和派の技術や地球のダンジョン関連の資産など、そういったものを根こそぎ奪うため、深淵派が動いていたということを暴露し始めた。しかし、彼が自白させられているという雰囲気を出さないため、色々と証言した後に映像が消える。
「彼は世界を裏切る行為に最後胸を痛め、不正と戦うことを決意したそうです。彼の勇気を称えましょう。そして、深淵派の闇については追求せねばなりません。しかし、それだけでは、現在の魔力不足は解消しません。しかし、ご安心ください」
そこで映像が切り替わる。
「調和派は、亡きムー教授の遺した技術により、新たな魔力供給のシステムを作り上げようとしています。地球側にいる技術者と連携をとり、そのシステムは数日中に動き始めるでしょう。みなさん、魔力資源を採取する地球をスタンピードによって環境破壊をしなくても、魔力を安定供給できるようになるのです。再び、魔力が戻る日に向けて、放送を続けていきます。フレイヤでした」
そして、放送は終わった。
「フレイヤー。おつかれさま」
「感動しました。もう、俺、鳥肌が立ってしまって、もう」
ジェームが涙と鼻水を垂らしながらやってくる。汚い。
「ありがとう」
そして、スタッフたちから絶えまない拍手に対し、笑顔で答えるのだった。
フレイヤがダンジョン世界で放送を始めちゃいました。




