第3話 千種とオーファンネスト
千種とオーファンネストのメンバーが出会います。
俺は俺7号。アビスヴォーカがほぼ壊滅したとされるが、幹部連中の足取りが掴めないという状況なので、まだ金沢ダンジョンに籠ってフラムとして活動している。まぁ、半分くらいは居心地が良いというのもある。ネットはもちろん使えるし、食べ物や欲しいものの宅配なんかもダンジョンガイダンスを使って行えるのだ。引き籠るにはとてもいい場所だ。
もちろん、だらだらしているだけではなく、各地の情報収集などをフラムの能力で行っているのだ。
「これ美味しいわ」
新作のスイーツを送ってくれるのは、金沢ダンジョンの受付嬢だったりする。通常のラインナップにない物も色々と手配してくれるので、コンビニの新作スイーツなんかも送ってくれたりするのだ。本当に助かる。
そして、そのスイーツを楽しみつつ、俺が今日見ている相手というのは、旧オーファンネストと千種だ。彼らオーファンネストの言語は英語に統一されている。千種も流暢な英語で会話しているのは、笹木の言語能力がアリスやジェシーなどの英語キャラに底上げされてきた為だ。
フラムの能力だと、そこに自動翻訳が加わるため、あまり言語の壁を感じずに観察することができる。最近、楽しみ方の1つとして、フラムのペルソナを起動しつつ会話を楽しみながら観察するということを行っている。なんせ、1人で観察していると眠くなってきてしまうからだ。俺が考え、フラムが喋るという形で会話を進めれば、ほら眠くない。
「なんだか退屈しないために存在するみたいよ?」
ごめん、そんなことはない。いろいろと為になる情報などももらえるし、君と話すのは楽しい。
「ふふ、それくらいで許してあげるわ」
ところで、旧オーファンネストの紹介をしよう。ヒプノとライカとホロウは知っているが、そこに新たに加わったのがエンハだ。能力の強化や回復支援ができるという女性だ。役回りはメルに似たポジションだが、最近の武闘家なメルとは違って後方支援という感じの線の細い女性だ。
「体格なんかは、南さんに似てるわね。ダンジョンなんて潜って大丈夫なのかしら。でも、オーファンネストって皆が戦闘できるって言ってたから、きっと強いのね」
ちなみに、ヒプノは細身で筋肉質な飄々とした茶髪の男性で、彫りの深いイケメンだ。きっとモテるんだろうが、割とライカ一途だと見ている。
「きっとそうね」
ライカはスリムな体型で引き締まった体躯をしている。彼女も明るい茶髪で、猫系な雰囲気を持つ女性だ。ヒプノと同じく彫りが深く、美人と言えるだろうが、ちょっと勝気な雰囲気が勝っている。
「あ、そういえば、E&Sの服を着ているわね。似合ってる」
そう、ライカには服を一瞬で着替えることができる魔道具を融通したのだ。彼女はモンスターに変身して戦うため、服を着ていると破けるため、毎回服を脱いで戦闘しており、この魔道具をとても喜んでくれた。
そして、千種の横でニコニコしているのがホロウだ。すっかり顔を晒している。歳は13歳らしく、身長はまだ千種の方が高い。しかし、あと1,2年で抜かすと千種に向かって宣言しているのが可愛らしい。
「ホロウくんは、なんだか嬉しそうね」
どうやら北欧にある新ダンジョンの調査に来ているようだ。そして、このタイミングで合流したようだ。ホロウが千種を紹介するところだ。
『こちら、千種。エバーヴェイルの下部組織のメンバーで、今はそこから離れて僕と一緒に活動してくれてるんだ。千種、こっちがアビスヴォーカに入る前からの仲間たち』
ホロウの顔がちょっと得意げだ。
『よろしくお願いします。ヒプノです。お会いできて光栄です』
ヒプノが千種と握手をする。
『こちらこそ、よろしくお願いします。近接から中距離の戦闘が得意です』
千種が微笑むとヒプノがニヤリとしてホロウを見る。
『あーしはライカ。よろしく。ホロウに誘拐されたってのに仲良くしてくれるって、どんなお人よしよ。もしかして、年下好きとか?』
『おい、変なこと言うなよ!』
ホロウが顔を真っ赤にしている。
『こんな美人と何週間も逃避行とか、ちょっと背伸びしすぎじゃないか?』
ヒプノに言われて、ますます顔を赤くして怒っているようだが、千種の方をちらちら見ているホロウ。
『彼との旅は楽しかったですよ。もう無駄になっちゃいましたけど、ホロウの死亡記事なんかは思い出に残りました』
千種が手元に新聞を出し、身元不詳の少年がスタンピードのはぐれモンスターに殺された記事が載っていた。それを見せる千種の笑顔がキラキラしている。
『旅の思い出が死亡記事の偽造っていうのも何ていうか、エバーヴェイルの人って感じだね』
そうコメントするヒプノが顔を引きつらせている。
『千種はエバーヴェイルの人じゃないよ。もうフリーなんだよ』
ホロウがそんなことを言う。ヒプノが疑わしそうに千種を見るが、
『はい、フリーですよ。所詮はエバーヴェイルの下部組織の所属だったので。みなさんと同じ立場で、スタンピード対策に参加させてもらいますね』
『ふーん』
ライカがあいまいな相槌を打つ。
そこまで話すのを見て思い出す。エンハが喋っていない!
「この人、口数が少ないタイプね」
フラムがそう言うが、少ないどころか、まったく喋っていない。まぁ、濃い仲間がいるとそういう人もいても仕方がない。
千種も同じことを思ったようで、わざとエンハの前に行って挨拶をする。
『あの千種です。よろしくお願いします』
千種がそう言って手を差し出すとその手を握り返してくれるが、エンハは微笑を浮かべただけだ。
『あー、そいつ、戦闘以外は喋らないんだよな。悪い奴じゃないから仲良くしてやって。あーしが代わりに説明すると、勝手に支援魔法とか回復とかを挟んでくるから、いると便利な奴。モンスターに狙われても、回避技持ってるから、逃げ回ってる間に倒してやると喜ぶ』
ライカの説明は雑だな。まぁ、分かるからいいけど。
『じゃあ、さっそく行こうか。千種さん、分からないことは色々聞いてね』
ここはヒプノが率いてくれるようだ。このダンジョンについての情報を手元の端末で調べてみる。
『ヒプノは従えるモンスターを探してきなよ。質問は僕が答えるから』
ホロウがヒプノと千種の間に割って入る。
『お、三角関係?』
ライカの茶化しにホロウじゃなくてヒプノが苦笑する。
その後、ヒプノは出会ったモンスターを従え、階層を進んでいく。
『お、階層主だね』
次の階層への入口の前に5メートルくらいの巨大な猿が立ちはだかる。第1層の階層主なので、そんなに強いモンスターではないはずだ。ヒプノが手持ちのモンスターをけしかけるが、大ぶりの拳で消滅させられていた。
『Bランクは必要そうな敵だね。そうだ。千種さんの力を見たいんだけど、ホロウと僕でサポートするから、ちょっと腕を見せてくれない?』
『おい! 千種にそんな危ないことさせる必要ないじゃないか!』
ヒプノの提案に動揺するホロウ。それに対し、千種は平然と『いいですよ?』と答える。
『では、いきます』
そして、千種はその場で姿を消した。インビジブルを使ったのだろう。そして、十数秒後には巨大な猿の首が落ちていた。
巨大な猿は首が切られたことも気づかずに腕を振り回した後、ひざから崩れ落ちた。
『これはすごいね。見えなかったけど』
『あーしは、なんとか首を落とすときの気配は感じた。でも、こわい。忍者こわい』
『ほら、すごいだろ! 僕の千種だからな!』
『『僕の?』』
ヒプノとライカが面白いものを見つけたという表情でホロウを見たのだった。
ホロウくん・・・。




