第19話 笹木と治安維持部隊
危機が迫る!
俺は俺1号。今はフラムの姿になって、中央塔の屋上から街を眺めている。すでに治安維持部隊が攻めてくるという話をキュルのお母さんから聞いてから2日が経っている。攻めてくるという話は誇張ではないというのが問題だった。過去に3回、この世界でも大規模な犯罪を行った学派などは、治安維持部隊が送られた前例があるらしい。そこからは迎える準備を進め、今やその治安維持部隊が町に入り込んでくるところまで来ていた。
俺はフラムの能力で町の各所を観る。
これは、中央塔近くにある調和派の関連会社だ。この世界にも特許のようなものがあり、結構儲けているという会社だ。その前には、泣いている女性社員、その前に殴られた跡のある男性社員が並ばされている。殴ったのは、その前に立っている治安維持部隊の隊員だろう。深淵派の部隊というわけではない。これは、この世界の治安維持部隊で、警察と軍の間みたいな存在だとムー教授は言っていた。ただし、深淵派の息が存分にかかっており、すでに深淵派の手だ。
次は学校だ。ほとんど学生は残っていないのだが、小学生くらいの子供の前で銃のような魔道具を抱える治安維持部隊は不穏な空気しかしない。小さな子たちは、女性の先生にしゃがみついて泣いている子もいる。
次は飲食店だ。学派とは無縁とも言える飲食店のガラスは割れており、中の老人が何人か拘束されている。何か口論でもしたのだろうか。オロオロとしているアルバイト風の少女を治安維持部隊員が一喝している。
次は公園だ。若者たちが治安維持部隊員と言い争いをしている。治安維持部隊の1人がステッキのようなものから大量の水を噴き出して、若者たちに吹きかけた。女の子が転んだところを男の子が抱き起こして逃げていく。
最後は中央塔だ。いま、入り口のバリケードの前に少女が立っている。その少女に向かう指揮官風の男。
「キュリアルア・ド・ムーか。ムー教授が亡くなった後、あなたはただのムーだ。大人しく捜査に協力しなさい。それがお前のためだ。世界に対する反逆は罪が重いぞ」
「わし、わたしは屈しません。おじいサマのことを信じていますから」
少女は腰に手を当てて言い返す。
「身内贔屓ですね。仕方ありません。すでに証拠は揃っているのです。地球への度重なる干渉による魔力の過度な消費。この世界に対する反逆ともいえる妨害工作。そして、彼の罪は学派の罪。ムー教授が亡くなったことは残念ですが、残った不穏な火は消さねばなりません。まずは、身内のあなた。共犯の容疑で拘束します」
男は部下に合図を出す。2人が動き出すが、少女のほうが早く、中央塔の中へと入り込んでしまう。
「君たち、幹部やその家族は皆逮捕です。住人たちも迷惑を被ってますね。いや、こんな反乱分子の住む所にいるんですから、住人も怪しいですね。さぁ、抵抗されたら反撃しないといけませんね」
男はニヤニヤと笑う。治安維持部隊という名の指揮官がしていい笑顔じゃない。その話を聞いて、少女は懇願する。
「やめるのじゃ、住民たちに罪はないのですわ」
なんだかぎこちない。泣き真似だろうか、全く濡れてもいない目にハンカチを当てている。
「じゃあ、投降してください。奥にいる幹部たちにも伝えてください。あぁ、投降しないんですね。あぁ、残念だ」
少女は両手をつかまれ、そのか細い体を抑え込まれてしまう。指揮官は残忍な笑みを浮かべつつ、魔道具を取り出した。
その時、ジェシーの声が聞こえる。
『もういいぞ。拠点を占拠、通信機器は奪取した。大変だったぞ。証拠集め…。では、行動開始していいぞ」
この声は皆にとどいただろう。そう。皆だ。
先ほど見ていたところを覗いてみる。
中央塔近くにある調和派の関連会社では、泣いていた女子社員が男性社員を殴った治安維持部隊の背後に現れる。
「女の子を泣かすのは行けませんよ?」
治安維持部隊の男性隊員たちが小柄な女性社員たちにヘッドロックされて一瞬で気を失っていった。
学校では、先生の背後から飛び出した子供たちが治安維持隊員たちの頭に取りつく。子供たちは、隊員たちの目をおさえて視界を奪う。
「あーそーぼー?」
もがいていた隊員たちは、本気で引きはがそうと暴れたが彼らは離れない。そして、そのうち、隊員たちの動きが鈍くなる。
「はーい」
そんな返事をしたまま肩車の状態で固まってしまった。
飲食店では椅子に縄で拘束されていたヨボヨボのおばあちゃんが縄を引きちぎった。持っていたバッグを振り回して、隊員たちをノックアウトしてしまった。その動きに連動して、さっきまで立つのも難しそうにしていたおじいさんが、入口から逃げる隊員の足に杖でひっかけて中に引き戻す。
「年寄りへの敬意が足りないのは罪ですよ?」
「や、やめ」
ドンっという音が飲食店に響いた。
そして、公園。水の魔道具よりも幾倍も激しい水流を操る少年たちが隊員たちを濁流の中に沈めていった。そして、隊員たちは公園の低くなっている所に流れ込んだ。そこに、さっき水を吹きかけられて転がされた少女が手を水に浸す。
「子供と思って嘗めないでよね!」
手から放電が始まり、そこに倒れていた隊員たちは失神してしまった。
各所で市民たちが一斉蜂起をしている。そして、中央塔の前で拘束されていた少女のところに戻る。
「なんだ? 何が起こった!?」
通信は入っていない。しかし、そこかしこで起こる爆発音に指揮官が慌てる。
「おい、お前調べてこい」
しかし、その声をかけた相手は一向に動こうとしない。
「おい、聞こえないのか!?」
「聞こえてますけど、あなたの部下じゃないんでね」
隊員のはずだが、不穏なことを言う。
「なんだと!? 反乱か!?」
指揮官は少女の方を向き、魔道具を発動させようとしたが、それもままならない。
「想像の通り、わしの仲間じゃ」
そう言って少女、いや、ムー教授が手を上げる。
「お主は大事な証人じゃからな。生かして捕らえるぞい」
「おい、どういうことだ。体が動かない」
先ほど部下じゃないと言った隊員が指揮官の肩に手を置いている。そこから、黒い影がにじみ出ている。
「ふっ、これ、楽しいのう」
そんな制圧劇を各所で見ている。
数万人の一般市民を拘束するために来た治安維持部隊は、脅威とみなしていなかった一般市民に捕まっていた。一般市民という名の影子の分身ではあるが。
俺は本物の市民をかくまっている場所を覗いてみる。
そこは、この町から10キロメートルくらい離れた場所にある小山の中にある隠れ家に避難している。彼らの避難呼びかけは非常に時間がかかったが、ムー教授の名前と孫娘の呼びかけによって多くは避難をしてくれた。しかし、やはり一部、部外者もいたため、その人たちには影子の力で、おとなしく付いてきてもらったのだった。
俺の近くにアリスがやってくる。
「何か問題起こった?」
「大丈夫よ。5000人の治安維持部隊を無傷で確保したわ。いい映像も取れたし、これから指揮官さんの独白映像の撮影会ね」
この世界にもテレビみたいなものはある。今や、魔力が足りないということで動いていないシステムだ。しかし、それも手持ちの魔石があれば、何とかなるだろう。そして、それを使って、深淵派が調和派を陥れて主権を握ろうとしていることや、地球の魔力が潤沢で急激なダンジョンの拡大とスタンピードは不要だということを知ってもらおう。
俺は、交信で皆に呼び掛けた。
『みなさん。おつかれさま。調和派の街を守ることができました。次の作戦に移ります。もうひと頑張り行きましょう』
『わしからも礼を言う。これが全員、笹木とはなぁ。設計したのはわしじゃが、このスキル、人知を超えておるな。やはり、わし天才』
ムー教授は喋る度に…いや、なんでもない。
とりあえず、街を俺で埋め尽くす作戦は上手くいったようだ。さぁ、次も頑張ろうか。
笹木しかいな街 爆誕!




