第29話 ホロウと脱退
ホロウ君はどうなるのか!?
俺は俺1号。今、受付嬢の吉良として待機中だ。分身のほとんどは、各自に貸し与えられたマンションへと帰宅していっているが、警備員と受付嬢の数名が残って待機しているのだ。
「何か食べる? こんな時のために買っておいた食べ物あるよ」
西尾先輩がペットボトルのお茶を持ってきてくれる。
「そうですね。罠が上手くいったし、ちょっとしたお疲れ様会しましょうか」
警備員たちも賛同してくれる。
ところで帰宅していった組の中には、アビスヴォーカの声明後に駆けつけたマスコミに運悪く捕まった者もおり、しつこく質問をされていた。襲撃の具体的な状況が漏れていないため、知らないということで通していった。しかし、名古屋が騒然とした雰囲気になったのは仕方がない。
ちなみに、アビスヴォーカ側から声明が出された後、1時間ほどでギルド側からひよりが無事保護されたという発表が為された。詳しくは明かされないが、拘束されていたところから逃げ出した後、エバーヴェイルのメンバーによって助けられたという話になっている。
「ライカとヒプノが来た時にはもぬけの殻だったということにするそうです。2人は今後、情報提供を約束してくれたし、進展しましたねぇ」
「ええ、良かったわ。私もナンパとプロポーズを拒んだ甲斐があったわ」
爆乳な幸田先輩は受付嬢の中でもトップクラスにナンパされる。プロポーズまで受けたというのは初耳だ。
「そこにあまり意味はないというか、逆に問題になりそうなので、控えたほうがいいかと…」
「あー、吉良ちゃん、言うようになったねー。このこのー」
不意に抱き着かれて、幸田先輩の胸に圧殺されようとしている。これはプロポーズしてしまうかもしれない。
ギルドの人たちも帰ったし、金沢ダンジョン側でやっているような上映会をやってみようかと思う。
「先輩。ごちそうさまです。ちょっとフラムになって気になる人を追ってみますね」
「はいはーい」
幸田先輩が軽い返事を返す中、西尾先輩が横に来る。
「私もそれやって。なんか、ご褒美ほしい」
「なにそれ。まぁ、いっか」
そんなわけで、次は西尾先輩が幸田先輩の胸にうずもれる。
そんなバカなやり取りをしている中、フラムになってすぐに映し出したのは、千種たちだ。元オーファンネストのメンバーと考えられるホロウは、どうなっているだろうか。順当にいけば、ライカたちから何らかのアプローチがあるかと思うが。
金沢ダンジョンと同じく、お菓子を引っ張り出してきて鑑賞会のスタイルになっているのは面白い。
フラムの能力で映し出された映像、そこは廃屋の中のようだった。
『千種。驚かないで聞いてほしい。俺はアビスヴォーカのエージェントなんだ』
え? いまさら? 鑑賞している分身たちも一様にはてなマークが浮いている。
『ええ、知ってる』
ワンピースを来た千種が軽く返答する。
『え、あ、そうか。知ってたなら話が早いんだけど、僕はアビスヴォーカを脱退しようかと思う』
『どうして? ダンジョン神と地球を良くしていくんじゃないの?』
『いや、そこに異論はないんだけど、千種。君を殺す命令が出たんだ』
ホロウは廃屋の壁を殴る。影がにじみ出て拳を守っているのか、壁が軽く凹み、埃が舞う。
『そうなんだ…』
千種は特段驚く様子はない。
『そうなんだよ。ここまで協力してくれた千種を組織は殺せという。僕は失望したんだ。ファー、えと、アビスヴォーカの代表は、信じた道については残酷になれる人だとは分かってたけど、助けられる命に対しても打算で殺しを求めるなんて許せない。裏表がある大人は嫌いだ』
ホロウは唇をぐっとかみしめている。裏表がない大人は希少だと思うので、発言がなんとも子供と感じられるが、千種を殺すことに憤りを感じているのでやはり正義感が強いんだろうなと思う。
『なぜ殺せと命じられたの?』
『ちゃんとは教えてくれなかった。でも、エバーヴェイルとの接点を減らせだって。これまで、エバーヴェイルをさんざん調べて調べて対策しようって言ってたのに、指示の言葉を見せてあげる。ちょっと待ってね』
ホロウはそういって端末を操作して指示書らしきものを見せようとしてくれる。
その隙に俺は一緒に見ている分身たちと会話する。今はフラムなので、フラムな感じで喋る。
「やっぱり、今回のことでエバーヴェイルが相手するに危険だと分かったのかしら」
「報告してもらうために、何人かわざと逃がしてましたものね。ロビーとラボ以外に潜伏していた人が少なくとも3人は居ましたから」
西尾先輩がしっかりとした分析を返してくれるが、幸田先輩とハグしっぱなしだから説得力は半減だ。しかし、眼福なので良し。
映像では、ちょうどホロウが指示文を見せてくれるので皆そちらに目を向ける。
『これが指示なのね。本当だわ。エバーヴェイルが小さなクランだと思っていたけど、思った以上に戦力があって驚いたのね。新社屋のほとんどは一般人だけど、警備には探索者を入れてるかもしれないって私も報告していたのにね』
『そうなんだよ。その話も千種のおかげで教えてあげたっていうのに。隼人ひよりの説得をほどほどにして誘拐を強硬するから失敗するんだ。僕のことを子供だってバカにする割に、作戦が雑なんだよ』
ホロウの常々の愚痴が垣間見れる。オーファンネストかつ未成年ということで、色々とバカにされてきたんだろう。彼の影を扱う能力は特筆すべきものがあるが、仲間内では評価されなかったのかもしれない。
『あー、なんか、いやになっちゃったよ』
ホロウは深くため息をつく。
『ホロウ。脱退したら、粛清とかあるんじゃないの? そういう組織にはあるでしょう』
『うん、あるね。知ってる人がやってる。すごくおっかないんだ。でも、千種を殺すくらいなら、戦ってやるさ』
千種の当て推量だったと思うが、本当に内部の暗殺部隊みたいなものがあるんだな。
『大丈夫なの?』
『んー、勝てる気がしないけど、死にはしないと思う。逃げ回ることになるけど、逃げ足は速いんだ僕』
影をつかって逃げ回れば、なんとか生存はしていけるというところか。しかし、そんな生活はきついだろう。
『ねぇ、提案があるんだけど。あなたが死ぬのと私が死ぬのどっちがいい?』
ぎょっとするホロウ。そして、焦る。
『僕のために死のうとしてないよね。そんな必要はないんだ。千種は普通の幸せを掴むべきなんだ! だから、だから!』
千種は口の前に人差し指を立ててほほ笑む。
『偽装の話よ。私、そういうの得意なの』
千種の何か企むような笑顔を見てホロウが顔を赤める。その後、ホロウは10分ほど思案にくれる。そして、出した答えは、
『僕が死んだことにしてくれるかい? 千種、その後、僕と一緒にいてくれる?』
『あなたが地球を救いたい話、私も賛同したでしょう。アビスヴォーカじゃなくて、あなたを信じるわ』
その言葉に鑑賞会をしている側は、賛否の声が流れる。全員俺なのに、変身している性別とか、なりきっている分の差分があるのだろう。
「千種ちゃん、いたいけな少年の心をもてあそびすぎ。地獄に落ちるかも」
と西尾先輩。でも、これって、俺が落ちることになるから勘弁してほしい。善行を積んで帳消しにしていきたい今後の人生だ。
「アビスヴォーカとの離別をいい形にもっていけてますな。少年には良い成長になるんじゃないですかね」
そう言ったのは警備員のお爺さんをしている俺。
「でも、絶対千種のこと好きじゃないですか。千種の正体知ったらグレちゃいますよ?」
「いやいや、そもそもテロ組織の一員だよ? グレてるどころじゃないから」
勝手なことを言い合っている中、千種とホロウの話は進んでいく。
この後、2人はホロウの死亡情報と共に、アビスヴォーカと接触を絶ったのだった。
笹木じゃなければ、歳の差ロマンスが生まれるかもしれない。笹木じゃなければ。




