第4話 フラムと魔力の素
フラムの話の続きです。
俺は俺1号、今もフラムの姿のままだ。フラムからの新事実『衝撃、ダンジョン人に読まれていた俺の小説!!』のショックから気分を変えるために食事をすることにしたのだ。ひよりが最近はまっているというお店からランチをデリバリーしてもらい、そのままクランベースで食べる。
「地球の食事は美味しいわね。この赤い果実は香りがいいわ」
フラムは、イチゴを食べながらとても喜んでいる。まだ、ペルソナを解除していないので、フラムが地球に降り立って色々と体験中だ。もちろん、フラムもアバターのため、ダンジョン人として、あちらの世界で食事をしたことがあるわけではない。しかし、設定上、あちらの世界の役人として活動していたという経験などがインプットされているそうだ。
「それにしてもフレイヤ。あなたもバージョンアップされてれば良かったのに」
そうは言ってもどうやってアップデートされるかまではフラムも分からないらしい。フラムの持っている情報というのは、ダンジョン人側の派閥情報と重要人物の情報、そして、笹木を案内するためのいくつかの提案に限られる。
「ムー教授はどんな人なのさ」
ひよりの質問に紅茶を飲みながらフラムが答える。
「笹木のファンよ。笹木の事を予言者って言ってたわ。小説に書いてあることの9割くらいが当たってるんだもの。ムー教授は、その小説をベースにアバターの設計をしたわ。そして、後は笹木がダンジョンを破壊すればってところだったんだけど、ダンジョンは危険だからって全く手を出さないから困ってたらしいわ。しかたなく、色々奥の手を使ったそうだけど、中身は分からない」
もしかして、高和港のダンジョンシードはムー教授が仕掛けてたのか。フラムも知らないと言っているが、本当に一体どうやったんだらうか。
ふと見たフレイヤは、ワインを開けようとして思いとどまっている。昼間からは飲まないでおこうな。
「フラムは、その話をどのような状態で聞いたのかしら?」
あぁ、確かに。アバターはスキルだ。俺が変身しなければ、フラムも顕在化できない。
「設計中の端末から外界を見ることができたわ。もちろん、データとしてもらった情報も多いけど。でも、ムー教授の顔は覚えていないの。ここまで話をしたけど、ムー教授は本当に死んだかは分からないわ。ある一定期間、ムー教授が操作しないと発動するアプリがシステムに組み込んであっただけだから。もし、ムー教授が何かの理由で動けないだけであれば、助けてあげてほしい」
フラムは、そして、プリンを食べる。俺も味わうわけで、おいしい。
「これ、おいしいわ。この苦い部分も少し甘くて、香りも素晴らしい。あ、そうだ。フレイヤは笹木といい関係になった?」
いやいや、なんて質問だよ。
「え? わたくし?…キスまではして、笹木のお母さまとはご挨拶したわ」
俺2号よ、ペルソナ起動をしたな。
「キスまで? ちょっと子供じゃないんだから。もっと進めないと」
いやいや、まってくれ。中身は俺なんだ。
「あー、知らないよね。ごめん。アバターをアップグレードすれば、個別の体を作ることができるよ。いま、ドッペルゲンガーだっけ? あれは、笹木が素体になってアバターになるんでしょう。今のフレイヤやひよりがそうであるように中身は笹木。でも、アバターのオリジンを取得すれば、アバターをそのアバターとして切り離して1人の人間として出すことができるわよ。オリジンにしたアバターはリストから外れちゃうけどね」
アバターのオリジン??? アバターを切り離して??? 中身が俺じゃないってことは、1人の人間を作り出すということか。
「情報多すぎ。フラムどれだけ知ってるのさ」
ひよりが肩をすくめる。そうは言いつつもメモに書きつけている。フレイヤが腕を胸の前で組む。いつもの悩殺できる考える姿勢だ。
「アバターのアップグレードは、単独でのダンジョン攻略かしら」
「その通りよ」
グランドキャニオンのダンジョンで交信を得たな。毎回、アップグレードが行われるんだろうか。
「確率は単独でクリアして20%というところよ」
かなり高いように見えるが、ダンジョンの単独攻略が甚だ厳しい条件だ。
「忍者黒壁さんは、そんな確率からユニークスキルを入手していたのね」
フレイヤがぽつり漏らす。
「あぁ、あの人ね。調和派が作った初期のスキルらしいよ。その当時は、リスクを高めることで、効果が上がるスキルが流行ったらしくってね。制約が多いそうよ。深淵派もいろいろと動いてるから、この世界にも深淵派の手下みたいな人間が多くいると思うわ」
衝撃的な話が2つ重なったぞ、おい。
「忍者黒壁さんの時間を巻き戻すタイプのスキルは、確かに老化っていうリスクがあるもんね。ところで、深淵派の手下って、アビスヴォーカ?」
「名前までは知らないけど、笹木の記憶をたどるなら、そうじゃない? 名前もそれっぽいし。深淵派のおじさんたちを神様扱いなのは笑っちゃうわ」
間接的にこちらの世界に関与するっていう話なのか。
「そういうことよ。アビスヴォーカがテロリストだとしても、深淵派はタダの学派よ。政治的な派閥でしかないし、ダンジョン人側で違法な事を表立ってはしていない。あくまで、こちらの世界に向けて出来る範囲での干渉をしているだけ。それも、魔力濃度を上げていくっていう目的は、深淵派も調和派も同じ目的なのだから」
ひよりが何やら端末を操作してモニターに出す。
「ちょっと見てみて。これが、今ダンジョンがあるんじゃないかって言われている場所にマークした地球ね」
モニターには地球が映し出されており、地形が線のように単純化されている。そこに、赤い点が散らばっている。
その時、クランベースに人が入ってくる。ジェシーとアリスだった。
「楽しそうな話してるから、きちゃったわ」
「おいおい、俺たちも混ぜてくれよ。土産に、ハラペーニョのピクルスとタコスなんかも持ってきたから」
さっそく広げられたメキシコ料理で、その場がいっきにスパイシーな香りに包まれる。
「やぁ、お嬢さん。おれはジェシー。こっちが娘のアリス。とはいっても、2人とも笹木のアバターだ。よろしく」
「フラムよ。フレイヤと同郷という設定だけど、色々な情報を持ってきたわ。いい仲間が居て心強いわ」
ジェシーとアリスが、フラムと握手をかわす。
「僕が情報共有はしておいたから、これまでの話はしなくてもいいね。そのまま続けるね」
どうやら、裏で連絡を取っていたらしい。ひよりは、まめだなぁ。
「あぁ、どんどんやってくれ。おれは、ちょっと飲みながら聞く」
ジェシーがテキーラを飲み始めたのを見て、フレイヤがとうとうワインを開け始める。お前らな…。その雰囲気の中、ひよりはまじめに質問をする。
「僕さ。恥ずかしいんだけど、僕の知識の中に魔力の根源がどこなのかという知識がないんだ。ダンジョンから産出される魔石がどうやって生まれるかという話に近いんだけど。これだけのダンジョンが生まれ、そこからどうやって魔力が生まれているのか、教えてほしい。その理由が、この世界にダンジョン人が目をつけた理由につながるんじゃないかと思っているんだけど。どうかな」
ひよりの顔が上気している。寝ずに開発や研究をしているときの顔だ。
「仮説は有りそうな聞き方ね。あたしも専門家じゃないけど分かる範囲で教えるわ。今地球にあるダンジョンは、ダンジョン人の世界にある天然のダンジョンを模倣して作られているわ。そこから作り出した魔道技術の極致ね。ダンジョンは、その惑星に眠るエネルギーを魔力に変えるわ」
アリスがコーヒーや紅茶のお替わりを注いでくれている。
「そのエネルギーって石油とかなの?」
「生命体の命よ?」
え? なんか、オカルト感があるんだけど。
「言い方が悪かったわね。生贄とかじゃないわよ。考え方は化石燃料と大差ないの。数十億年の生命活動で出る残滓が堆積していてね。でも、この世界では観測もされないでしょう。そういう意味では、まさにオカルトの世界だわ。ひよりの言ったダンジョン人が目をつけた理由はそこ。ここが、手つかずの生命エネルギーに溢れた未開の地だったからよ」
石油が尽きた大陸から、石油がジャブジャブでる土地を見つけたようなもんだろうか。
「ひよりは、まだ納得できてなさそうね。でも、これ以上は深堀できないわよ。あたしの設定は役人なんだから。魔道技術は得意じゃないの。それに、あたし、このジェシーが持ってきてくれた緑色の果物がきになるわ。いただくわね」
あ、やめ。ハラペーニョのピクルスを丸かじりした。
「キャッ!! 辛い辛い」
記憶が読めるならハラペーニョの味くらい先に調べてから食べたらいいのに。涙目になったフラムが水を飲み込みながら答える。
「美味しいものは、初めての感動を味わいたいじゃないの。でも、本当に辛かったわ…」
「すまん。辛いと先に伝えておくべきだった」
ジェシーがお詫びにと何かドリンクを作りにキッチンへと向かっていった。ついでに何かを作り始めてしまう。そんなわけで、フラムとの情報交換は、なんだか歓迎会の様相を呈してきていた。
ハラペーニョのピクルスすきなんですよね・・・。




