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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第7章 観測者になった日

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第30話 アビスヴォーカと末路

もうお正月が終わりますね・・・。

 俺は俺1号というか笹木本人だが、受付嬢になってクランに指示出しするポジションはかなり刺激的だった。組織のトップが新人受付嬢なんて誰も考えないだろう? そして、そんな立場も終了してから1週間が過ぎていた。新社屋がテロに遭った直後、新社屋は無期限の閉鎖となったのだ。持ち株会社としての体裁は整えているが、社屋はがらんとしている。しかし、この新社屋自体が何か生産性のあることをしていたかというと全くそんなことは無い。罠としてそれっぽく仕事をしていたのだから。そして、その裏で主体となって動いてくれていた南チームは、金沢ダンジョン内の豪華な別荘地でリモートワークを粛々とやってくれており、傘下の会社との連携も進んでいったのだ。


 そして今は金沢ダンジョンの隠しエリアに行き、影子の分身が代理をしてくれていた笹木と交代し、久々に俺自身として過ごしている。今は、ひよりと魔力を送るシステムの開発が大詰めになっているので、そちらの手伝いをしている。フラムも観察する必要性が減ったおかげで、一緒に手伝いをしてくれる。マナは南さんと会社の運営について話し合っており、ますます経営者的な雰囲気を出してきている。


「じゃあ、このバージョンの魔力保持の安定性を確認するからさ、少し待ちだね。ちょっと休憩しよ」


 ちょうどいいということで、経営側の会議をしていたマナと南さんも呼んでお茶の時間とした。


「あ、そういえば、アビスヴォーカはどうなったんだっけ。エバーヴェイルは落ち着いた? 僕、このところラボに昼夜逆転でこもりっきりで知らないんだ」


 ひよりは、自分の影武者的な分身が解放された後、この作業に没頭していたので、状況を知らない。マナや南さんも居るので、ドッペルゲンガーを消して記憶の共有をするという方法はとれない。そこで、会話によって状況を共有する。


「エバーヴェイルは大丈夫だったよ。対外的には、エバーヴェイルの運営が危ぶまれることにもなったけどね。株式公開もしていないし、収益も変化なし。その辺は無風だね」


 マナが紅茶を入れながら補足してくれる。


「変化はありました。オーブマシナリさんが、株式公開の件を白紙に戻したんです。エバーヴェイルの完全子会社化になりたいって申し込んできました」


 危ない組織に狙われるクランなのに、なぜ完全子会社化に踏み切ったかというと、その危ない組織がほぼ壊滅したといって良い状態になったからだ。それを聞いて、ひよりは嬉しそうだ。オーブマシナリは色々とかゆいところに手が届くからだ。ひよりに心酔しているため、動きがいい人材が多いのが理由だ。


「じゃあ、アビスヴォーカの激動の一週間を振り返るか」


 この1週間に何が起こったかを振り返る。新社屋の全員俺作戦は、アビスヴォーカにむけた罠として有効に働いた。ひよりを誘拐させた上で、何人かのアビスヴォーカのメンバーを生還させた。その生還メンバーの多くが影子の暗示により、自覚のない密告者へと変貌していった。創作でよくあるくノ一が得意なお色気による懐柔ではなく、色気も何もないマインドコントロール的なスキルを使っているのは残念だが、男に手を出したいわけではないので問題なし。


 そして、アビスヴォーカにいる元オーファンネストのライカとヒプノを協力者として引き入れられたことが大きかった。彼らには、ダンジョン人の計画などを包み隠さずに話したおかげで、自分の組織が良いように使われていることを理解したようだ。ファーストと呼ばれる指導者の方針転換や、アビスヴォーカのスタンピードの促進に対して反発していた元オーファンネストのメンバーが消息を絶っていった事も影響していた。


「ヒプノさんが下さったデータは大量でしたね。自己防衛のためにヒプノさんが集めていたらしいです」


 南さんが、その一部をモニタに映すと名簿が多数ある。この情報はアビスヴォーカの殲滅において影響が大きかった。それは肥大化した末端組織の情報でしかなかったが、動くための手足がことごとく切られていったような者だからだ。この摘発には、ギルド側の人員が多く投入されていき、疑わしきは捕縛という強権で動いていったのだった。


「ヒプノさんって飄々とした感じなのに計算高いですね。ライカさんのこととても大切にしてますし」


 南さんがヒプノの印象を語る。それにマナが食い気味に反応する。


「これって絶対ライカさんを守るためだと思うんですよ。ヒプノさん、ライカさんのこと大好きですよね」


 南さんもしきりに頷きながら応える。


「ライカさんは意識していない感じですけど、距離感は友達以上、恋人未満ですよね。ヒプノさんは、ぐいぐいアピールしてるのに。もう、じれったいですよね」


 唐突に始まる恋バナに戸惑う中身が俺の3人。


「私もそう思います。船での一件でも、常にヒプノさんが前を進んでるんですよね。ライカさんの方がフィジカルは強そうですけど、ヒプノさんが守ろうっていう意志が見えて微笑ましいですわ」


 いや、フラムはペルソナを起動しやがったな。女子の会話にすんなり入っていった。


「なんかいいなぁ」


 ひよりもペルソナを起動したようだ。


「ひよりちゃんもこんなところに籠っていないで、出かけるべきよ。今はまだ危険だと思うけど、落ち着いたらお洒落して一緒にお出かけしよう。そして、いい人に出会うの!」


 マナがいきなりテンションが上がる。


「いい人…」


 南さんがぽつりとつぶやく。仕事のし過ぎで出会いがないのかもしれない。なんか、ごめんなさい。色々助かっています。


「いろいろ片付いたら、みんなでぱーっと遊びにいきましょうか」


 俺がそういうと、マナも南さんも笑顔になる。


「いいですね。ぜひ、行きたいです」

「行きたい! こじにーは、どこに行きたいですか?」

「そうだなぁ。俺は行けてないから、サンフランシスコに行ってみたいかな」


 笹木として行っていないのだけど、みんなで行くのは楽しそうだ。いろいろ落ち着いたらいいな。そのためにも、ダンジョン人、いや深淵派の活動を何としても阻止しないといけないという思いが強くなる。しかし、不安は尽きない。


「アビスヴォーカは全滅したわけじゃないし、幹部連中は捕まっていないんだよなぁ」

「そうですよね…」


 俺の言葉にマナが少し表情を硬くする。そこで、ひよりが新たな疑問を出してきた。


「僕さ、ちょっと考えたんだけど、深淵派はアビスヴォーカが使い物にならなくなった状況でどうでるんだろうね。諦めるわけないよね、何をすると思う?」


 ひよりはフラムを見る。


「はい。諦めるわけがありませんね。ここは、エバーヴェイルやギルドの抵抗も計算にいれた上で、強硬策をとり続けると思います」

「強硬策ってことは、ダンジョンをもっと増やして、スタンピードも起こすってことかな」


 俺の質問にフラムが頷く。


「いま、フレイヤたちは、南米にいってるんだっけ。スタンピードを通常の探索者で抑えるのは結構きついよね」


 南さんが端末を操作して、スタンピードの状況を示した図を出してくれる。


「フレイヤさんたちのおかげで状況が均衡していると言えます。しかし、これ以上増えていくと、被害が拡大していきます。探索者の消耗は、悪循環に陥ると思います。何か手を講じないといけないです。ギルド側が考えることなんですけどね…」


 南さんが申し訳なさそうにするが、早々解決策なんて出ないだろう。しかし、何かできることはないか。


「僕さ、こういうのは先手必勝だと思うんだよね」


 ひよりがニコリと笑う。


「ダンジョン人のところに行っちゃおう。魔力を送るシステムはまだできてないけど、がんばってつくるからさ」


 そんな気軽に言うもんじゃないだろうに。


「いい考えです」


 フラムも認める。ペルソナ2人は意気投合しているんだけど、どうするかな。行くしかないんだろうな。俺もそう思い始めていた。いや、俺たちはそう思い始めていた。


7章終わりです!

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