第6話 フラムと千里眼
フラムの力がようやくお目見えです。
俺は俺1号。フラムの姿でクランベースにいる。隣にはフレイヤとひよりが立っている。今、ジェシーとアリスは、久々の日本ということで、2人でラーメンを食べに行っている。姿は何になっているかは分からないが。
今、俺はフラムのペルソナを切っているが、心の中のフラムのペルソナが喋りたそうな気配を感じる。しかし、ちょっと今は黙っておいてもらおう。しかし、フラムのいうアップデートのせいだろうか、知識や世情の把握だけでなく主張が激しい。
ところで今日不在だった南さん、マナ、そしてメルの3人がクランベースに戻っている。彼女たちはエバーヴェイルの新拠点の工事の打ち合わせと視察に行っていたのだ。まだ、内装などは時間がかかるらしいが、1フロアは完成したとかで確認しに行っていた。そして、戻ってきたところ、新たな加入希望者であるフラムが登場したということだ。
「はじめまして。フラムよ」
俺が南さんたちに挨拶をする。メルには、交信を使って裏で連絡済だ。
「彼女はわたくしの同郷で古い友人で、姉のような存在ね」
フレイヤが姉といったところで、マナが少しぴくっとする。
「メルなの。よろしくなの。メルって呼び捨てしていいの」
「あ、あの、よろしくお願いします。須藤愛美です。マナって呼んでください」
南さんと握手を交わす。
「よろしくお願いします。エバーヴェイルの専属で、今は経営に関わっている南です。単刀直入な質問で恐縮ですが、フラムさんはどんなすごい力を持った方なんですか?」
南さんも慣れたものだ。セリーヌさんとガームドさんの話も共有しているし、笹木が召喚した相手だと踏んでいるのだろう。
「彼女は、千里眼。遠くを見通す能力を持っているわ」
「え、もしかして、月の裏側が見えたりしますか?」
南さんの質問はもっともだ。まだ、覗いていないが、フレイヤの補助があれば可能だろう。
「見たことはないけど、多分、見えると思う。遠すぎるから、まだ検証が必要なのだけど」
俺の言葉に南さんが驚く。ペルソナのフラムは大丈夫だと確信しているようだが、MP消費の傾向だけでも調べておきたい。
「笹木さんってば、本当にすごい人材を集めますね。あら、でも、フラムさんはフレイヤさんの旧知の仲ってことだから、今回は違いますね」
南さんが何かを思い出したようだ。端末を操作し始める。
「あの、ギルドの登録なども行おうと思いますが、先にこの話を聞いてもらってもいいですか?」
端末には新規ダンジョンが載っていた。世界の各地でダンジョンが新規に出現しているのだ。日本はまだ出来ていないが、発見できていないのかもしれない。
「ダンジョンが現れ始めました。ダンジョン人側の動きの影響だとギルドは判断しています。そして、ここなんですが…、先ほどスタンピードが発生しました」
そこは、タイだった。バンコクのある地域ではなく、マレー半島に長く伸びた地域に点がついている。
「タイのクラビ? ここってリゾート地だよね」
「知ってます。この前、ヴァルキュリアの人たちが撮影で行ってましたよ。ダンジョンリゾートって呼ばれてるんですよ。ダンジョンの中にアクティビティがあったりして、本格的な探索体験ができるって」
マナはヴァルキュリアとも交流がある。E&Sの業務だけでなく、エバーヴェイルとしても交流を広げているところなので、同じく女性が強いクランやパーティとのつながりが増えているのだ。
「よくご存じですね。スタンピードを起こしたダンジョンというのが、新規のダンジョンのようで、その観光ダンジョンとは別とのことです。でも、ダンジョンの場所は魔力濃度の計測から割り出せているんですけど、海底ダンジョンらしくて。中に侵入できるのかどうかが不明なんです。海中ドローンを送っているそうですけど、ことごとく破壊されているらしくって、現地ギルドが後手後手に回っているそうです。溢れ出したモンスターに対しては、沿岸で食い止めているそうですが、根本的な対処が出来ないのでかなり苦戦しているらしいです」
南さんが言いたいことが分かった。
「いいわ。見てみましょう。リンク・ビジョン」
地図の情報があるととても分かりやすい。位置が明確に分かっているので地図のここと考えながらスキルを使うと、目の前に海が広がっている。夕方なんで、少し暗くなってきているが見える。視点を少し下げていくと、海中に入る。海中に入れば、より暗くなるかと思いきや、そこまで暗くならない? いや、昼間みたいに明るい。そして、モンスターが溢れ出すダンジョンの入口が岩礁の間に見える。
「ダンジョンを見つけたわ。中に入ってみる」
なんだか、VRゲームをしているみたいだ。ゆっくりと移動するわけではなく、そのまま、ダンジョン内を見ることができる。元々が湖畔か海のエリアのようで、ダンジョンの入口は水没しているもののそれ以上の水が流れ込んでいない。そして、ダンジョンの外には、大型の爬虫類みたいなモンスターが外へと出ていく様が伺える。
スタンピードの役割としては、そのダンジョンの魔力を上昇させるための仕組みだと解釈すると、モンスターはそれを媒介する虫とか動物みたいな役割なんだろうか。MPを見ると300ほどしか消費していない。あれ? このスキルは距離に依存していない? そして、時間が立つにつれてMPが1ずつ下がっていく。つまり、最初に300ほど使って、継続時間によってMPを消費するタイプ? MPが下がる時間は、1秒でMP1くらい? フラムのMPが6000超えているから、2時間弱は見続けられるということか。でも、これ疲れそうだ。
「入り口は水没しているけど、陸が有るわ。階層を確認するわ」
視点だけが動くと、目の前に大型のモンスターの顔が出てくる。
「うぁ!」
思わず足を滑らせる。
「危ない」
危ういところでマナに体を支えられる。
「ありがとう。急に目の前にモンスターの顔が出たものだから、びっくりしちゃったわ。この後は座ってスキルを使うことにする」
俺は気遣って手を握ってくれているマナに微笑みかけると椅子に座る。
「階層の移動は4回ね。つまり、5階層の浅いダンジョンね。でも、ダンジョンボスは強そう。東洋の龍みたいよ。首が3本よ」
「3本ですか」
南さんが焦ったように端末を操作する。
「もしかして、こちらですか?」
一時こちらに視覚を戻す。フォーカスが変わるようなイメージだ。これ使いながら走るのはきつそうだな。そして、南さんの差し出した写真を見ると、まさに先ほど見たモンスターと同じ物が写っている。
「これよ」
「本当ですか。これは参りました。このモンスターは、『トライヘッドドラゴン』通称『悪食』と呼ばれたやっかいなモンスターです」
「悪食なの? いっぱい食べる?」
メルが聞くが、メルのは大食いだから違う。
「近接攻撃が食べるなんです。そこで、遠距離攻撃への耐性も高い上に、これ自身も遠距離攻撃ができるため、探索者たちは消耗戦になるんです。探索者泣かせなんですよね。この話、ギルド側に連絡してもいいですか?」
もちろん良いと言うと南さんは連絡を始めた。この情報の確証って別にないんだけど、南さんは信用して情報を流している。
「最近、ギルド内の連絡方法が変わったんです。かなりオープンになって、情報の提供も支援の依頼も素早く伝わるようになったんです。どうしました?」
「えーと、信じるの?」
「フフ、エバーヴェイルさんには驚かされますけど、能力が低いことよりも過剰な能力で驚かされることばかりですからね。大丈夫です。この情報源は、魔装開発局の新しいシステムで得たという話にさせてもらっています」
南さんが訓練されている。
「でも、まずいです。この地域で駆け付けられる探索者グループで対策ができる探索者がいないようです」
「わたくしたちでいくのはいかがかしら? ついでにタイで泳ぐのも楽しいと思うわ」
「でも、アリスさんは今メキシコじゃなかったですか? 帰ってきてもMPの問題がありそうですけど」
ひよりが手を挙げる。
「そこは僕から説明するよ。まだ、試作の段階だけど、MP補給ならフレイヤができるから、アリスとフレイヤなら飛べるし、アイテムを使えばアリスと別のメンバーでも飛べるよ。あ、マナは一緒には飛べないね。ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。ひよりちゃん。でも、タイなら飛行機でもそんなにかからないですよ。あたしも追いかけようかな」
以前、今後増える可能性が高いスタンピードへの対処についてエバーヴェイル内で話し合ったことがある。そして満場一致で力を貸そうという話になった。日本はもちろんだが、ギルドを通せば海外支援も垣根が低い。こうして、スタンピードへの海外支援の二ヵ国目がタイとなったのだった。
いざタイへ!




