第10話 フレイヤとジェーム
探索がつづきます。
俺は俺2号。アリスと一緒に風呂を堪能している。異世界に来て、すぐにお風呂に入るなんて不思議だ。お湯の温度が少しぬるめなので、少し熱くしてほしいと言うとすぐに温度が調節される。プカプカと浮かぶ胸を眺めながら、手足をゆっくりともみほぐす。
「ほとんどが音声認識なのかしらね」
アリスは長い髪を洗っている。
「髪を綺麗にする魔法があれば良かったけど、そういうのは無いのかな? 長い髪って面倒」
「わたくしは慣れたわよ」
俺の答えに笑うアリス。
「フレイヤ、だってあなた、いつの間にかシャンプーとかのメーカーとコラボしてたでしょう?」
「あなたが使っているのがそうよ。わたくしの髪質に合わせてくださったの。製品名にフレイヤを入れさせてほしいって言っていたから了承したわ」
「はいはい。でも、これすごく良い香り。アリス用も作ってほしいわ」
そう言いながら次はトリートメントを手に取った。アリスの背中とおしりが良く見えるが、慣れたおかげでこれくらいでは動揺しない。毎回、眼福だと思っているだけだ。
そして、アリスも体を洗い終わって一緒にバスタブに入ることになった。フレイヤは熱いのに強いためか、まったくのぼせる気配はない。さすがに成人女性2人で入るには小さめなので、お互いの体の脇に足を差し込むような形で向かい合う。
「ちょっと熱いわ。下げていい?」
「いいわよ」
すると自然と湯温が下がる。いや、自然というのは変だな。バスタブの機能で温度を下げてくれる。アリスにぴったりとくっついた足が滑らかな肌に吸い付く。
「さて、これからどうしようね?」
「町を一通り案内してもらったら、調和派の町に潜入かしらね」
そんな緩い作戦会議をして、それもすぐ終わる。
「フレイヤ、足のマニキュアきれい。いつのまにやってるの?」
「昨日、お世話になってるサロンでやってもらったわ」
「私も行けばよかったなぁ」
こうして、浴室に1時間ほど籠ったあと、2人で風呂を上がったのだった。脱衣所に当たるところには、ドライヤーらしきものもあり、髪を乾かすのも自動だったりする。これは、かなり便利だ。温風が渦を巻いて髪を効率よく乾かしていく。これは、ちょっとお土産に欲しいな。ひよりなら、同じものを作ってくれそうだ。しかし、この生活がままならないとなると、人々は困惑しただろう。地球でいえば、電気がなくなった状況に似ているだろう。
脱衣所にバーナさんが用意してくれた服を見てみる。譲りたい服があるというので、こちらも強引に勧められたのだ。
「バーナさんって、まさかイケイケだったの?」
短かめのスカートとレースをあしらった洋服が置いてあった。好意に甘えることにするかと、服を着てみるとアリスは丈が短く、俺は胸がキツめだった。着れなくは無いが、少し目立ちそうだ。
「似合うねー! 見立て通りだよ」
着替え終わった俺たちを見てバーナさんが喜ぶ。
「この服。おばさんが若い頃に流行ったんだけど、5年前くらいにまた流行り始めてね。誰かに着せようかと思って綺麗にしておいたのさ。可愛い子たちが、質素な服ばかり着てちゃ、もったいないからね。あげるから着ていっておくれ」
こちらも服の流行とかあるんだな。
「母さん、あれどこにあったっけ、えええ」
ジェームがこちらを見る。視線が上から下へと移動する。いまは、脚を見たな。自慢じゃないが、フレイヤもアリスも美脚だ。さらに風呂上がり。それを2人分見せられたジェームは心中察するものがある。ちなみに軽く化粧はしてある。
「お、おれ、ちょっと用意してくるものがあるから」
ジェームは足早に他の部屋に移って行ってしまう。
「女の子2人連れてきて期待してたのに、とんと意気地が無いね。まぁ、でも、この見た目なら仕方がないか」
バーナさんは肩をすくめる。
その後、戻ってきたジェームと一緒に町の散策に向かうことになった。現地で流行っている服なら問題ないと思ったが、やはり注目は浴びてしまう。
ジェームはかしこまった様子の服を着用しており、なんだか得意げに先導してくれる。
「他の町とも似ていると思いますが、円形の町で中央塔には魔力の環流システムがあります。この町特有なら、実は映像用のスタジオがあります。昔はここから映像配信なんかもしてたんですけどね。いまや、単なる役所になってます。配給用の魔石を配るのが主な仕事かもしれませんね」
ジェームもここで働いていたそうだ。
「あ…あいつら」
ジェームが小さく声を出す。どうしたのかと思うと、向こうから4人の男性たちがやってくる。知り合いなんだろうか、きょろきょろと慌てたように周囲を見回すジェーム。どこかでやり過ごそうというのだろう。でも、脇道やお店といった手ごろな場所はなさそうだ。そのうち、すれ違う距離になり声をかけられる。ジェームは苦い顔だ。
「おい。ジェームじゃないか。すごい美人連れてるな。一体何か悪いことでもしたのか?」
「そんなんじゃない。町の案内を依頼されて、今案内中だ。邪魔しないでくれよ」
「なんだって、俺たちが案内するぜ? 暇ならいっぱいあるし、ジェームなんかよりも楽しませてやれるぜ? なぁ、ハハハ」
男たちが笑う。どういう意味で楽しむのかは分からないが、ひどく下卑た感じではない。ちょっとやんちゃな男性たちというレベルだろう。しかし、早々に次の町へ向かいたいこともあるし、ここはジェームを盾にやり過ごそう。ペルソナに切り替えて、体よく断ってほしいと念じてみる。
「ごきげんよう、みなさま。わたくしはフレイヤ、こちらはアリス。旅の途中でこの町に立ち寄りました。以前から知り合いでしたジェーム様にご案内を依頼しましたので、ご案内は不要でございます。お心遣い痛み入りますが、3人で楽しんでおりますので、失礼いたしますね。さよなら。行きましょう、ジェーム様」
もちろん、ダンジョン人の言葉なので、このままの日本語ではないが、丁寧に全拒否を食らわせてくれたフレイヤのペルソナ。
そして、ジェームの腕を取り、ぎゅっと体を寄せる。
「ひゃい、いきまひょう」
ジェームは体をこわばらせているが、問答無用で歩みを進める。
「またねー」
アリスが立ち尽くす男性たちに声をかけると俺たちの後をついてくる。曲がり角がやってくるところで、俺はペルソナを解除し、絡めていた腕を話す。
この寸劇で、ジェームの男性としての株を上げたような気もするが、後で絡まれたりしなければと願う。
横を見るとゆでだこのように真っ赤になったジェーム。あら、鼻血って本当にでるんだね。だらだらと垂れているわけではないが、鼻の下に赤い物がみえる。ダンジョン人の血の色は赤色と確認。
「ジェームは大丈夫かしら?」
アリスを見ると、クスクスと笑っている。そこで、ティッシュを取り出してジェームの鼻をぬぐってあげる。
「少しすれば、さすがにもどるんじゃない? でも、刺激が強かったわね」
その後、俺をまともに見ない状態のジェームと一緒に小一時間ほど町を散策したのだった。そして、町の外縁までやってくると、日が暮れてくる。
「ジェーム。案内ありがとうね。じゃあ、私たちはここで」
こうしてあっさりと去るつもりだったのだが、ジェームが立ち去りにくい事を言ってくる。
「え、ここで行っちゃうのかい? 母さんが料理を用意して待ってるんだけど。部屋も用意してるから、泊っていってほしいんだ」
あぁ、こういうのには弱い。結局、こうして1泊することになってしまった。ちなみに、また風呂に入ったのだが、今度は風呂の見張りをしてくれた影子の分身と一緒に入ったのだった。
風呂と右腕の感触。これが、このお話の主題です。




