第4話 月ダンジョンとラビリンス・ドリフト
いよいよ地球を飛び出します。
俺は俺6号、主にアリスを担当している。
ここ最近は、フレイヤ、ジェシー、メルの4人で世界各地のダンジョンを飛び回っていた。アビスヴォーカが崩壊した後、ダンジョンの数は増加の一途をたどり、スタンピードが始まってしまうダンジョンが増えつつあるのだ。今までは偏在していたその現象も全世界に広がってしまっている。そんな中、俺たち4人は非常に優秀なダンジョン攻略パーティだ。アリスの移動能力と安全地帯を構築してからの遠距離攻撃による殲滅、そして、メルによる能力の底上げという4人パーティはかなりの最速攻略を行っているのだ。
ちなみに他のダンジョンでは何もしていないかというと、もちろんそうではない。各国のクランが、ギルドからの依頼によりレイドとよばれる合同作戦を敢行している。
では、再び俺たちは、そのダンジョン攻略に精を出すのかというと、今は日本で休暇ということになっている。さすがに、この1か月ほどで、すでにスタンピード込みで30件ほどのダンジョンを攻略したのだから、休ませてほしいというものだ。まぁ、実際は休んでいるわけではないんだけどね。
いま、その4人は高山ダンジョンに集結している。なぜ、高山かというと、手ごろな人気の少ないダンジョンということで選んだ。俺たちは、そこを足がかりとして月のダンジョンに向かうことにした。
「さて、いよいよ月のダンジョンへの進出だ」
ジェシーが作った安全地帯の中、ダンジョンの構造を書いた紙を机に広げる。ダンジョンガイダンスの向こうでは、金沢ダンジョンからひよりやマナたちが遠隔で参加している。ガームドさんもこの状況を共有するために、名古屋ギルド側から回線をつないでいる。
「飛ぶ先は、フラムが選んでくれた、このダンジョンのこの区画。モンスターがうろついていないエリアだということだ」
ジェシーはこちらを見ないように話をしている。いつもパパと娘ごっこをしているので、それが板についているのだろう。何故なら、俺とフレイヤは2人そろってウェットスーツのような物を着用している。ひより謹製の防護服らしく、宇宙空間に放り出されても数日は生存可能という優れものだ。ウェットスーツと言ったが、厚みはそこまでなく、下に来ている水着の形が見えるくらいに薄く、体のラインもばっちり見える。
「出発する前に支援するの」
メルが支援魔法を出発直前に行うように待機している。そして、ダンジョンガイダンスからひよりの声が聞こえる。ひより側からは俺たちの姿なども見えているはずだ。
『じゃあ、フレイヤが充填してくれた魔力供給装置を背負った状態で、アリスに抱き着いて。安全のためにアリスとフレイヤをベルトで固定する形にしているから』
ひよりの指示によってフレイヤがバックパックのような形状の魔力供給装置を背負う。フレイヤが作ったエナジーボールが詰まっており、低い振動が伝わってくる。
「これ、ちょっときついわ」
『ごめんね。ちょっと我慢してね。魔力供給を安定させるために上半身にしっかり固定したんだ』
「仕方ないわ」
装置との接点を増やすため、ベルトがしっかりと胸側にもあるのだが、そのベルトがフレイヤの胸元に食い込んでいる。ベルトもただの固定具ではなく、魔石が真ん中に取り付けてあり魔力の伝達を上げる装置となっているという話だ。
「これで準備OKね」
見えないところに分身保険を待機させているし、何かあっても戻ってこられるだろう。あまり心配はしていないが、緊張する。
「じゃあ、アリス、がんばるわよ」
フレイヤがそう言うと俺にぎゅっと抱きついてくる。アリスの方が背が高いので、フレイヤの顔が首元に来る。お互い女性なので変なことにはならないが、笹木の姿なら困ったことになっているだろう。
「ええ、フレイヤ。じゃあ、飛ぶね」
俺は月のダンジョンを感知し、そこに向けてラビリンス・ドリフトを使う。MPがごっそりと抜けていく感覚と同時に胸のところからMPの急激な高まりを感じる。フレイヤがぎゅっと抱き着いて、俺にMPを供給しつづけているのだ。集中を切らさないようになのか、目をつぶって頑張っている様は、かわいいな、おい。
そして、そのフレイヤを愛でる時間は長いようで短かった。唐突にダンジョン内に俺たちは降り立ったのだ。周辺にはモンスターは見当たらない。エリアとしては砂漠地帯のようだが、月の表面にも似た荒野だ。この辺りはフラムによってもたらされた情報と合致する。
俺は腰のマジックバッグからダンジョンガイダンスを取り出す。今回の遠征に向けてチューンナップされたダンジョンガイダンスだ。ドッペルゲンガー間ならば交信だけでもいいが、ガームドさんたちとの情報共有のため、通信ができるようにしている。
通常の電波と違い、ほぼ遅延のない通信ができると言っていたが、どうだろう。
「こちらアリスとフレイヤ。今、無事、月ダンジョンに降り立ったわ」
「エナジーボールの残量が半分ってところよ」
ダンジョンガイダンスから、そのすぐ後に返答がある。
『こちら、ジェシー。無事ついてよかった。周辺にモンスターは居ない。中央に高い岩山のようなものが見えるはずだが、その中に行ってほしい。途中、モンスターが居るが、どれだけ強いかは分からない。用心してくれ』
「わかったわ。パパ。うさぎみたいなモンスターよね」
『あぁ、ちょっと大きいそうだ。危なければ、対策をこちらでも考えるから、その時は離脱してくれ』
遅延なく会話が続けられ、違和感がない。記録に残るだろうということで、安全地帯の構築をジェシーでするわけにもいかないので、ギルドが用意した簡易安全地帯装置を地面に設置する。これで、簡易的な安全地帯になるのだ。この装置に着いた観測装置が映像なども送ってくれる。
「じゃあ、塔に向かっていこっか」
「ええ、いきましょう」
いつものダンジョン攻略というよりも、なんだか他の惑星に降り立った宇宙飛行士のような気分だ。服装が刺激的なところなんかは、ちょっと差し引くが。
「結構いるわ。30体くらい」
ラビリンス・ドリフトの感知によってダンジョン内のモンスターの配置は簡単に分かる。今は、岩山の中にいるようで、規則的な動きをしているように見える。
「いよいよ、侵入よ」
岩山にはフラム情報により中に大空洞があり、何か所かの入口から侵入できる。その中に、魔力転送装置が用意してあるというのだ。つまり、このダンジョンは、地球にあるソレとは全く異なる用途で存在しているのだ。
大空洞に入ると、俺たちはうさぎのようなモンスターが視認できる範囲に入った。しかし、それらはこちらに反応して目を向けたことは分かる。二足歩行のうさぎだ。身長は2メートルくらい。どちらかというとカンガルーに近いようにも見える。
こちらを確認したようだが、無関心のようで、大空洞の中央にある装置のようなものに触れている。その装置は50メートルくらいの高さがある円柱だ。機械的な装置には見えないのは、コンソールのようなものが見当たらないからだろう。
『やはり、モンスターというよりは、メンテナンス用に存在する者たちのようね』
フラムの声だ。彼女の知識の中に月のダンジョンも含まれていたのだが、そこにいるモンスターの生態までは知らなかったようで、ほっとした感がある。
『よくやったぞ。じゃあ、次の作戦に移行だ』
ジェシー指揮官の声が楽しげだ。こうして、月ダンジョンにおける作戦が魔力転送装置の調査へと移行した。
ダンジョンの巨大装置。こういうの好きなんですよね。




