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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
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第17話 フレイヤとクラン設立

小次郎が表舞台に出始めます。彼はそういうつもりはないでしょうが。

 次の日、俺はマナとクランの申請に向かった。いつものフレイヤではなく、珍しく小次郎の姿でだ。なぜならクラン申請はクランの代表者が直接行うことになっているからだ。ちなみにフレイヤは用事で来られないということにしている。クランさえ設立してしまえば、クラン員の加入なんかは後からでもできるから同時にいなくても問題ない。

 そして、今はギルド近くの喫茶店でマナと待ち合わせて話を始めたところだ。


「こじにー。あ、こじにーって呼んでもいいですか?」


 マナは、フレイヤに向ける視線とはそんなに違わない、好意的な様子だ。


「ああ、いいよ。しかし、ほんとに須藤君がじつは女の子で、こんな美人に育つなんて思いもしなかったよ」


 例のWEB会議で話して以来にはなるが、直接会うのは、本当に20年ぶりに近い。


「そんな、美人なんて。フレイヤに比べれば、月とすっぽんです」

「いやいや、そんなことないって」


 そうフォローするが、すこし表情が陰る。


「あの、フレイヤとの関係ってなんですか? フレイヤはお兄さんと言ってましたけど」

 まぁ、気になるよね。北欧美人と冴えない独身男だし。ちょっと練っていたシナリオでごまかそう。

「俺の親戚がフレイヤの親と仲が良くてね、付き合いがあったんだよ。ほんと兄妹みたいな感じだから、探索者になるとかで名古屋に出てきたときに宿として使わせてたんだ」

「そう、なんですか。でも、服とか全然もってなくて、男性物を着てて、あたしの下着屋さんに来てくれたんですけど…」


 まぁ、俺が俺の服を着てたわけなんだが。


「あー。それね。服とか入れたキャリーバックを紛失したらしくてね、洗濯の替えも無い状態で俺んちついたってわけ。そこで、須藤君の店にいくなんて縁があるね」


 そこまで言って、マナが少し頬を膨らませる。


「そういうことだったんですね。でもあの、須藤君より、マナ…って言ってもらえるといいです。あ、あの、配信とかでもそう呼んでもらってるので」

「そだね。たしかに、分かったよ、マナさん」

「あの、マナでお願いします。フレイヤとも呼び捨てにすると決めたので」


 えー、まぁ、俺も混乱が少なくて済むが。


「じゃあ、マナ、これでいいね。よし、クラン申請に行こうか」


 俺は会計を済ませると喫茶店を後にする。


「ごちそうさまです」


 マナは嬉しそうだ。男女で喫茶店とか何時ぶりだろう。あれ?



 ギルドに入るとやはり人が多い。バサルゲイラの件があってから名古屋ダンジョンは活況だ。フレイヤで来た時よりは大人しいものの、マナにも声をかけてくる探索者も多い。

 魔導機構の副代表もその中にいた。たしか佐久間 蓮だ。


「こんにちは。マナさんだったね。クランの件、フレイヤさんは何か言ってましたか? もちろん、あなた方、お二人とも受け入れる準備は整ってます。好条件も提示させていただきますよ」


 俺は眼中にない感じだが、その時マナが俺の手を取る。


「フレイヤとあたしは、こじに…笹木さんのクランに入るんです」


 やっと俺の存在に気づいたのか、佐久間が俺の方をみる。何か見定める様子で印象が悪い。


「はじめまして、魔導機構の副代表をしている佐久間です。名古屋を拠点にしているクランについては知らないところはないはずなんですが、なんというクランですか?」


 おしゃれメガネの中で瞳が光る。なにかのスキルか? しかし、この雰囲気は気圧されそうだ。


「エバーヴェイル、これから設立するので、知らないのも無理はないです」

「これからですか…。クランには他のメンバーはいますか?」


 痛いところを突かれる。クランは人数の下限が決められている。創設時に制限はなく、一年後に10人必要という規定だ。10人に満たなければ解散となる。これは、ダンジョン黎明期に作られた規定で、クランの創設を活発化させながら、統廃合が進むように設定されたものだ。


「俺とフレイヤとマナの3人だけど」


 かっこつけても仕方ない。正直に言う。


「3人ですか。人数はともかく、フレイヤさんを新興のクランで燻らせるのはもったいないです。彼女は魔法系探索者の中でも稀有な存在ですから、もっと魔法系スキルの発展に寄与できる、大型のクランに入るべきです」


 遠回しなのか微妙だが、魔導機構に入った方が人類のためとか、そういうことだろう。


「いや、うちでも魔法の発展には寄与するよ。配信で情報提供するし」

「配信ですか。彼女が美しいからと使い潰すつもりなら、やめていただきたい」


 失礼な、使い潰すことが前提みたいな言い方だな。潰すも何も俺がフレイヤなんだから、つぶれるまで働くつもりもない。


「そんなことはしませんよ。フレイヤの探索をバックアップするようなクランなんですから」


 そう、これがポイントだ。クランといってもガチでダンジョン攻略している魔法機構のようなものもあれば、プロダクション的な役割のバルハラなんかがある。バルハラは、例の女性15人組のパーティ、ヴァルキュリアを抱えているクランだ。


「じゃあ、忙しいんで、これで」


 憮然とした佐久間をおいて、俺はギルドの受付に向かった。



 受付嬢にクランの創設申請の旨を伝える。そして、俺の古いドッグタグを渡す。


「笹木さま、笹木様はギルド登録から10年以上経過しておりますので、クラン発足の条件を満たしています。ただ、実働のご様子がないんですが、探索者としての継続的な活動などを証明することはできますか? 参考としてではありますが、全く探索者活動が無い場合、ギルドとしては厳しく審査をしなくてはいけなくなります」


 こまった。高校以来、ダンジョンに潜ってはいない。世の中にはダンジョンの外で魔素を活性化させ、スキルを開花させるような猛者たちもいる。スキルとかも活動の証明になるだろうか。


「ダンジョンに潜りはしてなかったですが、増えたスキルがありますよ」


 さすがにアバターは出すわけにはいかない。そこで、この前取得したストーンスキンを使うことにした。防御系のスキルなので、ギルドのロビーでも扱っても問題ないはずだ。


「防御系ですので、ちょっと発動しますね。ストーンスキン」


 すると、受付嬢が何かの機器を持ち出す。


「たしかに、スキルを確認できました。問題ないと判断します。お手数をおかけしました」


 あとは問題なくクランの登録が完了した。500万円という大金を払い込んだわけで、少し呼吸が荒くなる。


「あの、お金って大丈夫なんですか?」

「あぁ、フレイヤからも提供を受けたからね」


 その後、マナと払う払わないといった問答をしたが、代表と副代表だからとやりこめた。利益が出たら回収することも伝えて、丸く収まった。



 そんな訳で、俺はクランの代表になった。クランとしては小規模だが、フレイヤがいるだけで、日本有数のクランに成長するだろう。クランを持っていることで、ギルドからの支援などが増える。そのため、年会費なるものが存在するが、ほかのクランからのお誘いを露払いしてくれるだけでも儲けものだ。


「こじにー、さっきのストーンスキンって、前に出てきたスキル書ですか?」


 この質問は想定内。スキル書は、俺が使うことで、フレイヤも使えるというチートができたなどとは教えない。


「前に出てきたというのは、フレイヤと一緒に狩りに行ったときに出たスキル書かい?」


 しらじらしい質問を投げる。


「はい、そうです」

「いや、それじゃないよ。それはフレイヤが使ったからね。俺は、また別に入手したものを使ったんだ」


 息をするように嘘をつく。日頃フレイヤの演技に慣れているせいか、シナリオを決めれば、その話を本当のように話すというのがうまくなってきた。そのうち、スキルが生えてくるんじゃないだろうか。


「クランの代表が弱っちいと色々問題があるからね。俺も少し鍛えないとなーとは思う」

「じゃあ、一緒にダンジョンに潜りませんか? フレイヤと3人なら、すぐにレベルもあがりますし。何ならあたしと2人でも低層なら大丈夫だと思います。こう見えても結構強くなったんですよ」


 マナはそう言ってグーを顔の前で作る。かわいいな、おい。


「それなら、マナと2人がいいな」


 フレイヤとは潜れないというか同一人物だからな。しかし、これは誤解を与える言葉だと気付いた。


「え、そう、えへへ。いいですね」


 マナは照れているが、小次郎として当面は潜る予定はない。小次郎として攻撃スキルを何か手に入れて、何ならパワーレベリングをやってみたいからだ。


「だが、今はちょっと忙しいな。また、今度頼む」

「えー、わかりました。ぜったいですよ」


 そんな話をして、俺たちはギルドを後にした。



 その日、ギルドのホームページに新クランとしてエバーヴェイルの名が追加された。代表などの情報は伏せられているので問題ないとこの時は思っていたが、思った以上にギルドのロビーからは情報が漏れることをこの後ネットニュースで知ることになった。



◆フレイヤ嬢、謎の男性に“貢ぎ”疑惑!?◆

高額スキル書の流用、脅迫説も浮上――話題の新クラン「エバーヴェイル」に潜む闇とは

今話題の人気探索者・フレイヤ嬢とマナ嬢が、正体不明の男性・佐々木小次郎氏が設立したクラン「エバーヴェイル」に加入していたことが判明した。

佐々木氏は探索者としての実績がほとんど確認されておらず、業界内では「なぜ彼女たちが無名の人物に従うのか?」と疑問の声が上がっている。あるベテラン探索者は「フレイヤ嬢の弱みを握っている可能性がある」と証言しており、脅迫による加入説も浮上している。

さらに疑惑を深めるのが、フレイヤ嬢が配信中に取得したとされる推定400万円相当のスキル書『ストーンスキン』を、佐々木氏が使用している場面を複数の視聴者が目撃している点だ。クラン代表として、メンバーの資産を不当に流用しているのではないか――そんな声も少なくない。

本サイト記者は、今後も「エバーヴェイル」の実態について継続的に調査を進めていく予定だ。




 うわー…。

 こんな記事がネットニュースに現れた。ギルドのロビーに何がいるんだよ、ほんと。ちなみに、佐々木じゃなくて、笹木な? 直さないが。


いかがだったでしょうか。

ネットニュースにさっそくあることないこと書かれてしまいました。

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― 新着の感想 ―
話を展開させる都合上しようがないところかもしれませんが、 オープンな受付と、ドロップ等の重要情報を、平然とその場で聞いてくる受付嬢というのは、正直、あまりリアルではない気がしますね。 一般向けにはオ…
>ネットニュース 先日フレイヤがひとりでダンジョンに単独で潜った件もニュースになってるんでしょうね ストーカー連中もハイエナかあるいはこういうマスコミ(個人ブロガー?)かも 名前が間違ってるのはギルド…
個人情報ガバガバなのは何処のギルドでも伝統なのですね、もっと個室対応とかさぁ・・
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