第6話 2人とダンジョン世界
いよいよダンジョンの世界へ!
俺は俺2号。フレイヤを担当している。いま、アリスと2人で別世界に入り込んだと思われる。思われるというのも、光の瞬きの後、荒涼とした大地に降り立っていたからだ。
「あれ? これだけ?」
アリスの感想に大いに同感だ。ぎゅっと抱きしめていたアリスの体をゆっくりと話すと、緊張で汗ばんでいたことに気づく。ぴったりとしたスーツの中で水着がしっとりと濡れていることに気づく。俺がそんなことを気にしている間に、アリスは周囲の警戒をしてくれている。
「周辺に…構造物なし、人もモンスターもいないみたい。大きなクレーターみたいなものの中に居るのかな? 円形の山脈に囲まれてるよ。でも、なんだか地球みたいな風景ね。アリゾナ砂漠に似てるかも。でも、なんだか空の色が変だね」
空には太陽が浮かんでいるが、空は若干紫がかっており、なんだか異世界感が増している。
「ここがダンジョン人の世界…」
「そうだね。あ、ベルト外そう」
俺はアリスとつないだベルトを解除すると、周囲を改めて見渡す。そして、マジックバッグからダンジョンガイダンスを取り出す。通信が可能ならばいいんだが。
「こちらフレイヤ。誰か聞こえるかしら?」
俺の言葉に返事はない。
「あー、さすがに異世界? 異次元間? の通信には対応していないか」
アリスはあっけらかんと言う。まだ、試せるものがあるからだろう。
「俺1号、聞こえる?」
俺は交信を使う。どこまでつながるかはわかっていないが、このユニークスキルの限界は未知なのだ。
『お。聞こえる。無事に向こう側に着いたのか?』
「アリス、笹木と連絡が取れたわ」
「うん、こちらも聞こえてる」
アリスは笑顔だ。あちらの世界とつながっていることを考えると安心できる。
『そっちはどうだ? 今はダンジョンの中か?』
「そうじゃないわね。普通の地表よ。アリスの方から説明してもらったほうがいいわね」
そして、アリスが再度、ダンジョン人の世界について解説してくれる。
「降り立ったのはクレーターの内側みたい。周辺には人もモンスターも居ないかな。植物は生えているみたいだけど、なんだかアリゾナ砂漠みたいな場所。空は紫色で、なんだか不思議な場所。ちょっと離れたところも感知してみるね」
アリスは少し黙り、その後、指をさす。
「地表に町がいくつかあるかな。点在している感じかな。間に鉄道とか道路みたいなものは無いかも。荒地の真ん中に町があるね。大きさは10キロメートル四方くらいかな」
アリスの解説で多少状況が見えてきた。そして、フラムの声が交信に加わってくる。
『フレイヤ、アリス。2人の容姿はダンジョン人に近いと思いますので、あまり目立たないと思われます。でも、その服は目立ちます。なるべく質素な服に着替えてみてください。あと、派閥を聞かれたら弱小派閥なので恥ずかしいと濁してください。すみません、私がムー教授から託された情報はこのくらいです』
フラムは今ペルソナのようだ。
『私のスキルでそちらを見ることが可能になりましたけど、MPの消費が大きいので、数分したら接続を切ります。映像は、マナやガームドさんたちには見せていないので、色々動いてもらって構いません』
映像が見られていなければ、アバターの切り替えも自由ということだ。
「分かったよ。フラム、ありがとう。ねぇ、フレイヤ、質素な服ってもってる?」
服は潜入や遠征に備えて色々と持ってきている。そして、その場に服が詰まった大きな洋服ダンスを取り出す。
「マナに頼んで、いろいろ用意してもらったのよ」
周辺が荒野なので、2人そろってその場で服を選んで来てみる。気温としては、20℃くらいだろうか。服装もそれに合わせて暗い色のTシャツに下は黒いパンツだ。アリスも、同じような恰好になる。
「Tシャツが弾けそうよ」
俺の方を見てアリスが言うが、質素な感じというとこれが一番なのだ。
「質素なんだけど、豊かすぎて目を引きそう。何か羽織って」
そういわれて、俺は大き目の茶色いカーディガンを羽織る。
こうして、服を着替えた俺とアリスは、荷物を片付けた後、一番近い町へと飛んだ。着いたところは、町の近くの岩場の陰だ。
「んー」
アリスが首をかしげている。
「ダンジョンの中みたいな魔力の高さなんだけど、そこまで魔力が充満しているっていうわけじゃないんだ。話では魔力がもっと濃い場所を想像していたんだけど」
そういわれて俺も周囲を確認してみる。魔力に対する感度も高いフレイヤのおかげか、地球との比較ができる。
「そうね。ダンジョンの低層階くらいかしら。もっと濃いものだと思っていたわ」
魔力が枯渇してきているという話に信憑性が増してきた。
「では、町に入る?」
そこから見えた町は地球にもありそうな建築様式だ。コンクリか漆喰のような白い外壁で、3階建ての建物が多い。ただ、中央に大きな巻貝みたいな建物があり、その先が淡く光っている。
「なんだか、異世界というよりは、海外みたいな感じだねぇ。あまり違和感ないや。真ん中の巻貝みたいな塔は変わってるけど」
アリスも同じような感想のようだ。そして、2人してインビジブルを掛けて、町の中に潜入することにした。気配で分かるのだが、ちょっと不安なので2人で手をつなぎながら歩いていく。
少し警戒していたのだが、町の周囲に壁や柵と言ったものもない。そして、第1町人を発見した。言葉を発するのは良くないということもあり、交信で話す。
『なんだか普通。確かに質素ね』
第1町人は、なんというか、普通のおじさんだった。人種としては欧米人に近いだろうか。服も質素で、なんなら継ぎがあたっており質素というか貧乏な雰囲気まで出ている。地球人を凌駕する魔法文明といったイメージがあったのだが、それを打ち崩す風体だ。
『この人は見張りかな?』
手には棒のようなものを持っているが、手ごろな岩に座っており、周囲を警戒しているというよりは、ぼーっと眺めているという感じだ。
『どちらかというと、散歩に来たおじさん? 片田舎の町なのかな?』
そして、こちらに気づくこともない見張りっぽいおじさんを通り過ぎる。そこからは、町の人を何人か見かける。老若男女、子供も見かける。しかし、誰もが質素な服を着ており、魔法文明な様子は見えない。町の中は舗装はされているし、不潔というわけではない。しかし、なんだか活気もない。
『思っていた世界とは違うね。なんか静か』
活気がない理由が分かった。音楽などが流れることもなく、車のような乗り物が走っていないのだ。
そして、中央の塔がある場所に近づいていくと、少し騒がしくなる。おかげで、少し安心する。塔の前に人だかりができており、何かを配っているのだ。
『何かなあれ』
人だかりの向こうに見えるのは積まれたパン? いや、石のようなものか?
『あ、あれ、魔石じゃない?』
『ほんとね』
たしかに魔石だ。すれ違った人が大事そうに魔石を抱えて戻っていっている。ちらっと見た感じ、あまり質のいい魔石ではない。地球のダンジョンでいえば、低階層で出てくる安いものだ。たぶん、1万円くらい。
そして、若い男性が通り過ぎていきながら、ため息をつく。
「あぁ、いつまでこんな生活が続くんだ。配給もどんどん少なくなるし」
アリスがこちらの手を強く握る。
『言葉分かるね』
『ええ、ダンジョン人の言葉よ』
『ねぇ、あの男の人に色々教えてもらう? ほら、こちらには魔石もあるし、こんなに美人が2人もいるし、ふふ』
顔は見えないが、アリスは小悪魔的な悪い顔をしているんだろう。
『わかったわ、人気がないところまで追いかけましょ』
そうして、俺とアリスは手をつなぎながら、その男性を尾行したのだった。
ポイントは手をつないで探索。




