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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第8章 軍団になった日

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第8話 調和派と深淵派

ご家庭訪問です!

 俺は俺6号。今はアリスとしてフレイヤと一緒にダンジョン人の家庭を訪問している。たまたま、ダンジョン人の町で声をかけたジェームという男性に町の案内を頼んだのだが、その途中で家によることになった。


「ごめんなさいね。食料供給はギリギリ大丈夫なんだけど、嗜好品の提供が少なくて、こんな薄いお茶になっちゃって」


 俺とフレイヤの前にティーカップを2つ出してくれたのはジェームの母親バーナだ。


「いえいえ、お茶をいただけるだけでも、ありがたいことですわ」


 フレイヤが微笑むと場が和む。ジェームは鼻の下が伸びている。俺も礼を言って、お茶をいただくことにする。念のため感知を働かせているが、この親子の他に誰かが潜んで居るようなこともない。そして、飲んだお茶は紅茶に似た風味があり、おいしい。

 今は客間と思しき部屋に通されているが、家財を見る限り地球側と大差ないように見える。使い込んであるソファーが向かい合っており、間にローテーブルがある。素材は木なんだろうか。ちょっと分からない。そして、棚には何かの記念にもらった表彰状みたいなものが掲げてある。壁には時計? そして、いくつか魔道具らしきものが置いてあるが、どんな機能があるのかは予想がつかない。



 そして、ソファに腰かけた俺たちの前には、ジェーム親子が座っている。


「お2人は今日来られたの?」


 バーナさんに質問されたので、そうだと答える。


「最近、遠距離の移動は物資輸送の飛空艇くらいでしょう? 今週はまだ来ていないけど、どうやって来られたの? 女性2人で、まさか陸路をやってきたわけではないわよね」


 問い詰めている感じではなく、好奇心と心配が混ざった質問のようだ。


「母さん、踏み込みすぎだよ」


 その時、フラムから交信が入る。この場面を引き続き追ってくれているらしい。


『飛んできたって言えば良いわ。この世界には飛べる人は少なくないから』


 その助言はフレイヤにも聞こえていたようで、こちらを見て頷く。


「自力で飛んできました。私たちは飛べるので」


 その言葉に親子が目を見開く。


「あら。すごいわね。最近じゃ、飛べる魔法を使える人も少なくなってきたのに、こんなに若くて美人さんが2人共使えるのね」

「母さん、2人は修練派だから、すごい使い手なんだろうと思う」

「あら、修練派なのね。昔会った人は、なんだか偏屈なお爺さんだったけど」


 笑ってやりすごすが、修練派ってずっと修行を続ける求道者的な存在なんだろうか。大ぴらに名乗っていると騒動になりそうな気もするので、使いどころは絞っておくことにしよう。



 せっかくなので世界情勢などを確認することにする。どれくらい、この自称田舎といっている町で分かるかは分からないが、物資の輸送もあるようだし、情報もあるだろう。


「最近は、集中するために2人でずっと人里から離れて魔法の鍛錬をしていたんです。最近、この町やほかの町で変わったことはありましたか?」

「2人で町から離れて。それは、また変わってるねぇ。でも、修練派ならありそうだね。でも、最近は物騒だから腕に自信があっても注意してね」


 バーナさんが心配してくれる。


「最近は物騒なんですか?」

「母さん、えーと、僕から教えるよ」


 喋りたくてうずうずしていた感じのジェームが割り込む。


「この学派には全く関係ないんだけど、深淵派と調和派がやりあってね。調和派の重要人物が何人か行方不明になったみたいだよ。深淵派も数人いなくなっているというし、お互いにいざこざがあったんだろうって噂されてる」


 いきなり聞きたかった深淵派と調和派の話がでてきた。


「政治ゴッコがすきな学派が争った結果なんだろうね。でも、将来のことを考えると調和派が大人しくなって本当によかったよ」


 バーナさん言った『調和派が大人しくなって本当によかった』と。これは、どういうことだ? 聞いてみるのがいいな。知らないふりをして聞いてみよう。


「深淵派が大人しくなったのではなくって?」


 ジェームが首を横に振る。


「ちがうよ。調和派が大人しくなったね。ダンジョン研究で名をはせていた学派が落ちぶれてるよ」


 ジェーム親子は笑いあう。調和派が正義じゃなかったのか? なんか、クーデターみたいなものを想像していたんだけど。


「調和派が大人しくなってよかったのは何故?」

「え? もしかして、相当長く鍛錬してたのかい?」


 バーナさんが驚くので、そうだと答える。


「あらあら、どこから説明しようかね」


 すると、思案中のバーナさんに向けてジェームが咳ばらいをする。バーナさんは、ジェームの膝を軽く叩く。


「ごめんね。うちの息子が説明するわ。ほら、しっかり説明してあげな、ふふ」


 ジェームはちょっと苦い顔をするが説明を始めてくれる。


「エルド大陸の黒のダンジョンが1年前に死滅してしまったんだ。そして、魔力の供給が今まで以上に厳しくなったんだ。歴史でも習ったと思うけど、別位相にある惑星から魔力を搾り取る計画が進んでるんだけどね。30年経っても現地の生態系に配慮とかって言って一向に十分な魔力を得られずにいたんだよね。でも、そんな状況じゃないだろ? 魔力がなくなれば、俺たちはおしまい。そこで、深淵派がいくつかの学派をまとめ上げてね、調和派に物申したんだよ。でも、調和派は聞き入れず、魔力はどんどん減る一方ってわけさ」


 ジェームは肩をすくめる。


「調和派の理想主義には、ちょっとみんなも腹を立ててたんだけどね。調和派はダンジョン研究で一番だったし、そもそもの人工ダンジョンを送り込むっていう計画を作ったのは調和派の技術者たちだからね。みんな遠慮して手をこまねいていたってわけさ」


 ジェームは、そこで何かを思い出したかのように、棚の方から冊子を持ってくる。紙に印刷された冊子のように見える。


「これが計画変更の提議として出された論文。調和派が手をこまねいている間に、深淵派が出してね。ちょっと強引なところはあるけど、この世界が滅びるのを食い止めることが第一だし、現地の知的生命体については保護できるっていう話も合ってね。みんな賛成し始めたんだ。その矢先だよ。色々、調和派から不正の話も出たりしてね。次々と幹部連中が行方をくらませちゃったんだよ」


 ジェームはそこまで話すと目の前のお茶を飲み干す。


「私たちが鍛錬している間にそんなことがあったんですね」


 俺がそう言うと、バーナさんも話を始める。どうやら、2人とも相当な話好きらしい。スキャンダルの内容に深堀が始まったので、適当に相槌を打ちながら、俺とフレイヤ、そしてフラムは即席の自分会議を交信で開く。


『驚いたけど、納得だね。この人たちからすれば、枯渇した燃料があるところから持ってくるのを邪魔しているのは調和派。そして、強硬策に出てでも地球から魔力を持ってくるべきだって動いた深淵派』

『わたくしも驚いたわ。調和派が人道的な資源調達を目指しているのに、それを批判するということは、それだけ魔力の枯渇が切実なのよね』


 フレイヤのいう魔力の枯渇が切実なのは、ジェームが魔石1つを配給でもらっている姿からも分かる。そして、フラムの声が聞こえる。


『ムー教授は、決して話の分からない人ではありません。我々に特別なスキルをくださったのも、考えがあってのことです。きっと魔力供給に関しても何か残しているはずです』


 しかし、この議論。フラムには知識として与えられていないというところが気になる。ムー教授がスキル製作の中でフラムに情報を与えたタイミングで何が起こっていたのか、もう少し探りたいと思ったのだった。


主義主張への反応は、立場や状況によって変わりますね。

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