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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
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第15話 小次郎とマナ

クラン立ち上げ回です!

 配信の夜は、バルでお祝いをして、なかなか食べられないA5の和牛ステーキなんかも食べてみた。お互いに200万円を超える収入が入り、配信によるスパチャだけでもかなりの額になってきている。それも数回の探索でだ。

 マナとバルで飲みかわしながら話したのは、クランについてだった。パーティはこのままでいいとして、クランはどうするべきか悩んでいた。いくつかのクランからお誘いはあったが、アバターの事をいろいろと共有していくにはリスクが高いように思える。そんなことを言っていると、マナが良い提案をしてくれたのだ。


「フレイヤがクランを立ち上げればいいんですよ」


 ワインを飲みながらの軽口ではあったが、クランを立ちあげればお誘いは防げるだろう。飲み会を解散した後は家にもどってクラン立ち上げについて調べることにした。



「えっ、クランって、ギルド登録から3年たたないと立てられないのか? なんて決まりだ。さらに開設に500万円…、保険的な役割か」


 俺は小次郎の姿に戻ってギルドのサイトを調べていたが、ハードルが高いことが分かる。どうやら、過去に犯罪組織が架空クラン立ち上げて詐欺をおこなったことなどがあったらしく、探索者として登録が3年前に行われている人物じゃないと申請できないということになっているらしいし、お金はそれくらい稼げるような探索者じゃないとクランを立てるなっていうメッセージなんだろう。


「お金はなんとかなりそうな気がするが、3年か、これは厳しいな」


 マナにチャットで聞いてみたが、マナも1年前に登録したということで規定に足りない。


「ギルドに登録して3年のやつを、幽霊部員的に入れるか。でも、運営に興味がなくて機密を守れるやつなんてなかなかいないぞ」


 そこまで話していて、気づく。もしかしたら、俺、条件満たしてるかも。そうだった。高校の時にギルドに登録してから、既に10年は過ぎている。ギルド更新は特にないから、俺は今も在籍しているはずだ。

 そう思って昔の鞄をあさってみると、おれのドッグタグが出てきた。


「名前だけ貸す、クランの代表か…。まぁ、それなら表に出ずに済むだろう」


 そこからは早かった。申請書などの準備はネットを介してできるわけで、手間もあまりかからなかった。



 翌日、近くの喫茶店でマナと会っていた。もちろん、フレイヤの姿で。モーニングが有名な喫茶店で、クロックムッシュと紅茶をいただく。


「フレイヤと一緒に朝ごはんなんて、感激です」


 昨夜もかなり飲んだというのに若いからだろうか、元気いっぱいのマナが、サンドイッチをハムハムと食べている。


「わたくしもよ。ところで、クランなんだけど、立ち上げることにしたわ」


 マナは居住まいを正し、こくりとうなずく。


「ぜひ、あたしも入れてください。剣の腕もちゃんと磨くので」


 パワーレベリングのおかげか、ステータスの向上により剣士としての動きもよくなっているマナ。もちろん、問題なし。


「ええ、もちろんよ。それで、クランの代表なのだけど、笹木にお願いすることにしたわ」

「笹木さん? あ、お兄さん的な」


 覚えてくれていたようで、うなずいて肯定する。


「そうよ。クランの代表は3年以上のギルド登録期間が必要なのよ。仕方ないのだけど、笹木なら欲もないし信頼できるわ」


 すこしマナが不安そうな顔をする。


「副代表は、フレイヤですか?」

「そうなるわね」


 ここで、少し思案顔。


「あの、よかったら笹木さんに会わせてもらえませんか。あたし、前にパーティで男性関係で失敗というか痛い目を見たので、お話をちゃんとしておきたくって…」


 想定していたが、やはりそうなるか。笹木は、仕事で不在だとかそういう話にするのもありだが、マナともちゃんと会話しておくのも大事だろう。しかし、小次郎とフレイヤが同時に存在することはできない。ここはなんとすべきか…、あぁ、そうだ。WEB越しに会議といこう。


「むずかしいですか?」

「いえ、問題ないわ。でも、彼いま遠方にいるのよ。WEB会議でもよければ可能よ」

「もちろんです。直接お話するよりも少し気が楽かなーなんて、えへへ」


 クラン設立は決まったが、いくつか決めることがあったので話を続ける。


「クラン名を決めなくてはいけないのよ」


 配信も、フレイヤとマナの探検チャンネルといった安直なものにしているのは、急いで配信を行ったというのもある。今度のクラン名はちゃんと考えないといけないのだが、あまりいいものを思いつかなかったのだ。


「あの、ぱっと思いついたんですけど、フレイヤが決め台詞にしている、裁きの炎っていいなーとおもって。えーと、ジャッジメントフレア? 長いですかね」


 そのセリフはあまり掘り下げないでほしい。厨二病の俺が死ぬ。


「長いかもしれないわね。でも、わたくしのセリフからだとマナが関係ないことになるけど、いいのかしら?」


 ぶんぶんと手を振りながら、「わたしなんて全然問題にもならないです」と否定してくる。


「そうねー」


 喫茶店の中、こぽこぽとサイフォン式のコーヒーメーカーの下で小さな火が揺らめいている。俺は何気なくペルソナを起動してみる。


「残火の幻影…エバーヴェイルはいかがかしら。小さな火にこもる記憶や人格…それは熱のように伝わり、新たな命につながる」


 うん。フレイヤさんが言うと厨二感が出てこないんだけど、意味は言っててよくわからん。


「かっこいいと思います!」


 かっこいいの!? まぁ、これで決まりかな。


「ええ、ありがとう。では、笹木から連絡が行くようにするわね」

「はい、お願いします」

 


 そして、その夜、俺はさっそくマナとWEBごしに対面を果たした。いつも会っているのに、こちらは初対面の振りをするつらい状況だ。だが、スマホとPCを巧みに切り替えながら会話をしなくてはならない状況に比べれば、小さな問題だ。

 まずは、俺はフレイヤになり、フレイヤのスマホで話を始める。フレイヤのスマホのカメラは起動していない。


「では、集まったわね。マナは、いつも話しているわたくしのパーティ仲間よ。クランにも入ってくれるわ。そして、笹木は私がお世話になっている兄みたいな人よ。クランの開設にも協力をしてくれるけど、探索者としては幽霊部員ね。

 ほら、笹木、カメラをONにして話なさいよ」


 そこで、俺は小次郎に戻り、カメラを起動する。


「ごめんごめん。ちょっと電波が悪いので、挨拶が終わったらカメラを切らせてもらいますね。はじめまして、笹木小次郎といいます。いつもフレイヤがお世話になってます」


 そこでマナの動きが止まった。


「…やっぱり。やっぱり、こじにーだ」


 ん? なんか覚えのある呼び方。いや、まさか。


「覚えてないですか? 増田道場で一緒に習ってた須藤です」


 俺は小学生の時、増田先生というじいちゃんに剣道を習っていた。門下生も多くて、その中に幼稚園くらいの須藤くんがいた。よく遊んでやったと思う。あれ、男の子だった気がするが。


「いやでも男の子じゃ」


 マナはガックリと肩を落とすと、


「そうですよねー。みんな、勘違いしてたみたいで、長い髪が嫌なのでバッサリと切ってたんですよね。それに、おじいちゃんのお弟子さんのお下がりばっかり着てたから、男の子みたいで。外で遊び回ってたから、日焼けで真っ黒でしたし」


 古い戦隊モノの服を着ていた覚えがあるが、そういうことだったんだな。


「確かに小さいと分からんかも…。しかし、すごい縁だね。見違えたよ。大きくなったね」


 フレイヤで会っていても気づかないもんだな。やばい、裸まで見てしまっているな。ちなみに大きくなったというのは、背丈の話だからな。


「こじにー。あ、笹木さんも大人ですね。でも、すぐわかりましたよ? 優しい目元とか変わらないです」


 お互いに旧知の仲だったことに話に花が咲く。増田はおじいさんの姓で、その娘の婿が須藤らしい。おまけに道場では、師匠としか呼ばないようにしつけられたせいで、増田先生の孫なんて知らなかった。

 厳しい家庭だった反発で、学生のうちは諦めていたおしゃれ欲も大人になってから解放したらしい。


「おじいちゃん、体を悪くしてから道場に出られなくなって道場を閉めちゃったんです。あたしが冒険者になって道場継いだりするのもアリかなーとか思って探索者になったんですが、なかなか芽がでなかったんです。いろいろやりたいこともあるんですけどお金もなくて」


 マナはいろいろ空回りしていたとこの一年を振り返っていた。


「これから強くなれば選択肢も広がるさ。クランで活動していこうよ」


 そう俺がいうと、マナはカメラの向こうで何度も頷いていた。



「じゃあ。クランの拠点なんかは、また調整するけど、規約や方針なんかは俺の方で用意するよ。ギルドがテンプレを配ってるからね。クラン口座なんかもできるけど、当面はフレイヤと須藤くんの個別口座で良いかなーと思っているが、どうだろうか」

「はい、それでお願いします」


 クランとして活動する資金が必要な場合に向けて、クランメンバーからお金を徴収するのが常なので、その辺もおいおい決めていこう。こういうルーズなところが、少人数の良いところでもある。


「ちなみに俺は探索者としては大して役に立たないから期待しないでね」


 その後は、少し次の配信のネタなどに話題が移ったりして、会議は終了となった。


「驚きましたわ。まさか、須藤くんがマナだったなんて」


 最後はフレイヤの姿で会議を終えたわけだが、思わぬ偶然に感嘆するしかない。

 ところで、今後、誰かに会うときに小次郎とフレイヤが同席するのが求められる場面がでてくるだろう。どうしたものか、悩ましい。こんな時、小説ならば絶対登場しない刑事のカミさんとか、魔導士のお姉さんとか、そういうポジションに自分を押し込められるんだが、現実はそうは行かない。



 思わぬ再会もあったが、俺はクラン『エバーヴェイル』の代表となった。代表って何をするんだっけと思うこともあるが、なんとかなるだろう。基本、表舞台はフレイヤで出ることにしよう。そして、俺は裏方ということで、揃えないといけない書類やクランとしての体裁として、本拠地やホームページなどの準備に追われるのだった。


下着店員だったマナは、実は幼馴染だったという作者も驚愕の事実が判明しました(笑

大きなプロット→中規模プロット→本文作成ということをやってると二つ目の→でいろいろとキャラが動き出します。なかなか面白い現象ですね。

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― 新着の感想 ―
誰もコロンボとスレイヤーズに触れないところで、読者の年齢がわかる。
一人二役で忙しそうにしてる姿を想像して笑いました ペルソナが無かったら口調がごっちゃになってそうですね >「…やっぱり。やっぱり、こじにーだ」 やっぱり!あの流れで無関係だったら逆におかしいですもんね…
残り火は「ember(エンバー)」では。
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