第1話 フレイヤと力試し
いよいよ8章のはじまりです。
俺は俺2号。フレイヤを担当しており、久々に日本に戻ってきた。世界各国を転々としてスタンピードの解消やダンジョン攻略を進めてきた。アビスヴォーカが仕組んでいたと思われたそのスタンピードも、アビスヴォーカの摘発が進んだ後も衰えていない。これについては、フラムとひよりが深淵派による飽和攻撃だという見解を出している。
この攻撃にどう対処するかという方針決めのためと、アビスヴォーカの罠が不要になったということもあり、日本へと戻ってきたのだった。
そして、俺の前には、ライカとヒプノという元アビスヴォーカで、元オーファンネストのメンバーがハイランドスクエアのクランベースで対面していた。同席してくれているのは、南さんとひよりだ。このひよりは、誘拐された影子の分身だ。ひより本人が研究開発で忙しい今、彼女が影武者を継続している。
ライカの額に玉のような汗が浮かんでいる。
「はじめまして。わたくしがフレイヤです。でも、初めてじゃないのかしら。ゴールデンゲートブリッジでお会いしたかしら」
「あ、あぁ、あの時、あーしは巨大なワイバーンに変身していた。最高速が出せる変身だったから、こいつを乗せて逃げてたんだ…」
そこからライカが二の句を告げなくなっている。
「これはちょっとトラウマになってるね。僕も遠泳はこりごりなんだけど、もう禍根はないと思っていいよね」
ヒプノは飄々とした態度だが、ライカを気遣っているようだ。
「ええ、ごめんなさいね。スタンピードのモンスターかと思ったのよ。怖い思いをさせたわね」
ライカは頷いてから、首を横に振って否定する。これは相当怖かったらしい。その時、ひよりが手をうち鳴らす。
「作戦会議が進まないから、もうハグでもしちゃってね。フレイヤは怖い子じゃないし、真面目な性格ですから仲良くなれますよ。ワインが好きすぎて飲みすぎるのが玉に瑕なんですけどね」
そのひよりの提案によって、俺はライカとハグをしてみる。いい香りのするライカと30秒ほどハグをすると強張っていたライカの体が柔らかくなってきた。そして、おもむろに色々触られる。
「あーしより華奢。でも、おっぱい大きい。なんかくやしいね。そして、勝てる気がしないけど可愛い」
そんな軽口が出てくると、態度も急速に軟化していった。
「僕も仲直りのハグを…あー、もう仲良しでした。よーし、仲良くなったぞー」
ハグをしようと手を広げたヒプノだが、すごい形相でライカに睨まれて広げた手をもてあまし、ストレッチを始める。
そして、南さんがモニターに資料を映す。
「ギルド側から協力者となってもらえるオーファンネストの方々には、罪に問わないという話もいただいています。協力いただけそうな方は見つかりましたか?」
その質問にライカが答える。
「あーしたちの他に4人いる。ホロウは知ってるようだし、もう、あんたたちの仲間と一緒なんだろう? その他の3人も所在地もつかめて安全な場所に避難してもらってる。でも、それ以外のメンバーは行方知れずさ」
哀しそうなライカ。そして、オーファンネストのメンバーは全員が兄弟のような存在だと教えてくれた。そして、ヒプノはライカの1つ歳上で兄のような存在らしい。それを聞いたヒプノが寂しそうな表情をしていたのを俺は見逃さなかった。
「他のメンバーと合流してダンジョン攻略とスタンピードの対処を手伝うよ。その3人も結構強いからね」
「それは…、心強いです」
南さんは嬉しそうなのだが、いまいち覇気がない。
「あんた、あーしたちの実力を信用してないでしょう」
ライカが南さんを睨む。
「ちょっと失礼だよ。すみません。察しが悪いのに、こういう機微には聡くて」
何の察しが悪いのかは置いておいて、確かにライカとヒプノの能力は明確に分かっているわけではない。そこで、ひよりが何か思いついたようだ。
「じゃあ、今からダンジョンに行って来たらどうですか? ちょうど良いものが名古屋ダンジョンにはありますから。判定はフレイヤで」
ひよりの言う良いものというのは、名古屋ダンジョンに設置された転送機だろう。深層のモンスターで戦いっぷりを見たらどうかと言っているのだ。
「わたくしは構いませんよ。あ、ジェシーとアリスは呼んだほうがいいかしら。メルは家に帰してしまったわね」
ジェシーとアリスという名前を聞いて、またライカの表情が固まる。
「その2人ってアルカトラズの中を一瞬で制圧した化け物親子だよね…」
「公式には違います。正体不明の誰かです」
南さんが補足するが完全な否定はしていない。
「手練れのチームを一瞬で無力化して、爆弾を外に放り投げてくるからびっくりしたよね」
ヒプノの言葉にライカがしきりに頷く。
「あれにびっくりして、最速のワイバーンになった」
「じゃあ、ダンジョンの奥で、ジェシーとアリスと握手してきたらいかがですか。2人とも気さくだし、料理が上手ですよ」
その後、名古屋ダンジョンの最深部まで僅か30分ほどで到着したのだった。そこは、森林エリアで、獣タイプのモンスターが多く生息していた。機敏な動き、的確な攻撃など身体能力の高いインファイター型のモンスターが主流だ。
「こんなに最深部に早く来れるなんて、ひよりってすごいんだね」
ライカがここには居ないひよりを褒める。
「ひよりを誘拐したい理由がよくわかるよ。あーしの説得も空振りになっててよかったかもね」
そして、そこに場違いなコック服とウェイトレス姿のジェシーとアリスが現れる。
「やぁ、おれはジェシー。こっちは娘のアリス」
「僕はヒプノ。こちらはライカ。ちょっと口は悪いけど、根はやさしい子だから仲良くしてください」
「あ?」
ライカが眉をひそめる。
「こんな感じです」
ヒプノは我関せずと続ける。瞬間移動してきたアリスたちについてあまり驚いていないのは、ホロウが影による移動という同類の移動スキルを持っているからだと教えてくれた。そして、俺とライカ、ヒプノに加えて、これで5人になった我々は、モンスター討伐に森の中へと踏みいったのだった。そして、森の中といえば、潜むモンスターに苦慮するのだが、ジェシーは悠々と先導する。
「2時の方向、30メートル先、大型の豹みたいなのが3匹いるぞ。誰がやる?」
ジェシーが指をさす。
「おっちゃん、反則過ぎ」
ライカがジェシーの索敵能力の高さに笑う。もう、笑うしかないという様子だ。
「じゃあ、あーしがやる」
そして、ライカは服を脱ぎ始めるとその場にポイポイと捨てる。
「パパは見ちゃダメ」
ジェシーの目をアリスがふさぐ。俺は、もちろん同性だから問題ない。目をふさいでいる側のアリスもしっかり見てしまうが、同性だから問題ない。
ライカは体を肥大化させながら四つん這いになり、尻尾が生え、口が裂けていく。そして、数秒後には全身に銀色の体毛を持つ巨大なオオカミになった。高さが5メートルは超えるだろうか。ただのオオカミではない。
「これは、フェンリルだね。モンスターの中でも強力な部類だよ」
ヒプノの解説の後、ライカオオカミは森へと飛び込んでいった。そして、戦闘音が聞こえた後、戻ってくる。その2メートルくらいは在りそうな顎には、ぐったりとした豹みたいなモンスターが咥えられている。
そして、戻ってきた俺たちの前で、かみ砕いた。それは消滅し、その場には魔石が転がる。
「お見事ね。でも、毎回裸なの?」
その言葉にヒプノは無言で笑う。そして、ライカオオカミがその姿を女性に戻していく。服を着る間、目隠しをされるジェシーというシュールな状況になる。ヒプノは視線をそらしている。
「これが毎回は面倒そうね」
「あぁ、でも、服が破けるよりはいいだろう?」
「E&Sとオーブマシナリが装備の着脱を一瞬で行う魔道具を開発してるから、それを使うといいと思うわ」
俺も協力しているプロジェクトだ。
「え、そんないいものがあるの!? 欲しい、切実に欲しい」
戦う前の脱ぎっぷりを見ても見られるのには慣れてはいるんだろうが、脱ぐ手間とかは省けるのは大きい。
「手配しておくわね」
俺がそういうとライカは抱き着いてきた。まだ、下着だ。
その後、ヒプノの番となる。
「僕は、風系の魔法を使うよ。そして、モンスターを操ることができる」
そういいながら、4体いたモンスターのうち2体を従え、2対2で戦闘をさせたのだ。
「従えられるモンスターは同時に10体くらいかな。いいモンスターが居ないときは、ターゲットのモンスターを硬直させておいて、首を斬る」
そう言って、ヒプノの能力で立ち尽くす大型のモンスターの首が宙を舞った。それを見てアリスが拍手をする。
「ライカさんのマネージャかと心配したんですけど、お強いです」
「素直に褒められた感じがしない」
そう言ってヒプノが少し落ち込んでいたのだった。
こうして2人の能力の一端を垣間見ることができた。そして、この後オーファンネストは名前を伏せられ、グランドマスターの直轄のスタンピード対策部隊の1つとしてエバーヴェイルと連携することが決まったのだった。
また、いずれオーファンネストの活躍が見られると思います。




